海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」地元唐津の活性化目指し1年で商品開発から輸出を実現(佐賀県・Neika)

2025年12月8日

Neika合同会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(佐賀県唐津市)は、エステサロンの運営、化粧品の企画・販売を行う企業だ。代表社員の宮嶋志保氏が、2014年にエステサロン「Sun Fleur(現NEIKA SPA)」を開業。2024年、地元唐津市のジャパン・コスメティック・センター(JCC)と唐津コスメティックバレー(詳細は「ジェトロ対日投資報告2024」も参照)のサポートを得て自社ブランドの美容液「NEIKA THUYA SERUM」を開発。今年から輸出にも挑戦している。

宮嶋氏は2024年9月に海外ビジネス人材育成塾(以下、育成塾)に参加。その後商品開発から1年足らずでシンガポールへの輸出を実現した。宮嶋氏に育成塾での学びや、育成塾をとおしての変化、今後の課題や展望について聞いた。


宮嶋氏、新社屋の前で(ジェトロ撮影)

成長を求めて海外展開にチャレンジ、地元の資源を活用

質問:
海外展開にチャレンジしようと思ったきっかけは。
答え:
エステサロンの経営は順調だったが、事業をさらに成長させるために、新たな市場への挑戦を考えるようになった。漠然と海外を見てみたいという思いが募ってきたときに、福岡市の起業家育成プログラム「Global Challenge!STARTUP TEAM FUKUOKA」に応募しシリコンバレーの視察に行く機会を得た。シリコンバレー視察後は、このままでは世界に埋もれてしまうという自分自身への危機感をいだき、同時に唐津のような地方都市が抱える衰退と貧困の問題も意識するようになった。このことから自身の仕事を通じて地域に貢献したいという思いが強くなった。 その後、2023年にMBAを取得。かねてよりオリジナルブランドの化粧品を作りたいと考えていたことをJCCに相談。JCCから紹介を受けた地元唐津の化粧品メーカーに親身に対応いただき、2024年10月にオリジナル化粧品「NEIKA THUYA SERUM(ネイカ・ツヤ・セラム)」を発売できた。海外市場に挑戦したいという思いから開発した商品で、完成前から輸出に向けた検討を開始していた。具体的にはブランド名やパッケージのデザインを、海外展開を意識したものにした。パッケージには日本的な繊細さを残しながらも、海外で受け入れられるモダンで洗練されたデザインを採用し、同時に国際輸送にも適した形状とした。またブランド名は日本語でも英語でも中国語でも発音しやすく覚えやすいものにしようと考え、NEIKAにした。国際基準に準拠した成分表示にし、イラストなどを使って言語に依存しない使用方法表記を心掛けた。

オリジナル化粧品 NEIKA THUYA SERUM(Neika提供)
質問:
育成塾を受講しようと思ったきっかけは。
答え:
「NEIKA THUYA SERUM」の輸出の検討を始めたものの、何から取り組んでよいかわからない中で、漠然と海外市場に挑戦したいと考えていた。海外市場の視察には何度か行ったが、具体的にどうすればよいかわからず、地元のジェトロ佐賀に問い合わせたところ、育成塾というプログラムを紹介いただいた。化粧品展示会コースの募集があったので、まさにわらにもすがる思いで応募した。

徹底したシミュレーションと伴走支援が自信に

質問:
育成塾を受講して変化はあったか。
答え:
海外の市場のことや輸出を実現するために必要なことなど、全く見えていなかった。育成塾で商品のプレゼン資料を作成する中で、効果的な伝え方を考え商談練習を行うことができ、海外のバイヤーから成約を得るための流れを一から学べた。特に勉強になったと思うのは商談ロールプレイで、他の参加企業の商談を実際に見ることができて大変参考になった。さまざまな業界や企業の方とディスカッションし、フィードバックし合う中で、こういう伝え方もあると気づくことができた。実務では他社の商談を見る機会はないのでとても貴重な気づきを得られた。
育成塾で学び、これまでの自分の価値観をいったん壊して海外向けに新しく作り変えてもらえたと感じている。輸出の仕方、顧客の見つけ方、商談の仕方を学び、英語の資料も準備できた。育成塾で学ぶ前は明日商談と言われたらどうしたらよいかわからなかったが、今はいつどこで商談となっても自信を持って行うことができる。
例えば宇宙飛行士は、宇宙に行く前に地球上で徹底的にシミュレーションして宇宙で何が起こっても大丈夫という自信がつくまで訓練する。これにより実際に宇宙に行ったときに冷静に行動し問題にも対応できるのだと思う。育成塾での学びは、まさにこの宇宙飛行士の訓練のようなものと感じている。
国内向けの販売と海外向けの輸出で商品自体は同じだが、その魅力の伝え方は全く違ってくる。育成塾を通して訴求方法を考え、商談資料を作り、他の参加企業の意見を聞く中で、こういう風に言ったらもっと伝わるのではないかと試行錯誤した。そうすることで、海外バイヤーと商談するときにはこう伝えるのが効果的、ということが分かってきた。例えば、海外バイヤーは短期間で判断することが多いことから、プレゼンテーションの際は冒頭から興味を喚起するような構成にするようにしている。また、バイヤーからの質問に対してできる限りその場で回答できるよう、判断基準や提示する条件を準備しておくことが重要だと学んだ。
質問:
2024年9月期の育成塾展示会準備コースに参加されてから現在までの活動について教えてほしい。
答え:
育成塾前に商品化した自社ブランド化粧品「NEIKA THUYA SERUM」を、育成塾修了直後の10月10日に日本国内で発売できた。ちょうどその時期に育成塾修了者を対象としたフォローアップ研修のご案内をいただいた。フォローアップ研修は2025年2月のシンガポールでの展示会への合同出展と、それに向けた事前研修を含むもので、海外での実践の場を与えていただいたことは非常に大きかった。展示会準備コースの他の参加者の中にはすぐに展示会に参加される方もいたが、私は具体的な予定がなかったので、これにもわらにもすがる思いで申し込んだ。
フォローアップ研修の事前研修が始まった直後の2024年11月に香港の展示会コスモプロフを視察に行った。育成塾で一緒に学んだ方々が出展されているのを見てとても刺激になった。育成塾で学んだことに加えて、実際に海外の展示会を視察したことで、シンガポールの展示会の準備に生かすことができた。例えばサンプルやパンフレットを渡すときにロゴ入りの手提げ袋を準備することや、展示物の写真やキャッチコピーを工夫することなど、商品をよりアピールする手段を考える参考になった。使用前・使用後の写真や、数字でインパクトを持たせたキャッチコピーなどは特に効果があった。
質問:
フォローアップ研修で実際に展示会に出展したことからの学びは。
答え:
一言でいうと海に放り込まれたような感じだったが、しっかりと伴走してサポートしていただいていたので、楽しんで3日間の展示会をやり切ることができた。商談も10件以上行うことができた。さまざまなタイプのバイヤーと商談する機会を得て、多様な商談スタイルを経験できた。その中で良いディストリビューターとのご縁があり、現地での販路開拓につながっている。当社の商品の良さを一軒一軒伝えてくれている頼もしい存在だ。
質問:
化粧品の規制対応にはどのように取り組んだのか。
答え:
ジェトロのサポートが役にたった。まず輸出先国の化粧品輸入規制に関する基本情報の提供、専門家による手続きの確認などをしていただいた。製造面ではJCCのサポートがあったことに加え、唐津コスメティックバレーのメーカーが国際基準に準拠した生産体制を有していたことから、輸出に対応した製品を準備できた。実際に輸出する段階では、各種証明書の準備など輸入側での対応も必要となるが、ここでもジェトロのアドバイスに基づき、コスメティックバレーのメーカーにサポートしていただいた。シンガポールのディストリビューターも日本に拠点を有しておりスムーズに連携できた。
質問:
2024年9月の育成塾参加から、2025年2月のフォローアップ研修、そしてその後、2025年度6月期の育成塾プラスにも参加。一連の育成塾のプログラムを通して、自身にはどのような変化があったと考えるか。
答え:
一連の育成塾のプログラムは、例えると、初めて富士山に登るときに準備からしっかりと伴走していただいているようなものと感じる。つまずく前に危ないポイントを教えてもらい、つまずくポイントで杖を出してくれる。安心して経験を積むことで次につなげていける。例えば、商談の準備段階で、バイヤー目線での資料作成のポイントや効果的な英語表現を学べた。さらに、ロールプレイを行うことで自信にもつながった。また、想定質問も準備することで、本番の商談でも慌てることなく対応できた。最後に最も重要な学びは、展示会の後にできるだけ早いタイミングで商談相手に会いに行くこと。これを実行したことが、ビジネスにつながったと考える。

シンガポールの展示会で商談する宮嶋氏(ジェトロ撮影)

シンガポールで経験を積み、新たな市場を目指す

質問:
今後の展開は。
答え:
「NEIKA THUYA SERUM」に続く新製品の開発を進めている。この新製品は海外市場のニーズも踏まえながら開発を進めている。現地パートナーや日本のパートナーたちと協力して、この新製品の海外での販売を成功させたい。そして、パートナーと一緒に海外での取扱店を拡大し、一緒に成長していきたい。
着実に歩みを進めながら、次の目標も見据えている。次の目標は新たな市場へのチャレンジだ。そのための準備として、国際認証取得も視野に入れながら、生産工場と話を進めている。早期に新たな市場の視察も行いたい。
育成塾からフォローアップ研修、育成塾プラスまで、この1年間に多くの学びの機会をいただき、現在はハンズオン伴走支援を受けている。経験豊富なパートナーの方から毎月支援いただくことで、さらに高い目標を目指していけると感じている。いただいたチャンスを生かし、メイドイン唐津の化粧品の輸出事業を拡大することで、地元経済の活性化に貢献したいと考えている。

唐津コスメティックバレーの化粧品生産工場(ジェトロ撮影)

宮嶋氏の現場で見聞きする姿勢と、タイミングを逃さない機敏な行動力が、縁やチャンスをつかみ、小さな成功を積み重ねていくことにつながったのではないか。ジェトロの伴走型支援も利用しながら、唐津市が目指す化粧品産業輸出拠点のリーディングランナーとしての活躍が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課 コーディネーター
志摩 浩史(しま こうじ)
大手日用品メーカーで海外マーケティングや新規国・新市場開拓などを担当。複数の現地法人にも駐在。2023年、ジェトロ入構。