特集:現地消費者のサステナブル消費の実情「サステナブル」製品にも求められる高品質
ASEAN3カ国の消費者座談会(前編)

2023年4月24日

欧米を中心にサステナブル消費(注1)への関心が高まり、徐々にトレンドとして定着しつつが、東南アジアではどうだろうか。物価高の昨今、現地消費者は何を考え、何を購入しているのか、もしくは購入を控えているのか。現地消費者の生の声を拾うことで、日本企業が目指すべき、「売れる」環境・社会に配慮した製品・サービスのヒントを探る。前後編の連載で、シンガポール・タイ・ベトナムのASEAN3カ国の消費者の事例を取り上げる。なお、本稿に登場する消費者は、各国の消費者を代表するものではなく、一個人の考えや行動である点を理解してもらいたい。

サステナブル消費は欧米だけではなく東南アジアでも

今回、ASEANでの調査を実施した3カ国は、シンガポールはさておき、タイとベトナムについては中進国・開発途上国だが、サステナビリティーに関する民間の世論調査結果をみると、必ずしも3カ国のサステナビリティー意識は欧米各国と比較しても低いわけではないことがわかる。エコバッグ使用率や詰め替え商品の購入率はいずれも50%を超え、マイボトルの使用率にいたってはドイツや英国、米国といった国々よりも同3カ国を含むアジアの国々の方が高いという先行調査もある(注2)。ユーロモニターが2022年に実施した東南アジアの消費者行動に関する調査によると、調査対象の3カ国はいずれも60%以上の消費者が持続可能な行動として、プラスチック使用量削減に取り組んでいる(注3)。欧米各国や日本との比較において、設問によってはよりサステナビリティー意識が高い結果となっている。

一般的に、環境に配慮した、サステナブルな消費行動は、通常の製品やサービス価格に「環境コスト」を上乗せした額の支払いを伴う。昨今の世界的なインフレ加速の波は東南アジアにも及んでおり、特にロシアのウクライナ侵攻後、3カ国でのインフレは高水準で推移している(注4)。物価が高騰する中においても「環境コスト」を支払うことができるか。東南アジアでみられるサステナブル消費、エシカル消費の萌芽(ほうが)が継続的な波となるのか見極めが必要であろう。

プラスチックへの忌避感は強い

ジェトロは、シンガポール・タイ・ベトナムの3カ国で、事前アンケートで「直近1年で、環境に配慮した製品を購入したことがある」と回答した消費者5人ずつを集め、脱炭素を中心としたサステナブル消費に関する座談会(注5)を実施した。同座談会に参加した各国の消費者5人の特徴は表の通り。3カ国とも、購入時に考慮する優先項目として、ほとんどの参加者が価格・品質・機能性を重視すると回答しており、必ずしも環境への配慮は上位に入っていない(表1、表2参照)。

表1:各国の座談会参加者一覧
国名 消費者 年代
性別
家族構成
同居人の有無
購入時の優先項目
シンガポール 消費者A 20代
女性
  • 独身
  • 親&兄妹と4人暮らし
1.価、2.品、3.ブ、4.口、5.安、6.耐、7.社、8.環
消費者B 30代
男性
  • 独身
  • 両親&兄妹と6人暮らし
1.価、2.機、3.品、4.口、5.社、6.販、7.特、8.環
消費者C 60代
男性
  • パートナー&子供あり
  • 5人暮らし
1.価、2.機、3.耐、4.品、5.原、6.環、7.口、8.生
消費者D 30代
男性
  • 独身
  • 両親&兄妹と6人暮らし
1.品、2.耐、3.機、4.価、5.環、6.口、7.数、8.原
消費者E 40代
女性
  • 独身
  • 両親と3人暮らし
1.品、2.価、3.ブ、4.生、5.機、6.販、7.原、8.特
タイ 消費者F 20代
女性
  • 独身
  • 両親と3人暮らし
1.特、2.機、3.外、4.価、5.品、6.販、7.環、8.耐
消費者G 20代
女性
  • 独身
  • 両親と3人暮らし
1.機、2.価、3.特、4.外、5.口、6.販、7.環、8.ブ
消費者H 30代
女性
  • 独身
  • 母親と2人暮らし
1.品、2.機、3.特、4.価、5.口、6.原、7.販、8.環
消費者I 40代
女性
  • 独身
  • 両親&兄妹と4人暮らし
1.価、2.数、3.ブ、4.品、5.安、6.原、7.特、8.販
消費者J 40代
男性
  • パートナー&子供あり
  • 3人暮らし
1.安、2.品、3.ブ、4.原、5.価、6.口、7.特、8.環
ベトナム 消費者K 20代
女性
  • 独身
  • 両親&兄妹と4人暮らし
1.機、2.価、3.品、4.外、5.環、6.口、7.ブ、8.販
消費者L 40代
女性
  • パートナー&子供あり
  • 4人暮らし
1.環、2.社、3.外、4.安、5.品、6.ブ、7.耐、8.口
消費者M 30代
女性
  • 独身
  • 両親と3人暮らし
1.価、2.機、3.安、4.環、5.販、6.社、7.口、8.品
消費者N 20代
男性
  • 独身
  • 1人暮らし
1.品、2.価、3.安、4.機、5.販、6.外、7.ブ、8.特
消費者O 20代
男性
  • 独身
  • 両親と3人暮らし
1.機、2.価、3.品、4.耐、5.口、6.環、7.ブ、8.外

注:参加消費者には、事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する優先項目を上位8位まで選択してもらった。選択対象項目は以下のとおり:価格、原材料・素材、口コミ・評判、数量、ブランド・メーカー、生産地、品質、外観・パッケージ、安全性、機能性、特典、耐久性、販売方法・買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。表記載の漢字など1文字は各項目の先頭文字。
出所:消費者5人からの回答を基にジェトロ作成


シンガポールでの座談会風景(ジェトロ撮影)
表2:サステナブル消費に対する消費者の考え
国名 対象品 消費者の考え
シンガポール 家電製品 短期使用なら価格が購入の際の判断要素。10年など長期使用なら、価格が高くても、エネルギー効率が良くコスト効率の良いものを選ぶ。(消費者B)
日用品 日常的に使うものであればあるほど品質を重視する。品質が担保されてはじめてエコであるかどうかという要素が、商品を選ぶときの判断基準になる。(消費者E)
日用品 自分はものすごくエコな人間というわけではないが、「エコであること」を楽しんでいる。日用品を買う時は質と価格を重視する。「エコである」ことはプラスポイントだ。(消費者B)
日用品
(エコバッグ)
市中のお店がプラスチック袋を有料にし始めたので、エコバッグを買おうと思った。決めては見た目(デザイン)が良かったこと。(買い物の前後に)町中を歩くときに、見た目が良いというのは重要。耐久性もあるし、大きさもちょうどよい。(消費者D)
タイ 日用品
(エコバッグ)
自分はそこまでエコフレンドリーではないが、エコ(布製)バッグのファッション性が高くなってきたのでエコバッグを使うようになった。エコが重要だ、という観点ではない。スーパーがプラスチック袋を無償配布しなくなったのも大きい。(消費者J)
日用品
(ストロー)
ウミガメにストローが刺さった画像を見て、それからストローを使わないようにしている。ストローがついているドリンクを買わないようにしている。(消費者I)
日用品
(マイボトル)
機能性、価格、軽量であることを重視して選ぶ。ブランドではない。(消費者H)
衣類 友達の影響で古着を買うようになった。新しいものを買う必要はもしかしたらないのかもしれないと気づいた。(消費者G)
ベトナム 日用品 クルエルティーフリーのコンセプトに賛成しているので、The Body Shopのスキンケア商品やボディーローションを購入している。(消費者O)
日用品
(ストロー)
オランダ(アムステルダム)留学中に、広告などでウミガメや魚を殺してしまうストローの怖さに気づかされ、プラスチックフリーのストローを使う習慣が身についた。帰国後は自然由来のストローを利用している。(消費者K)
日用品 シャワージェルやシャンプーはショップにボトルを持参して詰め替えをしてもらうと、通常より10%安くなる。仕事場に近いのでよく行っている。(消費者O)
衣類 古着屋で買うのは経済的な理由が大きい。また、売られている服の生地はそこまで悪くなく、着心地が良いものが多い。(消費者K)

出所:消費者からの回答を基にジェトロ作成

そのような中でも、脱プラスチックは消費行動に表れている。直近1年で購入した環境配慮製品・サービスについてたずねたところ、3カ国とも脱プラスチックに関連する製品を挙げる消費者が多かった。プラスチックストローの代わりに竹や金属製のストローを購入する、レジ袋の代わりにエコバッグを購入する、マイクロプラスチックビーズが含まれる化粧品の購入を控えるなど、プラスチックへの忌避感は強くみられた。「洗顔剤はマイクロプラスチックビーズを含まないブランドの製品に変えた」(消費者B)、「プラスチック使用量を減らすために、エコバッグ、弁当箱や再利用可能なストローを購入した」(消費者F)、「ボディーソープを詰め替え(リフィル)できるところで買っている」(消費者M)など。

「脱プラスチック(Plastic-Free)」は、すでに日本はもとより世界中で認知されているキーワードであり、消費トレンドとしても定着している。こうした意識が東南アジアで広がったのは、おそらく2010年代後半からだ。ウミガメにストローが刺さった画像や、海岸に打ち上げられたクジラの胃の中に大量のプラスチックごみが見つかったセンセーショナルな画像が、(ソーシャル)メディアを通して多くの消費者の目に触れることになった。同時期には中国が廃プラスチックの輸入を禁止したため、東南アジア各国は一時的に、廃プラ輸出の代替地となってしまい、相次ぐ各国の輸入停止措置に発展した(2019年1月10日付地域・分析レポート「環境意識の高まりを背景に相次ぐ規制導入」参照)。また、タイでは2020年1月から主要小売店でのプラスチック製レジ袋の無償配布が停止されている。

プラスチックの代替素材としてはシリコンやガラス、竹などが挙げられた。しかし、「ガラス製品は洗いやすい一方重量感があり、持ち運びに不便」(消費者F)、「シリコンストローやシリコンカップはシリコン特有の臭いに不満がある」(消費者G)、「竹製のカトラリー・食器は電子レンジ非対応」(消費者O)などの課題を指摘する声も上がった。事前アンケートの結果にある通り、日用品の購入においては機能性は価格、品質と同レベルに高い。こうした代替素材製品の機能面の不満は、プラスチックではない素材を用いた商品を製造、販売する企業にとって商機の1つとなるだろう。

クルエルティーフリーにも着目

シンガポールやタイの参加者からは、サステナビリティーの1つの側面でもある動物福祉やクルエルティーフリー(注6)について指摘する声があったことを紹介しておきたい。シンガポールでは、フカヒレ漁の残虐性と生態系への影響を報じたドキュメンタリーをきっかけに、従来は富の象徴として結婚式に欠かせない高級食だったフカヒレが、今では動物虐待の象徴ともされ、若い世代を中心にフカヒレを食べない人が増えているという。実際に、シンガポールの参加者は「ビーガン、クルエルティーフリーのリップを使っている」(消費者A)とし、タイの参加者は「自分が使っている化粧品のブランド・製品がクルエルティーフリーということを知ってより好きになった」(消費者I)と述べる。


シンガポール(写真左)・タイ(写真右)で販売されるボディウォッシュには、
動物実験を行っていないことを表わすマークがラベル裏面に表示されている(ジェトロ撮影)

以上のように、東南アジアの消費者の中には、環境に配慮してプラスチックの利用を避け、一部では動物福祉やクルエルティーフリーへの共感を示すなどサステナブル消費の意識を持つ層がみられつつも、日常的に購入する製品・サービスの購入時に考慮する優先項目として価格や品質を挙げる傾向が見られた。このような意識・行動をとる消費者に受け入れてもらうために、日本企業はどのようなアプローチをとるべきだろうか。連載後半となる次稿では、座談会参加者から聞いた消費者の情報収集手段や、日本製品に対するイメージを踏まえながら、マーケティング・ブランディングの方向性について考える。


注1:
本稿(を含む前後編2本の記事)で使う「サステナブル」や「サステナビリティー」は、省資源、脱炭素化やリサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた取り組みを指す。
注2:
株式会社電通、電通総研「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」。
注3:
ユーロモニター「Voice of the Consumer」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注4:
ジェトロ2023年1月11日付ビジネス短信参照
注5:
シンガポールは2023年1月14日、タイのバンコクは2023年1月15日、ベトナムのホーチミンは2023年2月8日に実施。
注6:
クルエルティー(残虐性)フリーとは、化粧品や日用品の開発・製造・販売などにおいて、製品が消費者の手元に届くまでのあらゆるフェーズにおいても、動物を傷付けたり、動物実験によって殺したりしていないことを示す考え方。

ASEAN3カ国の消費者座談会

  1. 「サステナブル」製品にも求められる高品質
  2. 日本製品は「サステナブル」?
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事したのち、ジェトロ岐阜にて中小企業の海外展開を支援。2022年11月から現職。