特集:現地消費者のサステナブル消費の実情自分に合ったサステナブルを求めて(米国)
米国消費者のお買い物に密着

2023年4月19日

米国の現地消費者による座談会に関する本特集の別稿では、消費者のサステナブル(注1)消費に対する考え方などを取り上げた。では、実際に商品やサービスを購入する時、その考え方がどれだけ影響を与えているのだろうか。

本稿では、米国サンフランシスコのサステナブル消費に対する意識の高い消費者を対象に、リアル店舗での日用品購入時、商品選択のチェックポイントなどを聞き、サステナブルな要素がどれだけ実際の購入判断に影響しているかを確認した。

なお、本稿に登場する消費者は、サンフランシスコの消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象だ。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動という点を理解してもらいたい。

プラスチックはできるだけ避けたいとの声

今回の同行取材に協力してもらったのは、エリーさん(30代・女性)。サンフランシスコ市内に1人で暮らしている。事前に聞いた製品・サービス購入時の優先順位(上位8位まで)のうち、「環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)」は3番目で、1番は「価格」、2番は「質」と回答した。買い物をする際の意識として、「日常的に使う製品やこだわりを持っている製品の購入では、価格が少し高くても、耐久性が強くて環境にやさしい製品を選ぶ」という。

訪れたのは、オーガニック製品を中心に取り扱う高級スーパー「Whole Foods Market」。このほか、日常でよく利用する店舗としてエリーさんは、同じくオーガニック製品を多く取り扱う「Sprouts Farmers Market」「Rainbow Grocery Cooperative Inc.」などを挙げた。コストパフォーマンスを重視する彼女は、買うものによって店舗も選んでいるといい、菓子などを買う時にはCostcoも使うそうだ。

今回は主に食品と日用品を選ぶ際のポイントを聞いてみた。できるだけプラスチックパッケージが少ないことを基準に商品を選んでいるほか、食品ではフードロスを減らすことを意識しているという。消費者座談会でも、プラスチックのパッケージは避けるという意見が多かった。

表:エリーさんが食品・日用品を購入する際のポイント
項目 ポイント
全般
  • パッケージの素材は重視している。紙やガラス瓶などリサイクルしやすい素材のものをできるだけ選ぶようにしている。
食品
  • 食品はオーガニックの方が好み。ただ、価格も重視。
  • 野菜や果物など、まとめ買いで安く売っている場合もあるが、プラスチックバッグに入っていることが多いので、選ばない。
  • 加工食品はガラス瓶入りのものがあれば、そちらを選ぶ。トマトペーストや牛乳などが多い。STRAUSブランドの牛乳は瓶入りで、飲んだ後に店に持ち込むと、キャッシュバックしてくれる。リサイクル性とリワードのバランスがいい製品には引かれる。
  • フードロスを少なくするという観点も重視。量り売りしてくれるサービスがある店舗では、食べる分だけを買うようにしている。
日用品
  • 毎日使う日用品は常にサステナブル素材の代替品がないかチェックする。デンタルフロスは生分解性のトウモロコシ繊維のものに代えた。今はトイレットペーパーを竹製のものにしたいと思っている。
  • 洗濯洗剤はシート状のものを選ぶ。外装は紙箱だし、大きくないので、輸送のカーボンフットプリントが少ないと思う。
  • シャンプーは固形タイプを使うようになった。外装が紙箱なのがポイント。

出所:消費者のコメントを基にジェトロ作成


プラスチックバッグ入りのものは買わない=サンフランシスコ市内のスーパーでエリーさん(ジェトロ撮影)

プラスチックが使われていない製品を選ぶ
(デンタルフロス売場)(ジェトロ撮影)

STRAUSブランドの牛乳(中段)。ガラス瓶を返却するとキャッシュバックされる(ジェトロ撮影)

できるだけプラスチックを避けるというエリーさんだが、味が好みの製品に限っては、プラスチックパッケージでも購入する。エリーさんの場合、グラノーラについては「紙パッケージを使っているほかのブランドもあるが、好きなブランド(パッケージはプラスチック)は譲れない」そうだ。また、冷凍食品もプラスチックのパッケージだが、生鮮品よりも賞味期限が長く、フードロスの減少になるので、「トレード・オフだと思って、必要なものは買う」という。サステナブルな代替品を探すことは好きだが、自分が納得できるかどうかも重要で、サステナブルを理由に好きなものを我慢することはないようだ。

量り売りやサステナブル製品の取扱店舗が増加

パッケージやフードロスの削減などの観点から、量り売りを行う店舗も増えている。また、環境・社会配慮にこだわった製品を中心に取り扱う店舗もある。一例として、4つの店舗を紹介する。

今回訪問した「Whole Foods Market」は、全米に500店以上を展開する高級スーパーチェーン。オーガニックを中心とした品ぞろえが豊富で、肉や魚の販売コーナーには、環境関連の各種認証の取得有無なども示している。訪問時には「We love Local」というプレートが付いている商品を多く見かけた。Whole Foods Marketは2022年8月から、店舗に商品を供給する地元企業や生産者を支援する「ローカル・アンド・エマージング・アクセラレーター・プログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を開始し、サプライヤーのビジネス成長のための指導や教育、財政支援を提供している。このプログラムに参加しているサプライヤーの製品は、「We love Local」製品として、積極的にプロモーションしている。地元生産者支援が主な目的ではあるが、「地産地消」で、サステナブルな取り組みといえる。


Whole Foods Marketで販売されるカリフォルニア州で生産された商品のプロモーション(ジェトロ撮影)

エリーさんもよく利用するという「Rainbow Grocery Cooperative Inc.外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」は、1975年にサンフランシスコで創業した老舗のオーガニック・グローサリーで、食品、日用品、化粧品など取り扱い製品も多い。創業以来、「理想的なサステナブルな暮らしの実践」を掲げ、地域や従業員との共存を意識したビジネスモデルで地元住民の支持を得ている。地産地消を意識した品ぞろえが豊富で、特に食品の量り売りのバリエーションも多く、店舗訪問時は利用者も多かった。客は自分でタッパーや瓶などの入れ物を用意して、自分で必要な分を取って計量するスタイルとなっている。種類は、穀類、茶、コーヒー豆、油、塩、スパイスなどの調味料、ナッツ、ドライフルーツ、乾燥食品などがある。また、ソース、キムチ、ピーナッツバター、みそなども複数の取り扱いがあった。食品ほどのバリエーションはないが、洗剤やペットフードなども取り扱いがある。


左側の計量台で必要なものを計って買う(ジェトロ撮影)

ロサンゼルスで訪問した店舗として、北東部のイーグルロックという地区に2019年にオープンした「Sustain LA」。路面店の小さな店舗だが、スキンケアやヘアケア、オーラルケア、ボディケア、家庭用洗剤、カトラリーなどの日用品を中心に、環境配慮にこだわり、カリフォルニア州やワシントン州など地元で生産している製品を中心に販売している。店舗スタッフは「最近、同じような量り売りのショップがロサンゼルスで増えているが、(この店が)品そろえが一番多い」と話す。25歳前後の女性がメインの顧客層だが、家族連れも多いという。訪れたときにも、20代とみられる女性客がスタッフと相談しながらヘアケア製品を選ぶ姿がみられた。また、「量り売りショップでは製品へのこだわりから価格がかなり高いものも多いが、(同店では)高品質かつ買いやすい価格(Affordable)で提供しているのが特徴」だという。価格帯は、シャンプーやコンディショナー:1オンス(30ミリリットル)・1ドル、洗濯用洗剤(液体・粉):同0.35ドル、食器用洗剤:同0.40ドル、化粧水:同1.5ドルなど。持参した容器に詰めてもらえるほか、店舗でも瓶類の容器を販売している(大きさによるが3~10ドル)。


ヘアケア製品の量り売り(ジェトロ撮影)

量り売りのほかにも、サステナビリティーに配慮した
製品を品揃え(ジェトロ撮影)

1968年にロサンゼルスでマクロビオティック思想(注2)を取り入れたデリとして創業した「Erewhon」も紹介する。2023年4月現在、ロサンゼルス市内に10店舗(うち1店舗は開店準備中)を構える高級スーパーで、2021年にB Corp認証を取得した。B Corp認証とは、米国の非営利団体「B Lab」によって始まった、環境や社会の持続可能性を考慮し、社会への説明責任を引き受ける企業に与えられる認証で、2023年2月現在、86カ国・地域の6,000社以上が取得している。ローカルブランドやオーガニック、環境配慮、社会配慮などの製品を取りそろえており、リユース可能なガラス瓶入りのソースやドレッシングなどの自社製品も多く、他のスーパーで扱っている商品はあまり見かけない。そのため、店の推奨商品やブランドには従業員による手書きの商品説明が添えられており、特に環境や人権に配慮した商品がハイライトされている。一般スーパーに比べると価格帯はかなり高いが、意識の高い消費者でにぎわう。


ガラス瓶入りのソースやスープ=Erewhon店内の様子(ジェトロ撮影)

従業員による手書きの商品説明が添えられたカーボン
ニュートラルの植物性ミルク=Erewhon店内の様子(ジェトロ撮影)

以上紹介した店舗では、オーガニックや健康志向と並ぶ新たな価値として、環境・社会配慮、サステナビリティーを提案している点が共通している。また、価格帯は手に取りやすい価格から高価格帯まで幅広いが、シンプルでスタイリッシュなパッケージやプロモーションなども多く、「ライフスタイルを豊かにする」ことを訴求する工夫がみられた。エリーさんのように「環境にやさしいクールな暮らしをしたい」という意識の高い消費者の需要を満たすオプションは多く、今後も増えていきそうだ。


注1:
本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティー」は、省資源、脱炭素化、リサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた取り組みを指す。
注2:
健康的で自然にも負荷の低い生活を送ることを目的とし、玄米などの穀物、野菜、海藻類を基本とし、肉や魚などの動物性の食材は少量に抑える食事法。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。