アフリカと日本の未来切り拓く、日系スタートアップの挑戦現地有力アクセラレーターに聞く、アフリカ市場での成功のカギ

2025年6月4日

アフリカ市場への参入には、為替や規制、政治的・経済的不安定さ、情報の不足など、依然としてさまざまな障壁があるが、日本を含む世界の企業がその成長可能性に期待を寄せている。 調査会社「アフリカ:ザ・ビッグディール」によると、2024年にアフリカのスタートアップ企業は約22億ドルの資金調達に成功しており、アフリカの「ビッグ4」と称されるケニア、ナイジェリア、エジプト、南アフリカ共和国(南ア)がその84%を占めた。アフリカは社会課題の宝庫だが、それを商機としたビジネスが生まれ、イノベーションの実験場として多くの企業を引きつけている。

パンゲア・アクセラレーター(Pangea Accelerator)代表のジョナス・テスフ(Jonas Tesfu)氏は、これまで200以上のアフリカのテック企業を支援してきた。ジェトロのジャパンテック・アフリカチャレンジ事業(JTAC)のメンターも務めたテスフ氏に、勢いを増すアフリカのスタートアップエコシステムと、日系スタートアップのアフリカ市場参入の可能性について、話を聞いた(取材日:2025年4月14日)。


パンゲア・アクセラレーター代表のテスフ氏(同社提供)
質問:
アフリカのスタートアップエコシステムの現状は。
答え:
アフリカでは、「ビッグ4」と呼ばれるケニア、ナイジェリア、エジプト、南アが新規ビジネスやユニコーン企業、投資誘致の数でリードしている。ナイジェリアと南アは、フィンテック分野が非常に発展しており、ユニコーン企業に成長する企業も多い。ケニアは特に農業と物流分野に強みがある。ケニアでも長年、フィンテック分野への投資が行われており、エコシステムが構築されているが、規模ではやや劣る。同国は多くの小規模ビジネスがあるが、ユニコーン企業に成長しないことが課題だ。ただ、近年はクリーンテック分野での成長が注目されている。エジプトは非常に興味深い。特にテクノロジー分野に強みがあり、多くのエジプト企業はアフリカ市場のみならず、中東市場、例えば、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などアラビア語圏でも事業を展開している。言語的、地理的な優位性があり、2つの市場から収益を得られるエジプトでは、モビリティー、フィンテック、教育、農業など、さまざまな分野の成功企業が生まれている。これらのエコシステム構築には民間の動きの方が活発で、まだ官の取り組みは十分ではない。ケニアでは政府機関のケニア・ナショナル・イノベーション機関(KeNIA)がケニアのイノベーション戦略に取り組んでおり、税政策や技術のアクセス、輸出入に関する規制など、イノベーションエコシステムの環境整備を行っている。また、賞金付きのピッチコンテストや、ケニア・イノベーション・ウイークといった、大統領が参加する大規模カンファレンスを実施し、ケニアの主要なイノベーションの紹介、コミュニティーの活性化を促している。しかし、これらは象徴的な意味合いが強く、実際の効果は少ない。官がもっと支援すべき分野は、資金へのアクセスだと考える。現在、スタートアップが銀行から出資を受けるケースは非常にまれだ。今後は政府がもっと銀行を巻き込んで投資を促進していく必要があると考える。私自身、KeNIAの諮問委員会に参画しており、実現に向けて動いているが、政府とこれを推し進めることは容易なことではないと感じている。
質問:
アフリカのスタートアップから見える成功の秘訣(ひけつ)は。
答え:
例として、ナイジェリアの企業を挙げたい。ナイジェリアは人口2億人以上で、非常に大きな市場を持っており、国内市場だけでも大きく成長することが可能だ。しかし、ナイジェリアの企業は成長と拡大のために、コラボレーションやパートナーシップ構築を重視している。例えば、Mooveというモビリティー企業は、UberやBoltのドライバーになりたい人たちに向けて、車両購入のための資金を貸し出すカーファイナンス事業で成功した。最初はナイジェリアで事業を始め、顧客を開拓していったが、次のステップとして、同社は事業拡大のためのパートナーシップ構築を図った。最終的にUberと手を組むことに成功し、ナイジェリア外にもサービスを広げることができるようになった。Uberドライバーになりたい人がMooveのようなサービスを利用して車を手に入れ、働きながら返済していくという「自営業モデル」を生み出したのだ。しかも、彼らの関係はウィンウィンだ。Uberにとっても、Mooveのようなパートナーがいることで、電気自動車(EV)への移行や、政策対応がしやすくなるというメリットがある。ナイジェリア企業が成功している理由は、このように、彼らが非常に野心的で、単独で成長しようとせず、協業を重視しているからだ。また、別の成功要因として、海外投資家やディアスポラ(海外在住ナイジェリア人)からの資金調達もあるだろう。ナイジェリアのディアスポラは、2023年にはナイジェリアに約210億ドルもの送金をしており、その多くがテック分野への投資に使われている。
質問:
JTAC事業でのメンタリングを通して感じた日本のスタートアップの強みと弱みは。
答え:
JTAC事業に採択された企業はいずれもとても活気があり、非常に前向きだ。製品やソリューションも技術的に優れている。特にPEEL Labのビジネスモデルが面白いと感じた(本特集「PEEL Lab、パイナップルの葉から植物性皮革を製造(アフリカ)」参照)。パイナップルの葉から作られる皮革を使った製品はどれも、人々に受け入れられやすい素晴らしい製品で、ケニアやアフリカで大きな潜在市場を持っているだろう。コンセプトが理解しやすく、価格が手頃なのも良い。一方で、販売やマーケティング、市場参入戦略に関しては、あまり得意ではない企業が多いという印象だ。製品が優れていても、市場に出さなければ何も起こらない。日系スタートアップには、その技術力の高さをもってアフリカ市場参入の可能性が大いにあると思うが、商業戦略についてより重要視して考える必要があるだろう。
質問:
日本のスタートアップがアフリカ市場に参入するための重要なポイントは。
答え:
アフリカ市場に参入するには、協業に前向きで、信頼できる現地パートナーを見つけ、長期的な目線で根気強く取り組むことが非常に重要だ。良いパートナーシップがあれば、参入は格段に容易になる。全てを自分たちでゼロから構築するのは非常に困難だ。私の意見としては、市場参入のための「場」が不足していると考える。もっとテストマーケティングの機会や信頼できるパートナーと出会える場が必要だ。そういった点で、JTAC事業のような取り組みや、現地のコネクションを持つアクセラレーターを上手に活用してほしいと思う。
質問:
アフリカ市場へ参入する日本のスタートアップ、企業に向けてメッセージは。
答え:
いまだにアフリカに対して「発展途上」「援助が必要」といったイメージを持っている企業が多い。しかし、これはもはや過去の話だ。例えば、米国国際開発庁(USAID)は既に多くの国で撤退しており、アフリカは今や「支援対象」ではなく、「ビジネスパートナー」としての位置づけに変わりつつある。日本では、アフリカが「貧困」「戦争」「動物」といったイメージで語られることが多く、ビジネスの目的地として語られることがほとんどない。しかし、アフリカは鉱物資源が豊富で、他のかたちでも豊かさを持っている。アフリカの年齢中央値は19歳、つまり、アフリカを一人の人間に例えるなら「19歳の若者」だ。未来の可能性を見て判断すべきで、過去の歴史だけで評価すべきではないだろう。現在、アフリカ諸国は米国との貿易で関税や政治的な不確実性に直面しており、米国市場への依存がリスクであることを認識し始めている。そのため、「アフリカ諸国同士で貿易をすれば、関税ゼロで1つの市場として機能できる」という考えが広がっている。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)のような取り組みは、アフリカにとって最優先事項であるべきで、地域内貿易やローカル貿易を大きく促進する可能性を秘めている。今後、アフリカ市場が「ケニア市場」「南ア市場」ではなく、「アフリカ市場」として統一的に認識されるようになれば、市場全体で4兆ドル規模となる。日本のスタートアップや企業にとっても、参入のハードルが大きく下がり、非常に魅力的な市場になるだろう。これが実現すると、真の意味での「アフリカの時代」が到来するかもしれない。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所
松野 はるな(まつの はるな)
2020年、ジェトロ入構。ビジネス展開人材支援部ビジネス展開支援課、新興国ビジネス開発課、ジェトロ愛媛を経て、2024年8月から現職。