大阪・関西万博から世界へ、サステナビリティの社会実装消費者の行動変革を試す「未来社会の実験場」
実装に向けて得た気づき
2025年11月13日
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。準備と運営を通じ、持続可能性の実現を目指して開催した(2025年9月11付地域・分析レポート参照)。
パビリオンだけでなく、多くの企業が参加。「未来社会の実験場」としてサステナブルな取り組みを紹介した。本稿では、未来に向けてのごみや食品廃棄物の削減に対する取り組み事例から、企業が持続可能な社会を実現するヒントを探る。
マイボトル洗浄機で新しいライフスタイル創出に挑む
今回の万博会場内には給水スポット(ウォーターサーバー)やマイボトル洗浄機を多数設置。水を無料でマイボトルに補充することができるようにした。環境省の資料によると、マイボトルは何度も繰り返し使用することで、使い捨て容器に比べて環境負荷を低減させることができる(注1)。万博会場では飲料の自動販売機の設置もあった一方、多くの来場者がマイボトルを片手に給水機に列を作った。象印マホービンが今回新しく開発したマイボトル洗浄機10台を会場内に設置したところ、1日で1,000回以上利用されたという。同社は商業施設や公共空間への将来的な導入に向けて、実証を進めている。

象印マホービンは大阪市北区に本社を置き、魔法瓶を中心に生活家電を取り扱う企業だ。もともとは「マイボトルは洗うのが大変」という消費者の声に基づき、オフィス向けに試作品を開発したのが始まりという。
今回の万博では、社会課題を「共創」で解決することを目指してCDC(Co-Design Challenge)プログラムを募集した。2023年にその採択を得て、齋藤精一氏(同プログラムディレクター)のアドバイスを受け開発を進めてきた。
以前無骨な外観の試作品をサッカースタジアムに試験導入したことがあった。しかし、このときはあまり使われなかったことを踏まえ、万博会場の洗浄機は魔法瓶の妖精をコンセプトに楽しげなデザインした。ボトルを洗浄機の内部に設置すると、大阪らしい漫才の掛け合いをディスプレーに表示。20秒間であっという間に洗浄が完了し、洗浄回数と二酸化炭素(CO2)の削減量を表示(注2)。環境負荷に配慮してオゾン水を洗浄に使用し、洗浄後はボトルと機器の接触面も自動洗浄するというこだわりようだ。
同社の新事業開発室、小谷啓人サブマネジャーは「今回の万博を契機として、マイボトルのほうが便利な世界が実現できると面白い」と語る。将来的には、給水ステーションと洗浄機を一体にした「マイボトルステーション」を商業施設や公園に導入したい構想を示した。既に国内企業から洗浄機の引き合いがあるほか、海外からも問い合わせがきているという。今回のプロジェクトを担当して、「コンセプトを実行に移せたという点で、今回の万博に出展できたのは貴重な経験だった」と述べた。
リユース食器で環境負荷低減、初の大規模イベントでの挑戦
廃棄物削減という観点では、万博会場内で飲食に使用する「食器」にも注目できる。今回、会場内の一部エリアで提供される食器には、原則リユース食器を活用するように定めた。リユース食器が活用されるイベントの中で、この万博は過去最大規模という。
2003(平成15)年環境省請負事業の一環で東京大学 安井研究室の協力を得て実施された、ライフサイクルアセスメント(LCA、注3)によると、リユース食器を繰り返し使用すればするほど、CO2排出量やエネルギーなどの使用量削減につながる。
リユースカップに関して言えば、一定回数以上、繰り返し使用することで、紙コップよりもライフサイクルで考えた際の環境負荷は低くなる。具体的に試算すると、4.7回以上の利用で製造時に発生する固形廃棄物の発生量が、2.7回以上の利用でCO2排出量と水消費量が、6.3回以上の利用でエネルギー消費量が、リユースカップと紙コップで逆転する。それだけで、リユースカップの方が排出量・消費量が少なくなるわけだ。
リユース食器の活用推進に携わる企業・団体の集まりであるリユース食器ネットワークの事務局を務める地球・人間環境フォーラムの天野路子氏によると、日本では学校給食の食器を払い下げてリユース食器として活用する取り組みが20年以上前に始まった。当初は市民が地域の問題を解決する「コミュニティービジネス」として始まった。それが現在では、徐々に拡大。東京都など自治体が主催するイベントで導入されたり、自治体が食器の貸し出しを行ったり利用料を補助する枠組みを設けるなど、リユース食器の利用を後押しする施策も増え様々なイベントで使用されている。その他、関西地域では、京都の祇園祭や大阪の天神祭でリユース食器を導入し、それ以来、大規模イベントでは身近な存在となってきた。

呼びかける看板(ジェトロ撮影)

今回万博での事業は、京都の2団体と大阪の1団体がジョイントベンチャーを構成した。その中でもリユース食器ネットワークに参加する京都の「NPO地域環境デザイン研究所ecotone」は大阪と京都の2カ所に洗浄施設を持ち、食器の保有数も国内で最大級の事業者だ。会場ではスタッフが誘導し、残飯・飲み残しと食器を丁寧に分別した。
リユース食器ビジネスを普及させる上で今後の課題は、逼迫する洗浄拠点の分散化にあると天野氏は話す。現在、食器の主要洗浄拠点はフル稼働状態にある。地域の大学食堂や仕出し弁当工場、社食など、既存施設の洗浄設備の空き時間に洗浄業務を担ってもらうことも一案になる。「これは、(1)輸送距離の短縮、(2)追加投資の最小化、(3)洗浄設備を持つ事業者の副収入機会の創出に資する『分散型地域洗浄ネットワーク』だ。地域の中小企業や小規模事業者と連携するチャンスが生じる」と語った。
事前マッチングで食品ロスを削減、「万博タベスケ」の現在地
フードシェアリングサービスで食品ロスをなくすことにも取り組んだ。2025年日本国際博覧会協会が運営し、飲食事業者が無償で利用できる「万博タベスケ」だ。
このプラットフォーム上では、飲食事業者(出品者)が店舗での売れ残りを予測。その食品をウェブ上に出品した後、会場内の希望者がやはりウェブ上で予約し、実店舗で支払いと商品の受け取りができるようにした。
このサービスを利用した北陸マルシェは、主に北陸地方の名産品を取扱う土産物店だ。店舗は、日本各地の物産を販売するJAPANマルシェ内に構えた。夕方(午後5時~6時ごろ)に売れ残りの状況を見ながら、プラットフォーム上に商品を登録。商品は、基本的にその日のうちに完売したという。
同マルシェの運営企業だったオオモリの小林拓矢氏は「タベスケの購買層とには、店舗側の想定以上にリピーターが多かった。常連客や会員パスを持つ客も利用した。新規顧客の来店促進や、店舗の認知度向上につながったこともあり、一定の手応えを感じた」と話す。フードロス削減の取り組みを実際に体験したことで、「こうした仕組みが世の中にもっと広がってほしい」という意識が高い消費者がいることも可視化できた。「安いから買うという層だけではないことが分かった」と、このウェブサイトを今回利用しての気付きを語った。
一方で、土産物店では、割引についてブランドイメージの毀損を懸念する事業者が存在する。そもそも、ロスを出さない仕入れをすることが重要とも指摘。また、パン屋や弁当屋など、生鮮食品を取り扱う店舗のほうがタベスケのような仕組みの効果は大きいのではと語った。
大阪・関西万博は「未来社会のショーケース」として、さまざまな企業・団体による先進的な環境技術やサービスを実証した。この記事で取り上げたように、持続可能な社会に近づくためのライフスタイル変容の糸口を来場者に提示したのも特徴と言える。
万博を一過性のイベントとして終わらせないことが大切だ。その取り組みを通じて得られた知見やデータを社会に実装し、制度や市場、消費者行動の変革につなげていくことが求められる。
- 注1:
-
1本のペットボトル〔500ミリリットル(ml)〕の製造と、廃棄、リサイクルにかかる二酸化炭素(CO2)排出量は約119グラム(g)。その一方、ステンレス製マイボトル(500ml)を100回使う場合、1回当たりのCO2排出量は約13.9g。排出が約10分の1で済んだことになる。
環境省「リユース可能な飲料容器およびマイカップ・マイボトルの使用に係る環境負荷分析について」
(377KB)参照。
- 注2:
-
マイボトル1回の利用につき、CO2を0.081キログラム削減と換算。「EXPOグリーンチャレンジアプリ
」上の表記に準拠。
- 注3:
- ライフサイクルアセスメント=製品やサービスが環境に与える影響について、資源の採掘から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して定量的に評価する手法。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部国際経済課
峯 裕一朗(みね ゆういちろう) - 2021年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ静岡などを経て、2025年4月から現職。




閉じる






