特集:アフリカにおける日本食ビジネスの可能性日本食の普及のカギはフュージョン風(コートジボワール)

2021年5月12日

コートジボワールで600万人の人口を擁する、アフリカ有数の国際都市アビジャンでは、旧宗主国のフランス料理ばかりでなく、レバノン、中華、ベトナム、イタリア、韓国、インド、タイ、メキシコなどの各国料理を楽しむことができる。「西アフリカのパリ」と呼ばれたアビジャンは、外国人コミュニティの層の厚さが地域随一で、各国料理の味にはそれぞれ定評がある。一方、日本食と称するレストランは8店ほどあるが、そこで提供される日本食の多くは現地で暮らす人々の嗜好(しこう)に合わせて変化した、いわゆる「フュージョン型」だ。クオリティは本場の日本食とは異なる上に、価格も割高だ。しかし、安定した経済成長を背景とした現地の高・中間所得層の拡大に伴い、外食産業が活発化する中、日本食は「ヘルシー」「美しい」「安全」「高品質」として認知度が広がりつつあり、今後、需要の拡大が期待される。現地で最初に日本食レストランを開店した「Kaiten」オーナーのエルハム・オセイラン氏に、ビジネスの現状などを聞いた(2021年4月14日)。


「Kaiten」オーナーのエルハム・オセイラン氏(本人提供)
質問:
起業のきっかけやビジネスの概況は。
答え:
2007年に国内の最大都市アビジャンに開店した。当時、コートジボワールに日本食レストランはなく、現地の日本食に対する認知度も低かったため、出資者の理解を得るのが難しかったが、フランス語圏アフリカの拠点として機能するアビジャンには潜在的顧客となる外国人も多く、高・中所得層の人口もこれから増加すると見込んだ。自分はコートジボワール、レバノン、カナダの国籍を持っており、日本はまだ知らないが、欧米各地を旅行するうちに日本料理に魅了され、コートジボワールで先駆者として日本料理を紹介したいという思いから起業した。
店名の「カイテン」は、開店と回転をかけたもの。日本の子供たちが遊ぶ独楽(こま)の回転、また当初予定していた回転寿司(ずし)の回転だ。
当初は、現地で初めての日本食レストランとして注目され、富裕層や外国人コミュニティを中心に顧客が増え、約10年間にわたり売り上げは右肩上がりに伸びた。しかし、2017年ごろから日本食レストランの開店が相次ぎ、競争が厳しくなった上、2020年からは新型コロナウイルス禍の影響で売り上げが半減し、経営難に陥った。政府の新型コロナ対策として実質4カ月の休業を余儀なくされたが、テイクアウトやデリバリー、ケータリングサービスの拡充などでコロナショックへの対応に取り組み、危機を乗り越えている。

店内の様子(ジェトロ撮影)

店舗正面(Kaiten提供)

1階バーカウンター(ジェトロ撮影)

2階店内(ジェトロ撮影)
質問:
客層、価格帯、人気のあるメニューや食材、立地条件など。
答え:
アビジャンの中でも、主要なレストラン街であるゾーン4に立地しており、ビジネスの中心地や商業地区からのアクセスも良い。客席は1階50席、2階80席あり、大使館や国際機関、企業による宴会の利用も多い。客筋は、コートジボワール人はもちろん、アフリカ、中東、欧米、アジア人など国際的な広がりがある。コートジボワールでは、鮮魚を食する習慣はないが、経済発展による所得向上で外国を訪れるコートジボワール人が増加し、旅先で日本食に接する機会も増え、日本食の認知度も次第に向上している。
人気のあるメニューは、寿司[6個/6,500CFAフラン(約1,300円、1CFAフラン=約0.2円)]、刺し身、天ぷら、伊勢海老(エビ)鉄板焼き(2万CFAフラン)、餃子(ギョーザ)(7,000CFAフラン)、ワカメサラダ、味噌(みそ)汁(6,000CFAフラン)だ。日本アニメの浸透で日本の大衆食文化としてラーメンの認知度が高くなっており、メニューにはないが、ラーメンの注文にも応じている。また、しゃぶしゃぶの注文も多いのでメニューに追加するため、日本からしゃぶしゃぶ用鍋を調達する予定だ。最近、シェフが試作した「抹茶大福アイス」は好評で、新たにデザートメニューに加える。毎週日曜日には寿司からデザートまで日本料理を好きなだけ楽しめるバイキング(1万5,000CFAフラン)や、平日はデリバリー可能なランチボックス(1万2,000CFAフラン)を提供している。

エビ餃子(ジェトロ撮影)

天ぷら(ジェトロ撮影)

抹茶大福アイス(ジェトロ撮影)
質問:
現地スタッフの活用・教育は。
答え:
シェフは、フィリピン人男性とフィリピン人女性アシスタントの2人。2~4年ごとにベイルートやドバイの日本食レストランで経験を積んだフィリピン人を雇っている。フィリピン人は月額給与2,500ドル程度でアビジャンまで来てくれる。日本人のシェフだと5,000ドル以上かかるので採算に合わない。現在のシェフは、経験豊かで高いスキルを持っている。異国の地で知り合いもいない彼らとは、家族として接している。
スタッフの教育のために、スイスから専門家を呼んで接客訓練をした。また、スタッフ全員で新しいメニューを試食するなどして、日本食への理解に努めている。ただ、コロナ禍の影響でコスト削減の必要に見舞われ、人員削減や在庫削減を余儀なくされ、訓練されたスタッフの半数近くを解雇した。
質問:
貴社として関心のある、あるいは日本から輸入したい食材などは。
答え:
2007年から8年間は、食材を全て直接、日本から輸入していた。今は一部を除いて、コートジボワールでショッピングセンターやスーパーマーケットを展開する小売業最大手のレバノン系グループ・プロズマから調達している。プロズマは、商品ごとに欧州、ドバイ、レバノンから日本食材を輸入・販売しており、今のところ取引上、大きな問題はないが、フランスから輸入するキリンとアサヒのビール、中国から輸入する日本酒は不定期なため、在庫管理が難しい。最近、近くに開店したアジア食材専門店「アジアマート」からも時々、日本食材を買っている。お茶は日本から直接輸入したい。なお、寿司用の魚は、マグロ、スズキ、イカなど、コートジボワールの近海で獲れる。貝柱、シャケは欧州から直接輸入している。肉類は地元産を使用している。

きれいに盛り付けられた料理(Kaiten提供)
質問:
ビジネス上の課題は。
答え:
日本食レストランを始めるに際しての難しさは、コートジボワールにおいて日本食への認知度が低かったことだ。まず、お客さんに日本料理を知ってもらわなければならない。そのため、宣伝のためにいろいろな催しをしてコートジボワール人に日本食の理解を深めてもらった。日本食の認知度が低かった当時は、全盛であった和食とフランス料理を組み合わせた「ヌーベル・キュイジーヌ」も楽しめるレストランとしてスタートした。
日本大使館からもアドバイスをもらい、2008年には大使館と連携して、日本文化プロモーションの一環で、日本食文化を紹介するイベントを開催した。これからは日本食だけではなく、日本文化の普及にも貢献したい。
レストラン業には、法人税、営業税、付加価値税に加えて、観光税、音楽著作権使用料、市民税、ごみ収集税など各種租税が課されるが、コロナ禍の影響による休業や売り上げ不振に対して、税の減免措置など政府の支援がなく、経営環境は厳しい。
質問:
今後の展開は。
答え:
ここ数年で日本食レストランが相次ぎオープンし、8店になった。設立当初の10年間は先行者優位で売り上げも伸びたが、今は競争が厳しくなっている。2号店をアビジャンの中でも、ビジネスの中心地であるプラトー地区に開店することを計画していたが、競争の激化と新型コロナの影響もあり、プロジェクトを凍結した。一方で近々、日本文化交流の場として、以前から関心のあった囲碁クラブをこの店の1階につくりたいと思っている。

コートジボワールの日本食レストラン・日本食材取扱店

(1)日本食レストラン(順不同)
レストラン名 エリア 概要
KAITEN(かいてん) アビジャン(ゾーン4地区) すし、天ぷらなどの日本料理。バー施設も完備。レバノン人のオーナーが経営。日本酒や日本のビールもあり。
KANPAI(かんぱい) アビジャン(ゾーン4地区) すし、天ぷらなどの日本料理。バー施設も完備。鉄板焼きの個室あり。レバノン人のオーナーが経営。アルコール飲料も提供。
UCHICO Sushi & Teppanyaki(うちこ) アビジャン(ココディー地区) レバノン人が多く住む中高級住宅街に立地。すし、天ぷらなどの日本料理を提供。レバノン人経営でアルコール飲料は置いていない。
WASABI(わさび) アビジャン(ゾーン4地区) すしなどの日本料理。オーナーが中国人のため,中華料理も多い。火鍋もあり。隣に中華食材店あり。
Oishi Sushi(おいしい・すし) アビジャン(ゾーン4地区) すし以外にもラーメン、焼きそばなど屋台風のメニュー。ショッピングモールのフードコートなど3店舗を展開。
OSAKA, LA TAVERNE JAPONAISE(おおさか) アビジャン(ゾーン4地区)  
nūshì.sushi アビジャン(ゾーン4地区)  
Buddha Lounge & Sushi アビジャン(ゾーン4地区)  
Tsunami Abidjan アビジャン(ゾーン4地区)  
(2) 日本人が経営する現地レストラン
レストラン名 エリア 概要
Green Garden アビジャン(ヨプゴン地区) 工場地帯のヨプゴン地区で、現地料理を含む西アフリカ料理を提供。日本人がオーナーのため、鳥かつ丼、のり巻き、鳥てりやき丼などの和食もあり。ランチ時間帯だけ営業。
(3)日本食材取扱店
店名 エリア 概要
ASIA MART アビジャン(ゾーン4地区) 韓国・中国食材の取り扱いが中心だが、2021年から日本食材(インスタント食品、調味料など)の取り扱いも開始。

注:2021年3月31日時点。
出所:公開情報を基にジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。