海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」顧客のゴールを聴く力で成約へ(神奈川・大川原化工機)

2025年12月18日

神奈川県横浜市に本社を置く大川原化工機株式会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、液体原料から粉体を製造するスプレードライヤを中心に、独自の技術で装置の設計・開発をするエンジニアリング企業だ。特に液体から粉体を生産する工程で、必要な要素を最適化する分野に豊富な知見があり、噴霧乾燥技術においては国内のみならず海外からの引き合いも多い。海外展開の実績は長く、中国に子会社ならびに合弁会社、韓国に子会社、アジアを中心に協力会社を有し、これまで多くの国々へ製品を輸出販売してきた。しかし、海外顧客の対応を担う海外営業について社内研修の方法は確立されていなかった。海外営業部への配属に伴い「2024 年度中小企業海外ビジネス人材育成塾」(以下、育成塾)に参加した河野明斗氏は、「指示されたことをこなすだけの状況から、海外顧客との商談に自信が持てるようになった」と言う。育成塾参加でどのような変化があったのか。取締役兼海外営業部長の河合研一氏とともに話を聞いた(取材日:10 月 9 日)

手探りの状況から急成長、海外営業に自信がついた

質問:
育成塾受講前の状況は。
答え:
(河野氏)配属された海外営業部では、韓国・東南アジアでの販路拡大、代理店・現地協力会社とのパートナーシップの拡充を担っている。これらの地域では既に顧客との取引はあった。しかし、配属までは部分的にしか海外営業に関与できていなかったため、海外取引の一貫した流れも理解できていなかった。五里霧中の状態で指示されたことをやるだけで精一杯だった。そのような状態をどうにかして打開するため、体系的に学びたいと思っていた。
(河合氏)会社としてはこれまでも多くの輸出実績があり、輸出に関する経験、知識の土台はあった。しかし、営業担当がそれぞれ自分の知識、経験、営業スタイルで動いていた。海外営業部員の育成方法や、これらに必要なスキルの取得など全てが手探りで、社内における研修方法も決まっていなかった。そのような状況下で、こちらの育成塾を見つけ、2022 年に初めて当社の社員を参加させた。結果、社員からの評価がとても良かったため、今回は(河野氏に)参加してもらった。
質問:
育成塾で得た学び、スキルは。
答え:
(河野氏)海外営業に対して自信がついた。研修課題でSWOT分析(注1)やポジショニングマップ(注2)の作成をこなしていく中で、自社の長所・短所、自分に足りているもの・足りていないものが分かり、役割も見えてきた。研修のグループワークでは業種、業界、背景も異なる他の受講者からコメントをもらい、そして自分もコメントをする。この経験で客観的な視座を身につけることができた。また、中小企業の海外営業として、同じ悩みを持つ仲間と切磋琢磨しあい、刺激になった。
質問:
上司の河合氏から見て河野氏がスキルアップした点は。
答え:
(河合氏)韓国子会社で彼の商談に同席した際、しっかりと顧客の視点に立った提案ができており安心して任せられた。また、韓国子会社の社員とのコミュニケーションも相手の立場を尊重し、良い相談相手になっていた。

河合氏(左)と河野氏(右)(ジェトロ撮影)

ポイントは強みの特定と聴く力

質問:
育成塾修了後、既に多くの成約を獲得し成果を上げていると聞いている。
答え:
(河野氏)商材が産業機械であることから、購買意欲の高い企業からの声がけが多い。業界内で情報交換も行われているらしく、口コミを通じて広まっているようだ。
(河合氏)企業のニーズに合わせて、製品の仕様を変更しているため、ニーズを正しく汲み取り、社内と連携しながら商談をまとめる力が必要になるが、彼はそれができている。
質問:
成果を出すにあたり、具体的に工夫した点や取り組みは。
答え:
(河野氏)育成塾で行ったポジショニングマップの作成を通じ、国内、海外(欧州、中国)の競合と比較することで自社製品の強みが明確化され、品質・技術力の高さが強みであることを再認識した。実際に製品を使ってもらい、成果物の品質を評価してもらうことが重要と考えた。オンライン会議や資料送付で済ませるのではなく、実際に当社の試験場まで足を運んでもらい装置のパフォーマンスを確認して頂くなど、対面での交流を大切にしている。中には来日が難しい企業もあるため、こちらから出向いて行き、海外の関係先と連携し、現地で同様の対応をするなどしている。
質問:
商談の際に気を付けていることは。
答え:
(河野氏)まずは相手が欲しいもの、顧客が描くゴールを聴くこと。それに対して自社として何ができるのか考える。実際の製品の提案は技術部門や関連部署と連携して行うため、自分の役割は先方のゴールを確実に把握することと認識している。
質問:
国内と海外のビジネスの違いや課題は。
答え:
(河野氏)商習慣が大きく違うことだ。日本では受注前に仕様を固めて協議を進めていくが、自分が担当する韓国などは受注を決めてから仕様を固めていくことがある。そのため、仕様が固まっていない海外案件は社内の技術部門での対応が難しくなってしまう。営業担当として、求められる仕様をある程度推測した上で、技術部門と協力していく必要がある。 商談の進め方も日本とは変えており、海外の商談の場合はアイスブレイクを大切にしている。名刺についても英語版には役職を入れている。
(河合氏)海外からの問い合わせは、国内に比べるとあいまいな点が多いと感じている。そのため、要求事項への対応を担う技術部門での対応に時間を要してしまう。他方、海外顧客はスピード感をもって動いているため対応が遅れないようにしていかなければならない。相手の話を聴く力、コミュニケーション力が高くないとまとめられない。
質問:
今後の海外ビジネスにおける目標は。
答え:
(河野氏)現在アジアで成果が出ているのは、現地に合弁会社や協力会社を持っていることが大きい。そのため、担当の東南アジア・韓国を中心に今後も現地パートナーの獲得、販路を拡大し地盤を固めていきたい。また、これまでは現地に進出する日系企業を主なターゲットとしてきたが、これからは地場の企業にも製品を広めていきたい。まずは参加予定のインドネシアでの展示会で、認知の向上と現地視察を通して文化や人の考え方を理解し、現地企業との今後の関係構築に役立てたい。
(河合氏)会社として国内と海外の売上比率は4:1と依然国内がメイン。これを今後3:1、2:1まで高めていきたい。

河野氏は育成塾を通じて自社の品質・技術力の高さを強みと再認識し、顧客へのアプローチにも取り入れている。商習慣の異なる海外顧客との間でも顧客のゴールを理解することを重視し、社内との連携にも取り組んでいる。地場企業への拡大も目指し、今後も東南アジア・韓国への販路拡大に取り組んでいく。


注1:
SWOT分析とは、内部環境と外部環境の両面から自社の強み・弱み・機会・脅威の4つの要素を用いて分析するフレームワークで、自社を多角的かつ客観的に評価することが可能。
注2:
ポジショニングマップとは、自社と競合を比較し、市場において自社商材がどの立ち位置(ポジショニング)にいるのかを分かりやすく図解したもの。
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課 コーディネーター
近藤 早苗(こんどう さなえ)
2023年、ジェトロ入構。「中小企業海外ビジネス人材育成課」を担当。
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課
遠藤 万理佳(えんどう まりか)
2025年、ジェトロ入構。同年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課を経て2021年9月から現職。