海外ビジネス人材育成塾・育成塾プラス修了者に聞く「海外市場へのチャレンジ」育成塾で学んだ即応力を海外展示会で実践(大阪府・大阪エース)

2025年12月8日

大阪エース(大阪府摂津市)は、1978年に木工家具製造で創業し、現在は石鹼をメインにコスメ商品の製造販売、化粧品OEMなどのコスメティック事業を主軸としている。取締役の相田かおり氏は、10代の頃、ニキビでひどい肌荒れに悩んでいた時に、母親の手作り石鹼を使用したところ肌がみるみる回復していった。現在のシミ1つない肌からは想像できないが、「本当にひどい状態だった」という。相田氏の肌の回復ぶりから母親の石鹼が周囲で話題になり、ビジネスに発展させてきた。

国内営業の延長で、輸出に取り組むことになったという同社。2024年9月に海外ビジネス人材育成塾(以下、育成塾)の展示会準備コースに参加し、2024年度フォローアップ研修(注)の一環として、2025年2月にシンガポールで開催された健康・美容製品の展示会「ビューティーアジア2025」に出展した。海外取引に至った経緯とその後の取り組みについて海外事業担当で取締役の相田氏に聞いた(取材日:10月8日)。


相田かおり取締役(大阪エース提供)

海外からの引き合い、国内商談との違いを認識しジェトロ支援を活用

質問:
育成塾受講前の海外ビジネスの状況は。
答え:
海外取引のきっかけは2017年に出展した国内の展示会だった。展示会に来場した外国人バイヤーから引き合いを受け、香港、台湾、米国の候補先と輸出に向け商談を開始した。当時は輸出に興味はあったものの、積極的な取り組みは行っておらず、輸出に関するノウハウは不足していた。国内取引と同様の対応を試みたが、海外とのやり取りを重ねる中で、輸出ビジネスに関する知識不足や外部サポートの必要性を認識し、ジェトロのサービスを利用するに至った。具体的には、「新輸出大国コンソーシアム」における専門家のハンズオン支援を受けながら商談に臨んだ。商談を重ね、海外とのネットワークを持つことで、日本国内の取引先からも海外案件の紹介を受けるようになった。
質問:
育成塾受講のきっかけは。
答え:
当時は海外ビジネスの経験がなく、商談や打ち合わせは我流で対応していた。国内取引と海外取引の違いも十分に理解できておらず、ハンズオン支援で丁寧に教えてもらっても内容を完全に消化しきれない部分があった。こうした状況から、海外取引を継続するためには海外ビジネスの基礎知識の習得が不可欠と考えるようになり、ジェトロの担当者から育成塾の案内を受けて応募した。
質問:
育成塾で学んだこと、得られたものは。
答え:
ハンズオン支援と並行して育成塾を受講したことは、非常に効率的だった。育成塾のワークで実施した市場分析やSWOT分析は、ハンズオン支援でもアドバイスを受けていたが、当初は理解が不十分な部分もあった。育成塾で学びと実践、ハンズオン支援で答え合わせとして助言を受けることで、理解が深まった。また、育成塾ではグループワークを通じた学びが大きかった。他の参加者からのコメントを受けるだけではなく、自らが他のメンバーにコメントすることで、自分の考えを整理する良い機会になった。
質問:
育成塾を受講して変化したことや心掛けていることは。
答え:
商談や展示会に臨む際、事前準備に時間をかけるようになった。受講前の国内展示会では、価格などの情報を「後で連絡」という対応をしていた。海外ビジネスではその場で回答することが求められる。価格表、取引条件は当然として、それ以外にも質問が出やすいポイントなど、「ビジネスはその場で答えられないと、次は無い」と教わった。現在は、可能な限り即答できるように、事前に準備できるものは準備するようにしている。

研修で出展した初の海外展示会、迅速なフォローアップが成果に繋がる

質問:
フォローアップ研修への参加を通して学んだこと、気付いたことは。
答え:
出展では多くを学ぶことができ、初の海外展示会出展を楽しむことができた。1社につき1人がフォローアップ研修の参加条件。出展準備も正しいか不安だったが、展示会自体が小規模であったことから、来場者にじっくり話を聞いてもらうことができ、現地関係者とのコミュニケーションを通じて有益な情報収集ができた。展示会期中も研修の時間が設けられ、開場前の30分間、前日の活動内容や成果、気付きや工夫した点、当日の目標をグループ出展メンバー全員が共有することで、10人分の情報や体験を得られる感覚があった。座学での学びと現場の実体験を組み合わせることで、自分の中への落とし込みができた。

展示会場での来場者対応の様子(ジェトロ撮影)
質問:
育成塾・フォローアップ研修の参加で向上したスキルは。
答え:
スピード感。海外企業との商談では、質問の回答はその場で行うのが基本。国内取引とは異なり、海外取引ではスピードが大切となる。言葉で「スピードが大事」といっても、どの程度早いのか、現地の展示会での実践で理解でき、海外の商談において重要なスキルになると実感した。展示会場では、見込みがあれば(1)その場で一緒に写真を撮る、(2)WhatsApp(チャットアプリ)での連絡先交換、(3)お礼メッセージとともに写真送付の3ステップをその場で実行した。その甲斐あって、展示会で写真を送った相手の中で、シンガポールから日本に訪問してくれたバイヤーもいた。写真を送ったので、自分でも相手を思い出すことができた。
質問:
フォローアップ研修終了後のビジネス成果は。
答え:
直接コンタクトした企業以外にも、フォローアップ研修でのつながりをきっかけに紹介を受けたベトナム企業とは、現在OEMでの取引に向けて協議を進めている。この企業は、本業である鉄鋼業に加え社員の家族(女性)が働ける場を作りたいという思いから、現地でコスメ製品やサプリメントの販売をしている。女性経営者同士、共感できる点が多く、最初はお互いに相手を探りながら商談を進めたが、訪問を受けて直接対話を重ねる中で意気投合した。
質問:
研修を通じて得たものは。
答え:
ビジネスネットワークと海外展示会の出展経験。フォローアップ研修では、現地市場調査から展示会終了までの4日間を他の出展社とともに過ごした。彼らとは現在も情報交換を継続している。展示会の経験は、出展そのものにとどまらず、展示会前の現地市場調査の重要性を理解する契機となった。現地調査で得たトレンド、嗜好(しこう)、価格、展示、POP、プロモーション方法などの情報をもとに、展示会での来場者対応を調整していく必要があることを実感した。今回の研修で海外の出展に対する不安は解消され、現在は次に出展する展示会を選定している。
質問:
今後の海外ビジネスについて、計画や成し遂げたい目標は。
答え:
これまでの輸出は国内商社を介した間接輸出が多く、取引量は限定的だったので、今後は直接取引で輸出ボリュームを増やしていきたい。現在進行中の案件で直接取引を実現したいと考えている。
質問:
これから輸出を目指す方へ一言。
答え:
海外ビジネスでは、取引相手もビジネスの中身も見定めが不可欠。国内取引では比較的リスクは低いが、海外では勢いをもって挑戦する一方で、見定めを同時にしていく必要がある。加えて、細部の確認を怠らないことも重要。こちらの感覚と相手の感覚が違うことも往々にしてあるので、合意事項は必ず文章で残しておくことを心掛けたい。国内ビジネスの感覚で対応すると、後にトラブルにつながる可能性がある。

海外対応を1人で担う相田氏は、国内展示会の出展から海外取引へつなげてきた。その様子は、力みがなく自然体で、商品コンセプトにも通じるように映る。しっかりとした軸を持ちながら、周囲の情報やアドバイスを上手く取り込み、ビジネスを成長させてきた。相田氏本人も経験した肌トラブル。石鹼作りに対する同社の思いは海外でも共感を呼び、「自社の思いを形にしてほしい」と海外企業からのOEM、ODMに対する問い合わせも多い。相田氏の海外ビジネスへの挑戦がさらに実を結ぶことを期待したい。


注:
2024年度フォローアップ研修は、シンガポールで開催された健康・美容製品の展示会「ビューティーアジア2025」(2025年2月)に、育成塾での学びを実践する場として育成塾修了者10社10人がグループ出展形式で参加。展示会場ブースに立てるのは各社育成塾修了者1名のみ。オンライン講義と現地プログラム(現地市場調査・展示会参加)の2部構成で2024年10月から2025年3月に実施した。
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部海外ビジネス人材育成課 コーディネーター
近藤 早苗(こんどう さなえ)
2023年、ジェトロ入構。「中小企業海外ビジネス人材育成課」を担当。