特集:現地消費者のサステナブル消費の実情ジェトロが消費者座談会、普段使いの製品のサステナビリティーを重視(米国)

2023年4月19日

世界がカーボンニュートラル実現に向けて動き出した一方で、近年はエネルギー価格をはじめとする物価の高騰が続く。これらの外部環境の変化がサステナブル対応(注1)に意識の高い消費者の行動にどのような影響をもたらしているのか。世界主要国の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応商品やサービスの開発・提供へのヒントを探る。本稿では、米国サンフランシスコの消費者の事例を取り上げる。

なお、本稿に登場する消費者は、サンフランシスコの消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象だ。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動という点を理解してもらいたい。

米国消費者の4人に3人が環境への影響を考慮

米国の小売り向けソリューション提供企業のPDIテクノロジーズが2022年3月に米国の消費者を対象に実施したアンケート調査(注2)によると、68%の回答者が「環境にやさしいかどうか」が購入時の決め手として重要だと回答した。また、66%が環境に配慮した製品に対して(一般的な商品よりも)高い価格を支払うとした。「自分が購入している製品について、環境への影響を考慮しているか」との問いに、75%が「考慮している」と回答している。地域別にみると、今回の座談会の開催地サンフランシスコを含む西部が79%と、他地域(北東部78%、中西部75%、南部70%)に比べて、わずかではあるが、回答率が高い結果だった。

他方、ロシアのウクライナ侵攻以降、世界的な物価高騰が著しく、米国も影響を受けている。消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年比で、2022年6月の9%台から低下傾向にはあるものの、2023年2月は6.0%と、新型コロナウイルス禍前の2~3%台を上回る水準で推移している。エネルギー価格では、米国エネルギー情報局(EIA)が10月に発表した見通しによると、米国の一般家庭の2022年10月から2023年3月までの天然ガスによる暖房費は前年同期比28%、電気代は10%上昇する見込みで、こうした光熱費の上昇も消費者行動に影響を与える要因と考えられる。

ジェトロは、サステナブル消費に関心を持つサンフランシスコ近郊に住む消費者5人による座談会(注3)を実施した。参加した消費者5人(A~E)の特徴は表1のとおり。

表1:座談会に参加した消費者5人の属性・購買行動
消費者 年代
性別
職業
家族構成や同居人の有無
購入時の優先項目(注)
(数字は優先順位)
消費者A 30~49歳
女性
  • 会社員
  • 一人暮らし
1.価、2.質、3.環、4.販、5.機、6.材、7.耐、8.ブ
消費者B 50代
男性
  • 元学者(現在は引退)
  • 妻と同居
1.質、2.機、3.販、4.ブ、5.価、6.環、7.材、8.生
消費者C 20代
ノンバイナリー
  • 会社員
  • 家族と同居
1.環、2.社、3.価、4.質、5.機、6.材、7.生、8.販
消費者D 30~49歳
男性
  • 会社員
  • 一人暮らし
1.材、1.特、1.安、2.価、2.評、2.機、2.耐、2.販、3.外、4.環、5.量、5.ブ、6.生、6.社
消費者E 30~49歳
男性
  • 会社員
  • 妻、子供3人と同居
1.材、2.価、3.外、4.生、5.社、6.販、7.環、8.量

注:参加消費者には事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する上位8(もしくはそれ以上の)項目の回答を得た(回答者によっては複数項目を同列に扱っている場合もある)。選択対象項目とその漢字1文字の表記は以下のとおり。「価」は価格、「材」は原材料や素材、「評」は口コミや評判、「量」は数量、「ブ」はブランドやメーカー、「生」は生産地、「質」は品質、「外」は外観やパッケージ、「安」は安全性、「機」は機能性、「特」は特典、「耐」は耐久性、「販」は販売方法や買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、「環」は環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、「社」は社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。
出所:消費者5人の回答を基にジェトロ作成


座談会風景=米サンフランシスコのアクセラレーションセンター会議室内で(ジェトロ撮影)

座談会では、司会者が省エネ・省資源、消費財、サービスなどのテーマごとに話題を振り、それに対して消費者5人が自由にコメントをする形式で進行した。以下の各消費者のコメントはテーマ別に整理したもの。

各消費者にサステナブル消費を心がけるきっかけについて聞いたところ、回答は三者三様だったが、自身の実体験が大きく影響していることが明らかになった。消費者Aは、前職の職場でRecology(注4)のスタッフの話を聞く機会があり、「『過去1年で出したリサイクルできないごみはこれだけ』と金属片のようなものが入った小さなケースを見せてもらい、そのライフスタイルがとてもかっこ良いと思った」のがきっかけだったと語った。元地質学者だったという消費者Bは「仕事で訪れたごみ埋め立て地での光景が自身の消費に変化を与えた」と話した。3人の子どもを持つ消費者Eは「子どもを持ったことが大きなターニングポイント」だったとし、子どもたちの将来を考えてサステナブルな行動を心がけるようになったという。

日常的に使うものに高い環境意識

衣服や日用品など日常的に使うものに対するサステナビリティーへの意識についても多くのコメントがあった。衣服に関しては、「ファストファッションは避ける」「古着屋の利用」「修繕や着なくなった衣服の回収サービスを積極的に行っているブランドを選ぶ」といった行動が多かった。消費者Eは「1度だけ買う(Buy it for once)ことを意識して選ぶ」として、値段が高くても耐久性や環境に良いものを重視する。

プラスチック素材については、可能な限り避ける傾向があるようだ。消費者A、Cはデンタルフロスの素材を代えたという。日本のライオンが2014年2月に発表した調査によると、米国で15~69歳のデンタルフロスの使用率は60.1%(日本:19.4%)と高く、米国人にとっては必須アイテムだ。「友人に勧められ、SNSではやっていたデンタルフロスを使っていたが、プラスチック製フロスを毎日使い捨てていることに抵抗があった」(消費者C)として、竹製のデンタルフロスに代えたという。消費者Aも「コンポストにできるトウモロコシの繊維でできたデンタルフロスに代えたことで、(プラスチックごみを出しているという)罪悪感が軽減された」と話す。

プラスチックに関しては、製品の包装についても議論があった。食品に関しては、「プラスチックの包装はできるだけ避ける」「外装が紙やガラス瓶などのリサイクル・再利用しやすい素材のものを選ぶ」といった傾向が強い。他方で、「価格や鮮度の面から、プラスチックの個別包装のものも避けられない」という意見もあり、プラスチック包装を完全に回避するのは限界があり、バランスを取りながら最善の選択をしているのが実態のようだ。

オンライン購入は日常的に利用しているが、「配送時に大きい箱に緩衝材が大量に入って届くので、オンラインでの小さくて少量の買い物は避ける」(消費者B)、「過剰包装が気になる」(消費者D)など、包装資材がもったいないという声が目立った。また、オンライン購入でのプラスチック緩衝材をリサイクルのために小売店舗で回収するサービスもあるというが、「回収してくれる店舗が遠く、運転して行く分のカーボンフットプリントを考えると、矛盾を感じる」(消費者E)といい、パッケージや包装資材などのリサイクルにはストレスを感じているようだ。

表2:消費者5人が過去1年間に購入したことのある環境配慮の製品の例
消費者 購入商品・サービス(価格) 購入
頻度
購入場所 決済方法 購入の決め手・理由
消費者A トウモロコシ繊維でできたデンタルフロス
(10ドル)
3カ月に1回 サステナブル製品専門店 クレジットカード 耐久性、環境にやさしい素材・パッケージ
消費者B オーガニック製品 毎週 Whole Foods MarketまたはSprouts クレジットカード 無農薬で環境・健康によい
消費者C Kula Cloth 月に5回 REI(アウトドアショップ) クレジットカード 繰り返し使える、持ち運びできる
食品・日用品 2カ月に1回 Rainbow Grocery クレジットカード 自宅から近い
量り売り、必要な分だけ買える
消費者D オーガニックサプリメント 半年に1回 Amazon クレジットカード 無農薬の原材料を使っている
消費者E キャリーワゴン
(325ドル)
対面販売 現金 子どもの送り迎えや近所の買い物に利用
ガソリン代の節約、環境負荷の軽減

出所:消費者5人の回答を基にジェトロ作成

そのほかの素材では、「PFAS(有機フッ素化合物の総称、注5)が含まれる製品を避ける」(消費者B)との意見があった。PFASは強い耐久性や撥水(はっすい)性から、食品パッケージ、鍋やフライパンのフッ素加工、アウトドア製品や靴などの防水・撥水加工などに使われてきた。近年では、自然界や体内で分解されにくく、人体や環境に蓄積されていくことが問題視され、飲料水などからも検出されており、各国で規制が始まっている。米国では、飲料水に対する規制(2023年3月15日付ビジネス短信参照)のほか、カリフォルニア州、ニューヨーク州で衣類や紙製の食品包装などへの使用を段階的に禁止する動きがある。民間レベルでも、マクドナルドやウェンディーズなどのファストフードチェーン、ホールフーズ・マーケット、ホームデポ、アマゾン、REIなどの米国の小売り大手、衣料ブランドのH&M、アウトドアブランドのパタゴニアなどが自社製品や取扱製品についてPFASの使用を禁止すると発表している。

省エネやカーボンフットプリントの少ない移動手段は習慣に

省エネの観点では、昨今の電気代高騰も影響し、光熱費節約への意識の高さがうかがえた。消費者Aは、サーモスタットをNest Labs(注6)のものに代えたという。米国の住宅は全館空調が一般的で、室内温度を調節する温度調節機のサーモスタットが多くの家庭に備えられている。Nest Labsのサーモスタットは「スマホのアプリで外出先からコントロールでき、省エネにつながる」のが一番の利点だという。また、「洗濯をオフピーク料金となる早朝や夜に行うようにしている」(消費者C、E)、「照明をLED電球に代えた」(消費者B)という意見もあった。水道代については、「毎月の明細書とともに送られてくる使用量に関するレポートを見て、その都度、使用量を見直す」(消費者B)など、省エネ・省資源につながる行動は当たり前になっているようだ。

移動手段も、公共交通機関、レンタルサイクルや電動スクーターなどを積極的に利用する声が上がった。消費者Eは「子どもの送り迎えや近所の買い物の際には、自動車ではなくキャリーワゴンを使っている」と話す。また、飛行機に乗る際は「グーグルフライトを見て二酸化炭素の排出量をチェックして決める」(消費者C)という。ただ、「価格があまりに高い場合には、排出量の少なさを優先できない」というジレンマもあるようだ。消費者Aは「今より所得が高かった時は、利用したフライトや車での長距離移動の実績から計算して月に50ドルをカーボンオフセット会社に寄付していた」と話す。また、利用頻度が少ない製品やサービスの場合、環境配慮の消費行動の優先度は下がるという。

環境配慮についての信ぴょう性、判断に難しさ

環境に配慮した商品・サービスの選び方について、参加者に共通して「本当に環境にやさしいのかどうかを判断するのが難しい」という意見が目立った。例えば、食品では「オーガニックなど、さまざまな認証や売り文句が付いているが、違いがよくわからない」(消費者D)や「オーガニック食材を選ぶようにしているが、認証の定義は製品によってばらつきがある」(消費者B)など、認証やキャッチフレーズなどへの懐疑的な意見がみられた。また、「エコでサステナブルな製品だと宣伝している製品でも、実際にはプラスチックがたくさん使われているなど、グリーンウォッシュ(注7)を疑ってしまうものも多い」(消費者A)という。商品・サービスの仕様や販売・宣伝方法によっては「サステナビリティー」などの表現がただのマーケティング手法に見えてしまうようだ。

そのため、複数の参加者から、「企業やブランドのウェブサイトなどにサステナビリティーのページがあり、情報が充実していると安心する」(消費者A)、「消費者がアクセスしやすい情報開示が重要」(消費者A)、「積極的な情報開示は顧客ロイヤリティーの向上につながる」(消費者D)という企業側の情報提供の仕方への関心も高かった。表現の点では、「ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)という言葉には興味を引かれる」(消費者B)といった意見もあり、使う表現にも工夫が必要だろう。

日本製品は高品質、サステナブルというイメージは?

日本製品のイメージについては、一様に「高品質だけど、必ずしもサステナブルではないイメージがある」という認識を示した。ただし、高品質なことから、「長く使えるという点で環境負荷が低い」との評価だった。また、プラスチックの個別包装や商品の外装などについて、「日本製品は楽しい、かわいいなどのユーザー体験がとても豊かだが、包装がやや過剰のように感じる」という指摘もあった。「日本人の文化や生活習慣はサステナブルだと思う」(消費者A、E)、「日本の物流はとても環境に配慮しているイメージがある」(消費者D)というコメントもあり、製品よりもライフスタイルやサービスの面でポジティブなイメージがあるようだ。 他方、サステナビリティーの観点では、カーボンフットプリントの少なさという点で、米国製品によいイメージを持つ参加者が多かった。具体的にブランド名が挙げられたのは、アパレルメーカーのパタゴニアやアメリカン・アパレルだ。両者とも、ウェブサイトで原材料調達から製造工程まで透明性の高い環境配慮関連情報を提供している点が高く評価された。また、環境面だけでなく、「労働者の待遇の情報開示も非常にクリア」な点にも好感が集まった。

今回の座談会では、自分のライフスタイルのこだわりは維持しながら、環境にやさしい選択を最大限している点が共通していた。また、日常的によく利用する製品やサービスほど、プラスチックを避けるなど環境にやさしい素材を意識する傾向が強い。「サステナブル」「エコ」「グリーン」などを売りにするさまざまな製品・サービスが出回る中、信ぴょう性を確かめるために自身で調べる姿勢もみられた。消費者が簡単にアクセスできるサステナビリティー関連の透明性の高い情報開示は、環境配慮型の製品・サービスの展開で、意識の高い能動的な顧客の獲得に特に重要といえるだろう。


注1:
本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティー」は、省資源や脱炭素化、リサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた取り組みを指す。
注2:
米国でコンビニエンスストアやガソリンスタンド向けにソリューション提供を行う調査・コンサルティング会社のPDIテクノロジーズが、18歳以上の一般的な米国人1,062人に対して、2022年3月にオンライン方式でアンケートを実施。
注3:
サンフランシスコで2023年2月13日に実施。座談会に参加した消費者5人については、ジェトロと協力会社でサステナブル消費に関心があると判断して選出した。消費者の考え方や行動に偏りが出ないよう、選出に当たってはできるだけ世代、性別、家族構成などが分散されるように心がけた。
注4:
米国の民間ごみ収集会社。カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州が州内のごみ収集業務を委託している。
注5:
PFAS(パーフルオロアルキルとポリフルオロアルキル化合物)。
注6:
2010年に創業したスマートハウスデバイスとアプリケーションの開発・製造企業。2014年にGoogleに買収された。
注7:
企業などが実態が伴わないのに環境配慮をしているように装うこと。環境配慮の「グリーン」と、ごまかしや、うわべだけを意味する「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。