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特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今労務面での課題が残るも物流面では改善の動き(カンボジア)
2018年アジア・オセアニア日系企業実態調査分析

2019年4月26日

カンボジアでは2018年7月の国民議会選挙の結果、フン・セン政権が今後5年間継続することとなった。欧米諸国は一連の選挙に関する動向と運営に対して強い懸念を示し、特にEUは、カンボジアからの輸入時に武器以外すべての品目について無税・無枠とするEBA(Everything But Arms)協定の停止を検討している。一方、経済は中国資本を主体とする製造業、建設業、また不動産への投資が活発で、成長を牽引しており、経済成長率は当面7%前後を維持するとの見通しである。

このような中、「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)から見た日系企業の現状を、営業利益見通しと経営上の問題点にフォーカスを当て、分析する。

企業業績は改善傾向、特に内需が堅調に推移

日系企業調査によると、在カンボジア日系企業の営業利益見通しはここ数年で改善しており、黒字企業の割合は依然50%を下回っているものの、上昇傾向にある(図1参照)。赤字企業の割合も2018年度調査において33.3%と、低下基調を強めた。

図1:在カンボジア日系企業の営業利益見込みの推移(%)
黒字企業の割合は、2016年は30.3%、2017年は35.4%、2018年は40.6%。 赤字企業の割合は、2016年は48.3%、2017年は46.3%、2018年は33.3%。

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

輸出割合別の営業利益見通しを見ると、2016年および2017年の調査では、輸出割合が50%以上の「輸出型企業」の黒字企業割合が、輸出割合50%未満の「内需型企業」の割合を上回っていたが、2018年では輸出型企業と内需型企業の黒字割合がほぼ同等であり、経済成長に伴い国内消費が堅調に推移していると推測される(図2参照)。一方で、今後1~2年の事業展開について、2010年の調査では90%の企業が拡大方針としていたが、これをピークに、拡大と回答した企業は年々減退しており、2018年においては全体の52.5%となっている。2010年以降、「タイプラスワン」の日系企業を中心に進出が続いてきたが、2013年ごろから労働者によるストライキや政治問題を背景に、最低賃金以外にも、諸手当の引き上げや義務化など、人件費を増加させる施策が相次いだ。拡大方針の減退には、主に製造業において人件費増加と生産性向上とのバランスに苦慮する日系企業の事情が反映されていると思われる。

図2:在カンボジア日系企業の輸出比率別営業利益見込みおよび輸出比率
輸出50%未満の黒字企業割合は、2016年は24.5%、2017年は30.3%、2018年は42.1%。 輸出50%以上の黒字企業割合は、2016年は39.4%、2017年は39.3%、2018年は41.7%。 売上高に占める輸出比率平均は、2016年は39.7%、2017年は43.2%、2018年は35.6%。

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

経営上の問題点は昨年比改善傾向なるも課題多し

「経営上の問題点」は、例年とほぼ同じ項目が上位に並ぶ(表1参照)。以下では、「経営上の問題点」として挙げられた各項目について、関連したアンケート結果を基に分析を行う。

表1:カンボジア日系企業の「経営上の問題点」(―は値なし)
問題点 2016年 2017年 2018年
従業員の賃金上昇 69.7% 82.8% 70.9%
原材料・部品の現地調達の難しさ 73.7% 70.0% 54.6%
品質管理の難しさ 76.3% 76.7% 54.6%
税務( 法人税、移転価格課税など) の負担 44.4% 51.3%
従業員の質 62.9% 60.9% 49.4%

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

賃金では2018年に全ての職位が上昇

「経営上の問題点」として回答割合の一番高かった「従業員の賃金上昇」に関し、日系企業調査における賃金アンケート結果によると、月額賃金(ドルベース)は2016年から2017年にかけて低下している職位もあるが、2018年になると全ての職位が大幅上昇している(表2参照)。特に、製造業・エンジニアは月額賃金が85%上昇、また年間実負担額(ドルベース)も69%上昇しており、製造業・マネージャーについても同様の傾向にある(表3参照)。両職種とも、月額基本給、年間実負担額の双方で、ベトナムよりも高い水準になっている。この要因として、調査後のヒアリングの結果、以下2点が挙げられた。

  1. カンボジアの製造業において、エンジニア、マネジャークラスにタイ人、中国人など、カンボジア人以外の人材を採用するケースが背景にあり、賃金の高い外国人スタッフの賃金を基に回答した企業が存在すること。
  2. カンボジアではスタッフ数が比較的少ない小規模な工場が見られるが、このような工場では賃金を高めに設定し、離職を回避するような傾向があること。
表2:カンボジア日系企業の月額基本給推移(ドルベース)
職種 2016年 2017年 2018年
製造業・作業員 175 170 201
製造業・エンジニア 391 351 648
製造業・マネージャー 885 829 1,117
非製造業・スタッフ 346 387 501
非製造業・マネージャー 906 1,005 1,273

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

表3:カンボジア日系企業の年間実負担額推移(ドルベース)
職種 2016年 2017年 2018年
製造業・作業員 2,376 2,631 2,917
製造業・エンジニア 5,492 5,140 8,707
製造業・マネージャー 11,879 11,890 15,527
非製造業・スタッフ 5,957 5,276 6,868
非製造業・マネージャー 12,523 14,444 17,675

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

一方、製造業・作業員について、月額基本給と年間実負担額をASEAN各国で比較すると、例えば最低賃金が拮抗(きっこう)するベトナムとカンボジアは、月額基本給で約13%、年間実負担額で約31%、カンボジアの方が安いという結果になった(図3参照)。この要因について、カンボジアでは製造業作業者を最低賃金で採用できるケースが多いのに対し、ベトナムでは売り手市場のため最低賃金のみでは採用が難しい環境にあるとの声が聞かれた。また、年間実負担額については、健康保険などの社会保険料率がカンボジアでは3.4%、ベトナムでは20%超であることが影響していると考えられる。製造業作業者の人件費という観点において、現時点ではカンボジアの優位性が見受けられるが、現在、同国政府は年功補償制度(2018年10月01日付ビジネス短信参照)や年金制度の導入を検討しており、人件費の上昇は今後も懸念材料と言える。

図3:2018年度の製造業作業者の国別月額賃金
および年間実負担額(ドルベース)
タイの月額賃金は413ドル、企業年間実負担額は7846ドル。 インドネシアの月額賃金は296ドル、企業年間実負担額は5027ドル。 フィリピンの月額賃金は220ドル、企業年間実負担額は4056ドル。 ベトナムの月額賃金は227ドル、企業年間実負担額は3812ドル。 カンボジアの月額賃金は201ドル、企業年間実負担額は2917ドル。 ミャンマーの月額賃金は162ドル、企業年間実負担額は2277ドル。 ラオスの月額賃金は180ドル、企業年間実負担額は2679ドル。2018年度の製造業作業者の国別月額賃金および年間実質負担額について、 タイの月額賃金は413ドル、企業年間実負担額は7846ドル。 インドネシアの月額賃金は296ドル、企業年間実負担額は5027ドル。 フィリピンの月額賃金は220ドル、企業年間実負担額は4056ドル。 ベトナムの月額賃金は227ドル、企業年間実負担額は3812ドル。 カンボジアの月額賃金は201ドル、企業年間実負担額は2917ドル。 ミャンマーの月額賃金は162ドル、企業年間実負担額は2277ドル。 ラオスの月額賃金は180ドル、企業年間実負担額は2679ドル。

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

裾野産業の未発達による原材料の現地調達難

「経営上の問題点」として2番目に回答割合の高かった「原材料・部品の現地調達の難しさ」について、同調査において原材料・部品の調達先を現地とした企業の割合は2016年が13.9%、2017年が8.0%、2018年が5.8%と、年々低下している(図4参照)。これは「裾野産業である原材料製造業の進出が見られないため、国外から調達せざるを得ない環境にある」との声のとおり、調達は国内からではなく、比較的容易なASEAN域内や中国、日本を中心に進めるしかない状況にあると考えられる。

図4:在カンボジア日系企業の原材料・部品の調達先の内訳推移(%)
現地からの調達比率は、2016年13.9%、2017年8.0%、2018年5.8%。 日本からの調達比率は、2016年31.3%、2017年29.1%、2018年28.1%。 ASEANからの調達比率は、2016年21.5%、2017年28.3%、2018年33.5%。 中国からの調達比率は、2016年28.8%、2017年26.7%、2018年29.6%。 その他の調達比率は、2016年4.5%、2017年7.9%、2018年3.1%。

出所:「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

品質管理には人材育成が必要

「経営上の問題点」として同じく2番目に回答割合の高かった「品質管理の難しさ」と、5番目に高かった「従業員の質」に関し、日系企業からは品質管理を行える現地人材の育成に課題があるとの声が聞かれる。ある日系企業は「ワーカーの教育面が一番の課題」とし、歴史的な観点から十分な教育を受けてない従業員の人材育成は、企業の重要課題になっている。国としても、学校教育の立て直しを進めてはいるが、教育体制は一朝一夕で改善されるものではなく、時間を要するものと考えられる。

関連して、日系企業調査における製造・サービスコストの上昇への対応策として「人材の現地化推進、人件費の削減」と回答した企業の割合が45.0%と、2017年の38.2%から上昇しており、背景には企業がカンボジア人の従業員に対し、外国人が担ってきた、より高度な業務を要求する必要性が高まっていることがあるとされる。

税務の負担の主因だったカムコントロールによる検査は撤廃

「経営上の問題点」として4番目に回答割合の高かった「税務の負担」に関し、輸入関税が引き下げられていく中、カンボジア独自の制度である特別税や、カムコントロールによる検査などの費用負担が企業を悩ませていた。フン・セン首相は2019年1月28日付の政令No.27で、商業省管轄のカムコントロールによる独自の輸出入時の検査業務を、国境や経済特区などの各チェックポイントで撤廃することを正式に通達し、また経済財務省は1月29日にレターNo.568で、輸出入品のスキャニング検査費用を減額するとした。(2019年2月6日付ビジネス短信参照)。カムコントロール撤廃やスキャニング検査費用低減は大きな前進であり、費用軽減もさることながら、検査実務撤廃によるリードタイム面でも大きな効果が期待できる。ある日系物流業者からは「従来よりも2時間早く通関ができた」との声が聞かれた。

執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所 海外投資アドバイザー
脇坂 敬久(わきさか たかひさ)
1976年東海電線株式会社入社(1985年住友電装株式会社に社名変更)、2017年住友電装株式会社退職、2018年4月より現職。

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