特集:現地消費者のサステナブル消費の実情環境意識は黎明期、地場企業に厚い信頼(インド)
ジェトロの消費者座談会

2023年4月25日

世界がカーボンニュートラル実現に向けて動き出した一方で、近年はエネルギー価格をはじめとする物価の高騰が続く。これらの外部環境の変化がサステナブル対応(注1)に意識の高い消費者の行動にどのような影響をもたらしているのか。世界主要国の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応商品やサービスの開発・提供へのヒントを探る。本稿では、インド・ニューデリーの消費者を取り上げる。

なお、本稿に登場する消費者はインドの消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象であり、記事中で紹介するコメントなどは消費者一個人の考えや行動という点を理解してもらいたい。

高まり見せるサステナビリティーへの関心

米国のコンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーが2022年1月に発表した、インドを含むアジア大洋州11カ国を対象に実施したアンケート調査(注2)によると、インドの回答者の94%が「サステナブルな商品への支出を増やす意思がある」と回答し、サステナブル消費に対する前向きな姿勢がうかがえた。他方、商品購入時に最も優先する条件として「健康への利益」を挙げた比率が49%と最も高かったのに対して、「環境や社会への利益」という比率は20%にとどまり、「言うこととやることの差(say-do gap)」が課題と指摘されている。

ジェトロは、サステナブル消費に関心を持つインド・ニューデリー近郊に住む消費者5人による座談会(注3)を実施した。参加した5人の特徴は表1のとおり。

表1:座談会に参加した消費者5人の属性・購買行動
消費者 年代、
性別
職業、家族構成や同居人の有無 購入時の優先項目(注)
(数字は優先順位)
消費者A 20代
男性
  • 会社員
  • 1人暮らし
1.質、1.機、1.環、1.社、2.安、2.特、3.外、4.価、4.評、4.耐、5.ブ、6.販、7.量、7.生、8.材
消費者B 40代
女性
  • 会社員
  • 夫、子供と同居
1.材、1.質、1.安、1.耐、1.環、2.価、2.量、2.機、2.販、2.特、2.評、3.外、3.社、4.ブ、4.生
消費者C 50代
男性
  • 自営業
  • 家族と同居
1.質、1.特、1.環、2.材、2.安、2.ブ、2.機、2.販、2.社、3.価、3.評、3.耐、3.外、4.量、4.生
消費者D 30代
男性
  • 会社員
  • 妻と同居
1.特、1.環、2.量、2.機、2.耐、2.社、3.販、3.ブ、3.評、3.外、4.生
消費者E 20代
女性
  • 会社員
  • 家族と同居
1.価、1.量、1.質、1.機、1.環、2.材、2.特、2.生、2.安、2.社、3.販、3.ブ、3.耐、4.外、4.評

"注:参加消費者には事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する上位8(もしくはそれ以上の)項目を挙げてもらった(回答者によっては複数項目を同列に扱っている場合もある)。選択対象項目とその漢字1文字の表記は以下のとおり。「価」は価格、「材」は原材料や素材、「評」は口コミや評判、「量」は数量、「ブ」はブランドやメーカー、「生」は生産地、「質」は品質、「外」は外観やパッケージ、「安」は安全性、「機」は機能性、「特」は特典、「耐」は耐久性、「販」は販売方法や買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、「環」は環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、「社」は社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。
出所:消費者5人の回答を基にジェトロ作成"

座談会では、司会者が省エネ・省資源、消費財、サービスなどのテーマごとに話題を振り、それに対して消費者5人が自由にコメントをする形式で進行した。以下の各消費者のコメントはテーマ別に整理したもの。


座談会風景=インド・ニューデリーの貸会議室内で(ジェトロ撮影)

規制強化によりプラスチック削減への意識高まる

インドでは、2016年3月にプラスチック廃棄物管理規則が制定された。複数回の改正を経て、ストローやコップなどの使い捨てプラスチック、スーパーのレジ袋など持ち運び用プラスチック袋、一定の厚み以下のプラスチックシートの規制を強化した。規制対象製品は使用禁止となり、紙や不織布、政府が認めるプラスチックにほぼ代替されている(2023年1月13日付地域・分析レポート参照)。こうした規制強化を背景に、今回の座談会参加者に共通して「使い捨てプラスチックを使わない」という意識が高かった。使い捨てプラスチックを使わないことに対して、「政府も推進しており、正しいことをしているという実感がある」(消費者C)と話す。脱プラスチックの具体的な対応としては、「ジュートバッグを使う」(消費者B、C)、「オフィスではマイボトルを利用する」(消費者A)という基本的な行動が多かった。

環境配慮製品、多少高くても購入を検討

エネルギー利用の観点では、「エネルギー効率のよりよい製品を買う」という声が目立った。最近、冷蔵庫とテレビを購入した消費者Aは「(省エネラベルの)星の数を参考にして購入した」と話す。インドでは2006年5月から家庭用電気製品を対象とした省エネラベル制度「Standards & Labeling Program外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を導入し、年間のエネルギー消費量によって5つ星評価で省エネ性能を表示しており、星の数が多いほど省エネ性能が高いことを示す。2023年4月現在、省エネラベルの貼付は霜取り不要の冷蔵庫や、エアコン、直冷式冷蔵庫、カラーテレビなど11品目で義務化、洗濯機、電子レンジ、パソコンなどを含む23品目で任意となっている。ラベルには、星の数以外に年間エネルギー消費量の実際の数値も記載していることから、「星の数が5つでなくても、5つ星に近いエネルギー消費量の製品もあるので、実際の数値もチェックする」(消費者A)という。 省エネ性能の高い製品を購入することは、電気代の節約という観点からも重要なようだ。消費者Aは「(省エネ性能の高い製品は)初期投資が必要だが、長期的にみると経済的」という点も購入のポイントだったと話す。消費者Bは「自宅にソーラーパネルを設置し、家庭の電力消費は太陽光発電でほぼ賄っている」という。ソーラーパネルを導入したことで「トータルでみれば電気代の節約にもつながるし、国(の脱炭素方針)に貢献していると感じられる」としている。

今後、省エネや環境配慮の製品・サービスを購入する際に重視するポイントを聞いたところ、共通して「リサイクル可能な素材かどうか」「長期的にみて、エネルギーの節約につながるかどうか」「耐久性」「性能と価格のバランスがいいか、自分にとって適切か」などの意見が上がった。価格面では「環境に配慮した製品でも、価格が高過ぎる場合は購入を考えてしまう」(消費者B、C)といい、「どのくらいの価格差ならば受け入れられるか」という質問には、予算にもよるが、ほぼ全ての参加者が「20~25%くらいまでならば、多く払っても構わない」と回答した。

地場新興企業のブランドやサービスの利用も

参加者からは、環境問題の解決に取り組む地場スタートアップ企業の製品やサービスを利用するという声も聞かれた。

消費者Eはインドの美容ブランド「mamaearth」の製品を好んで買うようになったという。mamaearthは2016年に創業し、2021年にユニコーン企業となったオーガニック・スキンケア・ブランドだ。このブランドを選ぶ理由として、オーガニックかつ手頃な価格帯ということに加え、「購入者1人につき1本の木を植林する活動をしていることに共感した」と話す。

消費者Dは、穀類やスパイス、果物など一部の食料品を量り売りする専門店「Adrish Zero Waste Organic Store」で買うという。同店は2018年創業のオーガニック食品専門店で、インド全国に19店舗を展開している。入れ物を持参するため、「プラスチック包装を含めたごみを出ないことや、農園直送でオーガニックであることが利用の決め手」で、月に2度ほど利用するという。消費者Dは、購入したことはないが、「お供え用の花を再利用して線香を作っているブランドに関心がある」と話す。寺院などに供えられた後、ガンジス川に流すことで廃棄される大量の花で手作りの線香を生産している地場のスタートアップとして「PHOOL」がある。2015年に設立され、ガンジス川の水質汚染解決への貢献として活動に取り組むほか、女性の雇用促進にも注力している。


オーガニック食材の量り売り店舗(ジェトロ撮影)

穀類、豆類、スパイス、果物などが量り売り方式で
購入できる(ジェトロ撮影)

消費者Bは「Bintix」のごみ回収サービスを利用しているという。同社は埋め立てられるごみの削減を目標に2018年に設立された。インド7都市で、リサイクルまたは再利用が可能な資源ごみとして、古紙、ペットボトル、プラスチック、空き缶を含む金属類、瓶、衣服などの回収を行っている。利用者は専用のごみ袋を買い、資源ごみの量に応じてBintixからデジタルウォレットを通してキャッシュバックが得られる。消費者Bの住む地域では、週1回のペースで回収されるという。「資源ごみが確実にリサイクルされるし、環境に良いことをしているという実感がある」と評する。

表2:消費者5人が過去1年間に購入したことのある環境配慮の製品例(-は値なし)
消費者 購入商品・サービス(価格) 購入
頻度
購入場所 決済方法 購入の決め手・理由
消費者A 家電(テレビ3万ルピー、冷蔵庫10万ルピー) オンライン クレジットカード 省エネモデル(4~5つ星)
消費者B Bintix(リサイクルごみの回収サービス)
(20~30ルピー/回)
週1回 現金 環境にやさしい
ごみを回収しに来てくれるため、利便性が高い
消費者C ヘアアイロン
(3,000ルピー)
オンライン デビッドカード 省エネモデル
消費者D オーガニック食品 月2回 量り売り食料品店 現金 パッケージが少なくて済む、オーガニックで健康によい
消費者E ハイブリッドカー(マルチスズキXL6)
(130万ルピー)
ショールーム デビッドカード 環境負荷が少ない

出所:消費者5人からの回答を基にジェトロ作成

多方面から情報収集、レビューは真偽見極めが重要

製品・サービスの購入時だけでなく、環境配慮に関する情報や企業・ブランドなどについて、多くの消費者が日ごろから意欲的に情報収集を行っていた。前述の家電やスタートアップ企業の製品・サービスについても、日常の情報収集に基づいて購入判断をしている。情報の入手方法は多岐にわたり、ユーチューブ、グーグル、インスタグラム、フェイスブックなどのオンラインでの入手のほか、雑誌も主な情報源のようだ。「ウェブサイトで技術や仕組みを確認する」(消費者C)、「グーグルのレビューをチェックする」(消費者A、D)といった声も多く聞かれた。「1つの情報だけでなく、複数から情報を得る」(消費者A、C)、「偽りのレビューもあるので、情報の見極めが重要」(消費者C)という。

地場企業に対する厚い信頼

日本製品については、「品質が優れている」「環境に配慮していそう」といった、やや抽象的なイメージにとどまった。品質面から日本製品を好む傾向はうかがえたが、環境面では具体的な事例などは浮かばないようだった。環境に配慮している製品が多い国には米国やドイツなども挙がったが、いずれも日本に対するものと同様の認識だった。消費者Cは、タタグループやリライアンスグループなど地場コングロマリットを挙げ、「彼らは多くのCSR活動や環境保護活動を行っている。こうした企業との提携によって信頼感が得られるのでは」と話す。工業製品などの品質面では日本やドイツの方が優れているとしながらも、地場企業をより好む傾向が見て取れた。

今回の座談会では、環境配慮については多彩な情報源から情報収集を積極的に行い、自身が共感や納得できる製品・サービスを利用するという姿勢が共通してみられた。実際に自分で技術面やエネルギー消費量の数値などを確認する消費者もおり、具体的な製品・サービス情報の公開が重要のようだ。また、製品・サービス購入時には長期的な視点、トータルコストで考えるという特徴もみられた。地場企業やブランドを好む傾向も高く、日系企業がこうした消費者の共感や信頼を得るためには、そうした企業との提携やコラボレーションなども共感や信頼を得るための一手として考えられよう。

最後に、座談会参加者にはそれぞれ環境配慮への意識がみられたが、インドで消費者向けビジネスを行う日系企業によると、「全体的にみれば、環境意識はそこまで高いとは言えない」というのが実態のようだ。他方で、環境意識の変化や消費市場の成長性に期待する企業もある。電機メーカーA社は、世界主要国・地域の消費者を対象に行った自社調査の結果から、「20代に限ってみると、インド人の環境に対する意識は他国・地域と比べてもかなり高い」と話し、若い世代に向けてサステナビリティーを重視したマーケティングを積極的に展開していく計画だという。消費財メーカーB社も「再生材料を使った商品ラインナップを増やしていきたい」と話し、将来的に環境への関心が高まる可能性を見込んでいる(注4)。巨大な成長市場・インドは、環境に配慮した製品・サービスの潜在市場でもあり、将来に向けての準備・仕込みを始める時期かもしれない。


注1:
本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティー」は、省資源や脱炭素化、リサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた取り組みを指す。
注2:
米国のコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーがアジア大洋州11カ国(シンガポール、オーストラリア、日本、韓国、タイ、マレーシア、ベトナム、中国、インド、インドネシア、フィリピン)の消費者計1万6,824人を対象に行った。各国の回答者数の内訳は公表なし。
注3:
インドのニューデリーで2023年3月5日に実施。座談会に参加した消費者5人は、ジェトロと協力会社でサステナブル消費に関心があると判断して選出した。消費者の考え方や行動に偏りが出ないよう、選出に当たっては、できるだけ世代、性別、家族構成などが分散されるように心がけた。
注4:
A社は2023年3月7日に取材、B社は2023年3月6日に取材を行った。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。