大阪・関西万博から世界へ、サステナビリティの社会実装日本の次世代脱炭素技術
大阪・関西万博に見るグリーン技術(1)

2025年8月29日

2025年4月13日に、大阪・関西万博が開幕した(注1)。日本での万国博覧会の開催は20年ぶりということもあり、会場には連日多くの来場者が訪れる盛況ぶりだ(注2)。大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、世界各地から集まったさまざまな製品や技術、文化を紹介している。

万博は、新しい製品や技術が普及するきっかけの場にもなる。今では当たり前になった製品や技術の中には、実は万博が初披露の場だったものも多い。今回万博で展示された新製品や技術も、近い将来「私たちの身近に登場するかもしれない」という期待が膨らむ。

また、万博の意義には、人類共通の社会課題解決に向け、先端技術を結集し解決策を模索することもある。大阪・関西万博では、6つの領域(注3)で次世代技術を体験できる「未来社会ショーケース」を展開している。

その1つが、「グリーン万博」だ。世界の多くの国・地域が2050年前後でのカーボンニュートラル達成を目標としているように、環境問題は深刻な世界共通課題になっている。「グリーン万博」コンセプトの下、万博会場内では脱炭素社会に向けた多様な次世代技術に触れることができる。

本レポートでは、日本企業などが展示するこれら技術を紹介する(注4)。

1ミリに詰まった技術力、ペロブスカイト太陽電池

バスで万博会場に向かう来場者を迎えるのが、西ゲート交通ターミナルのバス停屋根に設置された世界最大規模、250メートルにおよぶフィルム型ペロブスカイト太陽電池だ(注5)。10年以上の研究開発を経て、積水ソーラーフィルムが製品化したこの太陽電池の厚さはわずか1ミリメートル。従来のシリコン太陽電池の約20分の1の薄さだ。「薄くて、軽くて、曲がる」という特長を生かし、シリコン太陽電池では設置が難しかった耐荷重が小さい構造物やカーブ状の壁面など、さまざまな場所に設置ができる。万博会場のバス停屋根もカーブ状。ペロブスカイト太陽電池の強みを大いに発揮している。屋根で発電した電力は蓄電池にためられ、バスターミナル全体の夜のLED照明用に供給されている。


ペロブスカイト太陽電池(積水ソーラーフィルム提供)

ペロブスカイト太陽電池の肝となるのは、厚さ1ミクロンのペロブスカイトの発電層だ。封止材により水分をシャットアウト、材料設計により耐熱性も向上させた。上脇太代表取締役によると、「封止材の技術に(同社の)優位性がある」という。現在は耐用年数10年相当、発電効率は15%を実現。シリコン太陽電池(耐用年数20年、発電効率20%程度)にはまだ及ばないが、技術開発を進め「2030年をめどに追い付く想定」だ。大学の研究機関による研究では、小さいチップの形状でシリコン太陽電池を上回る30%近い発電効率を達成したとの結果も出ており、シリコン太陽電池を超える潜在性があると見込む。また、ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ素は、日本が世界の産出量の約3割を占める。国内調達が可能であるため、安定供給にもつながる。

万博での設置は、実証実験も兼ねている。開幕から数カ月、計画通りの発電ができているという。梅雨以降の発電量がどうなるかが今後の実証のポイントだ。万博会場以外でもさまざまな場所に設置し、耐久性や取り付け方法など、社会実装に向けた実証を重ねている。2025年から少量生産を行っており、2027年4月からの本格的な量産に向けた準備が進む。今後は、日本の脱炭素達成や社会インフラとしての貢献を目指し、災害時の避難場所となる小中学校の体育館や住宅への設置を進める計画だ。将来的には、海外への展開も見据える。「あ、こんなところにもペロブスカイト」と、日本や世界のあちこちで発見できる未来に期待が高まる。

300キログラムのCO2を吸い込むDAC装置を間近で見学

東ゲートから予約者専用バスで向かうのは「RITE未来の森」。会場マップには載っていない。知る人ぞ知る人気パビリオンだ。運営するのは、地球環境産業技術研究機構(RITE)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 。RITEは地球温暖化問題に関して、最先端技術を研究する。

二酸化炭素(CO2)を大気中から直接回収するダイレクト・エア・キャプチャ(DAC)が展示の目玉の1つだ。敷地内ではDAC装置が実際に稼働し、CO2回収を実証実験している。このDAC装置は1日当たり300キログラムのCO2を吸収できる(注6)。この規模で装置を設置するのは、日本国内で初めてだ。1日当たり300キログラムのCO2は、甲子園球場3個分の森が吸収する量に相当する。


RITE未来の森とDAC装置(RITE提供)

RITE未来の森のDAC装置には、RITEが開発した「RITEアミン」という化学品を用いる。アミンは、温度が低い環境でCO2を吸収しやすく、温度が上がるとCO2を離す性質を持つ。大気中から吸入された空気は、RITEアミンを染み込ませた微粉状のCO2吸着剤を塗布したハニカム状基材を通り、CO2は基材内に吸収、それ以外の空気は反対側から排出される。一定量の吸収が終わると、装置を密閉し温度を上げて真空ポンプでCO2を取り出す。取り出したCO2は蒸気との混合ガスになった状態のため、冷やして水とCO2に分離し、回収する仕組みだ。

RITEの2025年大阪・関西万博室によると、2025年1月の試運転開始から現時点までの実験結果は「想定よりもかなり良好」という。気温や湿度の上昇はアミンのCO2吸収量に影響するため、梅雨や夏に向けて影響度合いを調べていく計画だ。アミンなどの材料も空気と触れることによる酸化などで劣化していくため、耐久性の実証も重ね、社会実装を目指す。

DACは大気中のCO2を回収・除去し、結果的に排出量をマイナスにするネガティブエミッション技術として、カーボンニュートラル達成に必要な技術とされている(注7)。他方で、DACにはコストもかかるのが実態だ。DACの実装には、「まずは電化などCO2を出さない技術を促進し、続いてベースロード電源(注8)による発電から排出されるCO2を確実に分離回収することが前提」だ。それでも、不可避的に大気中に排出されてしまうCO2を回収するのがDACの役割なのだ。万博会場で展示を行う意義には、「地球に必要な技術であることを多くの人に理解してもらうことにある」という。

技術開発を重ね、CO2を吸収する「未来の森」として、DACの社会実装への挑戦は今後も続く。

身近な道路にCO2を閉じ込める、足元で脱炭素

「RITE未来の森」が紹介するのは、CO2を回収する技術だけではない。回収したCO2を貯留・活用する技術も見学できる。パビリオン内部に敷かれたアスファルト舗装もその1つ。道路整備や建材資機材の製造販売などを手掛ける前田道路外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が取り組む「CO2を固定化したアスファルト舗装」だ。来場者は実際に舗装路を歩くことができる。


RITE未来の森内のアスファルト塗装(前田道路提供)

前田道路は、アサヒ飲料と協力し、同社が設置する「CO2を食べる自販機」(注9)で回収したCO2を、アスファルト舗装材料に活用する実証実験を進める。自動販売機は周りの空気を吸い込み、商品を冷やしたり温めたりするのに使用している。販売機内に粉末状のCO2吸収材を搭載し、大気中からCO2を吸収する仕組みだ。アスファルト舗装には通常、フィラーと呼ばれる石粉などを一定量配合する。CO2吸収済みの吸収材をフィラーの代わりに混ぜ込むことで、CO2を道路に閉じ込めることができる。これまでの実証結果によると、厚さ5~10センチメートルのアスファルト舗装材で、道路面積1平方メートル当たり約0.9キログラムのCO2の固定化が可能という。また、アスファルト舗装の下には、路盤材と呼ばれるコンクリートを砕いた下地を使う。コンクリートには水酸化カルシウムを含み、CO2を吸収する性質がある。この路盤材に自社工場の排ガスが含むCO2を固定化する検証にも取り組む。

前田道路は、自社事業で排出するCO2の削減方法を検討するため、数年前からRITEと共同研究を始めた。技術研究所の髙橋知氏によると、CO2を固定化したアスファルト舗装の開発は、「本業の道路事業を通してCO2削減に貢献できる方法を模索した結果」という。アスファルト舗装は資源循環率が高く、日本では99%リサイクルしている。CO2を固定化することで、より環境価値を高めることができると見込む。同社の取り組みやこうした価値を多くの人に知ってもらう機会として万博での展示は、大きな意味を持つ。茨城県土浦市と協力し、2024年1月からはCO2を固定化させた路盤材、2025年1月からアスファルト舗装の試験施工を実施。社会実装を目指し、道路で実際に耐久性などを検証している。

前田道路は、道路建設という身近なインフラ整備を通じてCO2削減への貢献を着実に進める。実用化も目の前だ。


注1:
正式名称は「2025年日本国際博覧会」。
注2:
前回日本で万博が開催されたのは、「2005年日本国際博覧会(愛・地球博)」。
注3:
(1)スマートモビリティー万博、(2)デジタル万博、(3)バーチャル万博、(4)アート万博、(5)グリーン万博、(6)フューチャーライフ万博。
注4:
各社・機関へのインタビューに基づく(取材日:2025年6月5日、6日、9日)。
注5:
積水化学工業「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)への協賛およびフィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置について外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2023年7月21日付)
注6:
24時間稼働した場合の想定。
注7:
経済産業省ニュースリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2023年6月28日付)。
注8:
最低限必要な電力を安定的に低コストで供給できる電源のこと。石炭、原子力、水力などで賄うことが多い。
注9:
2024年末時点で、国内に約500台を設置(アサヒグループジャパンウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 、2025年6月11日閲覧)。

大阪・関西万博に見るグリーン技術

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執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。