特集:アフリカにおける日本食ビジネスの可能性寿司の魅力は早く浸透、豊富な食材や街の発展に可能性(モロッコ)
日本食レストラン経営者に聞く経験談

2021年5月12日

2020年の新型コロナウイルス感染拡大は、モロッコにおいても深刻な影響をもたらした。現地報道によれば、モロッコのカフェ・レストラン経営者協会(l’Association nationale des propriétaires et gérants des cafés et restaurants )の会長は2021年3月、モロッコのカフェ・レストラン業界の2020年の収益は前年から70%減益し、30%が廃業しているとした。このような厳しい状況の中、モロッコの首都ラバトで唯一、日本人が経営し、シェフとしても腕をふるい、日本人や地元住民に愛されたFukuro Sushiが、惜しまれつつ2020年12月に閉店した。開業から、運営、閉店までの経験について、及川亮平氏に話を伺った(2021年3月15日)。


及川亮平氏(左)(本人提供)

モロッコで寿司は早く受け入れられた

質問:
モロッコでの起業のきっかけ、どのようなレストラン、サービスを提供されたのか。
答え:
開店したのは2017年11月で、寿司(すし)とイタリア料理を融合したお店だ。起業のきっかけは、当時、拠点としていたスペインからモロッコへマーケティングした際に、この数年できれいに整備され、発展していく街や豊富な魚介類を目の当たりにし、まだまだ可能性を秘めていると感じたからだ。魚介類はその日に獲れた魚が店先に並ぶので、サバ、アジ、イワシ、タイ、ハタなどどれも新鮮な状態だ。
質問:
客層、客の国籍、価格帯、人気のあるメニューは。
答え:
モロッコの首都ラバトという立地条件も重なり、客層は各国の大使や大使館勤務の職員など、ランチからよく接待などで利用してもらっていた。週末は家族連れの顧客が多く、夜はバーカウンターなどでアルコールを飲んだり、ゆっくり食事をしたりする若い顧客が多かった。価格は多くの方に満足していただけるよう設定しており、江戸前寿司1人前が12〜14貫で200〜300モロッコ・ディルハム(約2,460~3,690円、1ディルハム=約12.3円)で提供し、好評だった。

Fukuro Sushiで提供していた寿司
(本人提供)

Fukuro Sushiで提供していた寿司(本人提供)
質問:
お店のスタッフ構成について。
答え:
14人の現地スタッフのうち、6人のモロッコ人スタッフが働いていた。勤務態度は良く、お客様にも好かれ、経営者として大変うれしく思っていた。他には、セネガル、コンゴ、フィリピン人と、ビジネスパートナーであるイタリア人と日本人の私で構成されていた。日本人は私1人だった。当初は日本食、江戸前寿司への理解は乏しい傾向にあったが、徐々に改善され、ラバトでは寿司の魅力を受け入れられるのが早いと感じた。

日本の調味料にも可能性

質問:
貴社として関心のある、あるいは日本から輸入したかった食材などは。
答え:
自身で日本から輸入はしていなかったので、 日本から輸入したかった物はたくさんあったが、ぜいたくを言うなら、日本製の炊飯器とコメ、そして海苔(のり)だ。15年以上、海外生活をしていて、現地の食材や調理器具で本来の味に近づけるよう、この十数年常に考えている。コメはフランス産、海苔はアラブ系の物を使っている。コメの質は日本に比べ乾燥しているので、洗米後1日水に漬けてから調理する。海苔は、開封してそのまま食べてもハリがないので、オーブンで乾かして使用している。
質問:
モロッコにおける日本食市場や日本産食材の普及状況、地元ローカル料理に日本産食材が使用される可能性について。
答え:
スペインやフランス、イギリスの日本食市場に比べると、まだまだ差があるが、将来性は感じる。これから先、日本食が発展することはあっても、衰退することはないだろう。魚の正しい扱い方や徹底した清潔環境を市場や魚屋に設ければ、モロッコ産の魚貝の価値は瞬く間に上がるだろう。ローカル食材に日本の調味料は合うはずだ。モロッコ鍋で炊く白米もおいしい。
質問:
日本産/日本食向け食材の輸入・通関の実態や課題について。
答え:
輸入規制があるのかは分からないが、業務用の日本酒や味噌(みそ)、醤油(しょうゆ)が手に入らないため、モロッコで手に入らない物はスペインから仕入れていた。食材も一定してそろっていないので、コメや海苔などは取扱業者が保有している時に大量に仕入れていた。

モロッコで再び日本食の魅力を伝えたい

質問:
ビジネス上の課題について。
答え:
モロッコで寿司と言うと、カリフォルニアロールや油であげたお寿司を想像する方がまだまだ多いようだ。現に、モロッコにある寿司チェーン店は4~5種類の魚しかメニューにはない。徐々に、江戸前寿司の魅力をもっと伝えることができたらよいと思っている。
質問:
今後の計画、目標は。
答え:
2017年から出だしは順調だった。しかし、2020年のコロナ禍で、悔しくも閉店せざるを得ない状況になった。近い将来、モロッコで再チャレンジしたいと思っている。モロッコの食文化の発展に貢献ができればいいと考えている。発展を続けるモロッコに期待している。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
石橋 洋一郎(いしばし よういちろう)
1999年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ愛媛、ジェトロ・パリ事務所に勤務し、2018年7月から現職。