海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」意識変化で海外進出の扉開いた展示会体験(大阪府・BENEVOLENCE JP)
2025年12月18日
ベネボレンスジャパン(BENEVOLENCE JP、本社:大阪府大阪市)は、「日本の優れた製品を海外に紹介し販売していきたい」という思いから、2023年に代表取締役の栗田毅氏と八尾英莉奈氏が共同で設立した。美容サロン経営をしている八尾氏の周りには美容関連の情報や人が集まってくるが、その中で「海外にもアピールしたい」と思える魅力的な商品と出会い、化粧品の輸出に乗り出した。
知識・経験ゼロの状態からのチャレンジだったという2人は、ジェトロの「中小企業海外ビジネス人材育成塾(以下、育成塾)」2023年度9月期化粧品展示会準備コースに参加。その後、2024年度フォローアップ研修(注1)にて、シンガポールで開催された健康・美容製品の展示会「Beauty Asia 2025 Singapore(以下、Beauty Asia)」(2025年2月)に挑んだ。手探りでのスタートから、どのように輸出を実現していったのか、共同代表の2人に話を聞いた(取材日:10月7日)。

海外に販売したい商品があり、育成塾に参加
- 質問:
- 育成塾に参加したきっかけは。
- 答え:
- (栗田氏)輸出に取り組むにあたり、輸出したい商品は決まっていた。とにかくビジネスに繋げ、いいものを海外に出していきたいという思いから、まずは香港市場向けを念頭に日本香港協会や香港貿易発展局(HKTDC)へ相談したところ、ジェトロや展示会支援についての紹介を受けた。まずは、アジア最大級のコスメ展示会「COSMOPROF Asia Hong Kong 2023」(香港)のジャパンパビリオンに申し込み参加が決まったものの、展示会出展も初めてで手探りの状態だった。そのため、輸出商談初心者向けの研修である育成塾の案内を受け、すぐに申し込んだ。
- 質問:
- 育成塾で学んだこと、得られたものは。
- 答え:
- (栗田氏)輸出したい気持ちが先行していたため、育成塾応募時はビジネスモデルを十分に構築できていなかった。育成塾での研修を通して戦略、商流、プレゼンや交渉を一通り学んだ。グループワークでは、他の参加者の表現が参考になり、プレゼン資料の改善につながった。講師や他の参加者からのフィードバックも受け、自社の強みを再認識できた。研修参加前は製品をアピールすることばかりを考えていたが、アピールするにも戦略が必要なことを知った。またSWOT分析(注2)などのマーケティング分析についても、商談資料作成前に行うということを知らなかった。分析を通して、市場の理解や規制の知識の重要性を学び、多角的に検討できるようになった。受講していなければ輸出に至るまで遠回りになっていただろう。
停滞期からの脱却 急速な巻き返し
- 質問:
- 育成塾受講後のビジネス状況は。
- 答え:
- (栗田氏)展示会では商談機会があったが、当時は海外商談経験に乏しく、先を急ぎ過ぎて交渉相手側の値段・条件の要求に対して、自社からのオファーを思うように出せなかった。最終的に折り合いがつかずビジネスは成立しなかった。数字的な成果は出せなかったが、知識習得、資料のブラッシュアップ、英文資料の準備などの経験は得られた。失敗から得る知識や経験により、成長できている実感があった。苦戦しながらもチャレンジし続け、海外を見据えたプラン、ブランド戦略に取り組めるようになった。育成塾修了から1年程度、成約実績は出なかったが、それでも商談のコツ、積極的にコンタクトする姿勢、貿易実務の知識などの点で自信がついた。その後、フォローアップ研修の案内があったので、シンガポールで開催された展示会「Beauty Asia」に参加した。
- 質問:
- フォローアップ研修実践3日間の展示会期間では、栗田代表取締役が日を追うごとに自信をつけ、変化していた。初日と最終日では表情、立ち居振る舞いまでが違っていたが、何か変化があったのか。
- 答え:
- (栗田氏)初日は成果なく終わり、夜に宿泊先に戻り「初日が終わってしまった。残り2日しかない」と危機感を覚えた。八尾氏が不参加だったことから、これまでの展示会のようにヘルプはなく、全て自分の責任というプレッシャーがあった。他の育成塾のメンバーがアグレッシブに燃えていたことが思い出され、「このままではこれまでと同じ。自分の中で折れたくない。負けたくない」と思った。必ず成功すると自分に言い聞かせた。
- 質問:
- 具体的に変更・工夫したこととは。
- 答え:
- (栗田氏)3つある。1つ目は「目的の切り替え」だ。これまでの「見てもらう」こと=ブースを整えることから、「来場者を捕まえる」こと=話す機会を作ることに意識を変化させた。2つ目は、来場者の反応を観察し即時に改善することだ。立ち止まる位置や興味を持つタイミング、「刺さる」説明の順番などを逐一メモし、反応が良いパターンをその場で次々と実践した。3つ目は、自身が「展示会モード」に入ることである。初日の反省から積極的に声をかける覚悟が決まり、笑顔を絶やさず、明るい声で来場者に話しかけることを意識した。この結果、ブースを通りかかるほとんどの来場者が立ち止まるようになり、息つく間もないほど対応に追われるようになった。納得のできる結果で展示会を終えることができた。
-

フォローアップ研修で参加した展示会で、来場者対応する栗田氏(ジェトロ撮影)
輸出を開始、来年はイタリア展示会への出展も検討
- 質問:
- フォローアップ研修終了後のビジネス成果は。
- 答え:
- (栗田氏)シンガポールは既に2社と契約し輸出が始まっている。そのうち1社とはマレーシアでの展開や、来年イタリアの展示会への共同出展も検討中だ。
- 質問:
- フォローアップ研修への参加を通して学んだこと、気付いたことは。
- 答え:
- (栗田氏)一番は、タイミングを逃さず見込み客に直接訪問することの重要性だ。ジェトロから、フォローアップ研修の最後に「展示会期間中に商談し、見込みのある企業には1カ月以内に訪問した方がよい」というアドバイスを受け、実際にシンガポールの商談先を訪問した。もしオンラインで済ませていたら以前と同じ結果だったかもしれない。2番目は、現地に行って市場調査をすることで、対象地域に合わせた宣伝方法、利便性、生活習慣など、現地の生の情報を考慮することが大事だと感じた。
- (八尾氏)商談後のフォローアップの大切さをあらためて感じた。相手をしっかり見て一緒に仕事をしたい人か見極め、取引先ターゲットを絞ること。香港の時はとにかく実績を作るために焦ってしまい、信頼できる相手なのかを重視しなかった。最初は化粧品の輸出は香港しか見ていなかったが、香港以外にも有望市場があることに気づいた。ベトナムはこれから発展していく市場なので、美容・健康事業者向けの画期的な新製品を広げていきたい。
- 質問:
- 今後の海外ビジネスにおける課題は?
- 答え:
- (栗田氏)当社は卸業なので、輸出を継続、拡大していくために製品・取扱いブランドを増やしていきたい。それに伴って、貿易知識があり海外営業もできる人材の確保も検討したい。
今後は魅力的な日本酒の輸出も計画
栗田氏、八尾氏の元には美容関連だけでなく、さまざまな情報や人々が集まってくるという。輸出を手掛けることで、国内でもさらに人脈が広がり、心強いパートナーも獲得できた。「美容・健康製品に限定せず、本当に良い製品を扱っていきたい。現在は、魅力的な日本酒の輸出を計画している。ブランディングを含めマーケティングに参画し、海外の方を引き付ける日本酒をこれから出していく予定」と語る。
知識・経験ゼロの状態から知識とスキルの習得、停滞期を乗り越えて成長し、輸出につなげた2人。試行錯誤、失敗も成長の糧として、今では「どのような商材でも対応できる」という自信をつけた。今後の飛躍に注目していきたい。
- 注1:
- 2024年度フォローアップ研修は、シンガポールで開催された健康・美容製品の展示会「Beauty Asia 2025 Singapore」(2025年2月)に、育成塾での学びを実践する場として育成塾修了者10社10人がグループ出展形式で参加。展示会場ブースに立てるのは、各社育成塾修了者1人のみ。オンライン講義と現地プログラム(現地市場調査・展示会参加)の2部構成で、2024年10月から2025年3月に実施した。
- 注2:
- SWOT分析とは、内部環境と外部環境の両面から自社の強み・弱み・機会・脅威の4つの要素を用いて分析するフレームワークで、自社を多角的かつ客観的に評価することが可能。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課 コーディネーター
近藤 早苗(こんどう さなえ) - 2023年、ジェトロ入構。「中小企業海外ビジネス人材育成課」を担当。




閉じる






