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特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今景況感は堅調、ビザ問題や従業員の離職率が懸念材料に(オーストラリア)

2019年4月26日

ジェトロが2018年10月~11月にかけて実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、在オーストラリア(豪)日系企業の営業見通しは2017年並みの水準を堅持したが、経済成長率の下方修正などを受けて、景況感はやや低下した。前年に引き続き、就労ビザや従業員給与の高騰、高い離職率などを懸念する企業が多い。本稿では、調査結果から、直近の在豪日系企業の実態について報告する。

黒字の割合は堅調を維持

外務省の海外在留邦人数調査によると、在豪日系企業の拠点数は2017年で713拠点あり、日本人が豪州で起業した法人を除くと520拠点となっている。2010年時点での466拠点に比べて54拠点増加しており、平均して年間7~8拠点のペースで増えている。今回の調査では、日本企業の出資が10%以上の法人や日本企業の支店・駐在員事務所の283社を対象に実施し、そのうち168社が回答した。

調査結果によると、2018年の営業利益見通しについて、在豪日系企業の77.4%が「黒字」と見込んだ(図1参照)。前年の78.9%から1.5ポイント縮小したものの、引き続き高い割合を維持した。一方、赤字と回答した企業の割合は2017年の10.6%から0.8ポイント縮小して9.8%となった。

図1:営業利益見込みの推移
2018年度では黒字企業の割合は77.4%、均衡が12.8%、赤字が9.8%であった。

出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

2018年の景況感を示すDI値は27.4ポイントとなり、前年調査の31.1ポイントから3.7ポイント低下し、景気の減速傾向を反映したものとなった。2018年の豪州の実質GDP成長率は2.8%と好調だったが、四半期別の成長率(前年同期比)では、2018年第1四半期(1月~3月)、第2四半期(4月~6月)はともに3.1%と好調だったが、第3四半期(7月~9月)は2.7%、第4四半期は2.3%と低下傾向にある。

約半数の日系企業は事業を拡大する方針

今後1~2年の事業展開の方向性については、在豪日系企業の50.9%が「拡大」、44.2%の企業が「現状維持」と回答した(図2参照)。新興国と比較すると「拡大」の割合は低いものの、ここ3年は微増が続いている。特に、製造業では63.9%が「拡大」としており、事業拡大意欲が非製造業に比べて高い。

図2:今後の事業展開
2018年度では50.9%が拡大、44.2%が現状維持、4.9%が縮小であった。

出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

事業展開を拡大する理由については、製造業の78.3%、非製造業の80.3%が「現地市場での売り上げの増加」を挙げている。豪州は先進国ながら将来的な人口の増加が見込まれ、実際、日本企業も住宅分野などに相次いで参入している。また、石炭や鉱物の産出も堅調に伸びている。日本企業では国際石油開発帝石(INPEX)が主体となった大型案件「イクシスLNGプロジェクト」(事業総額340億米ドル)が2018年7月から稼働している。「どの機能を拡大するか」については、製造業・非製造業ともに、販売機能を強化したいとの回答が多かった。

他方、今後1~2年で「事業の縮小」を図る企業は、卸・小売業を中心に全体の4.9%となった。複数の日系企業への取材によれば、特にサービス業については従業員の賃金・給与の増加が影響を与えているようだ。「最低賃金は毎年3%上昇する上、土曜日の時給は25%増し、日曜は50%増し、祝日は2.4倍。祝日はレジ打ちのアルバイトが時給48オーストラリア・ドル〔3,792円、1オーストラリア・ドル(豪ドル)=約79円〕に上り、とても採算が合わない」(小売業A社)という。

長期就労ビザに加え、従業員の離職率もリスク要因

上述した労務事情があるため、投資環境上のリスク(回答企業数160社)としては「人件費の高騰」が圧倒的に高く、78.1%となっている。続いて、「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」(38.1%)、「土地・事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」(33.8%)、「現地政府の不透明な政策運営(産業政策、エネルギー政策、外資規制など)」(25.6%)、「従業員の離職率の高さ」(25.0%)が挙がった。

「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」については、前回調査(38.6%)から微減したが、2017年4月に連邦政府が制度変更した新しい外国人駐在員向けの長期就労ビザについて、在豪日系企業は引き続き投資環境上のリスクとして捉えている。日系小売業A社は「2年間のビザしか取得できないケースが増えている。2年ごとに駐在員交代を繰り返すのは現実的でなく、他の日系企業においても、日本人駐在員はさらに減少するだろう」と悲観している。

飲食業B社は「ビザ申請に1人当たり年間1,200豪ドル(約9万4,800円)が必要。2年のビザ取得に1万1,000豪ドル(約86万9,000円)かかった事例もある」と、ビザ取得コストの高さを指摘する。

「従業員の離職率の高さ」は、前回調査の19.9%から5.1ポイント増えた。給与水準が上がっているため、「従業員をつなぎ留めていくのは大変。経営上で最も難しいところ」(小売業A社)となっている。日本の雑貨メーカーの販売会社C社は「オーストラリアは売り手市場で、日本人が驚くくらい転職していく」と言う。さらにC社は「新卒での入社は数が少なく、育ったと思ったら2年くらいで転職するケースが多い。そのたびに人材派遣会社から紹介してもらい、コストがかかる」と話す。

一方、オーストラリアの投資環境上のメリットについては、高い順に「安定した政治・社会情勢」(76.4%)、「市場規模/成長性」(51.6%)、「駐在員の生活環境が優れている」(51.6%)、「言語コミュニケーション上の障害の少なさ」(51.0%)、インフラの充実(27.4%)などが挙がった。

日豪EPA活用率は輸入で54.4%

日本との輸出入の実績がある企業(輸出:41社、輸入:68社)のうち、日豪経済連携協定(EPA)を活用している割合は輸出で26.8%、輸入で54.4%だった。ASEANと貿易をしている企業(輸出:23社、輸入:37社)では、FTA(自由貿易協定)・EPAの活用率は輸出で43.5%、輸入で59.5%だった。2018年末に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)により、日本やベトナムとの間で、FTA・EPAの活用率が上昇することが期待される。

中長期的に高度デジタル技術の活用を検討

「現地ビジネスにおいて活用しているデジタル技術」(有効回答数:129社)については、「クラウド」(42.6%)が最も高く、次いで、「デジタルマーケティング」(31.8%)、「電子商取引(EC)」(28.7%)が続き、調査対象国・地域の18カ国・地域中、2~3番目に活用率が高かった。

「中長期的(5~10年程度)に活用を検討しているデジタル技術」(有効回答数:107社)については、「IoT(モノのインターネット)」(23.4%)、「人工知能(AI)」(23.4%)、「ビックデータ」(19.6%)など、高度な技術の回答割合が高かった。

デジタル技術の活用をしている・検討している理由や要因として、「自社の経営方針/判断としてデジタル化が必要」「顧客ニーズの高さ」「先行する競合他社の存在」などの割合が高かった。

執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
小柳 智美(こやなぎ ともみ)
2016年6月、ジェトロ入構。同月よりジェトロ・シドニー事務所所員。

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