特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今市場成長への期待から2019年の景況感は改善傾向(ニュージーランド)
在ニュージーランド進出日系企業調査の概況
2019年4月26日
ジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、本調査)では、在ニュージーランド企業の2019年の景況感を示すDI値(注)は35.5ポイントと、2018年の2.4ポイントと比べ、大幅な改善に期待が寄せられている。本調査に回答した同国進出日系企業は、88社だった。業種別では、製造業が30.7%(27社)、非製造業が69.3%(61社)となっている。本稿では、進出日系企業の特徴なども交えて調査結果を報告したい。
2019年は現地市場での売り上げ増加に期待感
製造業の回答企業のうち、農林水産業や食品関連が約7割を占めた(図1参照)。具体的には、野菜、果物のほか、畜産、製粉、飲料などが挙げられる。また地域によっては年間2,200時間近く日照時間があり、マツ科マツ属の樹木であるラジアータパインが植林から30年で伐採可能なサイクルにあることから、木材/木製品および紙/パルプも日系企業が関わる分野となっている。
2018年の営業利益見込みを「黒字」と回答した割合は64.6%と、比較的高かった(表1参照)。前年との比較で「改善」とした割合は31.3%、「悪化」とした割合は28.9%とほぼ拮抗(きっこう)し、DI値は2.4ポイントと調査対象国・地域の中で最低となった。
DI値を業種別にみると、製造業はマイナス3.9ポイント、非製造業は5.3ポイントであった。「改善」する理由としては、「現地市場での売り上げ増加」が50%と最多であった。「悪化」する理由としては、「現地市場での売り上げの減少」「調達コストの上昇」「人件費の上昇」がそれぞれ37.5%となり、現地市場の成長に期待する一方で、各種コストの増加を懸念している状況が見受けられる。製造業に関しては、日本を100とした場合のニュージーランドの製造原価は100.9と、日本の水準をやや上回った。
一方、2019年のDI値は全体で35.5ポイント、業種別では製造業で42.3ポイント、非製造業32.8ポイントと、改善傾向が高まっている。要因としては、「現地市場での売り上げ増加」が60%を占めた。当地進出日系企業からは「新規プロジェクトによる売り上げ増加を期待している」(非製造業A社)との声があった。また、「2018年は規制強化などにより、日本からの輸入が減少した一方、規制強化などに伴い業界内の淘汰(とうた)も予想される。当社は、適切に規制強化に対応し競争力を維持・拡大したい」(非製造業B社)とのコメントも寄せられた。
今後1~2年の事業展開の方向性については、「拡大」が33.3%、「現状維持」が64.4%となった一方、2.3%が「縮小」と回答した。「拡大」の理由としては、「現地市場での売り上げ増加」や「成長性、潜在力の高さ」が、「縮小」とする理由としては、「売り上げの減少」や「成長性、潜在力の低さ」が主に挙げられた。具体的には、「日本とのビジネスでは、日本の人口減少が(当地法人の売り上げ減少に)影響がある」(非製造業C社)とのコメントがあった。
表1:ニュージーランド進出日系企業の営業利益見通し
企業形態 | 黒字 | 均衡 | 改善 |
---|---|---|---|
全体 | 64.6 | 17.0 | 17.3 |
製造業 | 69.2 | 15.3 | 15.3 |
非製造業 | 62.5 | 17.9 | 19.6 |
企業形態 | 改善 | 横ばい | 悪化 | DI値 |
---|---|---|---|---|
全体 | 31.3 | 38.6 | 28.9 | 2.4 |
製造業 | 30.7 | 34.6 | 34.6 | ▲ 3.9 |
非製造業 | 31.6 | 42.1 | 26.3 | 5.3 |
企業形態 | 改善 | 横ばい | 悪化 | DI値 |
---|---|---|---|---|
全体 | 49.4 | 37.0 | 13.9 | 35.5 |
製造業 | 57.7 | 26.9 | 15.4 | 42.3 |
非製造業 | 45.5 | 41.8 | 12.7 | 32.8 |
注:四捨五入で%を算出しているため、合計が100にならない場合がある。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
輸出企業の約7割は日本向けに輸出
売り上げにおける輸出割合が1%以上ある企業は56.4%で、輸出先の内訳では日本が最多で65.3%、次いでオセアニア向けが57.1%、中国、ASEAN向けがそれぞれ28.6%と続いた。
日本・ニュージーランド間で初めての自由貿易協定(FTA)となる、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の影響については、「影響がない」と回答した割合は41.5%、「影響が分からない」が46.3%で、「自社の経営に影響がある」としたのは12.2%にとどまった。一方、「日本向けの輸出で自己証明の原産地証明書を早速、活用した」(製造業D社)という声もあり、実際にCPTPPの活用は始まっている。進出日系企業のFTA/EPA(経済連携協定)利用状況では、輸出入ともにオーストラリアとの貿易で最も多く活用されている(表2参照)。
国・地域 | 輸出/輸入 |
利用・利用 検討中の 合計 |
---|---|---|
オーストラリア | 輸出 | 61.1 |
輸入 | 61.6 | |
ASEAN | 輸出 | 60.0 |
輸入 | 60.0 | |
台湾 | 輸出 | 50.0 |
輸入 | 50.0 | |
中国 | 輸出 | 58.3 |
輸入 | 28.6 | |
香港 | 輸出 | 50.0 |
輸入 | 33.3 | |
韓国 | 輸出 | 42.9 |
輸入 | 0.0 |
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
人件費の高騰が最大の投資環境上のリスク
本調査の回答企業の雇用者総数は1万2,659人で、製造業が8,967人、非製造業は3,692人で、製造業の雇用貢献度合いが高いことが分かる。
今後1年の雇用予定に関して、現地従業員は増加傾向となっている一方、日本人駐在員に関しては横ばい、または減少傾向が高くなっている(表3参照)。日本人駐在員の減少に関しては、投資環境上のリスクの項目で「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」を22.4%が指摘している点に留意する必要がある。実際に、「ビザの取得が難しい」(非製造業E社)、「複数日本人を駐在させているほか、コミュニケーション体制も確立しているので、監査役としての駐在員は引き揚げる」(製造業F社)という声も寄せられた。
人員種別 | 増加 | 横ばい | 減少 |
---|---|---|---|
現地従業員 | 34.5 | 58.3 | 7.1 |
日本人駐在員 | 8.1 | 82.4 | 9.5 |
注:四捨五入で%を算出しているため、合計が100にならない場合がある。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
一方、投資環境上のリスクとして最大の割合となったのが、「人件費の高騰」で69.7%だった。2018年10月時点のIMF統計によれば、ニュージーランドの1人当たりGDPは4万2,000ドルと、日本の4万1,420ドルを上回っている。本調査での賃金水準は表4のとおりであった。ニュージーランドの最低賃金は2019年4月から、時給17.7ニュージーランド・ドル(約1,345円、NZドル、1NZドル=約76円)で前年比7.3%増となっており、政府は2021年に20NZドル(約1,520円)まで引き上げる方針を示している。「最低賃金が上がることで、従業員の賃上げも相応に必要となる」(製造業G社)という。なお、ニュージーランドでは賞与支給の習慣は一般的になく、一部企業が支払っている分が反映されている。
職位 | 基本給・月額 |
年間実質 負担額 |
賞与 |
---|---|---|---|
製造業・作業員 | 3,003 | 38,499 | 0.2 |
製造業・エンジニア | 4,561 | 61,192 | 0.7 |
製造業・マネージャー | 5,491 | 86,880 | 0.7 |
非製造業・スタッフ | 3,108 | 40,839 | 0.6 |
非製造業・マネージャー | 5,116 | 69,921 | 1.0 |
注:年間実質負担額は、基本給、諸手当、社会保障、残業、賞与などの年間合計額。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)
デジタル技術のさらなる活用に期待
ビジネスにおいて活用しているデジタル技術については、47.1%が「クラウド」、44.3%が「デジタルマーケティング」、32.9%が「電子商取引(EC)」と回答した。デジタル技術の活用を検討するとした企業のうち、47.3%が「自社の経営方針・判断として必要」とする一方で、49.1%が「顧客からデジタル技術の導入を求められている」、45.5%が「競合他社が先行してデジタル技術の活用導入を進めており、対抗するため」としており、アジア・オセアニアの他国・地域と比べて、国内でのデジタルニーズは高い。
ニュージーランドは農業国のイメージが強いが、政府はデジタル時代のイノベーションを通じた国家の繁栄を目標に掲げている。今後、英語圏の強みを生かした、同国のデジタル産業や技術の動向にも注目していく必要がある。
- 注:
- DI値とは、Diffusion Indexの略で、「改善」すると回答した企業の割合から「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた数値。景況感がどのように変化していくかを数値で示す指標。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・オークランド事務所長
奥 貴史(おく たかし) - 1996年、ジェトロ入構。海外はジェトロ・ダルエスサラーム事務所、国内は本部の他、ジェトロ盛岡、ジェトロ青森などを経て、2018年より現職。