特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今現地調達に課題も、引き続き賃金や安定した政治に魅力(ラオス)
2019年4月26日
中国ラオス鉄道や高速道路の建設をはじめとしたインフラの整備が進み、7%前後の経済成長を続け、今後も成長が期待されるラオス。2018年10月~11月にジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(以下、ジェトロ調査)」結果から、当地でのビジネスの現状、課題、傾向などを含めた、ラオスへの進出日系企業の動向について概観する。
黒字比率は増加、一定数の赤字企業も
ラオスへの進出日系企業数は約140社とも言われ、首都ビエンチャンの日本人商工会議所登録数は101社(2019年1月)となっている。ジェトロ調査では67社を対象にアンケートを実施し、33社から回答を得た。
2018年の営業利益見込みを「黒字」とした企業は46.4%、「均衡」は25.0%、「赤字」は28.6%となり、約半数が黒字という結果になった。直近3年間の変化をみると、黒字比率が上昇していることが分かる(図1参照)。これは、ラオスが1986年に「チンタナカーン・マイ(新思考)」を提唱し、市場経済導入後の1990年代から日系企業の進出が始まったものの、進出が本格化したのは2010年代のことであり、同時期に創業した企業の経営が安定してきたものと考えられる。
他方、赤字比率は28.6%と2017年よりは縮小したものの、ASEAN平均の20.3%を上回っている。
投資メリットは低廉な賃金、課題の法整備やインフラも改善へ
投資環境上のメリットとしては、約6割の企業が「人件費の安さ」と回答しており、次に「安定した政治・社会情勢」が続く(表参照)。賃金については後述するが、「安定した政治・社会情勢」として、ラオスは人民革命党の1党制であることも要因として考えられる。
投資環境上のリスクとしては、「インフラの未整備」「法制度の未整備・不透明な運用」「行政手続きの煩雑さ(許認可など)」と続くものの、ラオス政府はこれらの項目が課題であると認識しており、改善に取り組んでいる最中だ。海に面さない内陸国であるゆえに、海運利用の場合、タイのレムチャバン港などまで陸送が必要で、製造業の進出が多いラオスでは時間、コストともに課題であった。そこで政府は、ベトナム政府とベトナム中部のブンアン港の開発、同港へ接続する鉄道の建設計画を進行中で、本事業が実現すれば、ラオス自身の港として活用できるようになる計画だ。また、中国との鉄道や、周辺国向けの高速道路など多くの事業計画が進んでおり、物流インフラの整備が期待される。加えて、法整備についても、政府は2018年2月、世界銀行が毎年発表しているビジネス環境ランキング「Doing Business」の順位の大幅な向上を目指すよう、首相命令を発出しており、急ピッチでビジネス環境整備がされている。行政手続きについては、2019年2月から、企業登録制度が改正され、手続きの明確化、処理期間の設定、書類の簡素化が図られた(2019年1月22日付ビジネス短信参照)。
表:投資環境上のメリット・リスク上位5項目
回答項目 | 回答(%) |
---|---|
人件費の安さ | 59.4 |
安定した政治・社会情勢 | 50.0 |
税制面でのインセンティブ( 法人税、輸出入関税など) | 31.3 |
市場規模/成長性 | 28.1 |
土地/事務所スペースが豊富、地価/賃料の安さ | 25.0 |
回答項目 | 回答(%) |
---|---|
インフラの未整備 | 60.6 |
法制度の未整備・不透明な運用 | 51.5 |
行政手続きの煩雑さ(許認可など) | 39.4 |
税制・税務手続きの煩雑さ | 39.4 |
現地政府の不透明な政策運営(産業政策、エネルギー政策、外資規制など) | 36.4 |
出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
輸出型企業の割合が調査対象国・地域でトップに
日系製造業のラオスへの投資は、「チャイナプラスワン」や「タイプラスワン」といった、周辺国の製造拠点から低廉な賃金を求めて、生産の一部、または全部を移管するケースが多い。また、ラオスは人口が約700万人と市場規模が限定的であるため、国内で製造した完成品は周辺国へ輸出する「輸出型企業」が多い傾向にある。ジェトロ調査においても、売上高に占める輸出比率が75%以上の企業は63.1%と、調査対象国・地域の中で最も高い割合となった。
事業は拡大基調、従業員も増加傾向
今後1~2年の事業を「拡大」するとした企業は54.5%となった。事業を拡大する理由については、複数回答で94.4%が「売り上げの増加」と回答しており、当地でのビジネスが順調であることがうかがえる。また、事業の拡大に伴い、「過去1年間の現地従業員数の増減」についても3年平均で約4割の企業が「増加」と回答している。従業員の募集方法については、求人サイトや求人イベントが最近になって実施されているものの、日系製造業担当者によると、「自身や従業員のFacebookで求人募集する」ケースが多くみられるようだ。また、南部パクセーに進出する製造業担当者は、近所のバス停でビラを配ったり、近隣の村の村長に依頼などしたりして、人材を集めているという。
最低賃金とともに実質負担額上昇も、ASEANでは低水準
投資環境上のメリットとして「賃金の安さ」が注目されるラオスだが、2009年以降3年ごとに最低賃金が上昇している。2009年5月に56万9,000キープ(約7,400円、1キープ=約0.013円)、2012年1月に62万6,000キープ(約8,138円)、2015年4月に90万キープ(約1万1,700円)と推移し、現在は2018年5月から110万キープ(約1万4,300円)となっている。最低賃金を「製造業・作業員」の年間実質負担額の月額換算と比較してみると、おおむね同様の上昇傾向にある(図2参照)。また、最低賃金に含まれない時間外労働や福利厚生の費用は、約1万円程度で推移していることが分かる。
前述のように、上昇傾向はみられるものの、2018年の年間実負担額を他のASEAN諸国と比べると、製造業(作業員、エンジニア、マネージャー)、非製造業(スタッフ、マネージャー)のいずれにおいても、3番目以内の低さとなっている。
現地調達率の向上が大きな課題
また、製造業にとって、人件費と同様にコストとなるのが「原材料」である。輸出加工企業の進出が進むラオスだが、進出日系製造業の現地調達率は低水準だ。2018年の現地調達率は14.0%と、ASEAN地域ではカンボジア(5.8%)に次ぐ低さとなっている。また、生産面でのリスクとしても、60%の企業が「原材料・部品の現地調達の難しさ」としている。縫製業関係者によると、「ラオスではほとんどの部材が手に入らない」とする声のほか、生産機械についても「部品が手に入らず、タイから購入しているため、コストがかかる」と指摘されるなど、原材料以外の部材についても課題となっている。
メコン地域の中心地、ハブとしての地位を
ラオスの進出日系企業は140社程度と限定的だ。一方、課題のインフラや法整備は徐々に改善が進み、また、メコン地域の中心に位置し、5カ国と国境を接することを生かして、同地域の物流ハブとしての地位を築こうとしている。2018年には、日系企業の過去最大規模の投資をはじめとした海外からの投資が多くみられるなど、国を問わずに注目が集まっており、調査結果を含めた今後のラオスの発展が期待される。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ シンガポール事務所
南原 将志(なんばら しょうじ) - 2014年、香川県庁入庁。2018年4月ジェトロ海外調査部アジア大洋州課。2019年4月より現職。