特集:現地消費者のサステナブル消費の実情若い世代は日頃からサステナビリティを重視
ドイツの消費者座談会(後編)

2023年4月25日

ドイツの首都ベルリンの、サステナブル対応に意識の高い消費者の生の声を拾うシリーズ後編。本稿では「ビーガン食品」「動物福祉」「電化製品などの修理」「日本製品」などに対する意識や、「若い世代の価値観」について紹介する。

なお、本稿に登場する消費者は、ベルリンの消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象である。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動である点を理解してもらいたい。

ビーガン食品の市場拡大に潜む課題

食品についても、スペインで行われた消費者座談会(2023年3月28日付地域・分析レポート参照)と同じような意見が多く出た。フードロス問題を解決するために開発された「Too Good To Go」アプリを複数人が利用していると回答した。さらに、消費者Eは「中身の状態を梱包に映し出すことが可能になれば、賞味期限に依存せず、もっと長く商品を売ることができると思う」といった提案をした。

表の「食品(2)や(3)」のように、今回の座談会にはビーガン(完全菜食主義者)が複数名参加した。ドイツ連邦食料・農業省が2022年2月23日~3月7日に実施したアンケート調査(注)によると、肉やソーセージを毎日食べる人の割合は25%で、前年の調査結果から1ポイント減少した。動物性食品の代替品を毎日1回以上食べる人の割合は1ポイント増の9%だった。世代別にみると、14~29歳が14%、30~44歳が12%だった。ベジタリアン・ビーガン食品を買った理由(複数回答可)としては、75%が「好奇心のため」(前年から4ポイント増)、71%が「動物福祉のため」(同12ポイント増)、64%が「気候・環境に良いため」(同10ポイント増)と続いた。

ドイツではビーガン食品市場も急成長している。ドイツ連邦統計局発表(2022年5月)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、豆腐を使ったソーセージやグルテンで作られたステーキなどの代替肉製品の生産量は、2021年に前年比17.0%増の9万7,900トンを記録した(2019年比では62.1%の大幅増)。一方、ドイツ国内の1人当たりの食肉消費量は減少傾向で、2021年は1989年の統計開始以降で最低水準となった。

20代の消費者Dは「自分は何年もの間、肉を食べていない。同じ世代でも肉を食べない人が多い。代用肉製品は種類も豊富になっているし、品質もよくなっている」、30代前半の消費者Eは「自分は半分ベジタリアンだが、意識した上で肉も食べている」と話していたことからも、若年層の間では肉の消費を見直す動きが高まっているようだ。他方、同じく消費者Eは「最近出ている代替肉でつくられたシュニッツェル(子牛のカツレツ)などはほとんどがマーケティングだと思っている。高度に加工された食品は、本当にサステナブルなのかわからない。個人的にはこうした商品は買わないようにしている」と指摘しており、消費者Dも「原材料を見るとリストの半分が化学的な材料である場合もある。そうした原材料が含まれない食品を選ぶ」と語った。ビーガン食品の開発が進む一方で、本当に環境などに配慮した素材なのか、消費者も自身で判断する能力が問われている。

そのほか、動物福祉の観点では、ラベル表示が重要な役割を担っている。前述のアンケート結果でも、動物性食品の場合、89%が動物の生育に関する情報が「(非常に)重要」と回答し、「動物福祉ラベル」を重視する回答者は前年から6ポイント増の61%となった。動物福祉ラベルとは、動物福祉の考え方に沿った方法で育成された動物による動物性食品であることを示すもの。また、87%が同ラベルの表示義務化が「(非常に)重要」と答えた。ドイツでは、2023年中に「動物福祉ラベル」の表示義務化が開始される予定だ。消費者Fも「肉牛や鶏の飼育状態などは重視されると思う。有機食品はおのずと飼育環境が保証されている。有機専門店では肉の価格は一般店の倍近い水準だ。一方、スーパーマーケットでは、動物福祉を重視するラベルが付いていても(価格が安い場合)怪しいと思うことがある」と話し、消費者Eは「輸入品については評価できない」と問題点を指摘した。

電化製品は廃棄・買い替えではなく、修理して使う

電化製品については、携帯電話や家電を例にして議論がなされた。「電化製品(2)」のように、携帯電話などは修理可能なものを購入するようにしているという。そのほか、「携帯電話などは最初から長持ちしないように設計されている。マーケティング戦略だと思うが、消費者の立場としては反対だ。長く持つものを製造すれば、高価な製品であっても、それにお金を出す人は多いと思う」(消費者D)、「携帯電話の買い替えをやめるべき。修理の保証期間延長をメーカーも提供すれば、高くてもお金を出す人はいる」(消費者E)、「修理対応可や保証期間の長さなどの価値に対価を払うことについて、人々は昔よりも寛容になっていると思う」(消費者C)と、製品の廃棄や買い替えではなく、長く使用することへの付加価値を求める声が聞かれた。これらのコメントを後押しするかのように、欧州委員会は2023年3月、製品の修理を推進するための共通ルールに関する指令案を発表した(2023年3月27日付ビジネス短信参照)。製品の製造事業者に対して、法定保証の対象か否かにかかわらず、一定の条件で修理を義務付けるなど、修理をベースにした新たなビジネスモデルの構築を目指す。また、消費者Cからは、すべての部品が交換可能な「Fairphone」というスマートフォンが紹介された。洗濯機や冷蔵庫などの家電については、回収してそのまま再利用することを前提としたパッケージで売られているという。

表:ディスカッションテーマごとのサステナブル消費行動
テーマ 消費行動
食品 (1)「レストラン、パン屋、スーパーマーケットなどで廃棄される前の食品を安く購入できるサービス『Too Good To Go』を利用している」(消費者Eなど)
(2)「代替肉として、ジャックフルーツ(パラミツ)やグルテンミート(セイタン)を食べる」(消費者C)
(3)「ヨーグルトやチーズも植物性原料で作られたものとるようにしている」(消費者D)
電化製品 (1)「利用頻度の少ない電化製品は借りるようにしている」(消費者C)
(2)「電化製品は修理可能なものを買うようにする」(消費者A)
シェアリング (1)「商品を購入する際、まずはフリマサイト『ebay Kleinanzeigen』で探す」(消費者A)
(2)「荷台のついた電気自転車(Eカーゴバイク)の貸し出しサービス『sigo』を利用している」(消費者C)
(3)「紙の書籍を購入するのではなく、図書館でデジタル書籍(E-Book)を借りている」(消費者C)

出所:消費者6人からの回答を基にジェトロ作成

サステナブル消費を加速させるためには、政府による支援が必要、と指摘する消費者もいる。「サステナブルな商品の背景には、政治的な判断やロビー活動があると思う。お金がなくて有機農業ラベルの認証を取得できなくても、品質が良くサステナブルな食品を作っている農家はたくさんいる。政府にはこうした農家が経営を続けられるような支援をしてほしい」(消費者E)との指摘もあった。

日本製品への信頼は高い、長く使える商品が好まれるか

最後に、日本製品のイメージを聞いてみた。「使い捨てのものではなく、高品質のものを提供している」(消費者F)、「透明性が高い。日本の食料品などで産地が書いてあれば、捏造(ねつぞう)ではないはずだ」(消費者B)といったように、高品質や信頼性を評価する声が聞かれた。また、「日本といえば自動車産業をイメージする。トヨタの自動車は技術もいいし、ドイツメーカーよりも安い」(消費者A)、「トヨタ(の車)に乗っている。品質が良くて、長持ちする。構造が複雑でなくて、丈夫で壊れない点が結局のところサステナブルにもつながる」(消費者E)など、自動車を中心に技術力と耐久性も評価された。

「(輸送時に発生するGHGを相殺する)カーボン・オフセットを利用して日本から欧州に輸入された製品(Made in Japan)がいいか、それとも欧州に確保した生産拠点から供給された製品(Made by Japan)がいいか」という問いかけに対しては、「非常に重要なポイントだと思う。例えばニュージーランド産と書いてあったら、もう買う気がしない。それだけ遠くから、すなわちCO2を排出しながら、運ばれたものだから。車も組み立てはドイツであっても、バッテリーはアジアから輸入しているとすると、サステナブルといえるのか議論されてもいいと思う。消費地の近くに工場を建てるのも1つの考えだが、もう一方では耐久性のある商品、長く使える商品にすることも重要だ」(消費者A)といった意見があり、(日本から輸入する製品については)耐久性による差別化が商品購入時の比較検討材料の1つになりそうだ。

若い世代はサステナビリティを日頃から重視

最後に、若い世代のサステナビリティに対する価値観を聞いてみた。「同世代では、サステナブルがより重要なテーマになっていると思う。環境保護についても真剣に捉えている。同時に、すべてを実現できるわけではないものの、家計への影響や面倒さと環境保護とを天秤(てんびん)にかけるなど、それでも(環境保護を)意識はしている。また、表面的な視点にとらわれずに、社会的な価値観に沿う企業を応援するなど、(自身は)サステナブルについてより深く理解していると思う」(消費者D)、「生産地や価格など自分なりの購入基準を持っており、それに基づいて買い物している」(消費者C)など、現実的でありながらも社会問題を解決するために個人でできることを真剣に考えているようだ。また、「自分の子供を含めて、若い世代の大多数は運転免許を持っていないと思う。様々なモビリティが提供されているため。飛行機ではなく、列車など公共交通機関で移動している。若年層は日頃からサステナブルを意識していると思う」(消費者A)、「荷台のついた電気自転車(Eカーゴバイク)の貸し出しサービス『sigo』を利用している」(消費者C)など、若年層は環境負荷低減に対する意識が高く、自動車を保有することにメリットを感じられず、代わりに公共交通機関やシェアリングサービスを利用しているようだ。

今回の座談会では、竹を使った梱包材や代替肉など、環境に配慮した商品や梱包材(を使った商品)を購入していることがわかった。また、無駄なものを買わない、ものを長く使うといった考えに基づき、フードロス対策アプリや中古品取引プラットフォーム、シェアリングサービスといったサステナブル消費につながるサービスが日常的に利用されていることがわかった。日本企業が商品を現地で販売するには、耐久性による差別化を行うことで、価格が多少高くても、「長く使える」という観点で売れる可能性がありそうだ。他方、マーケティングの一環として、企業ブランドのイメージを良くするために、サステナブルを訴求する商品の中にはグリーンウォッシング(実質を伴わない環境訴求)が含まれると考えている消費者もいる。このため、企業には情報開示を徹底することが求められるだろう。ドイツの消費者には、動物福祉を重視する傾向があることも明らかとなった。ラベル表示については、EUの規制強化の動きを受けて、日本企業も共通基準を順守する必要があり、今後の動向を確認するとともに対応が求められるだろう。


注:
ドイツ連邦食料・農業省が14歳以上のドイツ人1,000人に対して、2022年2月23日~3月7日にアンケート調査を実施。調査結果の詳細はドイツ連邦食料・農業省のウェブサイト「『ドイツの食』と題する年次アンケート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を参照。

ドイツの消費者座談会

  1. 環境配慮と節約のために省エネ推進
  2. 若い世代は日頃からサステナビリティを重視
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
山根 夏実(やまね なつみ)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、市場開拓・展示事業部などを経て2020年7月から現職