海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」 「手探り」の輸出を「手応え」に変える鍵は人材と商談準備(日本)
2026年2月16日
国内市場の人口減少や成熟化により、企業にとって従来の国内需要だけでは成長が難しい環境にある。そのため、海外市場の需要を取り込むことは、企業の持続的な成長や収益拡大において重要な戦略となっている。一方、大企業と比べて企業規模の小さい中小企業の海外展開においては、人材やノウハウ、資金力不足が障壁となることが多い。 本稿では、中小企業が抱える海外展開人材(注1)育成の課題、そしてジェトロが開講する中小企業海外ビジネス人材育成塾および育成塾プラス修了生の事例から海外展開成功へのヒントを紐解く。
中小企業の海外展開は競争力の源泉も、人材の確保・育成・定着が課題
中小企業の海外展開の状況と課題についてである。2024年度版中小企業白書(注2)によると、直接輸出や直接投資を行う中小企業の割合(2021年度)はそれぞれ21.0%、14.2%と、大企業の28.1%、32.0%に比べ低い水準にある。一方、海外展開を長期的に進める企業ほど、売上高・収益でプラスの影響を受けている傾向が確認されている。海外展開は単なる選択肢ではなく、成長戦略として有効であることが示されている。国内市場が縮小傾向にあることも鑑みると、中小企業にとっての必要戦略の1つとして海外需要取り込みの重要性が高まっている。
しかしながら、大企業と比較して人材・ノウハウ・資金力が限られるという構造的制約を抱える中小企業にとって、海外展開はたやすくない。ここでは、特に人材面の制約について述べていく。ジェトロが海外ビジネスに関心の高い日本企業に対して実施した「2025年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本本社に対する調査)」(注3)によると、本社および国内拠点における海外展開人材の人数的な確保状況について、中小企業(注4)の84.7%が「(一部・大幅に)不足している・確保していない」と回答。また、海外展開人材の能力や適性については、88.5%の中小企業が「不足している・期待水準を満たさない」と回答している。中でも中⼩企業、輸出企業では、「海外展開人材を確保できていない・していない」「海外展開人材の能力や適性が期待水準を満たさない」との回答が2割を超えている(図2)。
注1: nは無回答および国内企業(輸出・輸入・海外進出のいずれも行っていない企業)・分類不能企業を引いた企業数。
注2:「輸出企業」は、輸出を行っているが海外進出をしていない企業。
注3:本社および国内拠点が対象。
出所:「2025年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本本社に対する調査)」(ジェトロ)
注1:nは無回答および国内企業(輸出・輸入・海外進出のいずれも行っていない企業)・分類不能企業を引いた企業数。
注2:「輸出企業」は、輸出を行っているが海外進出をしていない企業。
注3:本社および国内拠点が対象。
出所:「2025年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本本社に対する調査)」(ジェトロ)
海外展開人材確保の課題については、主に能力不足・人材不足・効率性の3つが浮かび上がる(表)。特に中小企業は、海外専任担当者を置くことができない、また、海外事業はノウハウが個人に依存しやすい、といった課題がある。そのため、海外展開に必要な知識をバランスよく備えた人材の確保・育成・定着が求められる。
| 項目 | 課題 | 内容 |
|---|---|---|
| 能力不足 | 語学力(872社が記述) |
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| 知識(515社) |
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| 貿易・実務(約500社) |
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| 営業(83社) | 「語学力があっても、営業力がないなど苦戦中」 | |
| 人材不足 | 経験(293社) |
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| 希望(265社) |
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| 採用(74社) | 「人手不足による海外展開人材の採用活動の激化や新卒採用成功率の減少」 | |
| 効率性 | コスト・予算・人件費・資金・費用(約70社) |
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| 育成・教育(約60社) | 「若い社員の離職が多く育成が困難」 | |
| 時間(37社) | 「最初から水準を満たす人材を採用することが困難なため、OJT教育でゼロからノウハウを学ぶこととなるが、一定水準に達するまで相応の時間が年単位でかかる」 |
注:自由記述回答は回答意図を明確にするため、原文の趣旨を損なわない範囲で追加・編集などを加えている。
出所:2025年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本本社に対する調査)」(ジェトロ)
こちらの表は調査報告書掲載(3月頭公開)予定。
海外輸出の自走化を目指して伴走する育成塾
中小企業海外ビジネス人材育成塾は、人材不足やノウハウ不足といった課題を抱える中小企業を対象に、海外輸出自走化に向けて準備を行うことを目的としたジェトロの無料講座だ。海外展開戦略策定や商談資料の作成、商談ロールプレイを通じて、海外輸出に必要な基礎知識と商談に必要な準備を5日間の研修で実践的に学べるように構成されている。2019年度から開始した当研修は、既に1,300人を超える修了生を輩出している。参加者は中小企業の海外営業担当者から経営者までさまざまで、「過去にも輸出は行ってきたが独学で、体系的に商談について学んだことがない」「海外展示会の出展を控えており、事前に準備を整えたい」「社内に海外担当が1人しかおらず、相談できる人がいない」「海外展開をより拡大したい」などの理由から研修に参加している。
中小企業の海外展開において適切な知識を備えた人材の育成・定着が求められていることは先に述べたとおりだ。海外展開に必要なノウハウとして、語学や貿易実務の知識ももちろん求められるが、海外展開を成功に導くためには商談のノウハウも重要だ。実際に海外輸出に取り組む段階では、価格競争に巻き込まれやすいことや、商品に優位性があってもその価値や理由が十分に伝わらないといった課題に直面しやすい。このため、海外バイヤーとの商談に向けた準備の質が、海外展開の成否を左右する要因となる。育成塾および育成塾プラスでは、受講者が仲間と切磋琢磨しながら商談準備に取り組むことで、海外輸出を自社で継続的に推進できる「自走化」の実現を目指している。

中小企業の海外展開成功要因は、入念な事前調査による商談準備と行動力
育成塾、育成塾プラス修了生の具体的な取り組み事例については、本特集「海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く『海外市場へのチャレンジ』」および育成塾活用事例集(2024年3月公開)で取り上げている。これらの事例を踏まえると、中小企業の海外展開を成功させる商談準備のヒントとして、大きく以下の2点が浮かび上がる。
1点目は、バイヤーのニーズ把握や市場調査を入念に行いながら、自社の強みを明確にしていくことだ。育成塾を経て初の輸出を達成した健成園(本社:熊本県熊本市)は、受講を経て自社目線から顧客目線の商談に考え方を変えた。これによって、さらなる輸出機会につながったという。テストマーケティングなどの情報収集を通じ、現地の顧客、消費者の声を吸い上げて戦略に活かす同社の事例からは、事前の情報収集や顧客のニーズ把握の重要性が読み取れる(本特集「テスト販売で現地ニーズをつかみ初の輸出(熊本県・健成園)」参照)。
2点目は、支援機関のサービスも活用しながら商談の場数を踏み、仮説・検証を繰り返すことだ。Neika合同会社(本社:佐賀県唐津市)は、育成塾の受講から1年以内に、商品開発から輸出までを実現した。同社代表社員の宮嶋志保氏は、育成塾において商品の訴求方法や商談の進め方を学び、その後、育成塾のフォローアップ研修を活用して展示会に出展した。出展の前には、他の展示会を事前に視察したり、展示会後にはできるだけ早く商談相手を訪問したりするなど、機動的な行動を重ねたことが成果に繋がった(本特集「地元唐津の活性化目指し1年で商品開発から輸出を実現(佐賀県・Neika)参照)。また、羽二重豆腐(本社:石川県金沢市)は、海外展開に取り組むにあたりジェトロのセミナーや調査レポートで情報収集し、仮説を立てては商談会に参加。現地バイヤーの意見を聞いてまた仮説を立て、戦略を確立していった。オリジナルのソースを添えたがんもどきなど、固定概念を覆す同社の商品は、欧米各国でベジタリアン向けに人気を博している(ジェトロ活用事例「羽二重豆腐」参照)。
育成塾修了生の多くは、修了後すぐに商談の実践に踏み出している。修了生からは、「バイヤーへの商品の打ち出し方が商談成功の要因になった」との声も多く聞かれる。情報収集に基づいて海外バイヤーに対する訴求方法を徹底的に考え抜き、行動量を伴って実践することが、商談成功をつかむヒントの1つだ。
中小企業の海外展開にはさまざまな困難が立ちはだかる。しかし、これらの事例を踏まえると、海外展開を成功に導く要素として重要なのは、海外市場のニーズ把握や輸出実現に向けて考えて準備をし、動ける人材が社内にいるかどうかだといえるのではないだろうか。育成塾の意義は海外ビジネスの正解を伝えることではなく、不確実な海外市場に対して、自ら仮説を立て、検証し、改善する力を身に付けることだ。
海外展開は一部の大企業だけのものではなく、中小企業であっても人材育成や適切な支援を組み合わせることで十分に挑戦可能だ。本特集では、育成塾、育成塾プラス修了者のインタビューを基に、さまざまな工夫を重ねながら海外展開に取り組む中小企業の事例を紹介する。
- 注1:
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海外展開人材とは、貿易・海外進出などの海外展開に対応できる人材(日本人・外国人を含む)を指す。
- 注2:
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「2024年度版 中小企業白書 第8節海外展開
」による。 - 注3:
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本調査は、海外ビジネスに関心の高い、ジェトロのサービスを利用した日本企業9,647社を対象に2025年11月4日~12月3日に実施し、3,369社から回答を得た(有効回答率34.9%、回答企業の87.4%が中小企業)。プレスリリースも参照。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能。
- 注4:
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「2025年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(日本本社に対する調査)」における「中小企業」の定義は中小企業基本法に基づく。本調査結果における大項目の「大企業」には「中堅企業」を含めて集計した。中堅企業の定義は、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律(産協法)」に基づく。
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課
町田 早弥香(まちだ さやか) - 2024年、ジェトロ入構。同年4月から現職。






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