欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組みバルセロナ発、日本の豆腐が欧州へ挑む(茨城県・染野屋)
2026年6月11日
茨城県取手市で豆腐の製造と移動販売を行う染野屋が、初めて固定店舗を構えた場所はスペイン・バルセロナだ。なぜバルセロナで豆腐を販売するのか、同社が見るスペインや欧州市場の魅力や障壁、その乗り越え方を、同社海外事業部の小林正哉氏に聞いた(取材日:2026年3月24日)。
染野屋はその品質へのこだわりなどから、日本国内では固定店舗やスーパーマーケットへの卸売りなどは行わず、社員が手分けして茨城県内全域を移動し消費者に直接販売を行う。同社が欧州での事業展開に関心を持ったのは2008年頃だ。代表取締役社長の小野篤人氏がオランダを訪問した際に現地で販売されていた豆腐を食べたところ、「バウンドしそうなほどの固さ」に驚き、日本の豆腐を欧州の人にも食べてもらいたいと思った。その後2015年ごろからオランダでの豆腐工場設立に向け動き出し、現地を頻繁に訪問し、現地市場の調査や営業を行ったものの、ゼロからの立ち上げは大きな困難を伴い、欧州展開は一度頓挫した。
しかし、その際に交流を持ったバルセロナで豆腐の製造・販売を営む清水建宇氏から、2022年に自身の高齢化などを理由に事業承継の相談を持ち掛けられたことで欧州展開が再度動き出し、同年10月から染野屋のグループ会社としてSOMENOYA Barcelona Tofu Catalánが稼働した。事業承継後、経営再建のため、固定店舗での販売に加え、飛び込みでレストランや小売店に営業を行い、自転車やキックボードでの卸売りの配達事業を開始。移動販売は現地の営業許可規制により断念したが、外に積極的に出ていくという同社の強みを駆使して売り上げを拡大している。
同社の豆腐は現地で一般的に流通している商品の1.5~2倍の価格のため、当初は売り上げが伸びなかった。しかし、一度食べてもらうと価値を理解し、徐々に同社の豆腐を選ぶ人が増えているという。店舗に来る客層は85%がローカルの人々で、15%が旅行客やアジア人で、日本人は1日に1人か2人来る程度だ。同社商品は高価格帯ということもあり、サステナビリティへの関心が高い客も多く、(原材料が森林破壊や強制労働につながっていないかなどの)トレーサビリティや、添加物・オーガニックなどが話題になることも多いという。日本とは異なり醤油(しょうゆ)がない家庭も多いことを踏まえ、スペインの家庭には必ずあるオリーブオイルと塩をかける食べ方など、現地の食材や食事に合わせたレシピを自社ウェブサイトなどで紹介し、多様な食べ方を広めている。また自社店舗以外にも、バルセロナのオーガニック系店舗などにも商品を納品するほか、賞味期限が75日と長い絹豆腐を開発しフランス、ドイツ、オランダなど陸でつながる西欧の主要国にも輸出している。
バルセロナに駐在しSOMENOYA Barcelona Tofu Catalánのゼネラル・マネージャーを務める小林氏は、欧州は良いと思うものに対してお金を支払う市場であり、米国以上にその傾向が強いと言う。特にスペインは、欧州の中でも収入に対して外食にかける割合も高い(注1)など食に対する情熱が強く、おいしいものであればいくらでも対価を支払う市場であることも同社の好調なスペイン事業を支える要因となっていると考える。日本では豆腐は安価な位置付けになっているが、スペインではそのような先入観がなく、良い商品を製造し自分たちで価格を設定、品質で勝負することができる。またEUは単一市場であるため1カ国に入ることでほかのEU加盟国に広がっていくことも魅力だ。
一方でスペインで事業を行う困難として、容器として使用するプラスチックの食品接触材規則(FMC)(注2)への適合や、EUの規制改正や新たな規制に関する情報収集や対応、有機認証食品としての販売にあたっての原材料のトレーサビリティ確保のための設備投資(専用冷蔵庫の導入)(注3)などを挙げた。FMCは自己宣言ではあるが、第三者認証機関にサンプルを送付し、同規則で使用が許可されている物質のみを使用していることを検査してもらい対応した。有機認証取得は、オーガニック系店舗だけではなく一般的なスーパーマーケットでも有機食品が広く販売されている欧州では取得は必須と考え、同設備投資は必要な投資と捉えた。欧州は規制が厳しいからこそ、参入する企業が少ないことが競合の少なさにつながっているという。またこのほかにも、コールドチェーンの整備が不十分で常温で商品が放置されてしまう、入居ビルの停電が頻発し豆腐の製造に支障が生じるなど、日本ではあまり発生しないようなトラブルにも日々直面している。しかし現地で知り合った先輩経営者たちからアドバイスを得ながらそうしたトラブルを乗り越えており、現地で培ったネットワークの重要性を物語っている。
商品の価値を認めそれ相応の対価を支払う文化が根付く欧州は、品質にこだわる日本企業の商品にとって可能性のある市場といえる。EUの規制対応や、商品や顧客層に応じた認証取得への投資は必要となるが、その先にはEU単一市場というチャンスが広がっていそうだ。

- 注1:
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関西学院大学藤沢 武史教授「欧州主要国における外食産業の現状分析と将来展望
(2.4MB)」6ページ。 - 注2:
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食品接触材規則の詳細は、ジェトロ貿易・投資相談Q&A「食品輸出にかかる食品接触材規則と留意点:EU」を参照。
- 注3:
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注3:EUの有機認証取得において、有機と非有機の原材料が混ざらないようにするなどの対策が求められる。詳細は調査レポート「欧州における有機食品規制調査」を参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課 課長代理
牧野 彩(まきの あや) - 2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。





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