「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向EU、アフリカへのインフラ投資通じ、パートナーシップ強化
2025年7月3日
EUとアフリカ連合(AU)のパートナーシップは2025年、25周年の節目を迎える。欧州委員会は、質の高いインフラ投資「グローバル・ゲートウエー」パートナーシップを通じ、世界の国々との連携を強化する域外戦略を発表しており、うち半分に相当する額はアフリカ向けとしている。アフリカ大陸が有する豊富な太陽光、風力はEUの再生可能エネルギー(再エネ)やグリーン水素の製造パートナーとしても、重要性を増している。地政学的な緊張が高まる中、真に相互関係を尊重するパートナーシップを構築し、雇用の創出や、グローバル・サプライチェーンの強化、経済成長を実現しながら気候中立を達成できるか、EU側の対アフリカ政策を分析する。
アフリカとの首脳会議に先立ち、外相会合開催
EUとAUは2000年4月、エジプト・カイロで第1回首脳会議を開催した。以降、原則3年に1度開催し、2025年後半に第7回首脳会議を予定している。首脳会議に先駆けて5月21日には、ベルギー・ブリュッセルで第3回外相会合を開催した。欧州委のカヤ・カッラス副委員長兼EU外務・安全保障政策上級代表と、AU閣僚執行理事会のテテ・アントニオ・アンゴラ外相が主催し、マハムッド・アリ・ユスフAU委員会委員長も出席した。
外相会合では、第6回EU・AU首脳会議(2022年2月22日付ビジネス短信参照)で更新した「2030年に向けた共同ビジョン(245KB)」の進捗を確認した。更新したビジョンの実施に向け、平和・安全保障・ガバナンス、多国間主義、成長、市民・移民・移動の議題を中心に協議を行った。
EUにとってアフリカは最も近い地域で、地政学的な重要性が高い。同時に、EUはアフリカにとって、エネルギー、和平・安全保障、グリーンへの移行、貿易・投資、デジタルへの移行のいずれの分野でも重要と自負している。
貿易関係では、EUはアフリカにとって中国、インド、米国を抜く最大の輸出市場だ。EUにとってアフリカは4番目に大きい貿易相手国・地域だ。2023年の貿易額は4,672億ユーロ規模、うちモノの貿易が3,664億ユーロ、サービス貿易が1,008億ユーロだ。2023年時点のEUからアフリカへの直接投資額(ストック)は2,389億ユーロで、主な投資先分野は採掘、農食糧、公共、サービス分野だが、分野は年々多角化している。
EU、質の高いインフラ投資通じ、連携強化を目指す
欧州委は2021年12月1日、持続可能で質の高いインフラ投資によって人・モノ・サービスをつなげる「グローバル・ゲートウエー」パートナーシップを世界の国々と締結し、「依存」ではなく「連携」強化を目指すとした域外戦略を発表した(2021年12月3日付ビジネス短信参照)。投資規模は、2021~2027年で最大3,000億ユーロ、加盟国とその開発金融機関、欧州投資銀行(EIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)とともに、「チーム・ヨーロッパ・アプローチ」の体制で実施する。
2022年2月に開催された第6回EU・AU首脳会議で、この戦略の総動員額の半分に相当する1,500億ユーロをアフリカ向けの投資パッケージとして提供することを表明した(表参照)。対象は(1)持続可能なエネルギー、(2)環境、生物多様性、水・海洋、(3)農業食糧システム、(4)気候変動対策、災害リスク軽減対策、(5)デジタル、(6)輸送、(7)民間部門の開発、経済統合、(8)持続可能な財政、(9)科学技術・イノベーション、(10)ヘルスケア、(11)教育・技能の11分野だ。これまでに99のイニシアチブを実施し、うち18は地域レベル、77は2国間、残る4はグローバルだが、主にアフリカを対象としている。また、2023年から2025年にかけ、欧州委と加盟国は138の旗艦プロジェクトを実施している。
項目 | 内容 | 2030年目標 |
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グリーンへの移行 | クリーン水素の生産 | 電解層能力40ギガワット(GW、エネルギー多消費産業への支援貢献含む) |
再生可能エネルギー | 再エネ発電能力最低300GW追加 | |
生物多様性 | 6,500万人の生活改善、二酸化炭素(CO2)回収、300万平方キロの土地改良、水の強靭(きょうじん)化 | |
農業食糧システム | アフリカの農業、漁業、食の持続可能な開発支援 | |
気候変動・災害対策 | 気候変動対策、災害リスク軽減策支援 | |
デジタルへの移行 | AU-EU Digital4Development Hub(地中海ケーブルで北アフリカと接続など) | 信頼できるインターネットアクセスへの接続を実現 |
持続可能な成長、質の高い職の創出 | 輸送 | EUアフリカ間の複合一貫輸送の実現 |
ビジネス支援(起業直後、若手、女性) | 民間投資の促進 | |
経済統合 | アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)への技術支援強化(6億3,000万ユーロ追加)など | |
北アフリカ地域の経済統合 | グリーン・デジタル移行に向けた職業支援、民間部門の貢献拡大 | |
持続可能な鉱物原材料バリューチェーン | AfCFTA推進、アフリカの資源をグローバルバリューチェーンに接合 | |
科学技術・イノベーション | 研究開発設備、宇宙開発の強化 | |
ヘルスケア・医薬品 | ワクチン製造・アクセス支援 | ワクチンの普及率の改善、製造の拡大 |
教育・研修 | 若者の支援 | スキル向上の機会拡大 |
持続可能な財政枠組み | 若手起業家支援 | 二国間、民間投資呼び込み。リスク軽減のための助成金・融資 |
グローバル・グリーンボンド・イニシアチブ | 技術供与、民間投資の呼び込み | |
特別引出権(SDR) | 2022年10月14日、1億ユーロ規模の無償資金協力締結〔IMF, 貧困削減・信用成長(PRGT)〕 |
出所:欧州委員会
アフリカへの直接投資は全世界の投資フローの3%程度にとどまっており、投資可能なビジネス環境の整備や、過度なリスク評価の軽減が課題となっている。欧州委はこうした投資ギャップを埋め、リスクを軽減するため、「持続可能な開発のための欧州基金プラス(EFSD+)」を創設した。リスク分担策には最大400億ユーロ、加盟国が持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための支援として、最大1,350億ユーロの官民資金の動員を目指している。
このほか、EU初となる持続可能な投資円滑化協定(SIFA)をアンゴラと締結し、2024年9月1日に発効した。また、2025年3月13日、南アフリカ共和国(南ア)のケープタウンで開催されたEU南ア首脳会議では、クリーン貿易・投資パートナーシップにかかる交渉を開始することを発表した。投資、クリーンエネルギーへの移行、技能、技術、戦略的産業の開発を通じ、アフリカでの雇用促進を目指す。重要原材料に関しても、南アとの協業関係を検討すると言及した。欧州委は交渉を本格化すべく、「グローバル・ゲートウエー」のアフリカ向け投資パッケージの一環として、44億ユーロの融資と3億300万ユーロの無償資金を発表した。44億ユーロは南アの「公正な移行」を支援するプロジェクトに融資される。エネルギー分野のほか、港などの物理的なインフラとデジタルインフラの改善、ワクチンの製造、医薬品製造の向上なども含まれる。
再エネの強み通じたEUとの協業の可能性
グリーンへの移行策の1つとして挙げられているクリーン水素の生産について、オランダ・ロッテルダムで開催された「World Hydrogen 2025」のサミット(2025年6月5日付ビジネス短信参照)で、アルジェリアやナミビアの関係者が登壇し、自国の強み、EUとの関係強化について話をした。
アルジェリアからは、国営公社ソナトラック(2024年10月21日付ビジネス短信参照)の担当者が登壇し、「EU、アフリカの双方にとり、グリーン水素は必要で、需要を待っている。アルジェリアは太陽光に加え、風力もあり、再エネ資源が豊富だ。既存インフラの活用も可能で、EUの再エネ指令改正法で定められた非バイオ由来の再生可能燃料(RFNBO)比率(2025年6月6日付ビジネス短信参照)や、1,000万トンのグリーン水素の輸入目標に貢献できるパートナーだ」と話した。
ナミビアからは、大統領の経済顧問でナミビアグリーン水素プログラム(NGH2P)のトップのジェームス・ムニュペナ氏が登壇し、国家戦略に沿った事例などを紹介した。ナミビアは2022年に「グリーン水素・誘導体戦略」(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)を発表し、グリーン水素に加え、アンモニア、メタノールなどの生産計画も含んでいる。国内で生産したグリーン水素は、EU、日本、アジアなどへの輸出を計画しているが、再エネを含め、国内利用や近隣国への輸出も想定している。例えば、南アに輸出し、同国の鉄鋼、自動車産業での使用を視野に入れている。計画を遂行するに当たり、必要となる資金に関しては、各国と協力関係を構築している。ドイツとは2022年に共同意向表明書を発表し、4,000万ユーロの資金提供が決定した。このほか、重要なインフラとなる港に関しては、ベルギーのアントワープ港との協業も予定されている。
問われる真なるパートナーシップ
EU政策を専門とするベルギーのシンクタンクの欧州政策センター(EPC)は6月5日、ブリュッセルで経済安全保障に関するフォーラムを開催した。現在の地政学的状況の中、各国が自国の経済安全保障を確保しつつ、国際協力と自由貿易を存続させる方策を構想することを目的にしたものだ。欧州委のマレシュ・シェフチョビチ委員(通商・経済安全保障、EU機構関係・透明性担当)は、EUは重要セクターを域外に依存し過ぎており、特定の1カ国への依存は「武器化」されるリスクがあるため、供給の多角化、公正なルールに基づく取引を追求していくとした。同時に、EUは引き続き自由で公正な貿易を重視し、貿易協定の締結はパートナーの拡大や、雇用の創出、経済の成長をもたらすと、開かれた貿易の重要性を強調した。英国のジョナサン・レイノルズ・ビジネス・通商相は、英国のEU離脱(ブレグジット)後初のEU・英サミット(2025年6月4日付ビジネス短信参照)に言及し、自由貿易、法の順守、価値観を共有する仲間とともに協業していくとした。日本からは城内実経済安全保障担当内閣府特命担当大臣がオンライン参加で日本の経済安全保障戦略について説明し、欧州企業とともに重要原材料の調達の多角化の取り組み、インフラや先端技術など欧州企業との協業可能性について述べた。
アフリカの人的資源(HCA)会長のオビアゲリ・エゼクウエシリ元世界銀行副総裁は、現在の地政学的状況を受け、欧州はアフリカとようやく「偽善のない相互関係」を築くことが期待されると述べた。アフリカには多くのイノベーションが生まれており、アフリカの若者は欧州をはじめ世界中でビジネスパートナーを探している。一方の欧州は、アフリカを依然として開発支援国の対象として見ていると指摘した。
また、「偽善のない相互関係」は、「気候変動対策を名目に化石燃料への投資を引き揚げたにもかかわらず、ロシアによるウクライナ侵攻の有事を受け、アフリカに天然資源の供給を求めて駆け込むことでは構築されない。アフリカでワクチンの製造、ワクチンへのアクセスの支援を掲げたにもかかわらず、新型コロナウイルスが発生した際に、欧州向け輸出を優先することでも構築されない」と述べた。
さらに、アフリカの平均年齢は18.9歳で、54の市場がある。アフリカにとって欧州が大事であると同時に、欧州にとってもアフリカは重要なビジネスパートナーだと強調し、経済安全保障、自由な貿易関係は、言葉ではなく、真なる相互関係によってのみ構築されるとした。
EPCは、シンクタンクの役割の1つとして、欧州からの見方だけではなく、欧州がどう見られているかの観点の重要性を再認識したと述べた。EUとして、競争力強化と脱炭素の両立を目指し(2025年3月4日付ビジネス短信参照)、この分野を主導していくには、グローバルなパートナーシップは欠かせない。前回(第6回)のEU・AU首脳会議で更新したビジョンを実行に移すにあたり、アフリカと真のパートナーシップを築くことができるか注視される。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブリュッセル事務所 次長
薮中 愛子(やぶなか あいこ) - 2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・カイロ事務所、BOP班、国際博覧会課長(ドバイ万博日本館)などを経て、2023年3月から現職。