特集:現地消費者のサステナブル消費の実情「サステナブル」+「利便性、社会課題」が攻略のカギ(台湾)
ジェトロが消費者座談会

2023年4月24日

世界がカーボンニュートラル実現に向けて動き出した一方で、近年はエネルギー価格をはじめとする物価の高騰が続く。これらの外部環境の変化がサステナブル対応(注1)に意識の高い消費者の消費行動にどのような影響をもたらしているのか。世界主要国・地域の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応商品やサービスの開発・提供へのヒントを探る。本稿では台湾の台北の消費者を取り上げる。

なお、本稿に登場する消費者は台北の消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象だ。そのため、記事中で紹介するコメントなどは消費者一個人の考えや行動という点を理解していただきたい。

台湾行政院環境保護署によると、台湾のグリーン消費市場規模(2021年)は1,202億台湾元(約5,289億円、1台湾元=約4.4円)で、2010年比4%増だった。内訳をみると、産業界が503億台湾元、政府機関が111億台湾元、消費者が587億台湾元と、消費者によるグリーン消費の市場規模が大きい。 他方、行政院主計総処によると、消費者物価指数(CPI)の上昇率は2021年が1.97%、2022年が2.95%。直近の月別では2022年12月が前年同月比2.71%、2023年1月が同3.04%と、欧米に比べれば小さいものの、じわりじわりと上昇している。インフレが進む台湾で、販売価格の引き上げにつながりやすい環境への負荷を軽減する商品・サービスの購入は進んでいるのだろうか。

ジェトロは、サステナブル消費に関心を持つ台北の消費者5人による座談会(注2)を実施した。参加した5人の特徴は表1のとおり。

表1:座談会に参加した消費者5人の特徴
消費者 年代
性別
職業
家族構成や同居人の有無
購入時の優先項目(注)
(※数字は優先順位)
消費者A 20代
男性
  • 会社員(保険の営業)
  • 妻と同居。
1.質、2.価、3.安、4.材、5.外、6.耐、7.特、8.販
消費者B 30代
男性
  • 博物館のアシスタント
  • 独身
1.安、2.質、3.材、4.耐、5.環、6.評、7.特、8.ブ
消費者C 30代
女性
  • ジムのインストラクター
  • 夫、子供と同居。
1.価、2.量、3.安、4.販、5.外、6.生、7.評、8.社
消費者D 40代
女性
  • 区役所の秘書室主任
  • 夫、子供と同居。
1.質、2.安、3.材、4.耐、5.環、6.販、7.特、8.機
消費者E 50代
女性
  • 専業主婦
  • 夫と同居。
1.ブ、2.材、3.価、4.安、5.機、6.評、7.質、8.特

注:参加消費者には事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する上位8項目を挙げてもらった。選択対象項目とその漢字など1文字の表記は次のとおり。「価」は価格、「材」は原材料や素材、「評」は口コミや評判、「量」は数量、「ブ」はブランドやメーカー、「生」は生産地、「質」は品質、「外」は外観やパッケージ、「安」は安全性、「機」は機能性、「特」は特典、「耐」は耐久性、「販」は販売方法や買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、「環」は環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、「社」は社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。
出所:消費者5人からの回答を基にジェトロ作成


台北での座談会風景(ジェトロ撮影、写真の一部を加工)

座談会では、司会者がエネルギー、消費財、サービスなどのテーマや、サステナブル消費での重要な要素ごとに話題を振り、それに対して消費者5人が自由にコメントをする形式で進行した。以下の各消費者のコメントは、それらをテーマや項目別に整理したものだ。

まず、消費者のサステナブル消費に対する考え方などをテーマ別に確認した(表2)。家電(1)(2)や日用品(1)のコメントのように、サステナブルだけでなく、節約を重視していることがうかがえる。また、食品では地産地消や動物福祉の考え方を持つ消費者もいた。衣服(2)のように、企業がサステナブルな取り組みをせっかく行っているにもかかわらず、その情報発信が足らず、もっと発信すべきだと考えている消費者もいた。

全体(1)に「認証マーク」との言及がある。認証マークについては、他の消費者も「(サステナブルであることを示す認証マークが商品に)あれば(購入の動機として)プラスになる」(消費者A、E)と、認証マークの存在を肯定的に捉えている。本特集の別稿記載のとおり、欧米では認証マークが複数あり、一部の消費者からは「認証マークを信用していない」とのコメントが出ていた。ただ、台湾のスーパーマーケットなどの小売店で販売されている商品を筆者が確認した限りでは、欧州ほど商品に認証マークが多数貼付されている印象はなかった。ただ、「認証マークについては、産地情報、デザインから製造まで含めた各工程について、公的な第三者機関が確認できるといい」(消費者B)との意見も出ており、信用できる認証マークならば購入時の参考にするようだ。

表2:テーマごとのサステナブル消費に対する消費者の考え(全体、エネルギー、家電、衣服、日用品、食品、物流サービス)
テーマなど 消費者コメント
サステナビリティーをPRする商品・サービス全体 (1)「商品自体、原料やパッケージが環境にやさしい。海外では環境にいい認証マークがある。製品の成分が生分解できる」(消費者E)
(2)「リサイクルや再利用できる。もう一度同じもので物作りできる。長期間利用可能」(消費者A)
(3)「グリーンエネルギー(の利用)。工場や農場から排出される二酸化炭素(CO2)の量は結構多く、消費エネルギーや生産工程でサステナビリティー対応を行うこと。未対応企業・産業は次第に淘汰(とうた)される」(消費者B)
エネルギー (1)「畑などの上で発電する営農型太陽光発電があるが、効能的にはいい。特に台湾の南側の天気は日照時間も長く、太陽光発電にいい。ただ、台北周辺はちょっと天候が合わないだろうが」(消費者D)
家電 (1)「冷蔵庫、エアコン、除湿機などは毎日使うため、省エネが可能ならば、よりいい。家庭の必需品なので、効能が良いものを使う。省エネと節約の両方のため」(消費者D)
(2)「エコマークや省エネマークのものを選ぶ。補助金がもらえる。節約でき、環境にいい」(消費者E)
衣服 (1)「見た目が好みで、品質が悪くなければ、古着でも大丈夫」(消費者A)
(2)「デザイン(の良さ)を売りにしていても、実は環境にやさしい素材で作られている場合もある。紡績技術が発達していることもあり、リサイクル素材の糸が入っていても、結構きれいな仕上がりになっている。数社のメーカーはこのことを発信しているものの、それ以外では、あまりよく見かけず、少ない印象」(消費者D)
日用品 (1)「女性の生理ナプキンやタンポンは結構ごみになる。一部の布製の生理ナプキンや生理用の月経コップは、5年でも10年でも使える。環境と節約の両面でいい」(消費者C)
(2)「過去はジッパー付きのビニール袋に入れて冷凍していたが、それは消耗品だ。シリコン素材のジッパー付きバッグならば、再利用できる。洗えばいいし、普通のビニール袋より長持ちする」(消費者E)
食品 (1)「現在、無駄になる食べ物の量はとても多い。私たちが食べる肉も、牛や羊などを飼育するために、二酸化炭素(CO2)排出量が多い。現代人の欲望はとても多い。いかにいいバランスを取りつつ、排出量を減らしていくか。地元のものを利用すれば、輸送などがあまり要らなくなる。いかに無駄を減らして、地球の自然サイクルに悪い影響を与えないようにするかが重要だ」(消費者B)
(2)「カーボンニュートラルといえば、地元の食べ物を消費することが推進されている。これは最も簡単な方法。地元の食べ物を利用することはCO2排出量を減らすことだ。実際に、この方法は実践しやすく、それほど難しいことではない。現地生産の食べ物を多く買ったら、それはとてもいい」(消費者E)
(3)「卵を買った時に気づいたことだが、数年前は動物福祉を強調する会社はまだ少なかった。最近は、動物福祉を強調する卵が増えている」(消費者E)
物流サービス (1)「配送の車が集荷や配送の際、留守だった場合、何度も同じところに行かないといけない。現在、コンビニや郵便局のEZPOSTとコラボすることもできる。そこに転送できる。一気に配送する効率は高いし、CO2の排出量も比較的に低い」(消費者B)
(2)「車がなかなか入れないところには、電動バイクで配送していると聞いたが、いいことだと思う。世界の主要な物流業者が新車を購入するときに、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の導入を検討しているというが、これらの物流業者はきちんと企業の責任を果たしていると感じる」(消費者B)

出所:消費者からの回答を基にジェトロ作成

サステナブルな要素は「付加価値」

消費者が商品やサービスを購入する際に重視する主な要素をまとめたものが表3だ。「環境にやさしくしたいから、サステナブル対応の商品やサービスを選ぶのではない。日常生活の中で、できれば環境にやさしいものを買うというスタンス」(消費者C)とのコメントに代表されるように、重視する他の要素を満たすことが前提にあり、サステナブルな要素はその後という考えが根底にあることがわかる。

表3:消費者が重視する購入時の要素
重視する要素 消費者のコメント
価格 「環境とかサステナビリティーをPRする商品やサービスは、価格が結構高いことがある」(消費者A)
耐久性 「ある商品を購入して、もし使うとすぐに壊れるならば、より丈夫で長く使えるものを買う」(消費者A)
機能性 「商品がサステナビリティーを強調していても、その商品の機能が自分が欲しいものでなければ、買わない。商品のベーシックな機能が自分のニーズに合って初めて、他の要素を検討する」(消費者E)
産地 「台湾製のものがあれば、もちろん台湾製を優先的に購入する」(消費者E)
利便性 「例えば、遠いところに行くときなどはシェアバイクのYouBikeを利用すると、タクシーの利用はいらない。より便利になることが利用の動機となっている。(シェアバイクを利用することが)環境にいい点は付加価値にすぎない。利便性が優先される。環境を守りたいならば、歩けばいいと考える」(消費者A)
商品へのアクセス性 近くの店で入手できるかどうか(は重要)。購入できる販売ルートが少ないなら、購入意向にも影響する」(消費者C)
デザイン 「美観と機能と環境保護を兼ね備えているものがいい。例えば、(テークアウト食品の)持ち帰りに使う容器のデザインが良ければ、持ち帰って繰り返して使いたくなる。もしデザインが悪かったり、すぐに壊れたりすると、使いたくなくなる。デザインと機能とは同じ程度に重要な要素」(消費者D)

出所:消費者からのコメントを基にジェトロ作成

例えば、ペットボトルをリサイクルして生産された靴は防水という機能性、リサイクルの綿で生産された毛布についてはデザインなど、サステナブルな要素以外のメリットが実際の購入の決め手となっており、サステナブルな要素はやはり「プラスアルファ」の付加価値として捉えられているようだ(表4、表5参照)。

表4:サステナブル対応商品の購入理由や経緯などの消費者コメント
購入したサステナブルな商品 購入理由や経緯に関する消費者のコメント
ペットボトルをリサイクルして生産された靴 「最も魅力的なところは防水性。雨の日でも着用できて、水が全く中に入らない。超すごいと思う。履き方は普通の靴と全く同じ。このような靴を販売する店が(台湾では)とても少ない。オンラインでクラウドファンディングを募集していたのを見て購入(出資)した」(消費者A)
カキ殻を回収して素材の一部に使ったシャツ 抗菌作用があり、シワ防止機能がある。温度調整機能もある」(消費者B)
リサイクルした綿で作られた毛布 「インド製。デザインがよかった。粒々のような黒い点々が確認でき、とても天然っぽく見える。ラベルにリサイクルした綿で生産されているとの記載があった」(消費者E)
コーヒー豆のかすをリサイクルして生産された食器洗い用スポンジ 「台湾ブランド『OP』の商品。スーパーマーケットで簡単に入手できる。価格が安いし、リサイクルした商品だし、なかなかいいと思う。自分の母にも買ってあげた」(消費者E)
生分解性のクリーナー(トイレ用、床掃除用) 「「Method Products」(米国)のクリーナー。天然素材の製品で結構使いやすい。毒性のあるものや化学成分の匂いが強い商品は嫌(この商品は匂いが強くない)。価格は台湾でも特に高くはないリサイクルしたプラスチックで作ったボトルを使用している。この商品がとても好き。家族にも薦めた。同社はいろいろな認証マークを取得している」(消費者E)

出所:消費者からのコメントを基にジェトロ作成

表5:サステナブル商品・サービスの購入をためらう要素
サステナブル商品・サービスの購入をためらう要素 消費者のコメント
価格が高過ぎること 「(サステナブル対応商品の価格が)少し高くても、機能性や使いやすさがあれば、高いとは思わない。でも、(従来品との)価格差が大きい割にそこまで実用性がなければ、それに対してさらに高い金額を支払うのはちょっと迷う。あまり買いたくない」(消費者D)
操作方法が複雑なこと 「自宅で電力を最も消費する給湯器では、IoT(モノのインターネット)で遠隔操作可能なスマートコンセント(プラグ)というものがあるため、簡単に電源のオン・オフ時間を設定できる。だが、このようなものは簡単に設定できるようにしてもらわないといけない。複雑過ぎると、やはりちょっと使用したくなくなる」(消費者B)
販売拠点の少なさ 「自分の容器を使って米など穀物を買うことで、プラスチック用品の使用を減らしたいけれど、このような店はあまり多くない。そのような販売拠点が少な過ぎる場合、その商品を使いたくても、機会が少なく難しい。入手のしやすさや販売ルートの数によって、購入の意向やチャンスも影響される」(消費者D)
見た目の悪さ 「一目で見た目が好きかどうか。そのものが嫌いなら、買うわけにはいかないだろう。例えば、靴などは着用して出かけるものだから、(購入するかどうかは)きっと美感に関係する。(サステナブル商品でも)外観を少し調整した方がいい」(消費者A)

出所:消費者からのコメントを基にジェトロ作成

容器・包装材への関心高く

ただ、容器や包装材については、消費者の反応は様子が少し異なる。「一部の商品はエコをPRしながら、パッケージは過剰。外側のパッケージが何層もあるなど、過剰なパッケージの場合は買いたくない」(消費者A)など、容器へのサステナブル対応は「付加価値」ではなく、「必須要件」との認識を持つ消費者がいる。ほかにも、「できる限り複数の商品を1つの注文にまとめる。複数の商品を同時に買う目的は、全てのものを1つの箱に入れて配送してもらいたいから。それなのに、サプライヤーが異なるからか、同じタイミングで配送されるにもかかわらず、複数の箱に分けて配送されることが多い。これでは紙ボックス(箱)や包装材が無駄だ」(消費者E)など、包装材の消費量の多さを「減点」対象とする消費者もいる。

他方で、「食品を購入するときに『厚生市集』というオンラインショッピングサイトを利用している。同社の生鮮食品は新鮮で、配達も早く、とても経済的。その上、冷凍食品などを買うときは、その包装材は全てリサイクル可能なものだ。次回購入して配送に来てもらう際、前回受け取った包装材を自宅前に置いておけば回収してくれる。自分はできるだけ回収に協力している」(消費者D)など、容器や包装材に関する企業の取り組み次第では、それを付加価値として捉える消費者もいれば、「過剰包装は多少あるかもしれないが、それは買った商品を保護するため、倉庫での補完や配送時の損害がないようにするため、包装は必要だと思う。もし使われる素材にFSC認証のある紙ボックスを使えば、カーボンフットプリントを比較的抑えられると思う」(消費者B)と、商品の保護を優先すべきと考える消費者もいる。

なお、サステナブルなイメージの強い日本企業について尋ねた際には、「(日本企業は)パッケージなど過剰包装との印象がある。そのため(日本企業にサステナブルな)イメージは強くない。また、環境にやさしい成分入りの商品を強調する日本企業は少ない印象だ。欧州系の商品の方が(サステナブルな)イメージが強い。日本企業は品質にこだわる印象が強い」(消費者D)や、「(素材が)天然であることを強調していることが多いが、それ自体は環境にやさしいことではない」(消費者E)など、過剰包装の印象など、サステナブルなイメージが弱いようだ。それだけでなく、「(このような日本企業の)印象を変えるまで、ちょっと時間がかかる」(消費者A)との発言まであった。

これら消費者5人が過去1年間に購入した環境配慮の製品・サービス、利用しているオンラインサイト、修理して使用する製品、環境配慮のため購入しない製品の例を表6にまとめた。購入した環境配慮製品や購入しない製品のコメントをみると、容器や包装材に関するものが目立つ。

表6:環境配慮の観点で消費者が購入する製品、利用するオンラインサイトなど
消費者 過去1年に購入したことのある環境配慮製品・サービス例 利用している、環境配慮製品を販売するオンラインサイト例 修理して使用している製品例 環境配慮のため購入しない製品例
購入商品・サービス(価格) 購入(使用)頻度 購入場所 決済方法 購入の決め手、理由
消費者A カップスリーブ(カップホルダー)
(120台湾元)
2日に1回(使用頻度) インターネット クレジットカード (外で購入して)よく飲むため、プラスチック袋の代わりに使う。 FYNE(衣服) ソファー 分解不可のマイクロビーズ(研磨用のプラスチック)入り洗顔剤
消費者B 「Ava puhi moni Shampoo and Light Conditioner」(シャンプー&コンディショナー)
(1,200台湾元)
毎日
(使用頻度)
インターネット クレジットカード 原材料が気に入っている。また、容器は100%リサイクルされたプラスチック素材。さらに購入することで購入代金の一部が環境関連基金に寄付される。 真情食品館網路商城-新北市農會(食品) スニーカー 使い捨て用のテーブルウエア、購入時にもらうプラスチック包装(店舗に返却する)
消費者C 再利用可能なテーブルウエア
(119台湾元)
毎日
(使用頻度)
モバイル支払い クレジットカード 毎日外食するが、ごみの量を減らすため再利用可能なテーブルウエアを使っている。 Carrefour(食品、日用品) 買い物用のエコバッグ 過剰包装の製品やプラスチック袋
消費者D 「正隆」製のエコな洗濯用洗剤
(175台湾元:レギュラー容器、149台湾元:詰め替え容器)
毎日
(使用頻度)
PX Mart クレジットカード、現金 無毒、環境への負荷が小さい 好日子(日用品) 衣服、ソファー、家電 原料が環境にやさしくない洗剤(食器用、洗濯用など)、生分解不可のごみ袋
消費者E 「Yves Rocher」のボディーローション、シャンプー
(300台湾元)
4カ月に1度 Momo クレジットカード 自然植物成分、ブランドイメージの良さ、フランスブランド。また、容器はリサイクルプラスチックを使用 天天里仁(有機食品) 本革のブーツ、ジーンズ ペットボトル(水)、(衛生的に問題なければ)個包装製品(代わりに大容量製品を購入)

出所:消費者からの回答を基にジェトロ作成

台湾では、使い捨てプラスチック製品の使用が2030年に全面的に禁止となる(2019年6月5日付地域・分析レポート参照)。また、オンラインショッピングの包装材の利用削減に関する規制を導入する予定(2022年10月3日付ビジネス短信参照)など、容器や包装材に関する規制が近年強化されている。消費者も同規制強化にはおおむね賛同している。行政院環境保護署が実施したアンケート調査(注3)によると、エココップ(ここでは、再利用可能な自分所有のコップのこと)を持参しない場合、使い捨て用コップのために追加料金を支払うことに賛成の人は81.4%だった。また、追加料金による価格差が5台湾元以下でも、61.3%の人がエココップを持参して購入したいという。

また、規制強化によるプラスチック容器脱却の動きにより、消費者ニーズの変化の兆しがみられる。欧州など一部の国で普及し始めている固形シャンプー(2023年3月28日付地域・分析レポート参照)に関心を寄せる消費者もいた。「液体ボディーシャンプーの使用をやめて固形せっけんを使ったり、液体シャンプーの使用をやめて洗髪用の固形せっけんを使ったりすることは環境にいい。また、いろいろなプラスチックボトルを使うより、紙一層だけのパッケージに代える方が環境にいい。使えばせっけんはなくなる。(紙以外)何も残らない。この方向に向かって変えてもいいと思う」(消費者C)。

サステナブル情報、着実に蓄積

消費者にサステナブルな商品やサービスに関する情報源について聞いたところ、日々の情報収集の中で、サステナブルな企業や商品・サービスの情報を着実に蓄積していることがわかる(表7参照)。

表7:消費者のサステナブル関連の情報源
情報源 消費者コメント
雑誌
(金融関連)
「例えば『Common Wealth』や『Financial Weekly』など金融に関する雑誌を紙媒体、電子媒体を問わずに結構読む。そこでは、いろいろな企業の話題が出ていて、今後『環境にいい企業』に転換していきたいといった(インタビュー)記事も掲載されている。掲載されている広告や記事を見て興味があれば、自分で調べる」(消費者A)
オンラインショッピング 「商品情報を読むのがとても好き。リアル店舗とは違って、オンラインショッピングでは、企業や商品に関する情報を完璧に紹介できる。例えば、商品名の由来や生産方法、その企業が取得している認証マークなどの知識を得られる。海外に行ったり、遊びに行ったりするときも、それらの情報に興味があり、時間があれば、それらについて記載されている情報を結構読む」(消費者E)
講座、本、ネット
(健康関連)
「講座に参加したり、本を読んだり、ネットで調べたりする。自分は健康志向なので、子どもが使うものや、自分が身に着けるもの、食べる物などについて、すごく気にする。健康に気を遣っているため、それらを調べる中で、いろいろなところから(サステナブルに関する)情報が少しずつ入ってくる」(消費者D)
インスタグラム、フェイスブック 「インスタグラムとかフェイスブックで、サステナブルに関する投稿が目立つ。健康とかその辺の話題も結構重視するが、エコなどの投稿はわざわざ調べなくても、よく目にする。そこで得た情報を基に、口コミや評判、企業や商品(例えば、企業が森林保護に貢献しているか、化粧品ならば動物実験を行っているかなど)について自分で調べる」(消費者C)

出所:消費者のコメントを基にジェトロ作成

「組み合わせ」ビジネスでPRを

消費者が購入したくなる、台湾で今後新たに導入・普及を望むサステナブル対応の商品やサービスのアイデアとは一体、何だろうか。日常生活での利用のしやすさ(利便性)や、社会課題の解決につながる取り組みなどについて、サステナブルな要素と組み合わせた商品やサービスの提案やコメントが消費者から寄せられた(表8参照)。中には、米の量り売りの店舗があれば利用したいとのコメントもあった。本特集の別稿でも紹介したように、欧米では穀物などの量り売り専門店が広がりを見せつつあるが、台湾ではまだ身近なサービスにはなっていないようだ。

表8:消費者が今後の普及・拡大に期待する、サステナブル対応の新たな商品やサービス
着眼点 普及すればといいと思うサステナブルな商品やサービス 消費者のコメント
利便性 全てのコンビニやレストランで提供する食器を回収できるようなタイプに代える 「どの店舗で受け取った食器でも、(店舗に設置した)回収ステーションで返却できるようにする。設置拠点が多くなればいい。また、店舗だけでなく、例えば、各住宅地に1カ所あれば、食べ終わる時に軽く洗って(回収ステーションに)投入して回収できる。これにより、容器の使用量を少しでも減らすことができる。外出時に自分の食器を持参したくない人がいるかもしれないが、これで便利になる」(消費者C)
コンビニなど便利にアクセスできる場所に、環境にやさしい商品(例えば、食器用などの液体洗剤など)を充填(じゅうてん)できるステーションを設置する 「環境にやさしい商品のメーカーが充填ステーションに洗剤などを提供し、われわれは自分の容器を持って行って充填すればいい。これで容器などが要らなくなる。ボトルがないと、価格が少し安くなるだろう。安い価格で環境にやさしい商品を購入できて、メーカーにも消費者にもメリットがある。アクセスしやすい拠点を増やすなど、入手しやすさを確保すればいい。この充填ステーションに参加したい企業は複数社あってもいい。(ステーションを設置する)店舗と一緒にこのような設備を設置する。複雑ではない。簡単な設備で、皆が欲しがる商品や量を自分で必要な分だけ購入する」(消費者D)
社会課題解決 マンションの屋上に太陽光パネルを設置し、発電した電力を売電する(グリッドに流す)。 「台湾は電力不足だ。もし(マンションなどの)屋上が空いているなら、自分用の電力を生産し、売電収入を得ることができる。太陽光発電の共同設置については、利益回収まではかなりの時間がかかり、少なくとも15~20年が必要。住民全員が払うコストは少なくとも10年か20年が経過しないと、回収できない。実施するには住民の共同意識が必要。また、マンション屋上の利用は、1ヵ所ではなく、住宅地にある全部のマンションが一緒に参加しないと、効果や利益が高くない。実践するには難しいが、この考え方はいいと思う。台湾では一部の住宅団地で実施している」(消費者A、B)
1人暮らしの高齢者対策として政府が進める共同食事に、フードロス対策の要素を取り入れる 「今は町村が住宅地などで(高齢者同士が集まってともに食事する)共同食事ということを実施している。(そこで廃棄前の食材を使用することで)フードロス削減という課題への対応も同時に行うことができる。各家庭で自炊する必要がなくなり、無駄も少なくなる。ただ、賞味期限が過ぎた食材を使わないように、食材の入手先などを誰かがチェックしないといけず、オペレーション上は結構難しい。ただ、効果としてはいいかもしれない」(消費者A)
家庭用生ごみ処理機(コンポスト)を住宅地に設置して共同利用する 「ごみ回収の人が容器を持って、各拠点を回って生ごみを集める必要がなく、手間が省ける。また、住宅地の庭園にこの肥料を利用でき、肥料を購入する必要がなくなる。回収された後の(焼却炉までの)運送とか(焼却時の)電力も必要なくなる。住民は自分で生ごみ処理機を購入する必要もない。住宅地に共同のものを設置することは一番簡単だと思う」(消費者D)
その他 米を量り売りする 「私が日本に住んでいた時、日本のスーパーマーケットの外に、必要な量だけ購入できる方法で米が売られていた。自分の容器を持って、自動販売機のように、どれぐらいの米が欲しいか自分で決める。私たち(台湾人)にも米を食べる文化があるので、これは結構良いと思う。自分が必要な量を買う。袋入りのパッケージで米を買う必要がない。米のパッケージ(2キログラム相当)は結構小さい。その包装材は無駄だと思う」(消費者E)
歩きながら、もしくは自転車に乗りながら、充電可能で簡単な発電装備を装着する 「発電しながら、携帯電話を充電できる。例えば、歩きながら発電して、人(私たち自身)がポータブルの『充電器』になる。そうすれば、私は運動しながら充電するため必死に歩く。あるいは自転車に乗りながらでもいい。人それぞれが発電できる生き物になる」(消費者D)

出所:消費者のコメントを基にジェトロ作成

台湾では、電力使用量の増加率が発電量の増加率を上回るなど、供給余力が下落傾向にあり、電力不足リスクの高まりが指摘されている(日本台湾交流協会資料)。2050年のカーボンニュートラルの目標を掲げる台湾では、電力の大口需要家に対して、2025年までに再エネ比率を契約容量の一定割合にすることを義務づけるなど、再エネ比率引き上げと電力の安定供給を両立させる方向で、電力政策を進めている(2022年5月25日付ビジネス短信参照)。電力不足への対応策として太陽光発電を共同住宅の屋上に設置するとのアイデアは、こうした台湾の電力事情を踏まえたものといえる。

また、2025年以降に超高齢社会に突入するとみられる台湾では(2022年8月24日付ビジネス短信参照)、政府が1人暮らしの高齢者対策として共同食事を推進しており、身体的健康や、閉じこもり回避による精神的健康などにも取り組んでいるという。

「現代社会は経済優先のため、みなが目指す生活水準がとても高くなる。環境のことを一緒にセットで考えないと、気候変動や悪化する(他の社会)課題をなかなか克服できないと思う」(消費者D)とのコメントに代表されるように、サステナブルな要素を取り入れながら、電力不足や高齢化など台湾が抱える社会課題の解決を目指すことに対して、これら消費者の関心は高いようだ。

こうした消費者のコメントを踏まえると、「利便性+サステナブル」もしくは「課題対応+サステナブル」などの「組み合わせ」による商品やサービスの展開が、サステナビリティーに意識の高い台湾の消費者に今後購入してもらいやすいアプローチとなるのかもしれない。

サステナブルな要素は「付加価値」だ。他の要素が購入の決め手となっている現状を踏まえると、今すぐにサステナブル対応の商品やサービスを売り込まないといけないという状況ではなさそうだが、消費者は日々の情報収集から、企業のサステナビリティーの取り組みやサステナブルな商品・サービスの知識を少しずつ蓄積している。将来的にサステナブル消費のトレンドがもっと浸透すれば、台湾でサステナブルな要素が購入時の「必須要件」となるときがいずれやってくるだろう。

既述のとおり、一部ではあるものの、「過剰包装」や「サステナブルなイメージが強くない」といった日本企業のイメージ払拭には「時間がかかる」との指摘があった。「必須要件」となるまで少し猶予があるとすれば、日本企業はその間にサステナブルな取り組みをコツコツと拡大・継続させ、それを積極的に情報発信し続けるなど、日本企業や商品・サービスに関する知識やイメージを覆すための時間を稼ぐことができるとも考えられる。

また、利便性や別の課題解決への貢献などサステナブルな要素を組み合わせたビジネスがこれら消費者に訴求しやすいとみられる。

「必須要件」となってから、サステナブル商品やサービスの売り込みを始めても、それまでに台湾の消費者が蓄積してきたサステナブルな企業や商品・サービスの知識やイメージを覆すことは容易ではない。台湾のサステナブル消費市場を狙うならば、「サステナブル+アルファ」の組み合わせでビジネスを捉え直してみるなど、今から地道に取り組む必要がありそうだ。


注1:
本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティー」は、省資源や脱炭素化、リサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた経済活動を指す。
注2:
台湾の台北で2023年2月23日に実施。座談会に参加する消費者5人は、ジェトロと協力会社で、サステナブル消費に関心があると判断して選出した。消費者の考え方や行動に偏りが出ないよう、選出に当たってはできるだけ世代や性別、家族構成などが分散するように心掛けた。
注3:
2021年6月24~29日に1,077人の台湾の一般的な消費者に対して、電話(固定電話、携帯電話)による調査を実施。同署では環境保護政策に関する台湾住民の満足度などに関して定期的に調査を実施しており、今回の調査結果はその一部。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。