中・東欧における注目産業と投資動向欧州の成長市場、労働コストは上昇傾向
中・東欧の投資環境(前編)

2026年3月26日

中・東欧地域は、成長市場として近年、日本企業の進出・販売先として注目を集める。ジェトロが毎年実施している「2025年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」では、「将来有望な販売先」でポーランドが7年連続で首位となり、チェコ、ハンガリー、ルーマニアも上位10位に入っている。中・東欧の国を選んだ理由としては、経済成長に伴う市場や需要の拡大に期待する声のほか、人件費の安さ、自動車関連産業や半導体・電子部品など具体的な産業をビジネスチャンスとして挙げる回答が多かった。

本稿では、中・東欧(注1)の投資・ビジネス環境を2回に分けて紹介する。前編では、同地域の著しい経済成長と、労働コスト、人材、産業の特徴について解説する。

著しい経済成長

中・東欧のEU加盟11カ国の人口は約1億人で、EU27加盟国の人口4.5億人のうち約2割を占める。地理的には、西側はドイツやオーストリア、東側はウクライナやベラルーシ、ロシアと国境を接する国が多い。

図1は中・東欧の主要国であるビシェグラード4カ国(V4)(注2)、ルーマニア(注3)、EU全体(27カ国)の国内総生産(GDP、2010年を基準年とした物価調整値)について、2005年を100とした指標をグラフに表し、20年間の変化をみたもの。中・東欧の5カ国は2024年に最小値がハンガリーの139、最大値がポーランドの201と、EUの127を上回る高い成長を遂げている。

図1:2005年を100とした場合のGDPの推移
EU27カ国は2010年に100、2015年に110、2020年に114、2024年に127。ポーランドは2010年に125、2015年に146、2020年に173、2024年に201。チェコは2010年に113、2015年に122、2020年に133、2024年に144。ルーマニアは2010年に115、2015年に132、2020年に155、2024年に176。ハンガリーは2010年に99、2015年に110、2020年に125、2024年に139。スロバキアは2010年に128、2015年に145、2020年に125、2024年に158、2024年に175。

注:EU27カ国は2020年時点でのEU加盟国のGDPの合計。
出所:EU統計局(ユーロスタット)のデータからジェトロ作成

2024年のEUのGDPに占める中・東欧のEU加盟11カ国の割合は、11.0%で1割を超えている。中・東欧のEU加盟11カ国のGDPのうち、V4とルーマニアが占める割合は82.7%だ。

また、図2はV4とルーマニア、西欧の主要国であるドイツ、フランスの1人当たり名目GDPについて、2017年を100とした場合の指標をグラフに表したもの。2025年にフランスが126、ドイツが131であるのに対して、中・東欧の5カ国は最小値がスロバキアの162、最大値がルーマニアの209となっている。

図2:2017年を100とした場合の1人当たり名目GDPの推移
ドイツは2021年に116、2025年に131。フランスは2021年に113、2025年に126。スロバキアは2021年に125、2025年に162。チェコは2021年に132、2025年に168。ハンガリーは2021年に129、2025年に176。ポーランドは2021年に134、2025年に205。ルーマニアは2021年に139、2025年に209。

出所:IMFのデータからジェトロ作成

実質GDP成長率は、EU平均や西欧主要国よりも高い国が多い。欧州委員会が2025年11月に発表した秋季経済予測によると、2025年のGDP成長率は、EU27カ国で1.4%、西欧のユーロ圏主要国では、経済が好調なスペインは2.9%だったものの、フランスが0.7%、イタリア0.4%、ドイツ0.2%だった。一方で、中・東欧ではポーランドとクロアチアが3.2%、 ブルガリアが3.0%、チェコとリトアニアが2.4%となっている。これらの国々では、2026年も引き続き経済成長が見込まれる(2025年11月27日付ビジネス短信参照)。

質の高い人材と労働コスト

中・東欧の国々は労働者の質が高く、ITやテック系の人材、語学が堪能な人材が多いことで知られている。各国でIT教育を提供する大学や研究所が多く、毎年多くのIT関連人材を輩出する。ブルガリアの首都ソフィアにあるコンピュータサイエンス・人工知能・技術研究所(INSAIT)は東欧初の人工知能(AI)の研究所で、2022年にソフィア大学・ブルガリア政府・スイスの大学が連携し、グーグルやアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などからの投資を得て設立した。日本の理化学研究所と教育・研究面での国際連携に関する覚書(MOU)を締結したほか、トヨタとの共同開発を行うなどしており(2024年4月30日付ビジネス短信参照)、日本からの注目も高い。

各国がIT・デジタル人材を育成するための国家戦略や目標も策定している。ポーランドが2020年に採択した国家戦略「デジタルリテラシー開発プログラム(2020~2030)」は、市民、情報通信技術(ICT)分野の専門家、中小企業の従業員、行政機関・国家機関などあらゆるレベルを対象としたデジタルスキル開発に焦点を当てている。また、ICTの専門家がAI、クラウドとデータ、サイバーセキュリティーなどの技術を習得するための協働環境の醸成も目指している。同国家戦略で掲げていた「デジタルリテラシー開発センター(CRKC)(ポーランド語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が2022年2月に設立された。

賃金などの労働コストは、西欧と比較して安価だ。2024年の時間当たりの労働コスト〔EU統計局(ユーロスタット)公表〕外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (注4)によると、EU平均の33.5ユーロと比べて、中・東欧のEU加盟国では、スロバキア18.5ユーロ、チェコ18.2ユーロ、ポーランド17.3ユーロ、ハンガリー14.1ユーロ、ルーマニア12.5ユーロとなっている。西欧の主要国フランスの43.7ユーロ、ドイツの43.4ユーロなどと比べると半分以下だ。なお、EU加盟国で最も安価なのはブルガリアの10.6ユーロだった。

表は、中・東欧の7つの都市(国)と、欧州の中で特に進出日系企業数が多いデュッセルドルフ(ドイツ)、ロンドン(英国)、パリ(フランス)の投資関連コストを比較したもの(注5)

表:中・東欧の7つの都市とデュッセルドルフ、パリの投資関連コストの比較 注:ブカレストとベオグラードは2024年度、その他の都市は2025年度の調査結果。
項目 ワルシャワ
(ポーランド)
ブダペスト
(ハンガリー)
プラハ
(チェコ)
ブカレスト
(ルーマニア)
ブラチスラバ(スロバキア) ソフィア(ブルガリア) ベオグラード(セルビア) デュッセルドルフ(ドイツ) ロンドン
(英国)
パリ
(フランス)
製造業の賃金
ワーカー(一般工職)
(月額、USD)
1,166~1,950 1,389 1,568 1,813 2,000 905 624~1,627 4,475 3,574 3,095~3,607
法定最低賃金
(USD)
943/月
6.17/時
835/月 971/月
5.80/時
803/月 937/月
5.384/時
632/月 2.50/時 14.72/時 3,388/月
16.23/時
(21歳以上)
2,069/月
13.64/時
名目賃金上昇率
(調査年度の前年)
13.6% 13.0% 7.2% 15.0% 6.6% 13.9% 15.0% 5.0% 5.3% 2.6%
法人所得税(表面税率) 19% 国税:9%
地方事業税:最高2%
土地税:調整後市場価格の3%
21% 16% 24% 10% 国税:15%
地方税:0%
その他公訴公課:0%
15% 19~25% 基本税率25%
付加価値税(標準税率) 23% 27% 21% 19% 23% 20% 20% 19% 20% 20%

注:ブカレストとベオグラードは2024年度、その他の都市は2025年度の調査結果。
出所:ジェトロ「投資コスト比較調査」

西欧諸国の法人所得税率は、ドイツが15%と比較的低いものの、多くの国では20~25%程度。中・東欧の税率はブルガリアが10%、ハンガリーやセルビアは標準税率(国税)のみでそれぞれ9%と15%など、20%未満の国がほとんどだ。

一方で、中・東欧において近年、労働コスト上昇率の高さは著しく、進出企業の課題にもなっている。表が示すとおり、多くの国で名目賃金上昇率は調査年度の前年比で10%以上となっており、西欧よりも高い。

先述の2024年の時間当たりの労働コストに関するユーロスタットの発表でも、前年と比較した労働コスト上昇率はクロアチアとルーマニア(それぞれ14.2%増)をはじめとし、中・東欧の国で高いことが示されている。

「2025年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」では、中・東欧に拠点を置く日系企業の「経営上の課題」は、1位の「ウクライナ情勢」(60.5%)に続いて、「労働コスト上昇率の高さ」(58.1%)が2位となり(2025年12月23日付ビジネス短信参照)、特にポーランドでは回答率が7割を超えた。なお、同調査によると、日系企業の2025年の基本給のベースアップ率(名目、平均値)は、ハンガリー(中央値5.00%)、セルビア(4.50%)、ルーマニア(4.25%)、ポーランド(4.00%)、チェコ(4.00%)など中・東欧で高く、西欧諸国の中央値はいずれの国でも3.00%以下だった。

失業率はポーランドとチェコにおいて2024年にそれぞれ2.6%と2.9%と、EU加盟国の中でも1番目と2番目の低さだった(EU27カ国の平均は5.9%)(注6)。そのため、人材不足が近年の課題になっている。「2025年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」では、人材確保を巡る状況が直近2年間で「悪化」した割合が中・東欧において33.1%だった。悪化理由は「賃金・待遇面などの要求水準の高まり」が最多で89.2%、次いで「他社との人材獲得競争の激化」が64.9%となっている。

西欧の製造拠点から、高付加価値産業重視へ

西欧諸国と比べた労働コストの安さや、完成車メーカーを多く持つドイツと隣接国・近隣国であるなど地理的な条件から、中・東欧地域は従来、製造業が主要産業で、欧州の生産拠点として発展してきた。特に、チェコ、スロバキア、ハンガリーは自動車産業の集積地として発展しており、ハンガリーには1991年にスズキが、チェコには2002年にトヨタが進出し、完成車工場を設立している。また周辺国も含めてティア1、ティア2の企業も進出するなど、同地域には自動車生産のサプライチェーンが構築されている。ポーランドではトヨタがハイブリッド自動車用にエンジンと変速機の工場を持ち、2026年2月には南西部のバウブジフ工場に廃車から再利用可能な部品と原材料を回収するサーキュラーファクトリーを新たに設置すると発表した。ハンガリーには韓国や日本、直近2~3年では特に中国からの電気自動車(EV)関連投資が相次いでいる(2026年1月9日付地域・分析レポート参照)。

一方で、各国政府は近年、従来の強みである製造業のみならず、環境、エネルギー、EV、ITなどに関する高付加価値産業を重視している。その背景には米国や中国との関係、ウクライナ情勢をはじめとする地政学的考慮からの欧州域内製造の再評価のほか、EU政策によるビジネス機会の活用などがある。

高付加価値産業も含めた近年の投資事例に関しては、地域・分析レポート特集「中・東欧における注目産業と投資動向」の各国レポートで紹介している。チェコでは近年、政府の投資インセンティブ制度も高付加価値投資に重点を置いている。2019年に既存の投資インセンティブ制度に高付加価値要件を制定したほか、2023年には、省エネやエネルギー効率の改善に寄与する製品、半導体チップなど特定の品目の生産を「戦略的投資」とみなし、固定資産取得費用の10~20%を補助金として支給する優遇制度を導入した(2025年11月14日付地域・分析レポート参照)。


注1:
ジェトロでは、EU加盟国のポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、クロアチアと、非EU加盟国のセルビア、モンテネグロ、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ(これら5カ国とスロベニア、クロアチアは旧ユーゴスラビア連邦)、アルバニア(EU未加盟の旧ユーゴ諸国とアルバニアが西バルカン諸国)の計17カ国を中・東欧と分類することが多い。 本文に戻る
注2:
1991年2月、チェコスロバキア(当時)、ポーランド、ハンガリーの大統領がハンガリー北部のビシェグラード(Visegrád)において、3カ国の友好と協力を深めることを目的とした協力の枠組みとして「ビシェグラード・グループ」を形成することで合意。1993年1月のチェコスロバキア分離に伴い、ビシェグラード・グループはチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアの4カ国で構成されることとなった。この4カ国を総称して「ビシェグラード4カ国(V4)」と呼ぶことがある。 本文に戻る
注3:
ルーマニア(国内居住者:約1,900万人)は中・東欧においてポーランド(約3,700万人)に次ぐ人口規模を持つ。ジェトロは中・東欧でポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニアの4カ国に事務所を持つ。 本文に戻る
注4:
従業員数10人以上の企業を対象とした調査。労働コストは、従業員報酬、職業訓練費、そのほか支出、税金の合計から、補助金の額を差し引いた額。 本文に戻る
注5:
最新のデータはジェトロが毎年発表する「投資関連コスト比較調査」を参照されたい。 本文に戻る
注6:
出所はユーロスタット。15~74歳の労働力人口に占める割合。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現部署に所属。