特集:現地消費者のサステナブル消費の実情サステナブル消費、地域・人で傾向が異なるも着眼点は共通(総論)

2023年7月4日

近年関心が集まるサステナブル消費は、省資源、脱炭素化やリサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性や社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮などに対応した消費を指す。物価高騰など外部環境の変化は、サステナブル消費に意識の高い消費者の消費行動にどのような影響をもたらしているのか。本特集では、日本産品やサービスの売り込み先となり得る、世界の主要消費市場の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応商品やサービスの開発・提供へのヒントを探る。

本稿では、世界がサステナブル消費に向かう現状、異なる国・地域のサステナブル消費に意識の高い現地消費者のサステナブル消費に対する共通の着眼点を概観する。また、サステナブル消費に貢献する企業の取り組み事例を紹介する。

サステナブル消費行動、国・地域で濃淡あり

「サステナブル消費」と一言で言っても、その取り組み場面や内容はさまざまで、サステナブル消費に取り組む消費者数などを実数で示すことは難しい。ただ、サステナブル消費に関する消費者アンケート結果からは、消費行動に関する傾向を一部把握することができる。欧州投資銀行(EIB)が実施した「気候変動意識調査」(2021~2022年、注1)によると、「遠方の国からの輸入品の購入数の削減」については、EU27(70%)、中国(62%)、米国(57%)のどの国・地域でも6~7割の消費者が取り組んでいると回答している(図参照)。他方で、「新品の服の代わりに古着の購入」では、米国(49%)、EU27(42%)、中国(28%)のどこの国・地域でも半数には届かない。また、中国は欧米に比べて全体的に比率が高い傾向だが、古着の購入については欧米に比べて低い。品目を問わずに取り組むことが可能な、遠方からの輸入品や環境負荷の大きい製品・サービスの購入(利用)の回避(削減、停止)については、どこも取り組んでいるとの回答が半数以上ある。ただ、古着購入や肉の消費削減など「各論」に入ると、生活文化とも直結しやすいこともあり、国・地域によって傾向が異なる。

図:気候変動対策のため、実際に取り組んでいる消費行動
各国・地域の回答割合は左から中国、EU27、米国の順に(単位は%)、「遠方の国からの輸入品の購入数の削減」は62、70、57、「気候変動に悪影響をもたらす製品購入・サービス利用の停止」は71、59、50、「新品の服の代わりに古着の購入」は28、42、49、「肉の摂取量の削減」は58、57、42。

注1:有効回答数(n)はEU27(n=27,662)、中国(n=1,000)、米国(n=1,000)。
注2:各項目について個別に聞き、「はい」と回答した人の割合。
出所:欧州投資銀行(EIB)「気候変動意識調査」(2021~2022年)から作成

現地消費者は独自の購入基準でサステナブル消費を実践

前述のとおり、サステナブル消費への関心が高まる一方で、実際の消費行動は、家族構成や所得水準、年代などの消費者自身の属性や、消費者が住む国・地域の社会課題、物価高を含む外部環境(の変化)などの影響を大きく受ける。ジェトロは2023年1~3月、世界複数国・地域で、サステナブル消費に関心の高い現地消費者から、サステナブル消費に対する意見を聴取した。その声を聞くと、価格、品質、機能性、利便性など他の要素を重視するため、購入・利用時のサステナビリティー対応の優先度は下がるというコメントが多数寄せられた(詳細は本特集各論記事を参照)。「生産地や価格など自分なりの購入基準を持っており、それに基づいて買い物している」(ドイツ、30代、女性)とのコメントのように、消費者ごとに個別の購入基準があり、必ずしもサステナビリティー対応を絶対条件にしているわけではない。

ただ、現地消費者の個別の購入基準に関するコメントを類型化すると、国・地域を越えた共通の着眼点が浮かび上がる(表1参照)。消費者によって購入基準の優先度は異なるものの、原材料・素材や容器・包装のサステナブル対応、正確な情報の把握などは共通の着眼点といえよう。

表1:サステナブル消費に関心の高い消費者の購入・利用時の着眼点
購入・利用時などの着眼点 現地消費者の具体的なコメント例
原材料、素材のサステナブル対応
  • ヨーグルトやチーズも植物性原料で作られたものをとるようにしている(ドイツ、20代、男性)
  • 過去はジッパー付きのビニール袋に入れて冷凍していたが、それは消耗品だ。シリコン素材のジッパー付きバッグならば、再利用できる。洗えばいいし、普通のビニール袋より長持ちする(台湾、50代、女性)
  • コンポストにできるトウモロコシの繊維でできたデンタルフロスに代えたことで、(プラスチックごみを出しているという)罪悪感が軽減された(米国、30~40代、女性)。
  • ビーガン、クルエルティーフリー(注)のリップを使っている(シンガポール、20代、女性)。
容器、包装のサステナブル対応(脱プラスチックなど)
  • 液体ボディーシャンプーの使用をやめて固形せっけんを使ったり、液体シャンプーの使用をやめて洗髪用の固形せっけんを使ったりすることは環境にいい。また、いろいろなプラスチックボトルを使うより、紙一層だけのパッケージに代える方が環境にいい。使えばせっけんはなくなる(台湾、30代、女性)。
  • 一部の商品はエコをPRしながら、パッケージは過剰。外側のパッケージが何層もあるなど、過剰なパッケージの場合は買いたくない(台湾、20代、男性)。
  • 果物や野菜は包装材が使われていないものを買う。「Zero Waste」の考えに基づいた量り売り専門店がベルリンには複数ある。包装材を置いていないため、マイバックを持参する(ドイツ、30代、女性)
配送のサステナブル対応
  • 配送の車が集荷や配送の際、留守だった場合、何度も同じところに行かないといけない。現在、コンビニや郵便局のEZPOSTとコラボすることもできる。そこに転送できる。一気に配送する効率は高いし、二酸化炭素(CO2)の排出量も比較的に低い(台湾、30代、男性)。
  • 瓶の容器の方が高級感あるように見える。ただ、瓶の容器はプラスチック製の容器に比べて重いため、店舗までの輸送時の排ガス量が大きく、エコではない。そのため、見た目は瓶のように見えるがプラスチックでできている容器ならば、高級感は維持しつつ輸送時の排ガス量を削減できるのでいい。この基準で選んでいる商品としてマヨネーズがある(スウェーデン、30代、男性)。
購入方法のサステナブル対応(オンライン購入など)
  • オンラインでの購買に拒否感を感じる。商品購入後の返品や交換による作業だけでカーボンフットプリントが増え、パッケージの廃棄が発生する。包装素材の廃棄が起こす汚染は重大。買ったものを自宅まで送ってもらうより、自分で(近くまで)取りに行く方がいい(スペイン、50代、女性)。
  • オンライン購入はエコによくないため、利用しないようにしている。3つの服を注文してそのうちの1つだけを購入し、残りの2つを返品することができる衣服のオンラインサイトもあると聞くが、返品された2つの服は一度他人が着用したということで、捨てられることが多いという。それはよくないと考えている(スウェーデン、30代、男性)。
サステナブルな製品・サービス利用
  • 自宅にソーラーパネルを設置し、家庭の電力消費は太陽光発電でほぼ賄っている。トータルでみれば電気代の節約にもつながるし、国(の脱炭素方針)に貢献していると感じられる(インド、40代、女性)。
  • 遠隔操作可能なサーモスタットは、スマホのアプリで外出先からコントロールでき、省エネにつながる(米国、30~40代、女性)。
  • 飛行機に乗る際、グーグルフライトを見てCO2の排出量をチェックして決める(米国、20代)
省資源対応
  • 靴だけは別だが、衣服は通常中古品を着用している。マドリードにある、いい中古の服を扱う店をほとんど全部知っている。自分は洋服を見るのがとても好きで、探すのも好きだ。衣服で表現できることがあるという点に魅力を感じている。しかし、持っている服はすべて中古である(スペイン、20代、女性)。
  • 携帯電話の買い替えをやめるべき。修理の保証期間延長をメーカーも提供すれば、高くてもお金を出す人はいる(ドイツ、30代、女性)。
正確な情報の把握
  • 企業やブランドのウェブサイトなどにサステナビリティーのページがあり、情報が充実していると安心する。消費者がアクセスしやすい情報開示が重要(米国、30~40代、女性)。
  • どのようにしてできたかを考えることがまずは重要。商品購入の際には商品ラベル情報や取得認証などを確認する。商品によっては買う前に、インターネットで情報を集める(スペイン、50代、女性)。
  • 1つの情報だけでなく、複数から情報を得る。偽りのレビューもあるので、情報の見極めが重要(インド、50代、男性)。

注:クルエルティーフリーは、化粧品や日用品の開発・製造・販売などで、製品が消費者の手元に届くまでのあらゆるフェーズでも、動物を傷付けたり、動物実験によって殺したりしていないことを示す考え方。
出所:ジェトロの地域・分析レポート特集「現地消費者のサステナブル消費の実情」から作成

企業はサステナ消費への貢献でビジネス機会創出

サステナブル消費は、消費者にとっては人・社会・環境に配慮した消費だが、企業にとっては自社製品・サービスの販売促進だけでなく、製品・サービスを通じた人・社会・環境に貢献する自社の企業・ブランドイメージ(企業価値)の向上にもつながる。サステナブル消費に貢献する製品・サービスを積極的に提供する企業事例をみると、上述の消費者の共通の着眼点を意識したものが目立つ。

マレーシア・アビエーション・グループ(マレーシア)は、マレーシア航空の航空機の革製シートやベルト、バックル、テーブルクロス、救命胴衣などから厳選した素材を再利用して、高級ブランドのTHESELINA(マレーシア)と共同で、特注のハンドバック5種類を開発した(マレーシア航空系のオンラインショップなどで販売、表2参照)。このハンドバックは長持ちする上、メンテナンスにも手間がかからない。廃材を利用して機能性商品を生み出すアップサイクル(注2)の取り組みだ。

容器に使用するプラスチックの量を減らす潮流が商品の中身までも変えつつある。ロレアル(フランス)グループのロゴコス・ナトゥールコスメティク(ドイツ)は、容器にプラスチックではなく紙を使用できる固形シャンプーを販売している。紙箱は再生紙を100%使用し、固形シャンプーは動物由来成分を含まない(ビーガン対応)。また、ドイツ国内で生産し、生産時には再生可能エネルギーを100%使用する。素材、容器、生産時のエネルギーの全てでサステナビリティーを追求している。それだけでなく、固形シャンプーは長持ちし、持ち運びが便利なため、旅行やスポーツにも携行しやすい点をアピールする。シャンプーは従来、液体が前提だったが、「脱プラスチック」の流れが固形シャンプーに注目が集まる1つのきっかけを与えている。従来の「商品に合う容器」から「容器に合う商品」へと、柔軟な発想の転換が求められる場合もある。

自己矛盾のようにも映る取り組みを行うことで、サステナブル消費に貢献する企業もある。子供服メーカーのポーラーン・オ・ピーレット(スウェーデン)は、自社の店舗内に、自社ブランドの中古品を自ら販売するコーナーを設置。開始当初の2020年はコートやジャケットなどのアウターのみが対象だったが、顧客の評判がよかったため、2023年からは下着など一部を除いて、全ての商品に対象を拡大した。同社は、自社ブランドの全ての子供服が少なくとも3人(3代)の子供に引き継がれて着続けられることをサステナビリティー目標の1つに掲げる。同社の子供服は1976年創業当時から高品質を売りにしてきたため、古着となっても人気が高く、子供の成長後、次のそのまた次の持ち主にまで着継がれる商品もあるという。服の状態などを同社自ら査定して適正価格で買い取り、自社の中古品販売コーナーで再販する。高品質ゆえに初期投資は高いものの、使い終わった後も適正価格での買い取りを確実に行う同社サービスがあるとわかれば、消費者は同社の高品質・高価格の子供服でも安心して購入しやすくなる。自社店舗への中古品販売コーナー設置は、同社の新品の子供服の販売促進という観点からは一見矛盾するものの、サステナビリティー対応と中長期的な利益を重視する同社らしい取り組みといえる。

金融サービスを通じてサステナブル消費を喚起する事例もある。年会費無料のデビットカードを提供するフューチャー(米国)は、CO2排出量の少ない商品やサービスを購入した消費者に対して、他の商品よりもより高いポイントやキャッシュバックの特典を与えることで、消費者の持続可能な行動変容を支援する。

表2:サステナブル消費につながる企業事例
消費者への訴求ポイント 企業(国籍) 分野 概要
ライフサイクル全体の脱炭素化 内蒙古伊利実業集団股份有限公司(伊利)(中国) ゼロカーボン牛乳の販売 牛乳の原料調達から生産・輸送・販売・消費・廃棄などに至るまで牛乳のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成した有機牛乳を販売。
リサイクル素材の使用 マレーシア・アビエーション・グループ(マレーシア) 航空機の廃材を再利用したハンドバッグの作成・販売 国産高級ブランドTHESELINA と共同で、5種類の特注サステナブルハンドバッグのコレクションを発表。使用している素材は全て、マレーシア航空の航空機の革製シート、ベルト、バックル、テーブルクロス、救命胴衣などから厳選して再利用。
プラスチック包装の不使用、動物福祉対応 ロゴコス・ナトゥールコスメティク(ドイツ) 固形シャンプーの製造・販売 包装にプラスチックを使わなくて済む固形シャンプーを、100%再生可能エネルギーを利用してドイツ国内で生産。素材はビーガン(動物福祉)対応。
プラスチック容器の不使用、必要な量のみの購入 アドリッシュ(インド) 穀物・スパイスなどの食品量り売り 2018年創業のオーガニック食品専門店で、インド全国20店舗などに展開。自宅から容器を持ち込んで購入するため、プラスチック容器が不要。
食品廃棄削減、低価格での購入 トゥー・グッド・トゥ・ゴー(デンマーク) 廃棄前食品を低価格で提供するアプリの開発 飲食店で廃棄される前の食品や食材を安く購入できるアプリ「Too Good To Go」を欧米17カ国などで展開。
中古品販売(生産量の抑制) ポーラーン・オ・ピーレット(スウェーデン) 自社ブランドの中古品(子供服)販売 自社製造の子供服の中古品を自社店舗内で販売。同社は、自社製造の全ての衣服が少なくとも3人に引き継がれて着続けられることをサステナビリティー目標の1つに掲げる。
グリーン購入への金銭的インセンティブの付与 フューチャー(米国) 金融サービスの提供 CO2 排出量の少ない商品やサービスの購入に対し、他の商品よりも高いポイントやキャッシュバックの特典を付与。公共交通機関や電気自動車(EV)充電利用時に専用デビットカードを利用。

出所:各社ウェブサイトや報道などから作成

サステナブル消費は、購入量や消費量を抑制するなど消費者単独で実践できることもあるが、ほとんどの場合は新素材の開発や生産時の排出削減など、サステナブル消費を喚起する企業の取り組みや仕掛けなしでは成立し得ない。他方、廃材利用や生産量の抑制など、自社やサプライチェーンの脱炭素化に取り組む企業にとっても、サステナブル消費は(廃材の)アップサイクル、(量り売りによる実質的な)単価引き下げ、(自社製品の)中古品販売など、新たなビジネス機会の創出にもつながっている。サステナブル消費につながる(企業の)取り組みは、人・社会・環境だけでなく、企業にもメリットがある。

本特集の各論記事では、国・地域によって異なるサステナブル消費に対する現地消費者の考え方や消費行動を具体的に取り上げ、日本企業が目指すべき「売れる」環境・社会に配慮した製品・サービスのヒントを探る。


注1:
同調査は2021年8月26日~9月22日にオンライン方式で実施。有効回答者は30カ国(EU27加盟国、英国、米国、中国)の3万662人(15歳以上)。2018年から毎年実施。
注2:
廃棄物に新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。