欧州委、「クリーン産業ディール」を発表、技術中立のアプローチを原則に

(EU)

ブリュッセル発

2025年03月04日

欧州委員会は2月26日、競争力強化と脱炭素を両立し、経済成長を目指す政策文書「クリーン産業ディール」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。2050年の気候中立目標はそのままに、技術中立の原則に基づき、急がれるエネルギー多消費産業への支援と、将来の競争力の核心となるクリーンテックへの支援に焦点を置いた。

成長と繁栄をもたらす欧州の産業エコシステムとして、(1)手頃なエネルギー、(2)クリーン市場の創出、(3)財政力(資金調達)、(4)循環型経済・重要原材料へのアクセス、(5)グローバル市場とパートナーシップ、(6)技能(人的資本)の6つの柱ごとに政策を打ち出した(添付資料表参照)。同時に競争力強化には、規制緩和・簡素化、単一市場の統合、デジタル化の加速、イノベーションの促進、質の高い仕事の促進、EUおよび加盟国間の政策の調整の水平的取り組みが必要とした。

同政策文書は、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が、就任100日後の公約(2024年9月2日付地域・分析レポート参照)として挙げていたもの。1月に発表された政策文書「競争力コンパス」の領域(2)脱炭素化と競争力の両立、領域(3)過剰な域外依存の軽減と安全保障の強化、で打ち出された政策(2025年2月6日記事参照)が展開された位置づけ。2024年2月の産業界、市民社会からの「アントワープ宣言(2024年2月22日記事参照)」の要請に応えたものとしており、新たに重要業績評価指標(KPI)も定められた。

課題となっているエネルギー価格を引き下げる各政策には、原子力を含めた技術中立の観点が繰り返し強調されている。電力購入契約(PPA)の長期契約を促進するため、欧州投資銀行(EIB)による保証などの具体的な事業案も含まれている。KPIには、電化率を現在の21.3%から2030年の32%にすること、再生可能エネルギー(再エネ)による発電能力を年100ギガワット(GW)にすることが定められた。

クリーンテックの市場創出には安全保障の観点も含まれており、公共・民間調達基準に持続可能性、強靭(きょうじん)性、EU域内での調達率など価格以外の評価基準の導入を提案した。また、クリーン製品・市場の需要を拡大すべく、産業製品へ任意の炭素強度(carbon intensity、CI)ラベルを提案。顧客への情報提供手段となり、製造者は脱炭素への取り組みにプレミアムを乗せられるとして、鉄鋼から開始を予定している。

今般の「循環」は、重要原材料へのアクセスに主眼が置かれており、共同調達や再利用市場の価値の創出などが含まれる。KPIには循環型材料の使用率を現在の11.8%から2030年までに24%にすると定められた。

脱炭素の達成には信頼できるパートナーシップが必要であり、サプライチェーンの多角化とともに、市場の競争をゆがめる過剰生産に対しては通商政策などで対応していくとした。炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関しては、適用対象を温室効果ガス(GHG)排出量の99%を占める輸入者に絞ることで、小規模事業者、産業、サプライチェーン全体の負担を軽減するとした。

(薮中愛子)

(EU)

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