韓国の賃金水準、日本並みに
最低賃金や大企業の大卒初任給は日本を上回る

2022年9月5日

日本と韓国の賃金水準は今日ではかなり接近しているようだ。平均賃金は為替レート次第では逆転も視野に入る。

一方、賃金水準は企業規模や勤続年数、業種、雇用形態などによって、さまざまだ。そこで、本稿では、韓国の賃金水準について、はじめに平均賃金をみた後に、最低賃金、企業規模別賃金、大卒者の初任給、勤続年数別賃金について、日本との比較を織り交ぜながらみていきたい。

日韓の平均賃金はほぼ同等に

近年、日韓の賃金水準が逆転したとの報道を時折みかけるようになってきた。その際に取り上げられる代表的な指標がOECDの統計だ。OECDの統計データベース「OECD. Stat」では、加盟国各国の平均年間賃金(Average annual wages)について、(1)名目・現地通貨建て、(2)実質(2021年価格)・自国通貨建て、(3)実質(2021年価格)・購買力平価によるドル換算の3とおりで公表している。このうち、そのままのかたちで日韓比較が可能なのはドル表示の(3)で、日韓逆転に言及した報道も主にそれに依拠している。

図1と表1は、上の(3)を示したものだ。それによると、平均年間賃金は日本が横ばい、韓国は上昇傾向で、2013年に日韓が逆転している。直近の2021年は韓国が1割程度、日本を上回っている。

ただし、これは現実の賃金格差を示したものではない。まず、データは、物価変動の影響を差し引いた「実質賃金」で、現実の名目賃金ではない。次いで、ドルに換算する際に「購買力平価」を用いている。「購買力平価」は、ある国の通貨建ての資金の購買力が他の国でも同一になるように、為替レートが決まるという考え方に基づくものだ。しかし、算出される購買力平価は前提条件の違いなどによってさまざまであり、そもそも、現実の為替レートとは乖離がある。

図1:日韓の平均賃金の推移(年間、実質・2021年基準、購買力平価換算)
グラフの数値は表1のとおり

出所:OECD.Stat

表1:日韓の平均賃金の推移(年間、実質・2021年基準、購買力平価換算)(単位:ドル)
国名 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
日本 37,779 37,016 37,048 37,667 38,636 38,613 38,509
韓国 31,377 32,456 33,655 34,414 35,476 35,933 36,710
国名 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
日本 38,200 37,653 37,772 38,378 37,739 37,769 37,089
韓国 36,601 36,791 37,368 37,858 37,302 38,243 38,324
国名 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
日本 36,908 37,413 37,506 37,932 38,417 38,194 40,849
韓国 39,389 40,543 41,496 42,926 44,400 44,547 44,813

出所:OECD.Stat

それでは、現実の為替レートで換算すると、どうなるだろうか。図2、表2は、日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算したものだ。ちなみに、為替レートはIMFのデータを使用した。それによると、2001年時点では日本の平均賃金は韓国の2.4倍だったが、その後、2010年代前半にかけて格差が縮小している。2010年代後半以降は、逆転とまではいかないものの、ほぼ類似の水準で推移している。

ところで、IMFによると、2021年の平均為替レートは「1ドル=109.75円、1ドル=1,143.95ウォン」だった。しかし、その後、ドル高が進行したため、現在の為替レートとはかなり乖離がある。そこで、仮に、執筆時で直近の2022年7月の平均為替レート「1ドル=136.72円、1ドル=1,307.95ウォン」(従って、1ウォン=0.105円となる。以下、本稿のウォン/円レートはこれを使用する)で2021年の平均賃金を算出すると、日本は3万2,503ドル、韓国は3万2,532ドルと、僅差ながら日韓が逆転する。こう考えると、為替レート次第では、現実の日韓の平均賃金が2022年に逆転することもありうるわけで、両国の平均賃金の格差はそれほど小さいといえよう。

図2:日韓の平均賃金の推移(年間、名目、市場レート換算)
グラフの数値は表2のとおり

注:為替レートは年平均値を採用。
出所:OECD.Stat、IMF「International Financial Statistics」から作成

表2:日韓の平均賃金の推移(年間、名目、市場レート換算)(単位:ドル)
国名 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
日本 37,165 34,778 37,261 40,357 40,310 38,174 37,474
韓国 15,736 17,312 19,465 21,337 25,134 27,697 29,623
国名 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
日本 42,635 45,389 47,819 53,189 52,001 42,484 39,209
韓国 26,036 23,103 26,590 29,110 28,812 30,675 32,273
国名 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
日本 34,347 38,607 37,682 38,984 40,177 40,900 40,489
韓国 31,154 31,589 33,756 36,338 35,677 35,685 37,196

注:為替レートは年平均値を採用。
出所:OECD.Stat、IMF「International Financial Statistics」から作成

最低賃金は日韓が逆転

次いで、日韓の最低賃金を見てみよう。韓国の最低賃金時間額は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権時の5年間で、2017年の6,470ウォン(約679円)から2022年の9,160ウォン(約962円)へ、41.6%も上昇した。これは、文前政権が「所得拡大→消費増加→経済成長→所得拡大→・・・」の経済の好循環を実現するという「所得主導成長」を掲げたことに起因する。文前大統領は選挙期間中から「最低賃金時給1万ウォンの実現」を公約として掲げていた。ただし、最低賃金の大幅な引き上げにより、小売業や飲食業など、最低賃金レベルで働く雇用者の多い業種で雇用者数が減少するという副作用が顕著になったため、文前大統領は任期途中で公約の実現を断念した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は最低賃金の引き上げを特に求めているわけではないが、このところの物価高もあり、2023年の最低賃金を前年比5.0%増の9,620ウォン(約1,010円)にすることが決定されている。他方、日本の最低賃金時間額は全国加重平均で、2021年度(2021年10月~2022年9月)930円、2022年度は961円で、既に韓国が日本を上回っている。

ところで、韓国の最低賃金は次の2点で日本と大きく異なっている。1つは、日本が都道府県別に決めるのに対し、韓国は全国一律である点だ。もう1つは、韓国には「週休手当」という日本にない手当がある点だ。後者は、週15時間以上働く従業員が皆勤すれば1日分の手当を追加支給しなければならないというものだ。例えば、週5日間、3時間ずつ働いた従業員に対しては、3時間分の週休手当を支払う。つまり、15時間の労働に対し、20%増の18時間分の賃金を支払うことになる。よって、仮に週休手当を加味して韓国の最低賃金を計算すると、2023年は9,620ウォンの20%増の1万1,544ウォン(約1,212円)ということになる。これは、国内最高の東京都の最低賃金(2022年度1,072円)を上回る水準だ。

韓国の産業界では、最低賃金水準が高過ぎるという認識が根強い。ちなみに、経済団体の韓国経営者総協会では、OECD加盟国のうち最低賃金制度のある30カ国について、「最低賃金/中位賃金」の比率(2021年)をみたところ、韓国は61.2%で8番目に高く、G7平均の49.2%を大幅に上回ったと発表している(同協会「2021年最低賃金未満率の分析および最低賃金水準の国際比較」、2022年4月17日付)。

とはいえ、一度引き上げられた最低賃金の引き下げは現実的でないだろう。それに代わって産業界が求めているのは、最低賃金を業種別に決定する方式だ。実際、前述のように、文前政権時の最低賃金大幅引き上げで、一部業種で雇用者数が減少している。こうした背景もあり、最低賃金を審議し、政府に案を提出する役割を担う「最低賃金委員会」は2022年6月、雇用労働部に対して、業種別の最低賃金設定に関する調査を行うように勧告している。

賃金水準は企業規模により大きな格差

今度は、企業規模別に賃金水準を見てみよう。雇用労働部の調査によると、韓国の常用労働者の平均月間賃金総額(2021年)は389万ウォンとなった(表3)。従業員数規模別には大きな差があり、従業員1~4人の小規模企業の平均月間賃金総額は300人以上の4割強の水準にとどまっている。

表3:従業員数規模別平均月間賃金総額(常用労働者、2021年)
従業員数 定額給与
(万ウォン)
超過労働給与
(万ウォン)
特別給与
(万ォン)
合計
合計
(万ウォン)
300人以上の企業を100とした時の指数
1~4人 234 2 10 247 43.4
5~9人 293 8 26 327 57.4
10~29人 318 18 34 370 65.0
30~99人 333 30 40 403 70.9
100~299人 346 36 62 445 78.2
300人以上 397 36 136 569 100.0
合計 318 21 50 389 68.5

大卒初任給も企業規模による大きな格差

韓国の大卒者の初任給の水準は、前述の企業全体で見た時と同様に、企業規模による格差が大きい。韓国経営者総協会では2021年10月、「わが国の大卒初任給の分析および韓・日大卒初任給の比較と示唆点」を発表している。それによると、2020年の従業員数1~4人の企業の大卒者の初任給は、同300人以上の企業の半分強にすぎなかった(表4)。韓国では若年求職者が大企業に集中し、中小企業は慢性的な求人難といわれるが、そうした雇用のミスマッチは、賃金格差だけみても致し方ないともいえよう。

表4:従業員数規模別大卒初任給(2020年)
従業員数 年間賃金総額
(万ウォン、注)
300人以上の企業を100とした時の指数
1~4人 2,599 55.4
5~29人 2,795 59.6
30~299人 3,188 68.0
300人以上 4,690 100.0
合計 3,250 69.3

注:本表の年間賃金総額は、定額給与(基本給と固定的な手当の合計)と特別給与の合計で、超過労働給与を含まない。
出所:韓国経営者総協会「わが国の大卒初任給の分析および韓・日大卒初任給の比較と示唆点」(原資料:雇用労働部「2020年 雇用形態別勤労実態調査」)

同資料では、2019年時点の日韓の大卒初任給を比較している。それによると、全体としては日韓間で格差はほとんどないものの、大企業では韓国が日本よりも高く、従業員数99人以下の中小企業では日本の方が高いとしている(表5)。ちなみに、大企業の初任給に関連して、「毎日経済新聞」(2022年4月29日付、電子版)では、韓国を代表するメーカーの1社であるサムスン電子の大卒初年度の平均年収が5,150万ウォン(約541万円)と報じている。

表5:日韓の従業員規模別大卒初任給の比較
(年間賃金総額、2019年)(単位:ドル)
国名 10~99人 韓国:100~499人
日本:100~999人
韓国:500人以上
日本:1,000人以上
合計
韓国 23,488 26,957 35,623 27,379
日本 25,093 26,887 28,460 27,540

注1:本表の年間賃金総額には、超過労働給与を含まない。
注2:本表の換算為替レートは、1ドル=1,165.65ウォン、109.02円。
出所:韓国経営者総協会「わが国の大卒初任給の分析および韓・日大卒初任給の比較と示唆点」(原資料は、韓国・雇用労働部「2019年 雇用形態別勤労実態調査」、日本・厚生労働省「令和元年 賃金構造基本統計調査」)

賃金体系は年功給が中心

韓国では、勤続年数が長いほど賃金が上昇する年功給が色濃く残っている。韓国経営者総協会が発表した資料によると、2020年の勤続年数1年未満の従業員1人当たり月間賃金総額は236万5,000ウォン、同30年以上では697万1,000ウォンとなった(表6)。韓国の勤続30年以上の平均賃金(超過給与を除く)は勤続1年未満の2.95倍で、EU15(表7の注2参照)や日本を大幅に上回っている(表7)。

尹政権では、こうした従来の年功給中心の賃金体系を見直したい意向だ。雇用労働部では、行き過ぎた年功給は(1)企業の人件費負担を増やし、高年齢労働者の雇用不安につながり得る、(2)成果と連動しない給与体系は従業員の間の対立を生み得るとみている(同部「『労働市場改革推進方向関連』主要Q&A」、2022年6月発表)。その上で、賃金体系は企業が自主的に決めるものとしつつも、政府としては、賃金体系の改善に向け、企業に対する賃金コンサルティング支援機能を強化する方針としている。ただし、年功給中心の賃金体系の見直しは、労働組合などの反発も予想され、実際に韓国企業に広がっていくかは不透明だ。

表6:勤続年数別月間賃金総額(2020年)
項目 勤続年数
1年未満 1~5年 6~9年 10~14年 15~19年 20~29年 30年以上
月間賃金総額
(万ウォン)
236.5 302.5 391.8 467.5 547.7 658.8 697.1
1年未満を100とした時の指数値 100 128 166 198 232 279 295

注1:対象は従業員数10人以上の企業の常用労働者。
注2:本表の月間賃金総額には、超過労働手当を含まない。
出所:韓国経営者総協会「韓・日・EU勤続年数別賃金格差の国際比較と示唆点」(原資料は雇用労働部「2020年 雇用形態別勤労実態調査」)

表7:日韓EUの勤続年数別賃金格差
(勤続年数1年未満の賃金を100とした指数)
勤続年数 韓国 日本 EU15平均
1年未満 100 100 100
1~5年 128 122 114
6~9年 166 139 132
10~14年 198 162 136
15~19年 232 180 145
20~29年 279 213 154
30年以上 295 227 165

注1:賃金格差は、超過勤務給与を含まない月間賃金総額ベース。
注2:「EU15」は、2004年5月1日の10カ国の加盟の前にEU加盟国だった15カ国。
注3:時点は、韓国・日本は2020年、EU15平均は2018年。
出所:韓国経営者総協会「韓・日・EU勤続年数別賃金格差の国際比較と示唆点」(原資料は、韓国・雇用労働部「2020年 雇用形態別勤労実態調査」、日本・厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」、Eurostat「Structure of Earnings Survey, 2018」)

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。