特集:アフリカにおける日本食ビジネスの可能性ガーナで初の本格的な日本食レストラン、5年間で市場は拡大傾向
日本酒やコメなど日本からの食材調達にも関心

2021年5月12日

新型コロナウイルスの影響を受け、ガーナでも、人との接触などを避けるためオンライン・フードデリバリーを利用する人が増えている。また、レストランの営業禁止などにより、閉店やデリバリーのみの対応を行うなど、飲食店業界への影響は大きかった。

一方で、新型コロナ対策の自粛期間中に、レストランを改装、あるいは新店舗を準備する動きも見られた。2020年9月に空港封鎖が解除されて以降、徐々に外食する人が戻り始め、店舗の営業再開や新規開店も増えている。ガーナの本格的な日本食レストランSANTOKU RESTAURANTのエグゼクティブ・シェフ、アンドリアーノ・カナシロ氏に石本満生氏(Quay Consult)とともに話を聞いた(2021年3月2日)。


アンドリアーノ・カナシロ氏 (ジェトロ撮影)
質問:
ビジネスの概況(店舗・人員など)は。
答え:
SANTOKU RESTAURANT(以下、SANTOKU)は、2012年にYOLO XPERIENCES GROUPにより、ガーナ初の本格的な高級日本食レストランとしてスタートした。元公邸勤務のシェフが当店を離れた後、2015年に日系ブラジル人である私がエグゼクティブ・シェフとしてガーナへ招かれ、その後5年以上にわたり事業運営を担っている。
現在、2人のシェフ(インド人とネパール人)と1人のマネージャー(ベネズエラ人)、30人のガーナ人スタッフが働いている。そのうち、キッチンで調理などを担当するスタッフは16人、ホール担当が14人だ。コロナの影響で一時閉鎖したが、現在は対策を取りながら運営しており、コロナ前と比べても遜色ない売り上げを維持している。
質問:
立地条件、価格帯、客層、人気のメニューは。
答え:
外国人駐在員、政治家、ビジネス関係者などが集まるエリアで、首都アクラでも有数の高級マンションの一階にある。内装はラグジュアリーで落ち着いた空間にしており、会食などにも使いやすいだろう。

SANTOKUの内装(YOLO XPERIENCESウェブサイト)
顧客単価はランチで150~200ガーナ・セディ (約3,000~4,000円、ghs、1ghs=約20円)、ディナーで400ghs以上と、国内でも高級なレストランだ。顧客層は、外国人が30%、ガーナ人富裕層が70%で、ガーナ人にも日本食が受け入れられていると言える。
最初は、生魚を好んで食べる人が少なかったため、握り寿司(ずし)や刺し身以外にも、カリフォルニアロールやエビフライロールなどを醤油(しょうゆ)で食べてもらい、その後徐々に日本の味に親しんでもらっていった。寿司ネタのサイズも小さめにして生魚の香りが強く出過ぎない様に工夫するなどした。現地の調味料であるシトと日本食を合わせることで、日本食への敷居を下げるなどの工夫も行なってきた。人気の料理は、唐揚げ、サーモンセット、握り寿司セット、刺し身盛り合わせ、西京焼き、海老(えび)の天ぷらなどだ。

人気のサーモン寿司(YOLO XPERIENCESウェブサイト)
質問:
現地スタッフの活用・教育は。
答え:
ガーナ人スタッフは礼儀正しく、気配りができるため、気持ち良く食事ができると定評がある。マネージメント層による接客サービスの指導の他、スタッフが仕事に誇りを持っていると言える。また、特に衛生面は注意しており、清潔さ、ユニフォームの洗濯、手洗い、定期的な清掃など指導している。コロナ対策として、清潔なマスクの着用、消毒液での殺菌、体温チェックも徹底している。
質問:
食材の調達などは。
答え:
5年前に比べて国内で調達できる日本食材は増えたが、国内で調達している食材は30%程度で、70%は輸入している。特に寿司ネタの鮮度を保つため、冷凍された食材は一度に大量に輸入せず、週に1~2度、必要な量だけ輸入している。現地で調達する寿司ネタも、週2~3回ローカルマーケットから新鮮なネタを仕入れている。 国内で調達している食材は主に、エビ、イカ、タコ、韓国米、みりん、キムチ、調理酒、生姜(ガリ)、海苔(ノリ)などであり、ローカルマーケットや韓国食材店、中華食材店から購入している。

アクラ市内のスーパーマーケットで販売されている日本食向け食材(ジェトロ撮影)
輸入している食材は主に、刺し身用のネタ(ホタテ、ハマチ、マグロ、イクラ、とびっこなど)、酒、肉、調味料などだ。ガーナではレバノン人コミュニティが大きく、週に数便のガーナ~レバノン間フライトで食材を輸入する会社があり、食材を頻繁に比較的低コストで調達できる。以前は自社でイギリスなどから輸入していたこともあったが、税関手続きに時間も費用もかかったため、現在はレバノン系食品輸入業者に委託している。
5年前に週当たり15キロ仕入れていたノルウェー産サーモンも、現在は80キロ仕入れており、人気の食材となっている。ハマチなど一部の食材は日本産もあるが、魚・肉はレバノン系の大手貿易会社が流通網を持っており、鮮度も良い。
質問:
日本から調達したい食材は。
答え:
日本酒、日本米、日本産ウィスキーだ。日本酒はまだガーナ人にとっては新しいため、プロモーションに時間はかかるが、当店では日本酒を提供する際に、製造方法や精米度合いなども説明し、少しずつファンを増やしている。スパークリング日本酒なども輸入を検討している。ガーナではウィスキーを楽しむ人が多く、日本のウィスキーがおいしいことはよく知られているため、比較的容易にマーケットを獲得できるだろう。すでに以前輸入したサントリーの山崎のウィスキーは在庫切れになってしまい、今後仕入れたいと考えている。
質問:
ガーナにおける日本食市場・日本食材の普及状況は。
答え:
2015年にガーナに来たころは、日本食に必要な食材の調達もままならず、一からサプライチェーンを構築する必要があった。現在は、スーパーマーケットや韓国食材店、中華食材店で醤油やみりん、海苔や韓国米(寿司に使う短粒米)が手に入り、日本食の認知度や需要が増していることを実感している。日本食を提供する店はここ数年で14店にまで増えたようだ。この5年間でガーナにおける日本食市場は拡大しており、日本食材も格段に調達しやすくなっている。当店としても日本食文化を広める一端を担っている自負があり、今後さらに日本食ファンを増やすために頑張っていきたい。
質問:
ビジネス上の課題や消費者の日本食に対する関心は。
答え:
新しい食文化を浸透させるには長い時間を要する。しかし、受け入れられる工夫と努力をし、おいしい料理を提供していけば、顧客に支持されるレストランとなることも可能だ。
当店向けの仕入れではないが、日本の食品であれば、乾麺、カップラーメン、グミやキャンディーなどのお菓子類なども需要があるようだ。ただし、在留邦人数は少なく、日本人のみを対象とするサービスや商品には注意が必要だ。まずは現地のスーパーマーケット、中華食材店、韓国食材店へ卸すところから始まり、その後、在留邦人数が倍以上になったころに日本食材店を出すとよいだろう。
日本企業・製品には強みも多いと思うが、ガーナ市場への参入には文化や規制以外にも、既存のプレーヤーや商習慣などの参入障壁がある。そのため、食品貿易会社などと組んで、小さくスピーディにテストマーケティングから始めてみるのがよいのではないか。
質問:
今後の展開は。
答え:
グループ名の「YOLO」は、「You Only Live Once(人生は一度だけ)」の略語で、妥協しないことをモットーにしている。当店以外にも、高級ステーキレストランのURBAN GRILL、南アフリカ共和国系列のVida E Cafféも13店舗展開している。ガーナの飲食産業に新しい風を吹き込むだけでなく、西アフリカの新しいライフスタイルを提供するというビジョンがある。
新しい食材・食文化を受け入れてもらうには、5~10年と長い時間をかけて浸透させていくしかなく、忍耐と長期的な視野とある程度の資金的余裕が必要となってくるだろう。しかし、ガーナはこの5年間の変化を見てもポテンシャルは高く、今から参入してしっかりとマーケティングを行っていけば、将来的に市場が成熟した際に大きなリターンを得られる可能性があるだろう。

ガーナの日本食レストラン、日本食材取扱店

(1)日本食レストラン、メニューの一部で日本食を提供するレストラン(順不同)
レストラン名 地図・写真
SANTOKU Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
KOZO RESTAURANT Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
TERASU JAPANESE RESTAURANT Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ROCKEFELLAS SUSHI-KOREAN CONTINENTAL RESTAURANT Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ITO-YA JAPANESE RESTAURANT Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
POLO CLUB RESTAURANT & LOUNGE Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
CANOE BEACH SUSHI GRILL BAR Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
BONDAI Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
KOKAI RESTAURANT – CHINESE AND SUSHI Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
NINANO RESTAURANT Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
SOHO Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
U SUSHI Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
WASHOKU *デリバリーのみ Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
PANTITA THAI RESTAURANT AND BAR タイ料理/すし提供 Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
(2)日本食材取扱店(順不同)
店名 地図・写真
Rabboni oriental Store – Korean & Japanese Groceries/韓国食材店(乾麺・冷凍食品・調味料・菓子類) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Asiana Mart/韓国食材店/ (乾麺・冷凍食品・調味料・菓子類)
 
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Great Wall Impex (Asian Supermarket)/中華食材店(乾麺・レトルト食品・調味料・菓子類・酒類・野菜) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
FengShou Chaoshi 丰收超市/中華食材店(乾麺・レトルト食品・調味料・菓子類・酒類・野菜) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Hongyuan Choshi鸿源超市OSU店/中華食材店 Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
STAR MART/中華食材店 Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Maxmart 37/スーパー(調味料中心) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Marina mall/スーパー(コメ・調味料中心) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Shoprite Accra Mall/スーパー(調味料中心) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Koala Shopping Center/スーパー(調味料中心) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Palace Mall/スーパー(調味料中心) Google Map外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Samurai Company /焼酎販売
*焼酎の販売(デリバリーのみ)
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注:2021年3月31日時点。
出所:公開情報を基にジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・アクラ事務所長
関根 広亮(せきね ひろあき)
2003年、ジェトロ入構。ものづくり産業課、ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ地方事務所などを経て、2020年3月から現職。