アフリカと日本の未来切り拓く、日系スタートアップの挑戦TBA、画期的な遺伝子検査法で感染症撲滅を目指す(アフリカ)

2025年6月4日

アフリカでは、気候条件や医療環境、保健教育の不足などから、世界3大感染症((1) HIV/AIDS、(2)結核、(3)マラリア)の感染者数が多い。世界保健機関(WHO)のデータによると、2023年にはHIV/AIDSの新規感染者数が約130万人、結核が約820万人、マラリアによる死者数が約60万人を超えた。

近年でも、エムポックスなど新たな感染症が急速に拡大するなど、常に感染症の脅威にさらされている。感染症の拡大を防ぐには、検査体制の拡充が必要だが、感染症流行の発生源がアフリカ奥地のことも多く、迅速な検査は容易でない。安価・簡便・正確な検査を現場で実施できる技術が切望されている。

TBA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、2013年創業の、仙台に拠点を構える東北大学発のスタートアップだ。どこでもだれでも、簡単に実施できる遺伝子検査法、STH(Single stranded Tag Hybridization)法を開発した。アフリカの地場医療メーカーと協力して新たな遺伝子検査キットをアフリカで製造し、感染症対策に役立てようと取り組んでいる。

TBAのアフリカ挑戦について、代表の川瀬三雄氏と清水崇光氏に聞いた(取材日:2025年4月15日)。


川瀬三雄代表(TBA提供)
質問:
御社の概要について。
答え:
STH法は、従来の遺伝子検査に必要な専門知識や技術、測定環境や整備がなくても、目視で簡単に結果を判定できる遺伝子検査法だ。感染症病原菌(含ウィルス)や食中毒菌の判定、食品・農産物品種の鑑定などに適用が可能だ。特にインフラ整備の遅れた発展途上国の医療現場での活用が期待されている。
当社事業の柱は、このSTH法で使用する目視判定試験紙(PAS=Printed Array Strip)の製造販売だ。そのC-PASを各種遺伝子検査キット用の基幹部材として検査キットメーカーに提供・販売している。
遺伝子検査を比較的安価かつ迅速に行える技術が強みだ。本来、遺伝子検査は難しい工程を要するが、当社の技術を使うとストリップを目視で確認し、PCR増殖器という機械を使うことで、小さなクリニックでも現場で対応可能になる。
図:STH-PASの検査方法
ステップ1では、「検査サンプルとSTH試薬を混ぜたもの」をPCRチューブにセットし、PCRを増幅させます。ステップ2では、ラテックス入り展開液と混合します。ステップ3では、パスを挿入し、クロマト展開させます。ステップ4で、目視判定します。検査結果(ステップ2からステップ4まで)は、15分です。

出所:TBAウェブサイト

質問:
なぜ、アフリカに取り組もうと思ったのか。
答え:
海外では、中国での取り組みが一番長い。現地メーカーと開発した呼吸器感染症の検査キットは現在、国家食品薬品監督管理総局(CFDA)の承認ラインに乗っている。CFDAの認可は難しく、時間を要す。それでも、2029年をめどに市場に流通できる見通しでいる。
そのほか、インドネシアでは、デング熱の検査キットが臨床試験に入ろうとしている。インドでも市場開拓に取り組み、各地の企業と交渉中だ。
アフリカでの市場開拓は、これら国々と比べると少し時間がかかると考えている。しかし、感染症が深刻なのは途上国で、その中でも最も対策の必要性が高いのがアフリカだ。当社の検査キットに対し、需要が一番大きいことはわかっていた。そんな中で、ジェトロがジャパンテック・アフリカチャレンジ(JTAC)事業を開始することを知り、実際に挑戦しようと考えた。
アフリカでは、感染症が深刻な社会問題になっている。医療や交通インフラが整っておらず、STH-PASが役立つだろうとは考えていたが、地理的に遠いことから、市場開拓を後回しにしてきた。アフリカの未来のためにも、当社の未来のためにも、アフリカ市場に挑戦したい。

GITEX Africaでの展示ブース(同社提供)
質問:
ここまで実際にアフリカに取り組んでみてどうか。
答え:
ジェトロの支援で2024年5月、モロッコでの展示会「GITEX Africa」に出展した。当該展示会で、アフリカ市場の可能性を感じた。同時に、さまざまな検査キットをつくっていくうえで、インフラが全体的にまだ整っていないとも受け止めた。
ただ、モロッコの様子を見る限り、5~10年後は状況が大きく変わってくると感じる。現時点で注力するASEANやインドは、今後高齢社会になっていく。近い将来、圧倒的に若いアフリカが有望市場になると考えている。そのため、今から現地にパートナーを開拓していきたいと考え、アフリカ各国の検査キットメーカーなど、パートナー候補と面談を重ねている。
質問:
アフリカ市場に取り組むには、どのような点が課題か。
答え:
一番の課題はロジスティックだ。先進国ではインフラが整っているため、遺伝子検査が事業として成り立ちやすい。しかし、途上国では難しい。(その途上国でも)圧倒的に需要があるのは農村地域ながら、人口が分散している。すなわち、拠点一つ一つでの検査数が少なくなる。キットの輸送費や、キットを知ってもらうための広告宣伝費などをどう処理していくかが、ビジネス上の課題になるだろう。
イムノクロマト法を用いた簡易検査キットが現在、アフリカで広がりつつある。分散市場にアプローチしていこうという企業が、このビジネスに取り組んでいる。当社も、こうしたマーケティングの基盤を持ち、ロジスティックにも精通した、現地メーカーに遺伝子検査に関心を持ってもらい、組んでいければと考えている。
また、アフリカではまだ、遺伝子検査が一般的でなく、知識も不足している。検査技師や遺伝子検査に知見を持った人を増やす必要があると思う。日本では、説明書を添えるだけで十分だ。しかし、アフリカでは遺伝子検査のトレーニングが必要だろう。需要が農村に分散するアフリカでは、特に現地農村のプライマリーセンターの検査技師に方法を教えるなど取り組みが必要になってくるだろう。
他方、現地大学の研究レベルは高いと感じる。現在、当社で付き合いのあるウガンダのマケレレ大学は、感染症検査に関して研究・知識が非常に高いレベルにあると感じた。そういった大学の活用は有効だろう。
質問:
アフリカへの意気込みは。
答え:
アフリカは、絶対に5~10年後は巨大な市場になっていると思う。感染症が危険という認識は広まってきた。新型コロナウイルスの経験で、さらに理解が深まっている。感染症は人がかかるもので、人口が増加すると市場が拡大する。ビジネスという意味でも、アフリカは避けて通れない地域と考えている。また、マケレレ大学の感染症の権威に当社のキットを送ったところ、「これはアフリカに向いている」と評価してくれた。
現在、アフリカでは、エムポックスが拡大している。(その兆候が現れると、しばしば)感染地域でサンプルを採取し、そのサンプルを検査可能な都市部に送り検査することになる。この場合、検査結果が出るまでに10日程度かかっているという。
感染拡大防止には、事象が発生したその場で検査することが非常に重要だ。当社のSTH-PASを使うと、地方エリアの末端医療現場で検査可能になる。我々はこの手法をアフリカの隅々にまで普及させ、感染症対策に貢献していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。