特集:どうする?世界のプラスチック環境意識の高まりを背景に相次ぐ規制導入

2019年1月10日

世界の廃プラスチックの貿易に大きな変化が生じている。2017年12月31日から、中国が廃プラスチック(HSコード3915)の輸入を禁止した。世界最大の廃プラスチック市場が閉ざされた結果、東南アジアが新たな輸出先として注目を集めたが、これらの国々でも次々に規制が導入され、廃プラスチックは行き場を失いつつある。また、世界各国で環境問題の観点から「脱プラスチック」の機運が高まっており、プラスチック製品の利用を抑制する動きが起こっている。本レポートでは、世界の廃プラスチック貿易の動向と、各国の規制導入の動き、その背景について説明する。

中国の輸入規制で廃プラスチックは東南アジアへ

中国が2017年末に主に生活由来の廃プラスチックの輸入を禁止した結果、2018年1~3月の中国の廃プラスチック輸入量は9,400トンとなり、前年同期(193万トン)に比べ99.5%減少した(注1)。中国は2017年の世界の廃プラスチック輸入量の44%を占めたため、各国・地域の貿易に与えた影響は大きい(注2)。ASEAN、EU、米国、日本、また中国との中継貿易を担っていた香港も、中国への廃プラスチックの輸出量が99%以上減少した(表1参照)。

表1:中国の廃プラスチック輸入量の推移(単位:万トン、()内は構成比(%))(△はマイナス値)
国・地域 2015年 2016年 2017年 2018年1~3月
輸入量 輸入量 輸入量 輸入量 前年同期比(%)
総輸入量 735.5 734.7 582.9 0.9 △ 99.5
EU 171.7
(23.4)
142.8
(19.4)
124.0
(21.3)
0.1
(14.3)
△ 99.7
階層レベル2ベルギー 35.8
(4.9)
32.3
(4.4)
31.7
(5.4)
0.0
(0.9)
△ 99.9
階層レベル2ドイツ 53.3
(7.2)
39.0
(5.3)
30.1
(5.2)
0.0
(2.2)
△ 99.8
ASEAN 106.5
(14.5)
129.4
(17.6)
116.1
(19.9)
0.4
(39.5)
△ 99.0
階層レベル2タイ 44.6
(6.1)
43.2
(5.9)
33.4
(5.7)
0.1
(7.5)
△ 99.4
階層レベル2フィリピン 17.0
(2.3)
32.0
(4.4)
30.6
(5.3)
0.2
(21.8)
△ 97.9
階層レベル2インドネシア 12.1
(1.6)
18.9
(2.6)
20.3
(3.5)
0.0
(2.2)
△ 99.7
階層レベル2マレーシア 22.6
(3.1)
17.1
(2.3)
14.8
(2.5)
0.1
(7.4)
△ 98.5
香港 151.5
(20.6)
177.9
(24.2)
91.5
(15.7)
0.0
(2.4)
△ 99.9
日本 85.7
(11.7)
84.2
(11.5)
81.8
(14.0)
0.2
(20.8)
△ 99.0
米国 72.1
(9.8)
69.2
(9.4)
57.5
(9.9)
0.1
(12.7)
△ 99.3
オーストラリア 16.6
(2.3)
29.3
(4.0)
26.4
(4.5)
0
(0.0)
△ 100.0
注1:
掲載は2017年の輸入相手上位10カ国・地域。
注2:
2018年の中国の輸入データは1~3月分のデータのみ入手可能(2018年11月20日時点)。
出所:
グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

中国の代わりに、廃プラスチックの輸出先となったのがタイやマレーシア、台湾だ。2018年上半期の廃プラスチック輸入量は、タイが前年同期比542.4%増の34万トン、マレーシアは251.8%増の65万トン。また、台湾の輸入量も153.5%増の20万トンとなった(表2参照)。しかし、これらの国・地域も急激な輸入量増加を受け、相次いで廃プラスチックの輸入規制を導入している。タイは、7月に一部の港で廃プラスチック積載コンテナの荷揚げを禁止し、今後は2021年までに輸入を全面禁止する方針だ。マレーシアは、7月23日から3カ月間、廃プラスチックの輸入を行う企業および工場に対して発行した輸入許可証を停止する措置を発表し、10月23日以降は輸入許可基準を厳格化した上で、同停止措置を解除した。台湾も、廃プラスチックを含む資源ごみの輸入について、品質管理を強化する方針を示している。

表2:世界主要国・地域の廃プラスチック輸入量の推移(単位:万トン、()内は構成比(%))(△はマイナス値)
国・地域 2015年 2016年 2017年 2018年1~6月
輸入量 輸入量 輸入量 輸入量 前年同期比(%)
輸入量(38カ国・地域の合計) 1425.0 1443.1 1228.1 329.0 △ 54.4
EU(15カ国) 236.6
(16.6)
255.6
(17.7)
254.9
(20.8)
120.4
(36.6)
△ 9.6
階層レベル2オランダ 41.5
(2.9)
53.5
(3.7)
63.6
(5.2)
30.6
(9.3)
△ 8.4
階層レベル2ドイツ 54.6
(3.8)
58.1
(4.0)
51.0
(4.2)
21.9
(6.6)
△ 19.4
階層レベル2ベルギー 26.5
(1.9)
31.3
(2.2)
24.6
(2.0)
10.8
(3.3)
△ 25.6
階層レベル2オーストリア 24.8
(1.7)
23.3
(1.6)
22.3
(1.8)
10.5
(3.2)
△ 4.6
ASEAN(5カ国) 41.0
(2.9)
48.6
(3.4)
84.4
(6.9)
106.4
(32.3)
242.1
階層レベル2マレーシア 25.0
(1.8)
28.8
(2.0)
55.0
(4.5)
65.3
(19.8)
251.8
階層レベル2タイ 5.6
(0.4)
6.9
(0.5)
15.3
(1.2)
34.3
(10.4)
542.4
階層レベル2インドネシア 9.7
(0.7)
12.1
(0.8)
12.9
(1.0)
6.1
(1.8)
△ 8.9
階層レベル2シンガポール 0.5
(0.0)
0.3
(0.0)
0.8
(0.1)
0.4
(0.1)
30.7
階層レベル2フィリピン 0.2
(0.0)
0.5
(0.0)
0.4
(0.0)
0.3
(0.1)
38.3
香港 286.5
(20.1)
287.8
(19.9)
189.3
(15.4)
26.3
(8.0)
△ 80.0
米国 39.3
(2.8)
42.1
(2.9)
42.9
(3.5)
22.2
(6.8)
6.6
台湾 22.1
(1.6)
17.7
(1.2)
20.1
(1.6)
19.7
(6.0)
153.5
インド 19.8
(1.4)
17.7
(1.2)
15.4
(1.3)
10.3
(3.1)
37.0
(参考)中国 735.5
(54.7)
734.7
(53.6)
582.9
(50.6)
N/A
(N/A)
N/A
注1:
月別の廃プラスチックの輸入量データが利用可能な38カ国のデータに基づき作成。
注2:
EUに含まれている15カ国は以下のとおり:英国、ドイツ、ベルギー、フランス、オランダ、イタリア、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランド、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルグ。
注3:
ASEANについて以下の4カ国は月次データがないため、ASEANの合計に含まれてない:カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム。
注4:
中国の2018年の輸入量は、2018年1~3月のデータのみ利用可能なため記載していない。
出所:
グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

廃プラスチックによる環境や人体への悪影響の懸念

そもそも、中国が廃プラスチックの輸入を規制した背景には、適切な処理をされない資源ごみによって引き起こされる環境問題や人体への悪影響への懸念がある。2017年7月27日に中国国務院が発表した「海外ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」では、「海外から不法に輸入されるごみが後を絶たず、人々の健康と中国の生態環境の安全に深刻な危害をもたらす」と述べられていた。

国連環境計画(UNEP)の報告書によれば、プラスチックごみの発生量は1980年から増加し続けており、2015年には世界で3億トンのプラスチックごみが発生した。このうち再生利用(マテリアル・リサイクル)をされたものはわずか9%で、12%は焼却処理、残りの79%は埋め立て処理または不法投棄されたという。プラスチックごみの不法投棄については、海鳥や海洋生物がプラスチックを誤飲して死んでしまう危険性や、海に投棄されたプラスチックが細かい破片(マイクロプラスチック)となって魚の体内に蓄積され、人体に取り込まれる可能性が指摘されている。また、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の推計によれば、海洋に漂う廃プラスチックによって、環太平洋地域の観光業や漁業、運輸業に年間13億ドルの損害が及ぶという。

世界各国で相次ぐプラスチック抑制策

環境問題などを背景に、プラスチックごみの排出を抑制しようとする動きは、中国だけでなく、さまざまな国・地域で起こっている。特に、プラスチック袋や発泡スチロールなどの包装プラスチックは、プラスチックごみの約半分を占めることから、各国・地域で輸入・生産・利用に関する規制が設けられている。

UNEPの報告書によれば、プラスチック袋や発泡スチロール製品に関する国家レベルの規制は2015年以降、急激に拡大している。同年4月に欧州委員会が1人当たりのプラスチック袋の消費量を抑制するよう加盟国に指令を出したことが、影響しているという。また、アフリカでも、各国・地域の自治体が十分なごみ処理施設を有していないことから、ごみの排出量を減らすために規制が設けられている。さらに、ルワンダのように、クリーンな国であるというイメージを植え付け、観光客と投資を誘致するため、使い捨てプラスチックの禁止制度導入を検討している国もある。

州レベルで規制を導入している国も多い。例えば、米国カリフォルニア州は、2019年1月から全米で初めて、ストローを規制する法案を施行する予定だ。インドでは、西部マハーラーシュトラ州が2018年3月に「プラスチックおよびポリスチレン製品の製造、使用、販売、移動、取り扱い、保管に関する通達」を発表して以降、流通するプラスチック製品の量が減少しているという。

企業による脱プラスチックの取り組みも広がる

各国・地域で石油由来のプラスチック製品に対する規制が厳しくなる一方、生分解性プラスチックのような環境にやさしいプラスチックに注目が集まっている。中南米最大の電子商取引(EC)市場を運営するアルゼンチンのメルカドリブレは、独自に環境保全に乗り出し、バイオ関連企業ビオップのアルゼンチン支社に120万ドルを投資して、「完全に土に帰る袋」を400万セット調達する。ブラジルではサトウキビの生産量が世界1位であることを生かし、同国化学メーカーのブラスケムが、プラスチックに代わるサトウキビ由来のバイオベースポリエチレンを製造している。

近年、環境に配慮した企業活動が注目されており、投資家が企業価値を測るために、環境、社会、ガバナンスという非財務情報を考慮する、ESG投資が行われている。また、国連が2015年に採択した持続可能な開発目標(SDGs)の中にも、環境保全に関する目標が含まれており、世界規模で環境に配慮した取り組みが求められている。

今後も、各国・地域のプラスチックに関する輸入、生産、販売、利用の規制は厳格化される見通しであり、「脱プラスチック」が世界共通のキーワードとなる中、引き続き各国・地域の動向を注視していく必要がある。


注1:
2018年12月時点で、中国は一部の工業用プラスチック由来の廃プラスチック(HSコード3915に含まれる)は受け入れを行っているため、輸入量はゼロになっていない。
注2:
世界の廃プラスチック輸入量は、データが入手可能な153カ国・地域の合計とした。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。