アフリカでのビジネス事例オフグリッド電源開発への再エネ民間事業者参入を喚起(モザンビーク)
2025年7月18日
モザンビークは、発電容量2,000メガワット(MW)を超える水力発電所を有し、近隣国へも電力を輸出する。2023年には、同国の貿易における総輸出額の8%にあたる6億5,800万ドル相当の電力が南アフリカ共和国などに輸出された〔モザンビーク中央銀行年次報告書参照(ポルトガル語)(2.6MB)(Boletim Anual da Balança de Pagamentos)〕。一方、国内電化率は大きな課題で、モザンビーク統計局が発表した報告書によれば(2023年8月25日付ビジネス短信参照)、2022年の世帯電化率は50.1%で、32.0%がグリッド(送電網)接続、18.1%がオフグリッド(個別の世帯/利用者向け小型ソーラーパネルを含む)で電力にアクセスしている。日本の2倍以上の国土面積(約80万平方キロメートル)を持つモザンビークにとって、送電網の延伸・維持コストは費用負担が大きく、局地的なオフグリッド電力網は世帯電化と地場産業の育成に大きな役割を果たすものと期待されており、民間参入が奨励されている。民間によるオフグリッド発電参入の実態について、国立エネルギー基金(FUNAE)民間部門向けファイナンシャル・サービス局のムッサ・マネ局長に話を聞いた(取材日2025年6月5日)。
- 質問:
- モザンビークのオフグリッド分野の現状は。
- 答え:
- 従来のモザンビークのオフグリッド電力網開発は、公的サービスとして鉱物資源エネルギー省傘下のFUNAEによって実施されていた。FUNAEは2010年以降、オフグリッド電源を国内各地に建設・導入しており、累計総数は100カ所を超える。2021年に「電力網外地域におけるエネルギーアクセス規則」(注1)が施行されたことで、民間事業者の参入が可能となった。オフグリッド発電への民間参入には2つのスキームが用意されている。スキーム(1)は、民間企業が特定地域の電力需要を独自に調査・評価し、自発的に参入するもの。スキーム(2)は、モザンビーク政府が電力需要のある非電化地域を調査・特定し、民間事業者選定入札によって決定するもの。スキーム(2)で入札対象となる非電化地域は比較的広範な地域で、「クラスター」と呼ばれ、4個か5個のオフグリッド電源によってカバーされる。
- いずれのスキームにおいても、民間事業者は政府と最低30年間のコンセッション契約を締結し、オフグリッド電源の建設、運営、利用者からの料金徴収などを事業として実施する。コンセッション契約には、政府に収益の一部を分配するプロフィットシェアリング条項が含まれ、契約期間の延長も可能だが、最終的には政府に引き渡すことになる。また、オフグリッド電源は再エネを利用することが義務付けられている。
- 2021年以降の民間参入実績は1件で、ルワンダなどサブサハラアフリカ諸国での実績を持つ、アークパワー社(ARC Power)がスキーム(1)で参入した。同社は2023年から、モザンビーク南部ガザ州でオフグリッド太陽光発電事業を実施している。
- 質問:
- オフグリッド分野への民間参入促進をどのように進めているか。課題は。
- 答え:
- 民間参入において、事業性、具体的には投資コストの回収が課題となる。ARC Powerが回収する電気料金は、オングリッドの電気料金よりも高く設定されている。政府は現在、スキーム(2)で民間参入を促進すべく、開発協力パートナーによる2つのイニシアチブと連携して準備を進めている。1つめのイニシアチブ(注2)はドイツ政府が主体となる「ゲットフィット(GET FiT)」で、2つめはオランダ、英国、スウェーデンなどによる「ブリーリョ(BRILHO)」だ。
- こうした開発パートナーとの連携の目的の1つは、投資コストの軽減だ。GET FiT、BRILHOはいずれもオフグリッド電源開発への資金サポートが可能で、資本的支出(CAPEX)に対する補助金を給付する。これにより、民間企業は初期投資コストを抑えることができる。また、魅力的な投資案件とするためには、地域の電力需要を持続的なものとし、さらに増やす政策も必要だ。1つのオフグリッド電源(発電容量200キロワット)が400世帯をカバーすることを目安としているが、世帯への電気供給にとどまらず、地場産業を育成することで地元経済を活性化し、電力需要の底上げを狙う。電力が必要で、かつ建築や機械修理など関連産業からのニーズがある、溶接産業の育成による電力需要の増大、安定化などを考えている。
- 質問:
- どの再エネのポテンシャルが最も高いか。参入に関心のある企業にとっての窓口はどこか。
- 答え:
- 太陽光、水力、風力のポテンシャルが挙げられる。太陽光がその中でも推奨されており、FUNAEによる導入可能性調査も進んでいる。事業者の側から見ても、導入コストが抑えられるのが利点だ。FUNAEは過去、太陽光と水力の導入実績があるが、水力は導入前の生態系影響調査などプロセスが煩雑で時間がかかる欠点があり、風力は現状、十分な調査結果を有していない。
- モザンビークの電力業界には、国営電力公社(EDM)など複数の機関が関与しているが、その中でもFUNAEはオフグリッド分野を管轄しており、オフグリッド発電における企業の窓口はFUNAEになる。さらに、FUNAEは電力需要のある地域の具体的な情報提供、発電所建設に際して必要な土地使用権(DUAT)の取得補助など、企業へのサポートも実施している。
- 注1:
- 2021年12月10日付政令第93/2021号。
- 注2:
- 外国政府などによる、経済開発支援を目的としたODA。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし) - 2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。