海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」ワインを通じて村の魅力を世界へ(長野県・信州たかやまワイナリー)
2026年1月28日
株式会社信州たかやまワイナリー
(長野県上高井郡高山村)は、2016年に設立された地域密着型のワイナリーだ。高山村はワインブドウ栽培に適した環境に恵まれ、標高差400メートル以上の中に点在する畑で1996 年から村ぐるみで醸造用ブドウの栽培に取り組んできた。信州たかやまワイナリーは、自分たちのワインを造りたいという村内のブドウ栽培者が集まって設立された、村のワイナリー。毎年栽培者たちと作柄を吟味しつつ収穫タイミングを決める。村中から運ばれてきたブドウを新鮮なまますぐに仕込み、醸造、販売を一貫して行う。クリーンでバランスよく、突出した香りや味を抑えた同社のワインは、和食にも寄り添う味わいが特徴だ。
2023年より間接輸出が始まったという同社。引き合いがあったアジアから開始した輸出であったが、「アジア以外にも広げ、最終的にはロンドン向けの輸出実現を目指して取り組みたい」という考えのもと2024年11月にジェトロ海外ビジネス人材育成塾(以下、育成塾)に参加。海外展開を目指したきっかけや育成塾受講前後の取り組みについて、醸造責任者で取締役の鷹野永一氏と海外事業担当のカレム久実氏に聞いた(取材日:2025年11月26日)。

海外への輸出は「遠い将来の話」だと思っていた
- 質問:
- 育成塾受講前の海外ビジネスの状況は。
- 答え:
- (鷹野氏)「ワインを造っている以上、最終的には英国へ」という思いは、ワインを造り始めた当初から持ち続けていた。ロンドンには、マーケットに影響力を持つ「マスター・オブ・ワイン協会」が本拠地を置く。「お酒の価値はロンドンで決まる」という先輩からの教えが、ロンドンを意識し始めたきっかけ。ただ、いきなりロンドン市場へ挑むのではなく、段取りや道筋が必要だと考えていた。
- 他方、カレム氏が入社する前の1年半前まで継続的な輸出は遠い将来の話と考えていた。海外経験豊富な同氏の存在は海外展開を進める1つの契機となった。
- (カレム氏)2023年に、国内で取引のあった酒類卸から声掛けを受けたことが海外輸出を始めたきっかけ。最初の輸出先は韓国、その後シンガポールへの展開が広がった。いずれも間接輸出という形ではあるが、現在も継続的に取引が続いている。
- 質問:
- 育成塾を受講したきっかけは。
- 答え:
- (カレム氏)長野県主催のオンライン輸出セミナーに参加した際、ジェトロ長野から育成塾の紹介を受けたことをきっかけに、受講を決意。海外での居住経験から和食人気の高まりや日本のお酒の広がり、輸出のポテンシャルは強く感じていた。しかし、育成塾受講前に具体的に輸出ビジネスについて学んだ経験はなかった。ワイン輸出の本格化に向けたビジネスの勉強をするため、受講することを決めた。
講師の「いい商品が売れるのではなく、売れる商品がいい」という言葉が印象に残った
- 質問:
- 育成塾で学んだことや得られたものは。
- 答え:
- (カレム氏)日本語・英語の輸出商談資料を完成させられたこと、また、商談資料を作成するプロセスを学べたことがよかった。育成塾受講前は会社としてまとまった商談資料を持ち合わせていなかったが、育成塾で商談資料を作成したことで、海外のみならず国内でもさまざまな面で活用できている。
- 商談資料作成のプロセスとして良かった点は大きく2つ。まず1つは、ターゲットとする国を絞り、その国の中でどういったターゲット層に対してアプローチするのかを具体的に検討できたこと。2つ目に、生産ストーリーや高山村だからこその美しい景色など、詰め込みたい素材を資料に落とし込むことができたこと。そうして作り上げた商談資料は、商品や会社の背景、アピールポイントが全て書かれているマスターコピーとなり、カタログよりも効果的に活用できると感じている。
- 「いい商品が売れるのではない。売れる商品がいいのである」という育成塾での講師の言葉も印象に残っている。いい商品だからといって売れるわけではない。売れるところに持っていき、相手が欲しいと思う情報とともに紹介していくことが大事だと気付くことができた。さらに、ワインは絶対的なおいしさの基準があるわけではないからこそ、ストーリーによる付加価値付けや、ファン作りが重要だと考えるようになった。
- 質問:
- 育成塾を受講して変化したことは。
- 答え:
- (鷹野氏)育成塾の受講によって自社の強みの再構築ができた。これまでは造り手視点で商品の特徴などを整理していたが、第三者の視点が加わったことで、より整理ができたと感じる。
- 顧客視点を持つことにより、ワインの味わいマップのような、顧客とのコミュニケーションを助けるツールの構築もできている。これまで、そうした情報は不要だと思っていたが、実際に活用してみると、お客様がそれを参考にする場面を頻繁に目の当たりにするようになった。お客様はシンプルで分かりやすい情報に反応するという気付きは、1つの学びとなった。
- (カレム氏)育成塾で行った自社製品のポジショニング整理も、自社の立ち位置の理解に大きく役立ったと感じている。
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カレム氏が作成したワインの味わいマップ(信州たかやまワイナリー提供) - 質問:
- 育成塾受講後のビジネス成果は。
- 答え:
- (カレム氏)フランスとシンガポールへ展開している。フランスは、テイスティングイベントで現地インポーターからシャルドネを高く評価いただいたことをきっかけに、2025年2月より輸出を実現。シンガポールでは、長野県の地銀が設立した地域商社の支援を受けて、現地のSake Matsuriに出品するなどのプロモーションを実施。消費者向けのイベントで、現地消費者から好評を得た。
- そのほか、今年(2025年)初めて国際コンクール(英国)にも挑戦し、複数の銘柄が入賞を果たした。「輸出を目指す上では認証や受賞情報が重要になる」と育成塾で繰り返し強調されたことで、それまでは会社として積極的ではなかった海外コンクールへの応募を決断した。今後も補助金を活用しつつ継続的にエントリーを目指す予定でいる。
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シャルドネと高山村の紅葉(信州たかやまワイナリー提供) - 質問:
- 育成塾参加後の活動内容は。
- 答え:
- (カレム氏)育成塾修了から1年弱経過した2025年9月より、ジェトロの農林水産・食品分野の輸出専門家(プロモーター)による個別支援サービスを活用している。英国への輸出に向けて段階を踏んでいく目的で、初年度は既出のシンガポール(東南アジアのトレンドセッター)、そして新しいものも躊躇(ちゅうちょ)なく受け入れやすいといわれる米国をターゲット国とした。
- 育成塾で作成した商談資料は、現在進行形でブラッシュアップを続けている。育成塾講師より「生産地のアピールよりもまずは商品の内容を先に持ってきた方が良い」というフィードバックを受けたことをきっかけに、プレゼンの順番を入れ替えた。また、フランス訪問時に現地でのワイン紹介の実態を見て得られた気付きから、高山村のテロワール(注1)のより詳細な情報を加えるなど、改善を重ねてきた。そのほか、自社ウェブサイトの英語化準備や 、2カ国語でのSNS発信など、各種プロモーションに取り組んでいる。しかし一番効果的であるのは、バイヤーが日本を訪れる機会や海外輸出を行う卸業者との商談会の機会を捉え、実際に試飲してもらうことだと感じており、これから機会があるごとに積極的に申し込んでいきたいと考えている。
地域に根差すワイナリーとして、世界に羽ばたく
- 質問:
- 育成塾受講後の目標や課題は。
- 答え:
- (鷹野氏)現状の海外輸出は、できることから着実に進めていくタイミング。自社での海外展示会出展は、費用や規模の面からなかなかハードルが高いが、露出していくことの必要性は感じている。海外輸出に向けて動き出した今こそ、積極的に情報収集してチャンスを捉えていきたい。日本酒に関しては、各国で数多くのプロモーションイベントが開催されているが、日本ワインについても展開機会が拡大することを期待している。シンガポールで商品を出品してもらったSake Matsuriでも、「日本のワイン」はまだ珍しく現地では驚きの反応があったとのフィードバックを受けている。
- 引き合い経由ではなく、自社から商談をして売り込んでいく輸出はまだ成し遂げられていないため、そこに向けてとにかく行動していきたい。場数を踏む中で、資料や話し方などをブラッシュアップしていきたい。
- 質問:
- 高山村のワイナリーだからこその魅力とは何か。
- 答え:
- (鷹野氏)高山村はユネスコエコパークに認定されている自然環境の豊かな地域。また、サステナビリティへの取り組みにも意欲的であり、醸造から出る廃棄物も全て村内で循環させている(注2)。そうした生産背景や環境も、アピールポイントとして主張していきたい。現在、高山村には計7軒のワイナリーがあり、1年に1軒のペースでその数が増えてきたことになる。小さくても高品質なワインを生産するワイナリーが点在する地域で、ワインに限らず、ポテンシャルの高い地域の食のコンテンツは多く存在すると認識している。地域の課題を挙げるなら、そうした地域の魅力に付加価値をつけてPRする地域総合商社的な主体がまだ確立されていないこと。当社のワイン造りを通して、海外にその魅力を発信していきたい。

カレム氏が育成塾で作成した商談資料には、ワインの魅力、そして高山村の魅力が詰め込まれている。海外展開には課題も多いが、自社のアピールポイントを見極めること、そしてそれを武器に行動し場数を増やしていくことは、成功への鍵となる。地域に根差したワイナリーとしての今後の海外展開に期待したい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課
町田 早弥香(まちだ さやか) - 2024年、ジェトロ入構。同年4月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課
遠藤 万理佳(えんどう まりか) - 2025年、ジェトロ入構。同年4月から現職。




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