アフリカと日本の未来切り拓く、日系スタートアップの挑戦PEEL Lab、パイナップルの葉から植物性皮革を製造(アフリカ)

2025年6月4日

アフリカは、コーヒーや紅茶、カカオやゴマなど、広大な土地と豊富な労働力を背景に、多くの農産物を生産している。一方で、これらの作物はほぼ全量が先進国に輸出される。輸出では国際価格に左右されるなどして、アフリカ諸国を豊かにするほどの付加価値を生み出していない。

PEEL Lab外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、大阪発で、現在は東京やタイのバンコク、ベトナムのホーチミンにも拠点を置くスタートアップ企業だ。廃棄されるパイナップルの葉から植物性の皮革を製造する技術を開発し、アフリカの農業にさらなる付加価値を生むビジネスを展開しようとしている。植物性の皮革で作られたカバンやランドセルは、2025年2月にナイロビで開催されたアフリカ・テックサミットでも、ひときわ多くの来場者の関心を集めた。最高経営責任者(CEO)のジム・ファン氏に、アフリカ市場への取り組みについて話を聞いた(取材日:2025年4月3日)。

質問:
御社の事業概要について。
答え:
PEEL LabはBtoBのグリーンテック企業で、通常は廃棄されるパイナップルの葉やバナナの茎から、環境にやさしい植物性の皮革を製造する技術を開発・提供している。顧客に対して、原材料としての皮革を製造・提供するほか、最終製品のバッグや財布など、顧客のニーズに応じたカスタマイズ製品も製造している。現在、皮革の原料はタイやベトナムなどの東南アジアから輸入している。また、皮革に加えて、パイナップル繊維を使用した皿やマグカップ、家庭用品も開発している。
2030年までに現在の皮革市場の1%を置き換えることを目標に掲げており、ミッションとして、食品廃棄物のアップサイクル(フードロス問題対策)や動物虐待の防止、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を掲げている。
質問:
なぜアフリカに取り組もうと思ったのか。
答え:
むしろ、なぜアフリカではないのか。アフリカは、パイナップルの葉やバナナの茎など、必要な原料を調達するのに世界で最も適したところだ。また、市場もとても大きく、常にイノベーションと新しい技術を求めている。この地でわれわれは価値を創造し、地元の農業やコミュニティー支援などで社会的インパクトを生むことができる。
現在、アフリカでパートナーやバイヤーを探している。パートナーとは、われわれの持つ製造機械を使って、パイナップルの葉やバナナの茎から繊維を取り出す事業を行おうとしている。その繊維が皮革の原料となる。バイヤーに対しては植物性の皮革を販売し、そのバイヤーを通じてバッグや靴、家具を作り、それらの製品をアフリカ域内や欧州に向けて輸出していきたい。
質問:
ここまで実際にアフリカに取り組んでみた感想は。
答え:
可能性を感じている。アフリカは良い市場だ。ただし、アフリカのようなフロンティア市場で成功するためには、常に柔軟でいなければならないし、アフリカの人たちに心を開いていく必要がある。予期できないことを予期しなければならないし、アフリカの人たちを信用しなければならない。また、その信用を確かなものにするために行動をとっていく必要がある。待っている時間やリソースを節約するためにも、行動していく必要がある。ジェトロや日本大使館のような政府機関の支援も、人々の信頼を得るためのスタートポイントになるから重要だ。
質問:
どのような点が課題と感じたか。
答え:
課題は数多くある。アフリカのような場所では常に資金が不足している。また、品質管理も、日本と同じレベルを期待してはいけない。課題を解決していくために、われわれは国内外のファイナンシャルパートナーや投資家を探している。プロジェクトをつくっていく上では、アフリカの地元と海外投資家の双方に魅力的であるよう心掛けている。
アフリカでビジネスをしていくには、常に柔軟であり続けることと、忍耐強くいることが必要だ。何事も一晩で解決するようなものではない。われわれは5年、10年先を見据えて長期的なビジネスをつくっていくことを目指しており、アフリカに対応していくことができると考えている。
質問:
最後に、アフリカへの意気込みは。
答え:
ビジネスを通じてインパクトを生みだしたい。われわれの成功談がアフリカに挑戦する日本人を増やすきっかけとなれるよう、また、多くのアフリカ人が日本に行ってビジネスができるよう、両地域の架け橋となっていきたい。日本の大学で学ぶモザンビークからの学生をインターンで採用した。もっと多くのアフリカの国々を訪問したいと考えている。

植物性皮革を使って製造したランドセルやゴルフバッグ(PEEL Lab提供)

執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。