英国ブレグジット後初のEU・英サミット開催、農産物貿易やETSでの市場統合強化へ

(EU、英国)

ブリュッセル発

2025年06月04日

英国のEU離脱(ブレグジット)後初となるEUと英国の首脳会談(サミット)が519日、ロンドンで開催された。欧州理事会(EU首脳会議)のアントニオ・コスタ常任議長と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が英国のキア・スターマー首相と会談した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。コスタ常任議長は、共同声明や安全保障・防衛パートナーシップ、共通認識に関する合意はEUと英国の新たな戦略的関係強化の始まりとして、成果を評価した(英国側の発表は2025年5月21日記事参照)。

欧州経済を専門とするブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルは526日、今回のサミットでのEU・英国の貿易関係の成果は想定より大きく、ドナルド・トランプ米大統領による一連の関税措置への対抗策などの外的環境も、関係強化を後押ししたと分析した。具体的には、優先順位の高かった農産物に関し、輸出衛生証明書(EHC)、植物衛生証明書などの要件を撤廃することは、手続きコストの削減や、EU域内経済への統合の深化となり、双方が相応に準備した結果だとした。英国にとって、EUは輸出の48%、輸入の54%(サービスを含めないモノの貿易、2024年)を占める重要貿易相手国・地域だ。EU統計局(ユーロスタット)によると、EUにとって英国は輸出の13.2%(2位)、輸入の6.7%(3位)を占めている(同)。

今後、医薬品や化学製品分野などに関する合意に関しては、EUの単一市場の利点のみを享受し、対応コストの負担や義務は果たさないフリーライドとならないよう、進めることができるか注視されるとした。

また、EUの排出量取引制度(EU ETS)と英国の同制度(UK ETS)をリンクし、2026年から本格適用が開始される予定のEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)との互換性を高めることは、今後、他国に対し、自国での炭素税導入やCBAMとの相互運用性、環境対策を促す良い事例になるとした。

このほか、安全保障・防衛分野での英国との協力関係の強化についても、安全保障・防衛パートナーシップに合意した。「欧州の安全保障行動(SAFE2025年3月21日記事参照)」の成立後、共同調達への英国企業の参加を通じたウクライナ支援の強化なども期待される。

今回のサミットはEU・英国の信頼関係を取り戻す重要な一歩となり、今後、サミットの定期開催や担当閣僚間の公式、非公式会合を通じた具体策の実施が注視される。 

(薮中愛子)

(EU、英国)

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