海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」テスト販売で現地ニーズをつかみ初の輸出(熊本県・健成園)
2025年12月8日
健成園
(熊本県熊本市)は、健康に配慮した、薬草・穀類のブレンドティー「健成茶」「善玉茶」などの健康茶を製造し、ECを中心に主に消費者に直接販売するメーカーだ。黒豆茶やルイボスティー、ティーバッグ型のテトラコーヒーなども扱い、健康茶専門店としてオーガニック、無添加にこだわった自社商品を開発する。自身の海外経験を活かし、さらなる事業成長に向けて輸出ビジネスの先頭に立つ営業部長濱田英佑氏に今後の展望について聞いた(取材日:10月8日)。同氏は、海外ビジネス人材育成塾(以下、育成塾)や育成塾プラス(輸出経験者を対象として海外バイヤーとの商談力強化を目的とするアドバンスコース)をきっかけに台湾市場展開を進めている。

- 質問:
- 育成塾受講前の海外ビジネスの状況と育成塾に参加したきっかけは。
- 答え:
- 元々輸出には興味があった。家業を継ぐために東京から戻ってきたタイミングで、留学経験を活かして輸出にチャレンジしようと思ったが、それまで輸出の経験はなく、何から手を付けていいかわからなかった。とにかく行動を起こすことが重要と考え情報収集していたところ育成塾に出会った。輸出は大企業が取り組むイメージで、中小企業が手を出せるのか疑問に思っていたが、育成塾は対象が中小企業であり、コンセプトも中小企業向け。開催地もお茶どころの静岡ということもあり応募した。ジェトロの存在は知っていたものの、どのようなサポートがあるのか理解していなかったし、地元のジェトロ熊本へも相談はしていなかった。育成塾がきっかけで、ジェトロ熊本との付き合いも始まり、現在はさまざまな支援をいただいている。
育成塾を通じて自信をつけ、台湾で受注を獲得
- 質問:
- 2023年6月期に参加された育成塾で学んだこと、得られたものは。
- 答え:
- 何も知らなかった中で全てが学び。目的・目標から計画を立案するという、全体像を理解した上で商談に臨む輸出商談の流れが理解できた。特に商談資料の準備、金額の設定の仕方などが参考になった。一緒に参加していた他社の中には当社より規模が大きく、取り組みが進んでいるところもあると感じたが、しっかり準備をすれば今からでも輸出に取り組めるという自信につながった。
- 質問:
- 育成塾受講後のビジネス成果は。
- 答え:
-
育成塾は2023年6月から9月まで、当時は約3カ月のプログラムだったが、修了後は地元のジェトロ熊本などに相談しながら準備を進め、2024年は海外の展示会への参加など積極的に行動した。2024年6月のFood Taipei
では100件近く商談し、うち成約を1件獲得した。当社の製品の中から現地で評判の良かった黒豆茶を輸出。その企業からは現在も1カ月に1回程度継続して受注している。現地の販売先は大手ではなく、小規模な健康志向の高い人向けの飲食料品店だ。
- 質問:
- Food Taipei参加直後に、育成塾のアドバンスコースである育成塾プラスにも参加されたが、育成塾プラスでの学び、気づきは。
- 答え:
- 2024年から輸出に向けた活動を本格化するにあたり商談力を高める目的で受講した。輸出の流れを理解していることを前提に、商談の成功率を上げることを目的とした内容と感じた。学びは情報収集の手段・重要性と、買い手の立場に立つことの大切さ。それまで参加した展示会、商談会では自社商品のアピールに終始していたが、今は相手のニーズを把握することを重視するようになった。例えば製品の質、納期、価格のどの点を重視するかを会話の中からくみ取り、会期後のフォローアップでもそれに合わせた連絡をしている。こうした工夫により返信率も高まったと感じている。育成塾プラスの外国人講師とのロールプレイも役立った。
バイヤー目線での商談の組み立てを意識
- 質問:
- 買い手の立場に立つコツは。
- 答え:
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育成塾プラスで、商談相手の分析に基づき策定する戦略(アカウントプラン)の作成や、それに基づく商談資料の改善とそれを使った外国人講師とのロールプレイを行った。エンドユーザーと、商談先の現地ディストリビューターや小売店といった顧客のことを考えて商談を組み立てることの重要性を学んだ。自分自身も原料となる茶葉を調達する立場であるため、自分が購入したくなるような営業を意識している。展示会での他の参加企業とのやり取りからも学ぶことは多い。AIが発達しても、商談は人と人とのやり取りが基本であり、機械的な紋切り型ではうまく行かないということを意識している。2025年3月のFoodex Japan
に参加し、現地大手小売店などに製品を卸している台湾と韓国のバイヤーと成約した。ルイボスティーの茶葉を直接貿易の形で輸出できるようになり、輸出事業を一歩先に進めることができた。
- 質問:
- 今後の取り組み予定は。
- 答え:
- 事業を拡大するには、今後はさらに輸出を大きくする必要があると考え、次のステップとして米国とシンガポールへの輸出を検討している。米国については食品医薬品局(FDA)への登録、認証取得が完了した。地元自治体の事業を活用して、現地でのテストマーケティングを実施する。シンガポールでも現地百貨店でテストマーケティングを実施した。
- 一方で課題は、まだ輸出の体制が整わないことと、供給力を増強しなければならないことだ。輸出については、現在の売上規模では専門の人材を雇えず、現状は一人で取り組んでいる。輸出ビジネスを軌道にのせる必要がある。
- 供給面では、国内需要の拡大に伴い生産が追い付いていない状況。2027年春に工場の拡張を予定しており、取り組みを加速させたい。そのために米国市場や、中東市場なども視野に入れて取り組む。今後、ハラル認証も取得しておきたいと考えている。
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台湾・シンガポールで人気の黒豆茶は下段中央(ジェトロ撮影)
テストマーケティングを活用し商品戦略を検討
- 質問:
- テストマーケティングにはどのように取り組んでいるのか。
- 答え:
- 台湾に続く輸出市場の拡大を検討していくために、現在シンガポールと米国でテストマーケティングを進めている。米国では現地の日本人が経営する小売店でテスト販売を実施する。越境ECで販売することも検討中。
- シンガポールでは現地日系百貨店の催事に出店して販売した。暑いので水出しのお茶を多めに持っていったが、結果は黒豆茶が一番売れた。対して、抹茶、緑茶は競合も多く難しいと感じた。所得が高いため商品価格を高く設定できる上に、通関コストが低く、利益がしっかりとれる点を魅力と感じている。
- 台湾でもテストマーケティングを通じて健康茶よりも黒豆茶の人気が高いと分かり、自社ブランド商品として黒豆茶を中心に輸出している。
- テストマーケティングの結果は展開する商品の検討やバイヤーへの説明に活用している。消費者から直接製品に対するコメントをもらうこともあり、その場合は可能な範囲で対応している。例えば、台湾でのテスト販売では小容量の方が好ましいとの意見をもらった。日本で人気の高い大容量の商品を調整し、容量を減らした小パックの商品を用意して販売している。
- 各市場での販売商品の検討にあたってテストマーケティングは非常に有効。自治体のサポートなどで、現地でテスト販売する機会があれば積極的に活用し、実際の現地のニーズ把握や販売戦略の策定に役立てている。
- 質問:
- 国内ビジネスと比べた際の海外ビジネスの難しさは。
- 答え:
- 輸出・輸入に関する手続きで多くの書類を準備しなければならない。成分表や品質検査など、バイヤーから求められる情報・書類が多く、それを調べて回答するには時間とコストがかかる。原産地証明書の取得なども初めてであり、自治体や商工会議所、フォワーダーに確認しながら対応している。ジェトロ熊本にもサポートしていただいている。
- 質問:
- これから輸出に取り組む企業へのアドバイスをお願いしたい。
- 答え:
- 事前の情報収集をしっかりと行うことと、一方で、とにかくまず行動してみることが重要だと感じる。輸出すると決めてからは、国内事業に取り組みながらも、できることからでも行動することを意識して、少しずつでも時間を割いて取り組んでいる。まだまだ輸出売り上げは小さいが、それでも当初考えていたよりも早く進んで、目標をひとつずつ前倒しで達成できている。
育成塾を経て初の輸出に取り組んだ健成園。自社目線から顧客目線に考え方を変えたことでさらなる輸出機会にもつながった。テストマーケティングなどの情報収集を通じ、現地の顧客、消費者の声を吸い上げて戦略に活かし、できることから行動する姿勢の重要性があらためて感じられた。

- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課 コーディネーター
志摩 浩史(しま こうじ) - 大手日用品メーカーで海外マーケティングや新規国・新市場開拓などを担当。複数の現地法人にも駐在。2023年、ジェトロ入構。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
山田恭之(やまだ よしゆき) - 2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課、ロンドン事務所を経て2025年8月から現職。




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