アフリカと日本の未来切り拓く、日系スタートアップの挑戦SORA Technology、ドローンとAIで感染症対策や農業の生産性向上に貢献(アフリカ)
2025年6月4日
世界的な流行となった新型コロナウイルス感染症は落ち着きを取り戻したが、アフリカでは疾病や公衆衛生上の懸念が多く残っている。WHO(世界保健機関)によると、アフリカでは2022年に2億3,000万人以上がマラリアに感染し、58万人が亡くなったという。各国政府は対策として、ボウフラの発生源となる水源に殺虫剤を散布して発生を抑制しようと取り組むが、これは非常に人手とコストのかかる作業で、多くの国で効果的な対策が難しい状況だ。
このような中、愛知県に本社を置くSORA Technologyは、ドローンとAI(人工知能)を中核とした、感染症対策や農業の生産性向上などのサービスを提供する。同社のアフリカでの挑戦について、取締役の梅田昌季氏に話を聞いた(取材日:2025年4月3日)。

- 質問:
- 御社の概要は。
- 答え:
- 2020年6月設立のスタートアップだ。ドローンとAIを活用した環境モニタリングサービスを提供している。固定翼型のドローンとAIを活用した画像解析サービスに強みを持っており、公衆衛生分野と農業分野のビジネスをアフリカで進めている。
- 強みとして、ボウフラ(蚊の幼虫)の多い水たまりの濁りや水温などを、AI画像解析で検知できる技術に関する特許がある。そういう技術をどのように農業に活用していくか、というのは今後の1つの課題だ。また、独自のドローン機材の開発や、オペレーションやメンテナンスのローカライズを進めているという強みもある。
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同社のドローン(同社提供)
同社のドローンを飛ばす様子(同社提供)
ドローンで検知したボウフラが多い水たまりでの
駆除の様子(同社提供) - 質問:
- アフリカに取り組もうと思った理由は。
- 答え:
- 日本ではドローンの利用についての規制がある。また、日本では既にインフラが整備されているため、最先端のドローン技術は使いどころがないのが実情だ。
- 一方、アフリカは規制がまだ比較的柔軟で、物流や公衆衛生などドローンを活用できる社会課題も多い。規制の少ない国で速やかに運用を開始し、社会課題を解決しつつ、経験を積み、技術を開発できると考えた。将来は、リバースイノベーションとして日本でもサービスを展開していきたい。
- 質問:
- どのようにアフリカに展開しているか。
- 答え:
- もともとはドローン配送の分野でビジネス機会を探っており、セネガルやシエラレオネから始めたが、ラストマイルのお金がつきにくく、ビジネスとしてマネタイズすることが難しかった。 そこで、今はボウフラ駆除の取り組みに集中して、ガーナ、シエラレオネで展開している。
- 公衆衛生分野であれば、シエラレオネ、ベナン、ガーナではPoC(概念実証)の実績がある。その実績をもとにWHOなど国際機関からも関心を持ってもらい、事業を進められている。
- マラリア対策は政府相手のビジネス(BtoG)で時間がかかるが、覚書(MOU)などにより多国展開を進めている。およそ10カ国の研究機関や保健省などとMOUを締結している。積極的に展開を進めていきたい。
- 質問:
- ビジネスにあたっての課題と解決策は。
- 答え:
- マラリア対策は主にBtoG向け。保健省からお金をもらわなければならないため、財政上のサステイナビリティが担保されない。そういう中で農業分野に今、注力している。農業分野でも、現地政府の動きが遅いとか、BtoB(企業間取引)にしたとしてもうまく進まないなど、いろいろと課題があるが、ポテンシャルを感じている。ニッチなところでしっかりと進めつつ、まだブルーオーシャンのうちにきちんとアフリカに入り込んでいきたい。アフリカの成長とともに弊社の会社の規模も大きくなっていくことが望ましいと考えている。
- 質問:
- 今後のビジネスの展望は。
- 答え:
- 弊社のようなスタートアップは、よく「なぜアフリカから進めているの?」と言われることが多い。説明すればわかってもらえることが多いが、ベンチャーキャピタル(VC)からは理解を得にくいこともある。そういう中で、きちんと上場を目指していく。また、日本で使い古されていたり、放置されていたりする技術がたくさんあると思う。そういう技術がアフリカで活用されて、また日本に戻ってくる、そういう流れのパイオニアになりたい。最近では、フランスやイタリアのような国々でも、マラリアやデング熱の課題が出てきている。弊社の技術を先進国で活用できるチャンスも大いにあると考えている。
- 質問:
- 日本企業や現地企業との協業可能性は。
- 答え:
- 日本企業では、薬剤メーカー、散布機の機器メーカーや商社、現地の鉱山開発企業と連携する日系企業などと連携していきたい。なお、既に日系ポンプメーカーとは連携協議を始めている。灌漑関連のポンプの設置前に、弊社のドローンで現地状況を確認するなどの協業を想定している。現地企業では、鉱山やプランテーション関連の企業との連携に関心ある。大学との協業にも力を入れ、大学生インターンにオペレーションやメンテナンスのローカライズに協力してもらっている。2025年8月に横浜で開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD9)において、このようなアフリカ企業、日本企業とのつながりをつくりたい。
なお、ジェトロが取材後の4月9日に同社は、ドローン×AIの感染症対策の国際展開を加速のため、プレシリーズAラウンドで累計6.7億円を調達したと発表した(2025年4月9日付SORA Technologyニュースリリース参照)。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ) - 2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。