特集:アフリカにおける日本食ビジネスの可能性新型コロナ禍でもビジネスを拡大!ケニアに日本食ブームを
現地小売業との協業で、広がる日本食材輸入の可能性

2021年5月12日

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ケニアのホテル・飲食業は大きな打撃を受けた。2020年第2四半期(4~6月)のGDP成長率はマイナス83.3%と、過去に類をみないマイナス成長となった。その苦境の中、ビジネス拡大に成功し、2020年11月には2号店を出店した日本食レストランChiQの代表取締役、中矢晃騎氏に話を聞いた(2021年2月24日)。


ChiQ代表取締役の中矢晃騎氏(ジェトロ撮影)
質問:
ビジネスの概要と起業のきっかけは。
答え:
首都ナイロビで日本食レストランを2店舗経営、また、現地の外資系スーパーマーケットへ総菜などの卸も行う。カナダへの留学をきっかけに新興国での起業に関心を持ち、ルワンダにある飲食店でのインターンを経て、2019年にケニアで起業した。アフリカで日本食レストランを経営するには、食材の輸入が不可欠となる。そこで、(内陸国のルワンダと違い)国内にモンバサ港という貿易港があり、ターゲットとなる外国人や高所得者層が集まる国際都市ナイロビを有するケニアに可能性を見いだした。まずは、大使館や国連機関が集積するエリアの複合施設内に1店舗目を出店した。起業して半年後に新型コロナウイルスによる混乱が発生したが、デリバリー需要をとらえ、ビジネスは順調に伸長した。2020年6月には外資系スーパーマーケットに寿司(すし)など総菜の卸を開始、同年11月には、大型ショッピングモールのフードコートに2店舗目となる直営店を出店した。

サリットセンター(大型ショッピングモール)に出店した2号店の外観(ジェトロ撮影)
質問:
客層や人気のあるメニューは。
答え:
顧客の多くが外国人で、ショッピングモール内に出店した2店舗目には、インド系ケニア人やインド人の来店が多い。看板メニューはチキンカツ[販売価格900ケニア・シリング(約900円、Ksh、1Ksh=約1.0円)以下すべて税別]、寿司セット(ChiQセット、販売価格1,100Ksh)だ。インド系ケニア人やインド人には、ベジタリアン対応のラーメンが人気だ。ラーメンは、醤油(しょうゆ)、塩、味噌(みそ)(それぞれ850Ksh)の3種類を展開している。特別な宣伝やマーケティングは行っていないものの、SNS、米国系フードデリバリーのUber Eats、スペイン系のGrovo、そしてアフリカ発eコマースのJumiaから派生したJumia Foodなどのデリバリーサービスを活用し、新規顧客開拓に取り組んでいる。

ChiQセット(ChiQ提供)

人気上昇中のラーメンは、トッピングを調整することでベジタリアンにも対応(ジェトロ撮影)
質問:
現地スタッフの教育で工夫していることは。
答え:
直営の2店舗と、卸先であるスーパーマーケットのキッチンの3拠点で、合計約30人のスタッフを雇用。スタッフの9割が女性で、現地スタッフはパワフルで、仕事の飲み込みも早い。また、卸先となる外資系スーパーマーケットからノウハウを取り入れたこともある。例えば、衛生教育だ。協業によって、スーパーマーケットの高い衛生基準とノウハウを学ぶことができた。直営2店舗もその衛生基準に準拠している。
質問:
ケニアにおける日本食の普及状況と課題は。
答え:
大手スーパーマーケットで取り扱うアジア食材の多くはインド系、中華系、タイ系であり、日本食材の取り扱いはほとんどない。また、ケニアでは中華系・韓国系経営の日本食レストランが20年以上にわたり日本食を提供しているが、日本人による日本食レストランの本格参入は(既存店が撤退した後は)最近10年以内のことだ。ケニア人が日本食を誤って理解していることもある。例えば、「寿司には揚げ玉がついているものだ」とクレームを受けることもある。日本食の普及に向けては、レストラン単独の取り組みでは限界があるため、アフリカ進出に関心のある日本企業(メーカー)がいれば、一緒になって取り組んでいきたい。
質問:
今後の展開は。
答え:
ケニアで入手できる日本食材は限られている上に、価格も高い。事業拡大には食材の安定的な調達と、原価率の引き下げが課題となっている。また、協業先の外資系スーパーマーケットやショッピングモールから、日本食材に関する引き合いもあるため、今後は輸入業にもチャレンジしたいと考えている。日本食材のケニア輸出に関心があるサプライヤーは、日本にパートナーがいるため、気軽に相談してほしい。
今後は、日本食をヘルシーな食事としてケニアで売り出していきたい。中間所得層が拡大すれば、健康に気を遣う人口も増加すると考えている。新型コロナウイルスに対応するため、既存の店舗をオープンな仕様に改装する計画だ。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか)
2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。