中・東欧における注目産業と投資動向進展するEVシフト、研究開発やイノベーションも推進(スロバキア)
ウクライナ向け物流ルートの可能性

2026年3月6日

スロバキアは、欧州の中央部に位置する(図参照)。主要産業は自動車産業で、生産台数はEU第4位、かつ人口1,000人当たりの自動車生産台数は世界最大。国内生産する車種の電気自動車(EV)シフトが進展。また政府は、産業構造高度化の観点から、研究開発・イノベーション(R&D&I)の推進を優先課題として取り組んでいる。

またウクライナ復興の観点では、同国向け物流ルートとしての可能性もある。

本稿では、スロバキアにおける最新のビジネス動向を紹介する。

図:スロバキア共和国の概略地図
スロバキア共和国は、中・東欧の中心に位置し、北から時計回りに、ポーランド、ウクライナ、ハンガリー、オーストリア、チェコと国境を接している。首都は、東部のブラチスラバ。

出所:外務省公式ウェブサイトから引用

EV関連の大型投資が進行中

スロバキアは1993年、チェコとの連邦を解消し、「スロバキア共和国」として独立した。その後2004年に、EUに加盟し、「ヒト・モノ・資本・サービスの自由移動」のメリットを享受している。

中・東欧ではEUに加盟してもなお、自国通貨を維持する国が多い中、同国は2009年にユーロを導入した。欧州中央部に位置する地理的優位性や、西欧と比べて安価な労働コストを背景に、EU市場向けの生産拠点として外資系企業を誘致し、経済成長を実現してきた。輸出の約8割はEU域内向け(特にドイツ)で、主要品目は機械類・輸送用機器(自動車、電気機器など)となっている。

2024年の実質GDP成長率は2.1%で。2025年は0.8%成長の予測になっている。概況は、表1と表2のとおり。

表1:基礎事項
項目 内容
面積 4万9,037平方キロメートル
人口 542万人(2024年12月時点)
首都(人口) ブラチスラバ(48万人、2024年12月時点)
言語 スロバキア語(スラブ語派)
民族 スロバキア人(83.8%)、ハンガリー人(7.8%)など
宗教 ローマ・カトリック(56%)、プロテスタント(5%)など
通貨 ユーロ(2009年導入)
在留邦人数 323人(2025年10月時点)
進出日系企業数 66社(うち、製造業21社)(2024年10月時点)

出所:スロバキア統計局、外務省

表2:主要経済指標の推移(2020年~2025年) (△はマイナス値)
項目 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年(予測)
1人当たりGDP(米ドル) 19,723 22,096 21,340 24,671 26,127 28,524
実質GDP成長率(%) △2.6 5.7 0.4 2.2 2.1 0.8
消費者物価指数上昇率(%) 1.9 3.2 12.8 10.5 2.8 4.1
失業率(%) 6.7 6.8 6.1 5.8 5.3 5.4
名目賃金上昇率(%) 3.8 6.9 7.7 9.7 6.6 6.5
名目平均賃金(月額、ユーロ) 1,133 1,211 1,304 1,430 1,524 1,623

出所:1人当たりGDPはIMF「World Economic Outlook」(2025年10月)、そのほかはスロバキア財務省「マクロ経済予測」(2025年9月)を基にジェトロ作成

主要産業は自動車。国内総生産(GDP)のうち10.4%を占めている。2024年の生産台数は約99万台で、ドイツ、スペイン、チェコに次いでEUで4番目の規模に当たる。人口1,000人当たりの自動車生産台数は世界最大。

国内で生産するのは、(1)フォルクスワーゲン(VW)、(2)ステランティス、(3)起亜、(4)ジャガー・ランドローバーの4社。さらにボルボが現在、コシツェ(東部に所在する第2の都市)近郊に工場を建設中。これらの生産拠点では、車種のEVシフトが進んでおり、国内生産するバッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)は、今後の追加予定も含めて計17モデル(2025年初頭時点)。従業員数は現状、完成車メーカー4社とサプライヤー365社超をあわせて、25万5,000人に及ぶ(国内全就業人口の約9%)。また、工業生産高の中で自動車産業の割合が46.5%を占めている。 自動車産業に関連する近年の主な投資案件は、表3のとおり。

表3:自動車産業に関連する近年の主要投資案件注:案件内容には、計画を含む。
会社名 国籍 発表時期 業態 分野 内容
ボルボ スウェーデン 2022年7月 生産 自動車 東部コシツェ近郊に電気自動車(EV)専用の生産拠点を設立する計画を発表した。
投資額は12億ユーロ、年産能力25万台、約3,300人を雇用。政府は2億6,700万ユーロの補助金で支援する。量産開始は、2027年の予定。
国軒高科 中国 2024年6月 生産 バッテリー 国軒高科(Gotion High-Tech)は、中国の電池製造大手。イノバット(スロバキア新興企業)と合弁で、西部シュラニにEV用バッテリーの生産拠点(ギガファクトリー)を設立する計画を発表した。
投資額は12億ユーロ、1,311人を雇用。生産開始は、2027年1月を予定。政府は1億5,000万ユーロの補助金と6,400万ユーロ相当の法人税控除で支援している。
現代モービス   韓国 2024年10月 生産 EV部品 中央部ノバーキにEV用の統合駆動装置の生産拠点を設立することを計画。また、北部ジリナ近郊の既存工場で、EV用ブレーキシステムとエアバッグの生産ラインを新設すると、発表した。
投資額は約3,450憶ウォン、270人以上を雇用。政府は、2,600万ユーロ相当の法人税控除で支援する。

注:案件内容には、計画を含む。
出所:各社報道資料やスロバキア投資・貿易開発庁(SARIO)資料を基にジェトロ作成

R&D&Iの推進が優先課題

ここまで見たとおり、主要産業の自動車産業でEVシフトが進んでいる。その中で政府は、産業構造の高度化を通じて経済の競争力を向上させることを目的に、R&D&Iの推進を優先課題に掲げている。2023年3月には2030年までの国家戦略を採択。新たな投資で産業を変革し、経済成長を加速させ、高度人材や高い付加価値を生み出す企業にとって魅力的な国となることを目指している。

現在外資系企業では、シェフラー(自動車部品大手/ドイツ)やアディエント(同/アイルランド)、オスラム(照明大手/ドイツ)などが研究開発(R&D)拠点を設けている。日系企業では、(1)ミネベアミツミと(2)武田薬品工業の進出例がある。(1) は、車載モーターや自動車部品の生産拠点があるコシツェに「ミネベアミツミ開発センター・コシツェ」を設置。自動車市場向けの電子機器製品や産業機器市場向けのロボット製品の開発や電子工学系の開発に取り組んでいる。(2)は、首都ブラチスラバに「イノベーション・ケイパビリティ・センター」を開所している。

情報通信技術(ICT)分野では、ドイツテレコムITソリューションズ(T-Systems)やシーメンス(ドイツ)、レノボ(中国)、IBM(米国)などの外資系企業がスロバキアに拠点を持つ。同時に、この分野では、地場企業の存在感も大きい。中には、世界展開するスロバキア企業も出てきている。例えば、イーセット(ESET/セキュリティーソフトウエア開発)やシジク(Sygic/ナビゲーションアプリ開発)、イノバトリクス(Innovatrics/生体認証ソリューション提供)、スライド(Slido/イベントやセミナーに当たり、オンラインでの質疑応答・投票するためのプラットフォームを提供)などがある。

また、ICT分野の企業活動を支援するプラットフォームとしては、(1)スロバキアIT協会(ITAS)、(2)コシツェITバレー、(3)ジリナIT企業クラスター(ZAIT)などがある。中でも、(2)は2015年、欧州クラスター分析事務局(ESCA)による「クラスター・マネジメント・エクセレンス・ゴールド・ラベル」の認定を取得している。当該認定取得は、中・東欧で初になる。2007年に、大学と自治体、大手IT企業が主導し設立され、スロバキア東部(コシツェを含む)でIT産業を発展に導くことを目的とする。2025年12月時点で、会員数87。ドイツテレコムITソリューションズやシーメンスヘルシニアーズ、IBM、グローバル・ロジック、FPT、ESETなどが加入している。企業活動支援に加えて、地域の発展に貢献することを目的に活動するのが特徴。教育プログラムにも力を入れており、大学生と企業とだけでなく、中高生と大学もつないでいる。IT企業の人材を育成するとともに、起業家精神を育てスタートアップを創出することにも取り組む。

なお、コシツェにはICTに関連する機関・企業が多い。例えば、コシツェ工科大学、パボル・ヨゼフ・シャファリク大学、獣医薬科大学の3校と、IT企業が1,334社ある。また、IT産業従事者が1万6,000人超に上り、同地の集積が進んでいる。

コシツェITバレーのジュライ・ジルマン取締役会長は、今後の有望な分野として、(1)ヘルスケア、(2)サイバーセキュリティー、(3)自動車を挙げた。なお、(1)の分野では、シーメンスヘルシニアーズ(超音波診断システムなどを生産)がコシツェにR&D部門を開設済みだ。

ウクライナ向け物流ルートとしての可能性

スロバキア東部の第2の都市コシツェの主要産業は鉄鋼やITで、近年はボルボの進出を契機に自動車産業も注目されている。コシツェには、同地域最大の雇用を創出している日本製鉄グループ会社のUSスチールの製鉄所がある。また、2025年5月には物流ロジスティクスのPST CLC Mitsui-Soko(三井倉庫のグループ会社)がコシツェに支店を開設した。

コシツェはウクライナとの国境から約90キロメートルの場所に位置する。現状、ウクライナ向け物流ルートの主流としては、ポーランド経由になる。しかし地政学リスクを踏まえると、代替手段としてコシツェを物流の結節点とする、ウクライナ~スロバキア(コシツェ)~スロベニア(コペル港)のルートがある。輸送所要日数も、ポーランド(グダンスク港)~ウクライナと、大差ない。

このルートでコシツェが肝になるのは、ウクライナから到着する鉄道貨物(広軌)を欧州標準軌に積み替える鉄道ターミナルがあるため。現在、EUの資金で同ターミナルの近代化プロジェクトが進行中で、敷地内に、2万平方メートルの倉庫を建設している。プロジェクトは、現時点で2026年末までの完了を見込んでいる。

さらに、鉄道ターミナルに隣接する敷地には、新たなハイテク物流センターや工業団地の開発を予定している(GLIPコシツェプロジェクト)。そのほかにも、周辺の幹線高速道路整備が進んでおり、今後トラック輸送の利便性も向上する見込み。 加えて、スロベニア政府が現在、コペル港を拡張し、港からの輸送インフラ(鉄道を含む)を整備している。今後、コペル港(スロベニア)~コシツェ(スロバキア)間の物流ネットワークが高度化することで、さらなる利便性の向上が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所長
宮川 嵩浩(みやがわ たかひろ)
2005年ジェトロ入構。モスクワ事務所、サンクトペテルブルク事務所などを経て2024年11月から現職。