エネルギー安全保障の確保にむけた世界各国・地域の動向韓国における中東情勢を契機としたエネルギー安全保障戦略の転換

2026年11月4日

2026年2月に始まったイスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢の緊張は、石油、天然ガス、石炭など主要なエネルギー資源の大半を輸入に依存している韓国に大きな影響を与えた。

韓国は特に原油の中東依存度が高い。そのため、昨今の中東情勢は、特定地域への過度な依存による資源サプライチェーンのリスクを浮き彫りにし、有事の際に国民生活や産業基盤が揺らぐ可能性をあらためて示した。

本稿では、韓国のエネルギー事情を整理した上で、中東情勢への韓国政府の対応や、これを契機としたエネルギー安全保障政策の見直しについて概観する。

韓国のエネルギー事情

2025年2月に韓国政府が発表した第11次電力需給基本計画(2025年3月10日付ビジネス短信参照)によると、2023年の発電量構成の主要電源は、石炭31.4%、原子力30.7%、LNG26.8%、再生可能エネルギー8.4%だった。韓国は石炭やLNGを輸入に依存している。また、再生可能エネルギーの割合はOECD加盟国中最下位だった。

一方、韓国の原油の中東依存度は約70%(2025年)で、輸入原油全体のうち、ホルムズ海峡を経由する原油が61%を占めた。LNGは、近年、輸入企業の調達先の多角化により、中東依存度が2014年の53%から2025年には20%に大幅に低下している。

なお、2030年の発電量構成(計画ベース)の主要電源については、原子力31.8%、LNG25.1%、再生可能エネルギー18.8%、石炭17.2%を見込んでいる。

中東情勢に対する韓国政府の対応

韓国政府は2026年3月、中東情勢悪化の長期化により、原油価格の急騰や供給停滞による経済の減速、物価上昇、国民生活への悪影響、サプライチェーン不安、金融市場の変動拡大などが懸念されることから、非常経済対応方策を発表した。「経済の戦時状況」との認識の下、経済・国民生活の回復の流れを妨げぬよう、あらゆる政策手段を総動員し、最適な政策パッケージにより段階的に対応することを基本方針とした。

主な対策は次のとおり。

(1)エネルギー価格および物価の安定

中東情勢の悪化によるエネルギー価格上昇が国民生活に与える影響を抑えるため、「石油製品最高価格制」を導入し、普通ガソリン、軽油、灯油を対象に供給価格の上限を設定した。また、ガソリン・軽油に対する油類税の引き下げや貨物車向け燃料費補助金の拡充を実施するとともに、公共料金の凍結や生活必需品価格の安定化を推進した。さらに、石油会社やガソリンスタンドによる売り惜しみや価格つり上げ行為についても重点的に監視・取り締まる方針を示した。

2026年10月時点の主な制度の実施状況は次のとおり。

  • 石油製品最高価格制:継続中
  • 油類税引き下げ:引き下げを11月末まで延長
  • 貨物車向け燃料費補助金:継続中
  • 公共料金の凍結:引き続き電気・ガス料金を据え置き、地方公共料金は凍結または引き上げ延期を要請

(2)サプライチェーン管理

サプライチェーン危機対策本部を中心に、ナフサ、尿素、非鉄金属など中東依存度の高い戦略物資の需給状況を日次で点検する体制を構築した。特にナフサについては危機品目として管理し、代替輸入先の確保や国内供給の拡大を推進した。また、尿素については需給管理を強化するとともに、日本やベトナムなどからの輸入拡大を図り、供給不安の発生を未然に防ぐ方針を示した。併せて、アルミニウムなど主要原材料の備蓄拡充も進めることとした。

なお、2026年3月27日、韓国政府は「ナフサの輸出制限および需給調整に関する規定」を施行し、産業通商部長官の事前承認がない限り、ナフサを輸出できない旨を定めた。

(3)脆弱(ぜいじゃく)部門への被害支援

原油高や物流費上昇の影響を受ける中小企業、輸出企業、農漁業者、貨物運送事業者を重点支援対象とした。輸出企業や中小企業向けには政策金融や緊急経営安定資金の供給を拡大し、農漁業者や貨物輸送事業者に対しては燃料費負担軽減措置を実施した。また、石油化学、海運、航空など中東情勢の影響を受けやすい産業についても金融・物流面での支援策を講じ、エネルギー価格高騰の影響が実体経済に波及することを防ぐ方針を示した。

化石燃料依存の経済構造からの脱却

韓国政府は、国内で生産できる再生可能エネルギーの拡大を通じてエネルギー輸入依存を大幅に引き下げるとの方針の下、2026年4月、「国民主権政府エネルギー大転換推進計画」を発表した。

主な内容は以下のとおり。

  1. 2030年の再生可能エネルギー100ギガワット(GW)普及目標を早期に達成し、発電量に占める割合を20%以上に引き上げ
  2. 現在運用中の石炭火力発電所60基を2040年までに段階的に廃止
  3. 2030年までに「新車販売台数に占める電気自動車(EV)・水素自動車の販売台数の割合」40%を達成
  4. 太陽光モジュール、風力タービン、バッテリーエネルギー貯蔵装置(BESS)などのグリーン産業を育成支援

韓国政府は「同計画を迅速に推進し、中東情勢などの対外的ショックにも揺るがない国に作り上げていく」としている。

危機に強い資源安全保障体制の構築に向けて

韓国政府は2026年9月、危機的な状況下でも機能する資源安保対応体制の構築を政策の柱と位置付けた「第1次資源安保基本計画」(2026年9月24日付ビジネス短信参照)を策定し、2035年までに特定地域への原油調達依存度を50%以下に引き下げることや、産業用新資源の安定確保などを目標に掲げた。

目標の達成に向け、原油・天然ガスについては、輸送ルートや調達方法、資源の種類の多角化を通じて安定調達できる環境を整えるとともに、官民の備蓄能力を拡充し、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化につなげることとしている。

また、中東情勢の緊迫化に伴い、主要な海上輸送ルートの通行に関する不確実性が高まるなど、対外環境の不安定さが増す中、「第5次石油備蓄計画」の見直しを行った。国内の石油備蓄能力の拡充や石油化学産業との連携強化の必要性を踏まえ、国内向け備蓄と産油国との国際共同備蓄の拡大を推進し、2030年までに2,000万バレル規模の備蓄施設を整備する内容を同計画に盛り込んだ。

以上のように、韓国政府は今回の中東情勢悪化を契機に、短期的には価格統制や需給管理を実施しつつ、中長期的にはエネルギー安全保障政策そのものの見直しに着手した。具体的には、原油調達先の多角化、国家備蓄の強化、資源安全保障制度の整備に加え、再生可能エネルギー100GW計画を柱とするエネルギー転換政策を加速させている。

韓国政府の政策対応は単なる危機管理にとどまらず、「中東依存型エネルギー構造からの脱却」と「資源安全保障と脱炭素化の同時実現」を目指す構造転換と位置付けることができる。このような韓国の政策転換は、日本企業にとっても、従来のコスト最適化を重視したサプライチェーン戦略から、供給確保やレジリエンスを重視したサプライチェーン再構築への転換の必要性を示唆している。また、エネルギー安全保障と脱炭素化の両立を図る韓国の取り組みは、今後、アジア諸国のエネルギー政策を考える上でも示唆に富むものといえよう。

執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所 副所長
小野 淳一(おの じゅんいち)
2026年7月、経済産業省からジェトロ・ソウル事務所に出向。経済調査を担当。