特集:現地消費者のサステナブル消費の実情サステナブルな製品の購入、価格と価値観のバランスを重視(韓国)
2024年4月22日
世界がカーボンニュートラル実現に向けて動き出す中、消費者向けビジネスでも「環境配慮」の潮流が加速している。このような潮流の中、サステナブル対応(注1)に意識の高い消費者の行動にはどのような特徴がみられるのか。世界主要国の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応製品やサービスの開発・ヒントを探る。本稿では、韓国ソウルの消費者を取り上げる(座談会実施日:2024年3月9日)。
なお、本稿に登場する消費者は韓国の消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象で、記事中で紹介するコメントなどは消費者一個人の考え方や行動という点を理解してもらいたい。
韓国消費者の4人に3人がサステナブルな製品の選択を重要と認識
日本のマーケティング大手・楽天インサイトが韓国を含むアジア大洋州11カ国・地域を対象に実施したサステナブル消費に関するアンケート調査(2024年2月発表、注2)によると、サステナブルな製品の選択について、韓国の消費者(回答者6,235人)のうちの72%が「重要」と答えた。消費者が行っているサステナブルな行動では、「使い捨てプラスチックの使用を減らす」が75%と最も高く、次いで「サステナブルな包装の製品を選ぶ/プラスチック包装の製品の購入を減らす」が41%と続き、プラスチックの使用削減への意識の高さがうかがえる。
他方、サステナブルな消費行動を実践する上での課題としては、韓国の消費者の46%が「価格が高過ぎる」を選択した。この項目への回答割合は、調査対象11カ国・地域の中で最も高かった。また、「サステナビリティ(サステナブルな製品)に対してより多く支払いますか」という質問に「はい」と答えた割合は55%と半数を超えたものの、対象国・地域の中ではシンガポール(38%)に次いで低かった。サステナブルな製品の購入に対して、「価格」とのバランスを重視する傾向が他国・地域に比べて高いことが推察される。
ジェトロ、サステナブル消費に関する消費者座談会を実施
ジェトロは、サステナブル消費に関心を持つ韓国ソウル市内に住む消費者6人による座談会(注3)を実施した。参加した6人の特徴は表1のとおり。
消費者 | 年代、性別 |
職業、家族構成や 同居人の有無 |
購入時の優先項目(注) (数字は優先順位) |
---|---|---|---|
消費者A | 20代、女性 | 会社員、一人暮らし | 1.評、2.質、3.環、4.外、5.材、6.社、7.安、8.価 |
消費者B | 20代、男性 | 大学生、一人暮らし | 1.材、2.環、3.耐、4.質、5.価、6.外、7.機、8.安 |
消費者C | 40代、男性 | 会社員、妻、子供と同居 | 1.環、2.社、3.価、4.特、5.ブ、6.安、7.質、8.量 |
消費者D | 30代、女性 | 会社員、一人暮らし | 1.材、2.環、3.価、4.外、5.機、6.質、7.ブ、8.耐 |
消費者E | 30代、女性 | 主婦、夫と同居 | 1.質、2.価、3.環、4.評、5.ブ、6.生、7.安、8.耐 |
消費者F | 40代、男性 | 会社員、妻、子供と同居 | 1.価、2.質、3.機、4.材、5.特、6.環、7.評、8.安 |
注:参加消費者には事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する上位8項目を挙げてもらった。選択対象項目とその漢字1文字の表記は次のとおり。「価」は価格、「材」は原材料や素材、「評」は口コミや評判、「量」は数量、「ブ」はブランドやメーカー、「生」は生産地、「質」は品質、「外」は外観やパッケージ、「安」は安全性、「機」は機能性、「特」は特典、「耐」は耐久性、「販」は販売方法や買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、「環」は環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、「社」は社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。
出所:消費者6人からの回答を基にジェトロ作成
座談会では、司会が省エネ・省資源、消費財、サービスなどのテーマごとに話題を振り、それに対して消費者6人が自由にコメントをする形式で進行した。
日用品中心に環境配慮製品への高い関心
環境に配慮した製品の購入履歴を聞いたところ、洋服、キッチン関連用品、シャンプーや石けんなどの美容関連用品が目立った(表2参照)。
消費者 |
購入商品・サービス (価格) |
購入頻度 | 購入場所 |
決済 方法 |
購入の決め手・理由 |
---|---|---|---|---|---|
消費者A |
商品:シャンプーバー ブランド:Donggubat 価格:40,000ウォン |
年2回程度 | オンラインストア | カード | 紙の包装であり、プラスチックの使用を減らすことができるため。 |
消費者B |
商品:洗剤、たわし ブランド:hansalim 価格:50,000ウォン |
年3回程度 | オンラインストア | カード | 環境に配慮した原料を使っているため。 |
消費者C |
商品:食器洗い用洗剤 ブランド:Frosh 価格:40,000ウォン(まとめ買い) |
年3回程度 | コストコ | カード | 環境にやさしいため。 |
消費者D |
商品:衣類 ブランド:paloma-wool 価格:100,000ウォン |
年4回程度 | オンラインストア | カード | 倫理的に考慮して生産された素材を使っているため。 |
消費者E |
商品:シャンプー ブランド:AROMATICA 価格:30,000ウォン |
年2回程度 | ブランドの店舗 | カード | 持参した容器に詰めてくれ、プラスチックの使用を減らすことができるため。 |
消費者F |
商品:衣類 ブランド:PATAGONIA 価格:100,000ウォン以上 |
年1回程度 | 百貨店 | カード | ESGを実践しているブランドであるため。 |
注:1ウォン=約0.11円。
出所:消費者6人からの回答を基にジェトロ作成
購入対象の洋服では、米国のパタゴニア(Patagonia)、スイスのフライターグ(FREITAG)、スペインのパロマウール(Paloma Wool)など欧米のブランドが中心だった。消費者Bはパタゴニア製品を複数愛用していると言い、「価格帯は少し高いが、品質がよく、かつリサイクル素材を使っており、満足している」と評価した。同じくパタゴニアの製品を購入した消費者Fは「ESG(環境・社会・ガバナンス)を実践しているブランドであることが購入の決め手」と答えた。消費者Dが好んで購入しているというスペインのパロマウールは、持続可能な方法で地域に根付いたものづくりを軸としたアパレルブランド。消費者Dによると、「製品に使用するウールは動物に配慮して倫理的に生産されている」という。製品の価格帯は30万~40万ウォン(約3万3,000円~4万4,000円、1ウォン=約0.11円)と高いが、「コンシャス消費(注3)ができる」ことを理由に購入しているという。
キッチン関連用品では、食器洗い用洗剤やスポンジなどの消耗品を中心に、環境にやさしい製品を使っているという声が聞かれた。ドイツのブランドであるフロッシュ(Frosch)の食器洗い用洗剤は複数の参加者が使っていると答えた。また、韓国の生活協同組合の1つのハンサリム(Hansalim)の食器洗い用固形石けんやたわしも人気があった。生協は組合に加入するほか、加入していない場合でも全国の店舗で購入できるという。消費者Aによると、ハンサリムは「環境に配慮した農産物や製品を販売している」と言い、「価格は通常の製品に比べて1~2割ほど高いが、環境への優しさなどを基準に、納得できる製品を購入している」という。
美容関連用品では、韓国ブランドの名前が挙がった。消費者Eは韓国の化粧品ブランド・アロマティカ(AROMATICA)のヘアケア製品を愛用しているという。アロマティカでは、必要な分だけを持参した容器に入れ、量り売り方式で購入できる点がポイントだという。ビーガン原料の石けんブランド・ドングバット(Donggubat)は複数の参加者が購入していた。シャンプーバーや食器洗い用の石けんなどを購入していると言い、ビーガン素材が肌によいという理由のほか、プラスチックの包装材を使っていない点が主な購入理由だ。消費者Fは「普通の石けんより少し高いが、環境や肌にやさしく、気に入っているので買っている」という。
参加者全員、使い捨てプラスチックの利用削減には関心が高く、プラスチックの包装が少ない製品の購入や、カフェでのタンブラー利用、トウモロコシなどの植物性素材の代替品の利用など、さまざまな方法が挙がった。他方、再生プラスチックを使った製品に関しては、過剰な包装がされていなければ好ましいという意見も聞かれた。
食品関連の購入に関する意見は相対的に少なかったが、植物性の代替肉については、参加者全員が食べたことがあるといい、味もおいしいとの評価だった。日常的に代替肉製品を購入しているのは、消費者AとDだった。消費者Aは「代替肉製品はやや価格が高い」との評価だが、「単身世帯向けには十分に競争力があると思う」とコメントした。消費者Ⅾは、韓国の大手食品企業が手掛けるブランドのベジーガーデン(Veggie Garden)や、米国の植物肉ブランドのビヨンド・ミート(Beyond Meat)の製品をオンラインで購入しているという。実際に地場系大手スーパーマーケットでも、冷凍食品を中心に、代替肉の加工品などが売り場に並ぶ様子がみられた。スーパーマーケットの売り場では、韓国の食品メーカー・プルムウォン(Pulmuone)の代替肉の冷凍食品も並んでいた。
環境に配慮したサービスとして、ソウル市が2024年1月からテスト導入している「気候同行カード」に関しては、消費者B、D、Eの3人が利用していた。「気候同行カード」とは、公共交通機関の定期券。6万2,000ウォン券はソウル市内の地下鉄とバスが、6万5,000ウォン券は追加でタルンイ(公共自転車)が30日間無制限で利用できる。気候変動への対応を目的にしたもので、ソウル市内の移動が多い利用者をターゲットに、公共交通機関の利用促進を図る。本格導入は2024年7月からの予定という。消費者DとEは「普段から公共交通機関を利用しているので、割安感がうれしい」と、気候変動への対応という趣旨にも賛同しつつ、「交通費が節約できること」を購入の最大の理由に挙げた。消費者Bも価格面での優位性から購入したというが、「実際にカード導入で公共交通機関の利用が増えたという報道があり、購入してよかった」と、導入結果にも関心を寄せていた。他方で、モバイルで利用する場合はAndroidのスマートフォンのみの対応となり、それ以外はプラスチック製のカードを購入する必要がある点から、「気候変動対応という目的なのに、新たにプラスチックのカードを発行するのは残念だし、矛盾を感じる」と話した。
価格とのバランスの意識は高い傾向
参加者の間では「環境にやさしい製品・サービスは価格が高い」という認識が浸透していた。また、価格とのバランスや費用対効果への意識が高い点も共通していた。消費者CやFは「購入する製品カテゴリーの中に環境やサステナビリティに配慮した製品があれば(価格が多少高くても)優先的に買うようにしている」という姿勢だった。
参加者の中でも、サステナブルな製品・サービスを積極的に購入する傾向が強い消費者AとDは、双方とも「価格が高くても、周りにサステナブルな消費をしていることを見せたいという気持ちが多少なりともある」と言う。環境への配慮を含む自身のライフスタイルやイメージをSNSで発信することを意識した消費行動を優先する傾向もあるようだ。
価値観が近い人の体験談から情報収集
サステナブルな製品・サービスの購入に当たっての情報収集の方法はさまざまだったが、それぞれYouTube、Instagram、個人ブログなど、インフルエンサーによる体験談などの情報を参考にしている消費者が多かった。家電や日用品を中心とした製品の体験談レビューを行うインフルエンサーの動画を参考に、エコな製品を探すという声が聞かれた。
また、韓国のオンラインファッション通販サイトのムシンサ(MUSINSA)が運営するアプリ・CQRを利用している消費者もいた。CQRは、サステナブルなライフスタイルに関心のある層をターゲットに、サステナビリティに配慮した製品・サービス情報を発信しているという。アプリ内では、さまざまなブランドのサステナビリティに関するデータがまとめられており、「ビーガン」「エコパッケージ」「クルエルティーフリー」(注4)などのキーワードに応じた検索もでき、自身の関心に合わせたブランド探しも可能だという。消費者Dによると、CQRでは利用者がサステナブルな製品やブランドのレビューを共有するコミュニティーもあり、よく参考にしているという。
日本製品のイメージは「緻密」「高品質」
日本製品・サービスに対しては、「緻密」「精巧」「品質が良い」「実用的」というイメージを持つ消費者が多く、「環境配慮」や「サステナブル」という印象は弱かった。消費者によって日本製品・サービスの利用度合いは異なるが、好きな日本の製品としては、文房具、ビールなどの酒類、漫画などが挙がった。文房具などは昔から愛用しているという声も多かった。
韓国では、2019年の夏以降、日本製品の不買運動が起き、自動車や酒類などに影響が出たが、2022年半ばから日韓関係の改善に伴い、日本製品の輸出も回復傾向にある(2023年5月30日付地域・分析レポート参照)。現在の日本製品の購入に関しては、一部の消費者に「今も購入を避けている日本のブランドはある」という意見もあり、個人の価値観に左右される面があるのが実情のようだ。
対して、サステナブルなイメージのある国としては、北欧諸国、ドイツ、米国などが挙がった。
韓国の消費者は、地場ブランドを中心にサステナビリティに配慮した製品やサービスが増えており、さまざまな方法で情報収集をして、自分のライフスタイルに合わせた選択をしているようだ。「サステナブルな製品・サービスを優先して購入する」という意見が共通してみられたが、価格や費用対効果に対する意識は高いと言えるだろう。また、SNSなどで発信されるインフルエンサーの体験談や製品レビューなどを参考に購入する製品を探すなど、自分の価値観やライフスタイルに近い発信を行う人やコンテンツの選択を好む傾向もみられた。選択肢が多い中、「環境配慮」や「サステナビリティ」だけではなく、個人が自分の好みかどうかを判断できるようなプラスアルファの特徴を付与することも重要だろう。
- 注1:
- 本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティ」は、省資源や脱炭素化、リサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた取り組みを指す。
- 注2:
- 楽天インサイトがアジア大洋州11カ国・地域(香港、インドネシア、インド、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、台湾、ベトナム)の16歳以上の消費者計10万9,780人を対象に行った。各国・地域の回答者数は、同レポートを参照。
- 注3:
- 環境や社会などに配慮し、ポジティブな影響をもたらすことを意識した消費。
- 注4:
- クルエルティー(残虐性)フリーとは、化粧品や日用品の開発・製造・販売などで、製品が消費者の手元に届くまでのあらゆる段階でも、動物を傷付けたり、動物実験によって殺したりしていないことを示す考え方。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり) - 2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。