エネルギー安全保障の確保にむけた世界各国・地域の動向化石燃料重視のエネルギー政策が直面する価格リスク(米国)
2026年10月27日
米国のドナルド・トランプ大統領は2025年1月の就任以来、エネルギーの安定供給と価格の引き下げを目的に、化石燃料の生産・利用を推進してきた。しかし、2026年2月の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、燃料価格は急騰した。戦略石油備蓄(SPR)(注1)の放出やロシア産石油の輸入解禁で価格安定を図るが、効果は限定的だ。電源構成の約4割を占める天然ガスの価格も、輸出拡大に伴い国際市場の影響を受けやすくなることで、上昇する可能性が指摘されている。
エネルギー価格の引き下げを狙い、化石燃料の生産・利用を促進
トランプ氏は、就任直後に大統領令「米国のエネルギーを解き放つ」を発令し、国内の資源を活用した手頃な価格のエネルギーの安定した供給に取り組むと発表した(2025年1月22日付ビジネス短信参照)。トランプ氏は、バイデン前政権が推進した再生可能エネルギー(再エネ)の活用がエネルギー価格の高騰を招いたと批判した。アラスカ州での石油・液化天然ガス(LNG)開発やLNG新規輸出許可の再開など、化石燃料の生産拡大を企図した政策に加え、自動車環境規制の緩和(2026年2月25日付、2026年9月30日付ビジネス短信参照)や石油・ガス規制の順守期限延長(2025年12月4日付ビジネス短信参照)、化石燃料発電所向けの温室効果ガス(GHG)規制の撤回(2026年9月25日付ビジネス短信参照)など、化石燃料の利用を妨げる規制の撤廃・緩和を進めている。
化石燃料(注2)は、現在も米国の消費エネルギーの82%を占める主要なエネルギー源だ(2025年時点)。トランプ政権の政策により化石燃料への依存度がさらに高まれば、その価格変動が家計や企業活動に及ぼす影響も大きくなる。では、化石燃料重視のエネルギー政策が進む中、エネルギー価格はどのように変化しているのだろうか。
イラン攻撃で石油燃料価格は過去最高の水準に
2026年2月のイラン攻撃開始以降、原油高を反映して石油燃料価格は高騰している。2026年5月には、レギュラーガソリンの価格が1ガロン当たり4.5ドルに達し、年初から60%以上も上昇した(図1)。ディーゼル価格は2026年9月に1ガロン当たり6.53ドルを記録し、過去最高価格を更新した。これらの価格上昇を反映し、インフレ率を示す消費者物価指数(CPI)は、米国連邦準備制度理事会(FRB)の物価安定目標である2パーセント(%)を上回る3%超の水準が続いている(2026年10月15日付ビジネス短信参照)。
出所:米国エネルギー情報局(EIA)のデータを基にジェトロ作成
一方、シェール革命(注3)以降、米国は世界最大の原油生産国となり、原油・石油製品の純輸出国となっている。しかし、「国内で採れた原油だけで国内需要を全て賄う」構造にはなっていない。シェール革命で増産した原油は軽質油が中心だ。既存の製油設備は、カナダや中南米産などの重質原油の処理を前提に増強されてきたため、軽質なシェールオイルのみを大量に投入すると運転効率を低下させる。また、軽質油の精製能力の増強には多額の投資が必要であるため、既存の製油所設備との適合性やコスト面などから軽質原油を輸出する一方で、重質原油の輸入を継続している。原油価格が国際市場で上昇すれば、その影響は米国内のガソリン価格にも及ぶ。イラン攻撃後の世界的な原油高の影響は米国にも波及した。
石油燃料価格の高騰は、中間選挙を控えるトランプ政権にとって痛手だ。国民は中間選挙における最大の争点として、経済、中でもアフォーダビリティ(注4)を挙げている。米国調査会社「ザ・ハリス・ポール」の調査によると、特にガソリン価格について、半数以上の米国民が経済的負担が大きいと回答している。米国の選挙情報サイト「リアルクリアポリティクス」によると、トランプ大統領の支持率は10月19日時点で38.9%と4割を下回る。また、争点別では、経済について63.4%、インフレについて70.1%が「不支持」と回答している(10月19日時点)。
石油燃料価格の引き下げを狙ったてこ入れに躍起
中間選挙を見据え、支持率回復が急務のトランプ政権は、石油燃料価格の引き下げを狙った「てこ入れ」に躍起だ。イラン攻撃以降、トランプ政権が打ち出した政策は表のとおり。
| 実施状況 | 実施時期 | 内容 |
|---|---|---|
| 実施済み | 2026年3~9月 | 戦略石油備蓄(SPR)1億7,220万バレルの放出 |
| 2026年3月12日~4月11日、4月17日~6月17日 | ロシア産原油・石油製品の輸入禁止措置を一時緩和 | |
| 継続中 | 2026年10月5日~12月31日 | 着色軽油の公道走行での使用の罰金適用を一時停止 |
| 2026年10月16日~ | ロシアおよびロシア産原油・天然ガスの主要輸入国に対する追加関税の賦課を見送り | |
| 2026年10月9日~2027年4月7日 | ロシア産軽油の輸入禁止措置を一時緩和 | |
| 検討中 | 未定 | 軽油に係る連邦燃料税の納付期限の延長 |
| 未定 | ガソリン・軽油に係る連邦燃料税の一時停止 |
注:2026年10月21日時点。
出所:米国政府発表、各種報道を基にジェトロ作成
2026年3月に合意した国際エネルギー機関(IEA)の加盟国による石油放出の協調行動では、9月までに参加国で最も多い1億7,220万バレルをSPRから放出し、石油備蓄は過去40年で最低水準に達した。備蓄基地の安定性を維持するには、これ以上の石油放出は難しいと指摘されている。
石油放出では、欧州諸国への圧力強化もみられる。協調行動で合意したものの、未放出となっていた石油の放出を促すため、トランプ政権は2026年9月にディーゼル燃料の輸出禁止を示唆した。結果、欧州諸国は1億バレルの追加放出を決定した。こうした他国への圧力は、ガソリン価格の抑制が同政権の重要課題になっていることを示している。
ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として導入されたロシア産ディーゼル燃料の輸入禁止措置については、2027年4月9日までの輸入を認める一般許可を発効した(2026年10月14日付ビジネス短信参照)。トランプ政権は2026年春以降、ロシア産原油・石油製品に対する制裁適用を繰り返し猶予しており、同種の一般許可の発効は2026年3月以降、4回目となる(注5)。さらに、2026年10月18日には、ロシアおよび同国産原油・天然ガスの主要輸入国に対する追加関税の賦課も見送った(2026年10月21日付ビジネス短信参照)。
加えて、財務長官に対して軽油に係る連邦燃料税の納付期限の延長を指示したほか(2026年10月14日付ビジネス短信参照)、軽油・ガソリンに係る燃料税の一時停止も検討中だ。
天然ガスは、輸出増加が価格上昇を招く可能性も
天然ガスの価格に対するイラン攻撃の影響は足元では限定的だ。米国の天然ガス取引価格の代表的な指標であるヘンリー・ハブスポット価格は、直近では100万英国熱量単位(Btu)当たり3ドルほどにとどまり、イラン攻撃前後で同程度の水準が続く(図2)。これは、シェール革命による増産で自給を実現していることに加え、輸出の影響は拡大しているものの、依然として国内需給による価格形成の要素が大きいためだ。
出所:EIAのデータを基にジェトロ作成
一方、トランプ政権は2025年1月にLNGの輸出許可審査を再開した。以降、9件のLNG輸出施設で事業化の最終判断となる最終投資決定(FID)が行われた。米国エネルギー情報局(EIA)は、2024年には162億立方フィート/日だった輸出用のLNG液化施設の生産能力が、2031年には約2.4倍の381億立方フィート/日に増加すると予測している(図3)。
LNG輸出能力が拡大すると、国内需給だけでなく国際市場の影響も受けやすくなる。直近では、カタールの供給停止によるアジアでの価格高騰も生じたが、輸出拡大を背景に、今後はこうした地政学リスクや海外要因が米国内価格に波及する可能性がある。
注1:連邦エネルギー規制委員会(FERC)が、LNGの液化施設に承認した生産・輸出可能な最大量。
注2:2024年以後は、試験運転中・建設中のプロジェクトを含む。
出所:EIAのデータを基にジェトロ作成
電源の化石燃料依存は、電力価格の上昇につながる懸念も
天然ガスは電源構成の4割を占めるため、電力価格に与える影響も少なくない。
電力価格はイラン攻撃以降、CPIを上回る上昇が続いている(図4)。今後も、データセンターによる電力需要の拡大や天然ガス価格の上昇により、電力価格が押し上げられる可能性が指摘されている。
出所:EIAのデータを基にジェトロ作成
加えて、石炭火力発電の推進も電力価格を押し上げる可能性がある。エネルギー省は2025年5月、閉鎖予定の化石燃料発電所に対して運用継続命令の発出を開始した。命令を発出された発電所は8カ所に上り、うち6カ所は石炭火力を電力供給源とする。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は、2026年5月までにこれら発電所の維持・管理にかかった約3億ドルのコストが電力利用者に転嫁されたと報告している。一方、これら発電所の1つが立地するミシガン州は、命令を不服として提訴し、2026年9月にコロンビア特別区巡回区控訴裁判所は稼働継続命令について違法との判決を下した。しかし、法律専門家は、命令が取り消されたままとなる可能性は低く、新たに別の石炭火力発電所に対する命令が発出される可能性も高いと指摘している(ニューヨーク・タイムズ紙9月11日)。
市場では化石燃料依存脱却の動きも、政策主導となる可能性は低い
中東情勢の緊迫化は、化石燃料価格の地政学リスクに対する脆弱(ぜいじゃく)性をあらためて浮き彫りにした。こうした動きを受け、世界では再エネなどを組み合わせたエネルギーミックスの再構築が進むが(2026年10月6日付地域・分析レポート参照)、トランプ政権は石油燃料価格の引き下げに対策の焦点を絞り、化石燃料を中心としたエネルギー政策という方向性に変化はない。一方、2026年10月にEIAが発表した米国のエネルギー見通しでは、再エネによる発電量は2026年以降も増加が見込まれるほか、直近ではガソリン価格の高騰を理由にハイブリッド車(HEV)の販売数が急増している(2026年10月7日付ビジネス短信参照)。市場ではこうした化石燃料への依存低減に向けた動きもみられるが、これまでのトランプ氏の発言などを踏まえると、現時点では、政権主導で再エネや電動化を積極的に推進する可能性は高くない。よって、化石燃料価格が高騰しても、価格抑制を目的とした対策にとどまるとみられる。ただ、専門家からは、こうした価格抑制のための一時的な対策も、効果は限定的との指摘がある(ウォールストリート・ジャーナル紙10月19日)。トランプ政権下の米国では、エネルギー価格が地政学的要因に左右されやすい状況が続く可能性に注意する必要がある。
- 注1:
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1970年代の石油危機後、原油供給の混乱による経済的・政治的影響の軽減を目的に設立。テキサス州とルイジアナ州のメキシコ湾岸沿いにある4つの地下塩洞に原油が備蓄、保管されている。貯蔵能力は7億1,350万バレルで世界最大規模。
- 注2:
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本稿では、石油、天然ガス、石炭を化石燃料として定義。
- 注3:
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経済的に困難と考えられていた地下2,000メートルより深くに位置するシェール層での天然ガスや原油の開発。
- 注4:
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住宅、エネルギー、医療、通信など、生活に不可欠なサービスについて、世帯所得の範囲内で無理なく支払える状態を指す概念のこと。全米低所得者住宅連合(NLIHC)の定義
では、アフォーダビリティ(affordability)とは「世帯が家賃や住宅コストを無理なく支払えること」を指す。 - 注5:
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ロシア産原油および石油製品の輸入禁止措置の緩和に対する一般許可は、3月12日(3月12日~4月11日の輸入が対象)、4月17日(4月17日~5月16日の輸入が対象)、5月18日(4月17日発効の一般許可を延長し、4月17日~6月17日の輸入が対象)に発効している。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課
小谷田 浩希(こやた ひろき) - 2022年、ジェトロ入構。企画部国内事務所運営課を経て、2025年から現職。





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