大阪・関西万博から世界へ、サステナビリティの社会実装効率的な洋上風力発電所の設計
英国エネルギー技術(2)
2025年12月16日
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、各国の文化や歴史を知る体験だけでなく、海外企業の技術に触れる機会も提供された。2025年9月17~28日の日程で開催された「地球の未来と生物多様性」テーマウィーク
に合わせ、英国パビリオンで催されたインタラクティブな展示「未来に力を
」では、英国企業3社の未来へ向けたサステナブルなエネルギー技術が体験型で展示されていた(本連載前編も参照)。
本稿では、洋上風力発電所の効率的な設計を行うためのソフトウェアを開発する英国企業、キネウェル(Kinewell)
のアンドリュー・ジェンキンスCEO(最高経営責任者)へのインタビューに基づき、英国企業が提案する次世代の風力発電所の設計方法と日本での活用について紹介していく(2025年9月23日取材)。

全世帯の半数以上に電力を供給できる容量を誇る英国の洋上風力発電
2024年の英国における発電電力量を見ると、ガスによる発電が最大だが、風力発電が第2位で8万3,296GWh(ギガワット時)で、ガスに迫る量だ。
出所:英国エネルギー統計(英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省)
英国の風力発電所の半分は洋上にある(発電容量ベース)。英国は送電網に接続された16.1GW(ギガワット)の洋上風力発電容量があり(注1)、万博の英国パビリオンでの展示によると、これは英国全世帯の半数以上に電力を供給できる規模だ。この英国の洋上風力発電の容量は、中国に次ぐ世界2位となっている(注2)。
より効率的な発電のため、特に洋上風力発電ではタービンが大型化している。2010年、平均的な洋上風力発電のタービンの高さは90メートルで、発電容量はわずか3MW(メガワット)だった。2025年現在、風力タービンは高さ230メートルに達し、大型タービンの導入で、洋上風力発電のコストは半分以下になった(注3)。2030年には、高さ250メートルを超え、発電容量が20MW以上のタービンも登場すると予測される(注4)。
英国における日本企業関連の最近の動きでは、三井物産と商船三井が洋上風力発電の組み立て基地拡大のためスコットランド北部のニグ港を買収した(注5)。英国は王室の資産管理団体クラウン・エステートを通じて、最大4億ポンド(約812億円、1ポンド=約203円)を港湾施設の拡大と洋上風力のサプライチェーン強化に投資(注6)。大型の風力発電部品に対応可能な体制を整え、ネットゼロの実現の加速を目指す。
洋上風力発電所設計を効率化し、コストを削減するキネウェルのソフトウェア
キネウェルは、高度な数学とAI(人工知能)を用いて洋上風力発電所の設計を最適化するためのソフトウェアを開発する英国企業だ。2025年に国際貿易部門における英国国王賞を受賞した。英国国王賞は、英国における権威あるビジネス賞で、6年にわたり継続的に海外売上が前年比大幅増加(または3年にわたり急激に増加)を達成した企業を表彰するものだ。
洋上風力発電の開発・設計段階では、風力発電タービンをどこに設置するかを検討する。例えば、一般的に、タービンの後ろは気流が乱れ、風の速度が遅くなる。これは、「ウェイク」効果と呼ばれ、この影響がある場所、タービンの後ろに他のタービンを設置してしまうと後ろのタービンの発電量が減少してしまう。同社は、このような非効率性を避け、最大の発電量を得るためにタービンの配置を戦略的に計画するためのソフトウェア「KWOTA」などを提供している。
同社が提供する洋上風力発電所建設を効率化するためのソフトウェアは以下のとおり。
| No | ソフトウェア | 機能 |
|---|---|---|
| 1 | KWOTA | タービンレイアウトの最適化 |
| 2 | KLOC | ケーブルレイアウトの最適化 |
| 3 | KDOTS | 電力輸送システム技術選択の最適化 |
| 4 | Fore Coast Marine | 洋上風力発電所設計の際の船舶の運航計画の最適化 |
出所:インタビューおよび同社ウェブサイト
「KLOC」は、洋上風力発電所において各タービンを繋(つな)ぐ電力ケーブルレイアウトを最適化するためのソフトウェアだ。すべてのデータを入力することで、ケーブルの配置や種類などについて最適化された解が自動で算出される。通常、従来の方法と比べて、ケーブルシステムのコストをプロジェクト全体で約20%削減できるのが大きなメリットだという。今回、万博の展示で使用した「EduKLOC」というゲームはKLOCの教育用バージョンだ。これは、KLOCの機能をわかりやすく体感するため、自身で一定の条件に従いタービン同士をケーブルでどう繋ぐかを考えるものだ。学校の子供たちから大学生までが広く遊び、学べるように設計されたもので、業界に人材を呼び込むためのツールでもある。今回の万博でも「楽しかった」と好評だった。

「KDOTS」は、風力発電所から電力を陸上に送る方法を最適化するためのソフトウェアだ。例えばA地点からB地点へ電力を送る際、交流(HVAC)か直流(HVDC)か、ケーブルを1本にするか2本にするか、変電所を1つにするか2つに分けるかなど、さまざまな選択肢を検討できる。KDOTSはこのような技術選択を支援する。欧州では、洋上風力発電所を沖合におくことが増えてきており、洋上変電所を建設するのが一般的だ。日本では、洋上風力発電所について、設置地域を領海〔12カイリ、約22キロメートル(km)〕に制限していたが、一定の条件下でEEZ(排他的経済水域、200カイリ、約370km)まで広げる改正再生可能エネルギー海域利用法が2025年6月に成立した。陸地に近い場合は、陸上変電所+複数ケーブルの方が合理的だが、沖合へ遠くなるほど、洋上変電所+風力発電所全体のエネルギーを輸送するシステムの方がより経済効率的な場合がある。これは、先ほどの日本の例にもあったように、どれだけ沖合に建設できるかという法律や市場の動向に左右される。また、直流を扱うコストは高額だが、例えば送電距離が100kmを超えると直流の方が経済的になるといった場合がある。ただし、この距離の値は風力発電所ごとに異なるため、個別に検討する必要が生じる。このような判断が必要となる場合に、同社のソフトウェアは、電力輸送においてどの技術を選択するのが最適かを決定するために使用できる。
「Fore Coast Marine」は、洋上風力発電所建設用の船舶を海に送る計画を計算するものだ。洋上風力発電所建設にあたっては、天候のリスクを考慮して、この船舶の輸送ルートを計画する。このような特殊な目的の船舶をリースすることは非常に高額なため、この船舶のリース期間を決定することは洋上風力発電所建設のコストに大きく関わる。同ソフトウェアは、船舶のレンタル期間を決定し、1年のうちどの時期に海に出るかを選択するのに役立つ。なぜなら、天候の影響で、1年のある時期が他の時期よりも建設にかかる時間が長くなったり短くなったりするからだ。同ソフトウェアを使うことで、この不確実性を軽減することができる。
同社ソフトウェアユーザーとしては、エクイノール(Equinor、北欧最大のノルウェーのエネルギー企業)やSSE リニューアブルズ(SSE Renewables、英国の再生可能エネルギー企業)、ソーダス(Xodus、スコットランドのエネルギー・コンサルティング企業、東京にオフィスあり、2022年2月28日付記事参照)などが挙げられる。
英国の洋上風力発電の成長とキネウェルの技術
ジェンキンスCEOは、英国で洋上風力発電が盛んな理由として、(1)風が強く、風力資源が豊富なこと、(2)島国で、陸地が限られているため、エネルギー供給を風力にシフトし、必要な規模を確保するには、洋上に出る必要があること、(3)北海での石油・ガス産業の経験が豊富で、海底のインフラに関する知識が蓄積されていて、「どこに建設すべきか」「どこが適していないか」といった情報・知識が既にあること、の3点を指摘した。
キネウェルは英国で、「TIGGOR
」と呼ばれるイノベーションプログラムを通じて、北東部統合当局(英国の地方議会)から多額の投資を受けてきた。TIGGORは、技術革新と洋上再生可能エネルギーのグリーン成長のための助成金制度だ。同制度を通じて、同社は現在、浮体式洋上風力発電を支援する新しいソフトウェア・ソリューションを開発している。浮体式洋上風力発電は現時点では非常に高価で、同社のソフトウェアを使って効率的な設計を考えることで、コスト削減に繋げることを目指す。浮体式洋上風力発電においては、浮力体、係留索(係留のためのロープ)、アンカーそれぞれに何百もの種類がある。同社は、ソフトウェアを活用して最適な組み合わせを迅速に評価するソリューションを開発している。これにより時間を節約し、プロジェクトの早期進展を支援する。
日本企業との連携の可能性は、コスト削減と特許の有効活用に
同社のソフトウェアは、日本語と韓国語に完全対応する。既に日本の6社、韓国の3社が同社プログラムを活用しているという。日本においては、デベロッパーのユーラスエナジーやコンサルタント、ケーブルメーカーなどが使用している。「当社ソフトウェアの使用で、風力発電所建設の経済性を高め、最終的な投資決定に至らせることが目的だ。私たちのツールは設計プロセスの効率化に貢献し、最も適切な設計ができればコストは低下する」とジェンキンスCEOは指摘する。
日本の今後の洋上風力発電所プロジェクトに対して同氏は、日本には英国で見られるものとは別の問題点があると考えている。その違いに対応すべく、キネウェルは日本企業との協業を提案する。いくつかの解決法は既に日本のどこかの企業が持っているケースもあるだろう。そのような場合、協業を通じて、その解決法をキネウェルのソフトウェアに取り込むことができる可能性がある。その際、特許の使用などの契約形態は、さまざまな方式があり得るが、第一歩として関係者間で相乗効果を生み出すことができる領域を特定することが重要だという。
日本では洋上風力発電は、コスト高や制度・サプライチェーンの未整備など困難な課題に直面しているといえよう。今回の万博で展示された英国の技術や手法は、コスト高という側面において日本での現実的な解を検討する上での1つの参考となるのではないだろうか。
- 注1:
-
“UK wind energy database”
(Renewable UK)参照。
- 注2:
-
Global Offshore Wind report 2025
(Global Wind Energy Council)参照。
- 注3:
- Renewable Power Generation Costs in 2024 (IRENA)参照。
- 注4:
-
英国パビリオンでの展示や、Pavana Koragappa, Patrick G. Verdin (2024), “Design and optimisation of a 20 MW offshore wind turbine blade”
,Ocean Engineering, Volume 305,2024、各種報道を参照。
- 注5:
-
三井物産プレスリリース(2025年7月31日付)
、商船三井プレスリリース(2025年7月31日付)
参照。
- 注6:
-
クラウン・エステートプレスリリース(2025年6月17日付)
参照。
- 注7:
- 再生可能エネルギー由来の電力で、水を電気分解して製造した水素。製造時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。なお水素を燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。
英国エネルギー技術
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- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部国際経済課
板谷 幸歩(いただに ゆきほ) - 民間企業などを経て、2023年4月ジェトロ入構。




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