特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今GST導入が物流にも寄与、デジタル技術の活用進む(インド)

2019年4月26日

インド政府は広大な国土をつなぐインフラ整備を重要分野の1つとしている。物流円滑化は進出日系企業の重要課題だが、物品・サービス税(GST)が導入されたことで、州越えの販売に課せられた中央販売税(CST)が廃止されるなど、間接税体系が簡素化された。他方、インドが強みとするモノのインターネット(IoT)やビッグデータ、人工知能(AI)といった高度なデジタル技術を活用しようとする動きも目立つ。進出日系企業の動きとともに、その他の外資企業の取り組みとあわせ紹介する。

物流改善を評価する声が過半

2014年に誕生したモディ政権は、総延長83,677 キロメートルの道路整備を目指す「バーラトマラ」や、港湾開発を通じた経済成長を目指す「サガルマラ」といった施策に多額の予算を充てており、ハードインフラの未整備が徐々に改善される兆しが見られる。また、物品税や付加価値税、サービス税など17の間接税を一本化した物品・サービス税(GST)が2017年7月に導入された。「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)では、インド政府が実施する各種政策がどれだけ物流事情の改善に寄与しているかを把握するため、国内の物流事情に関する特別設問を設けた。これによると、制度導入やインフラ整備などにより、国内物流が「改善した」と答えた企業は53.2%、「改善していない」と答えた企業は46.8%だった。施策別では、GSTの導入が物流事情改善に寄与したと回答した企業が69.4%と最多となった。

図1:(設問)「各施策は物流事情改善に寄与したか」に対する回答
物流事情の改善に寄与した施策として、GSTが69.4%でトップ、これに道路整備、港湾整備、航空輸送網の整備、鉄道輸送インフラの整備、内航海運の整備が続く。

出所:ジェトロ「2018年度 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」

GST導入が物流にも好影響

GSTの導入は、日系企業の物流面にもプラスの影響を与えているようだ。中央販売税(CST)がGSTに統合されたことで、州越えの販売に税金が掛からなくなり、各州に散らばる自社倉庫を集約する動きが見られるようになった。また、2018年4月のE-Way Bill(電子運送証明書)の導入により、貨物輸送の手続きも変わった。GST登録者は、5万ルピー(約8万円、1ルピー=約1.6円)を超える物品の移動を行う際、ポータルサイト(E-way bill system)に必要情報を登録し、自ら発行したE-Way Bill(もしくは同番号)を携行することが原則義務付けられた。GST導入前は、税務当局発行の貨物運送状を取得する必要があった。E-Way Bill は従来の貨物運送状に比べて、発行手続きが簡素なものとなっている。

インド政府は税率変更、申告方法の改正などGSTに関する制度・手続きの変更を頻繁に行っており、これらを適時に把握し適切に対応していく必要はあるが、制度自体は簡素化される方向にある。ただし、解釈が分かれる税務論点が散見されることや、還付手続きに滞りがあるなどの課題は残っており、一層の制度の簡素化と安定的な運用が求められる。

ソフトインフラの整備が重要

国内物流における課題について、「物流にかかる時間の不確定さ」(69.8%)、「関与する人材の意識の低さ(製品の扱い方、時間管理など)」(46.5%)、「通関における問題」(31.1%)が上位に入るなど、ハードインフラの未整備よりも、運用や人材といったソフトインフラ面での課題を指摘する企業が多かった(表1参照)。「道路の未整備」(49.7%)を指摘する企業も多いが、インド政府が物流事情の改善を進めていくためには、制度・運用・人材といったソフトインフラの整備にも注力していく必要があるといえる。

表1:国内物流における主な課題
国内物流における課題 回答割合(%)
物流にかかる時間の不確定さ 69.8
道路の未整備 49.7
関与する人材の意識の低さ(製品の扱い方、時間管理など) 46.5
通関における問題 31.1
物流コストの高さ 15.7

出所:図1に同じ

高度デジタル技術の活用に注目

日系企業のビジネスの効率化や新たな製品・サービスの創出のため、IoTやビッグデータ、AIといったインドが誇る高度デジタル技術の活用にも関心が高まっている。今回の日系企業調査では、デジタル技術の活用に関する日系企業の声を把握するための設問を設けた。インド進出日系企業に現在活用されているデジタル技術としては、クラウド(26.0%)、デジタルマーケティング(14.0%)、電子商取引(EC)(13.2%)、ロボット(13.2%)、IoT(9.7%)などが目立つ(図2参照)。業種別にみると、製造業ではロボットが約25%を占めて最も高く、非製造業では2割近くがクラウド、次いでデジタルマーケティング、ECの活用率が高かった。

図2:インド進出日系企業に活用されているデジタル技術(n=258)
クラウドが26.0%でトップ。これにデジタルマーケティング、ロボット、電子商取引、IoT、廃車・配送アプリが続く。

出所:図1に同じ

将来的にはIoTの活用に強い関心

将来的に活用予定または検討中のデジタル技術としては、IoTが最も高い回答率を得た (図3参照)。インダストリー4.0の導入により、製造や生産の現場では急速な変化が起こっており、さまざまなモバイル端末や安全技術、追跡技術などをアナリティクスと組み合わせることで、競争力の強化を図ろうとする企業が増加傾向にある。特に、自動車や産業機器関連企業では、自社の生産性向上のため、IoTやAIへの関心が高い。

図3:将来、活用を検討しているデジタル技術(n=279)
IoTが28.3%でトップ。これにクラウド、人工知能、デジタルマーケティング、電子商取引が続く。

出所:図1に同じ

インドのIoTスタートアップと提携し、自社工場の生産ラインにIoTデバイスを導入した日系企業A社は「機械の稼働率から従業員の出退勤まで、さまざまな情報への即時アクセスによって、異なる部署間でのコミュニケーションが円滑化し、工場運営の効率が約15%上昇した」という。さらに、「導入したデバイスは日本国内の想定の半額未満という低価格だった」と明かした。日系企業B社は、地場大手エンジニアリング企業と提携し、インド国内向けの白物家電を開発している。提携先のエンジニアリング会社にはIoTやAIの技術者が多く、B社のインターフェースや製品の挙動などをベースにインド向けのAIなど開発を行い、家電製品への組み込みを図っている。

先端技術で低コスト化を実現

こうした製造業各社は先端技術の導入によって、製品の高品質化を低コストで実現しようとしている。その背景には、インド市場が非常にコストに敏感であることがある。もし先端技術を一から自社内で開発した場合のコストは膨大であり、そのための人材確保も至難の業だ。そのため、これらの技術を既に持つインドのスタートアップ企業との連携がカギとなる。つまり、製造業においては、1)既に技術・製品を持つ地場企業と提携して技術・ソリューションの自社への導入を図る、2)技術リソースを持つスタートアップなどと提携して共同で研究開発を行う、3)M&Aを通じて当該技術を持つ地場企業および製品をそのまま自社に取り込むといった方法が考えられる。既に韓国のサムスン電子、オランダのフィリップスや米国のシスコ・システムズなどの大手企業は当地に研究開発拠点などを設け、有望なスタートアップの囲い込みを本格化している。

執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
坂根 良平(さかね りょうへい)
2010年、財務省入省。近畿財務局、財務省、証券取引等監視委員会事務局、金融庁を経て、2017年6月からジェトロ・チェンナイ事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
ディーパック・アナンド
大学で日本語と国際関係論を専攻。4年間の日本での銀行勤務の後、2008年にジェトロ入構。ベンガルール事務所において調査事業と進出日系企業向けの支援を担当し、日印関係で通算約18年の経験を有する。
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
遠藤 豊(えんどう ゆたか)
2003年、経済産業省入省。産業技術環境局、通商政策局、商務情報政策局等を経た後、日印政府間合意に基づき設置された日印スタートアップハブの担当として2018年6月からジェトロ・ベンガルール事務所に勤務。

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