海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」和食の枠を超え、日本伝統の麩を世界に(富山・株式会社スギタニ)
2026年4月28日
株式会社スギタニ
(本社:富山県小矢部市)は、麩(ふ)を中心に、日本の食文化から生まれた植物性たんぱく食品を製造・販売している企業だ。1927年創業の長い歴史を持ち、「食材の企画・開発から供給までを担うパートナー」として多様な食品の企画・生産を手がけている。現場目線での工夫で、全国の食のプロフェッショナルとの信頼と実績を積み上げ、国内では確固たる地位を確立している。さらなる事業拡大を目指し、2024年秋から杉本英子取締役副社長と杉谷美咲緒専務取締役がチームで、輸出に取り組んでいる。両名と、輸出へのチャレンジを強力にサポートする杉谷三喜雄代表取締役会長、菊地喜伸代表取締役社長に、一年半にわたる挑戦を聞いた。(取材日:2026年2月25日)

「麩」を世界に広めたいという思いから輸出にチャレンジ
- 質問:
- 輸出に挑戦したきっかけは?
- 答え:
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(杉谷美咲緒氏)材料などの輸入を担当していて、いずれは輸出もと考えていた。豆腐や納豆など他の日本の伝統食材と比べ、麩の海外での知名度が低いことは重々承知していたが、麩を世界に出すことができたらという思いを持っていた。そのようなときに公益財団法人富山県新世紀産業機構
(以下、新世紀産業機構)から輸出に興味はないかと声をかけられたことがきっかけとなった。杉本副社長自身も輸出には関心を持っており、2人で頑張ってみようということになった。
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あわ麩(生麩)(同社提供) 
よもぎ麩(生麩)(同社提供) 
おつゆ麩(焼き麩)(同社提供) - 質問:
- 輸出にチャレンジしようと決意してからどのように行動に移したか?
- 答え:
- (杉谷美咲緒氏)2024年秋に、新世紀産業機構からオーストラリアの日系スーパーでのテスト販売と、インドネシアのレストランとのコラボフェアの紹介を受けた。両方に参加を決意したが、輸出は未経験でどうしたらよいか全くわからない状態だった。
- (杉本氏)ジェトロのウェブサイトで、「中小企業海外ビジネス人材育成塾(以下、育成塾)」を受けてよかったという石川県の食品メーカーの記事を見つけた。育成塾での学びを活かして、日本独自の食材の米国への輸出を実現したことを知り、 育成塾への参加を決意した。受講期間がオーストラリアのテスト販売時期と重なっていたため、育成塾の合間を縫って渡豪し、現地で課題をこなすなど大変だったが、育成塾と同時並行で学んだ内容を現地で実践できたことは良かった。
- 質問:
- オーストラリアでのテスト販売での気づきはどのようなことがあったか?
- 答え:
- (杉谷美咲緒氏)2025年2月に、シドニーの日本食材スーパーでの富山フェアで1カ月間のテスト販売に参加した。期間中に杉本副社長と現地へ行き、実際に店頭で推奨販売をして現地の消費者の生の声に触れた。日本食材スーパーだったため、来店者の多くは日本食や麩に関心のある層で、既に和食を日常的に採り入れている人の割合が高かった。
- (杉本氏)一方で、和食になじみのない客層に対しては、麩を勧めても食べられないケースがあった。和風の調理だけでなく、洋風のスープに浸すなど工夫したが、初めての食材には抵抗があるようだった。
- (杉谷美咲緒氏)この時の来店者の反応はとても参考になった。例えば、「プロテインを摂取中だから(炭水化物は避けている)」と試食を断る人もいたが、これをヒントに後の商談では「麩は植物性プロテインだ」という話をすると、大いに興味を引くことができた。
営業経験のない2人が、育成塾での学びを基に海外での商談にチャレンジ
- 質問:
- 杉本さんは、育成塾を受講後、「中小企業海外ビジネス人材 育成塾プラス(以下、育成塾プラス)」も受講しているが、違いや、両方受けたメリットは?
- 答え:
- (杉本氏)輸出の基礎を学ぶと同時に、海外バイヤーとの商談資料が作れるということで育成塾に申し込んだ。輸出や海外バイヤーとの商談準備という面で大いに勉強になったが、英語での商談資料については少し物足りない部分があった。そこで、すぐ育成塾プラスに申し込んだ。育成塾プラスでは英文資料を作成し、外国人講師と英語でロールプレーも行うので、より実践的で役に立った。
- (杉谷美咲緒氏)育成塾では、基本的な海外営業の方法を学んだ。本当に何も知らずにスタートしたため、ターゲット国すら決まっておらず、自社商品のポジションがどこにあるか考えたこともなかった。自分たちの商品は何が売りになるのか、お客様は自分たちの商品に対して何を求めているのか、どんな人がこの商品を欲しいと思ってくれるのか。いろいろな角度から自分たちの商品を見直すことで、自然と商談力も上がったと実感している。
- (杉本氏)以前は商品カタログさえ無かったが、育成塾の中で他業種の参加者から「食品だから見栄えのする写真があった方が良い」とのアドバイスをもらい、作成したウェブサイトやカタログに「映える」写真を載せることがお客様へのアピールになると気付いた。消費者目線の意見がとても参考になった。
- 質問:
- 杉谷氏、菊地氏からのアドバイスやフィードバックは?
- 答え:
- (菊地氏)育成塾、育成塾プラスの講座が終わるたびに毎回2人から報告を受けていた。講座の中で気づいたことに対して、自分たちはどうしていきたいという話も聞いていた。2人のやる気と力を信頼していたので、「思うようにやりなさい」と言っていた。戦略面では、いかに付加価値をつけて販売していくかが重要で、どこの市場が当社製品の付加価値を認めて高く買ってくれるのか、という観点で考えている。その議論の中でターゲット国がオーストラリアに決まった。今はスピードアップを指示している。時間は無限ではない。そのための知恵を出してもらっている。
- 質問:
- 現在までの輸出の取り組みを教えてほしい。
- 答え:
- (杉谷美咲緒氏)富山県の企業が輸出サポートをしていると知りコンタクトした。手始めにAmazonでの販売のアドバイスをもらい、オーストラリアと英国のAmazonに出品した。2025年1月に米国・ラスベガスで実施の「Winter Fancy Food Show」で、当社の商品を一緒に展示してもらったところ、ハワイのバイヤーがラーメンの具材として気に入ってくれた。サンプルと見積もりをAmazon経由で送ったが、受注には至らなかった。この経験から間接輸出の限界を感じた。
- (杉本氏)実績としては、国内商社経由で台湾と米国西海岸の日系スーパーに向け焼麩を輸出した。ジェトロからの紹介でオーストラリアの水産物卸売業者と知り合い、現地のリゾート施設の総料理長の紹介を受けた。育成塾プラスでは、この総料理長を商談ターゲットとして具体的な戦略や資料を準備した。
メルボルンで麩の新たな可能性に出会う
- 質問:
- 総料理長との、現地商談の成果は?
- 答え:
- (杉本氏)現地水産物卸売業者経由で招待を受け、杉谷会長と2026年2月16~18日にメルボルンを訪問した。ホテル、カジノ、レストランを含む巨大リゾートの全レストランを統括する総料理長との商談に加えて、同施設やメルボルン市内のレストラン12店を訪問し商談した。生麩を中心に飛行機の手荷物重量をオーバーするほどのサンプルを持っていったが、足りないくらいだった。各レストランのシェフたちに試食してもらうため、サンプル提供しながら和食だけでなくイタリアンやモダンオーストラリア料理など、高級レストランを中心に回った。中でも一番手ごたえを感じたのはイタリアンレストランだった。生麩サンプルを使って、シェフが即興でイタリアン料理に変身させてくれたのだ。感激と同時に大きな可能性を実感した瞬間だった。総料理長との商談では、リゾートホテルにある焼き鳥バーのデザートメニューとして、みそ汁団子が採用された。
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よもぎ麩のトマトソースチーズ風味エビと
いくらのトッピング(同社提供)
あわ麩のシーウィード風味甘じょっぱい
パリパリ昆布のせ (同社提供) - (杉谷氏)今後、商品選定や価格などの相談を受けたときに判断するためにも、自分の目で現地を見ておきたかった。今回の滞在では12軒のレストランを回り直接話をした。時間はかかるが、やはりこういったやり方が重要だ。代理店にポンと投げたらすっと広まるなどということはあり得ない。エネルギーが必要だが、その分成果はある。今後も今回のように直接会っていくことで、客先を広げられるだろうという実感を得た。
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Crown Melbourneにて(同社提供) 
高級和食店のシェフにあわ麩とよもぎ麩を
ベジタリアン向け食材として紹介(同社提供)
日本の音楽文化をテーマにした焼き鳥バー(左)で、みそ汁団子(右)がデザートとして採用された(同社提供) - 質問:
- 今後の展開について
- 答え:
- (杉谷美咲緒氏)麩を世界に広めていきたいという夢がある。日本の商品を輸出して海外の日本食材店や日系スーパーで販売するだけでは、麩の価値を高めていくことは難しい。
- (杉本氏)オーストラリアで、和食以外でも麩が受け入れられる可能性を実感した。代理店任せにせず、自分たちで直接会って話すことで、私たちも気づいていなかった麩の可能性を見つけることもできた。きっかけをつかんだメルボルンでビジネスを軌道に乗せて、他の地域へ拡大するシナリオで同国に集中していきたい。その後は着実に市場を拡大していきたい。
- (杉谷氏)海外市場開拓は自分たちだけではできない。今回オーストラリアでは信頼できるパートナーを見つけることができたが、今後、国やエリアを広げていくときには、信頼できるパートナーをどう見つけるかが課題となる。彼らが仕事に対していかに貪欲(どんよく)かということが大事だと思う。
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株式会社スギタニ本社工場(同社提供)
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課
志摩 浩史(しま こうじ) - 大手日用品メーカーで海外マーケティングや新規国・新市場開拓などを担当。複数の現地法人にも駐在。2023年ジェトロ入構。





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