特集:現地消費者のサステナブル消費の実情日本製品は「サステナブル」?
ASEAN3カ国の消費者座談会(後編)
2023年4月24日
シンガポール、タイ、ベトナム3カ国の、サステナブル対応に意識の高い消費者の生の声を拾うシリーズ・後編。本稿では、消費者の意識・行動から、日本企業がとるべきアプローチの方向性について考える。
なお、前編同様、本稿に登場する消費者は、3カ国の消費者を代表するものではなく、サンプル調査である(消費者A~Eがシンガポール、F~Jがタイ、K~Oがベトナム)。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動である点を理解してもらいたい。
情報収集はソーシャルメディア
前編で紹介した脱プラスチックの消費動向に加えて、3カ国の消費者に共通する点がもう1つある。購入する商品に関する情報収集先がソーシャルメディアに偏っている点だ。ソーシャルメディアの利用については「1日に1時間以上見る」(消費者B、消費者H)、また、「ソーシャルメディア上のグループで環境関連情報を入手する」(消費者M)という声が聞かれた。東南アジア各国はミレニアル世代、デジタルネイティブと呼ばれる1980年初~2000年ごろに生まれた世代の人口が多く、経済成長とともにスマートフォンが普及したことも相まって、ソーシャルメディアと相性が良い状況にある。
ソーシャルメディアの情報分析を行うMeltwaterとWe Are Socialが合同で作成した「2023 Global Digital Report」によると、全人口に占めるソーシャルメディアのアクティブユーザーの割合は、シンガポール84.7%、タイで72.8%、ベトナムで71.0%と世界平均の59.4%を大きく上回っている(日本は74.4%)。さらに、1日のソーシャルメディア平均利用時間は各国とも2時間以上と長い(日本は51分)。
他方、国によって、環境関連情報を入手するために利用するソーシャルメディアには違いがあるようだ。シンガポールでは60代の参加者を含め5人全員が動画共有アプリTikTokを利用すると回答したが、タイやベトナムではフェイスブックを日常的に利用する参加者が多く、ツイッターやインスタグラムを利用する参加者もいた。サステナブル消費を心掛ける消費者が、商品の選択肢を得るために利用するツールがソーシャルメディアであるならば、商品を販売する企業のマーケティングも消費者動向に合わせ、ソーシャルメディア上で行うのが妥当だろう。各プラットフォームはそれぞれ特徴が異なり、例えば、フェイスブックはコミュニティ形成型で、同じ趣味や興味・関心を持つグループに参加、フォローすることで、関連情報が自分のニュースフィードに表示されやすくなる。インスタグラムなら基本的に画像で、TikTokならショート動画でその製品の良さを表現した広告コンテンツを作成する必要がある。
相手国のソーシャルメディア上の動向にも配慮することで、その国の消費者にとってのサステナブルな価値観を表現、アピールしていくことができるだろう。
日本製品は高品質ゆえに、東南アジアの消費者嗜好に合致
自動車や家電製品をはじめとして、日本ブランドの製品は総じて「高品質」「耐久性がある」「機能性が高い」「細部までこだわっている」といった良い印象を持たれている。
シンガポールの参加者からは「日本メーカーの製品であれば、品質管理ができているので、生産地が日本以外であっても、ある程度信用ができる」(消費者C)、タイの参加者からは「ディティールへのこだわりがすごい。ペットボトルのキャップ1つとっても、こぼれないように考えられた大きさになっていると感じる(注)」(消費者I)、ベトナムの参加者からは「日本製品は耐久性に優れているので製品のライフサイクルが長く、ひいては環境にも良い」(消費者M)という声も聞かれた。また、無印良品を引き合いに出しながら「シンプル、素のままのナチュラルテイストの空間や、ニュートラルカラーが多いので、環境に配慮したブランドであるというイメージがある」(消費者K)という声があった。
3カ国の消費者は、日用品について、環境への配慮をうたった製品だから購入しているわけではなく、あくまで価格や品質、耐久性などの機能面を重視する。日本の製造業、製品の特徴としてよく言われる「長持ちする、壊れない」といった、日本人が当たり前と感じている日本製品の特徴は、すでにその商品の強みとなっているのだ。他方、これらの点については評価が高いものの、環境や社会に配慮しているというイメージにはつながっていないようだ。「メイドインジャパンには質が良い、耐久性に優れる、ディティールにこだわっているイメージがある。だが、特段、環境に良いとは思わない」(消費者O)という声や、「(MUJIの環境配慮の取り組みを知っているか尋ねられた時に)MUJIはデザインがとても良いブランドとして認知されているが、環境に優しいブランドという認識はない」(消費者F)という声も聞かれた(表参照)。
国名 | 消費者の考え |
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シンガポール |
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タイ |
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ベトナム |
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出所:消費者からの回答を基にジェトロ作成
グリーンウォッシュにならない、透明性の高い情報発信
座談会参加者は、それぞれサステナビリティの重要性を理解し、自身の消費行動に反映させている。一方で、「エコバッグ配布はマーケティングの一環で、本業を通じた環境配慮の取り組みが足りない企業ほど、そうした手法を用いた環境配慮のアピールに必死なだけ」(消費者J)と、企業の広告や活動がうわべだけの環境訴求であるグリーンウォッシュである可能性を指摘する声もあった。ベトナムの消費者からは「リサイクル素材でできた製品が(ヴァージン素材の同製品よりも)高価格な点に違和感を覚える」(消費者L)と同様の意見が上がっており、サステナビリティを志向する消費者は、冷静に、ある種冷ややかな目で企業の取り組みをみているといえる。企業や製品のサステナビリティ関連情報を、消費者に対して丁寧に、ソーシャルメディアの活用も含めた適切な手法で届けることが肝要となる。環境への配慮について透明性、客観性の高い情報発信によって消費者の冷静な目に応じる必要がある。また、参加者からも指摘の通り、耐久性の高さ、ライフサイクルの長さという観点でのサステナビリティも、東南アジアの消費者に訴求力の高い要素の1つであろう。
- 注:
- 例えば500ミリリットル(ml)のミネラルウォーターのペットボトルの蓋(ふた)の高さは、日本市場においてはおおよそ1センチ強だが、東南アジアでは数ミリの高さであることが多い。日本のペットボトルと比べて、蓋を開けたときに中の液体がこぼれやすい。
ASEAN3カ国の消費者座談会
- 「サステナブル」製品にも求められる高品質
- 日本製品は「サステナブル」?
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
渡邉 敬士(わたなべ たかし) - 2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事したのち、ジェトロ岐阜にて中小企業の海外展開を支援。2022年11月から現職。