アフリカと日本の未来切り拓く、日系スタートアップの挑戦TYPICA、ダイレクトトレードでコーヒー生産者と買い手つなぐ(アフリカ)

2025年6月4日

コーヒーは、長い歴史の中で楽しみ方や味のバリエーションを広げながら、世界中で愛飲家を獲得してきた。手軽に楽しむことができる缶コーヒーやインスタントコーヒーに加え、近年は焙煎(ばいせん)や抽出方法にこだわり、それぞれの豆が持つ香りや風味を最大限に生かすスペシャリティコーヒーも人気だ。しかし、先物市場に依存する流通構造などが原因で、コーヒー産業を支える中南米やアフリカの小規模農家は経済的に不安定な状況に置かれがちだ。

ティピカホールディングス(TYPICA)は2020年に設立された日本のスタートアップで、コーヒーの生産者と買い手がコーヒー生豆を直接取引するオンラインプラットフォームを運営している。同社のソーシャル・インパクト・オフィサーを務める船山静夏氏に、アフリカでの取り組みについて聞いた(取材日:2025年4月8日)

質問:
御社の概要は。
答え:
コーヒー生豆のダイレクトトレードのオンラインプラットフォームを運営している。生産者と買い手の焙煎事業者がプラットフォームに利用登録することで、オンライン上で買い手が生産者にコーヒー生豆を直接注文することができる。配送にかかる費用や関税などは基本的に買い手の事業者が負担し、TYPICAは取引額の一定割合をプラットフォーム利用手数料として受け取っている。2025年4月時点で日本、台湾、韓国、オランダ、米国の5カ所に拠点を持っており、拠点のある国や地域を中心に世界53カ国・地域で6,500軒以上の買い手が登録している。売り手側は、中南米、アフリカ、アジアの42カ国・地域からコーヒー生産者が登録している。

プラットフォームのイメージ図(同社提供)
質問:
アフリカに取り組み始めた理由は。
答え:
コーヒーの栽培は世界中で行われており、アフリカは中南米と並んで栽培が盛んな地域だ。エチオピアをはじめとして各国で栽培が行われており、特にスペシャリティコーヒーでは外せない国も多い。ソーシャルインパクトの文脈において、これまで中南米地域に関しては取り組みを強化してきた。アフリカでも同様に、ソーシャルインパクトの観点を含めてプレゼンスを高めていきたいとの思いがあり、ジェトロが日系スタートアップのアフリカ市場開拓を支援する「ジャパンテック・アフリカチャレンジ・第2期」に応募し、採択された。自社のプラットフォームのうち、アフリカで最も販売実績が多いのはエチオピアだが、タンザニアにはとりわけ関係の深い生産者がいる。ケニアも大きな生産国だ。ウガンダも含めた東アフリカ地域でサステナブルなコーヒーのエコシステムづくりに取り組んでいきたい。現地のネットワークを活用しながらビジネスを拡大し、ソーシャルインパクトを生み出しやすい環境を整えていきたいと考えている。
質問:
ここまで実際にアフリカに取り組んでみてどうか。
答え:
2025年2月にケニアのナイロビで開催された「アフリカ・テックサミット」に参加し、現地でスタートアップエコシステムが盛り上がっていることを肌で感じた。様々な社会課題が山積する中で、現状を変えたいという思いを持っている若い人が多く、実際に起業して行動に移そうとしている人たちがたくさんいる。そういう人たちと組んでネットワークを作り、一緒に大きな流れを生み出していきたい。

アフリカ・テックサミットで登壇している様子(ジェトロ撮影)
質問:
直面している課題や、アフリカ市場の難しさについて。
答え:
「アフリカ・テックサミット」の機会にエチオピアとケニアに渡航し、国や地域それぞれの状況を理解したうえで1つずつ問題を解決していく必要があると感じた。例えば、渡航前は、エチオピアの規制の方がケニアの規制より厳しいと思っていたが、詳しく話を聞いてみると、実際はケニアの方が厳しい印象を受けた。産業構造や文化の違いも踏まえて、どのような組織と組んで事業を進めていくか、よく考えることが重要だと改めて感じた。現地に軸足を置いてこうした対応を強化していくために、2025年4月にブラジルに現地チームを立ち上げたところ。今後、アフリカやアジアでも拠点立ち上げを検討している。
質問:
アフリカへの意気込みや、目指す姿について。
答え:
事業を開始してから5年間でアフリカの生産国も含め95の国・地域にネットワークを広げてきたが、生産者との関係を深めていく重要性を改めて感じている。「美味しいコーヒーのサステナビリティを高める」というTYPICAのビジョンを実現するためには、生産地でコーヒーの生産や流通に関わるコミュニティを育み、自立発展的でサステナブルなエコシステムをつくっていくことが重要だと考える。最終的にはコーヒー農園で暮らす生産者自身が能動的にプラットフォームを利用できるようになることが理想だ。アフリカを含むコーヒー生産国の農村の草の根レベルにまで自社のプラットフォームが浸透していくところを目指して、現地でのプレゼンスを高めていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
坂根 咲花(さかね さきか)
2024年、ジェトロ入構。中東アフリカ課で主にアフリカ関係の調査を担当。