特集:現地消費者のサステナブル消費の実情修繕サービスなど日本のアパレルを評価(スペイン)
消費者座談会(後編)

2023年3月28日

スペイン・マドリードの、サステナブル対応に意識の高い消費者の生の声を拾うシリーズ。本稿は前編に続く後編。

なお、本稿(を含む2本の記事)に登場する消費者は、マドリードの消費者を代表するものではなく、サンプル調査である。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動である点をご理解の上、お読みいただきたい。

廃棄前の食材購入を行うも、慣れ親しんだ食生活は基本的に維持

食品については、慣れ親しんだ食生活を簡単に変えられないようだ。今回参加した消費者のいずれもがベジタリアンではなく、肉などの動物性食品を摂取している。肉の消費を減らすことで、畜産に伴う環境負荷を減らす考え方もあるが、「グルテンミート(セイタン)など代替肉の製品を試食したことがあるが味はおいしいと思った。たまに本物の肉に代えて食べることは可能だが、大きなステーキにまさるものはない」(消費者D)と、味覚重視だ。また、環境に配慮して地産地消に取り組むものの、それを徹底するのは難しいと感じる消費者もいる。「生鮮食品市場で買う旬の素材を中心にした食卓である。素材もなるべく地域のものを選ぶようにしている。スペイン産、もしくはマドリード州で選べるものがあればそれを選ぶ。しかし、州内の産物には限りがあるので難しい。毎日100%『サステナブル』な消費をしようと思ったら、何も食べられない」(消費者B)。

廃棄前の食品の取り扱いで、環境への負荷を減らそうともしている。消費者ABCとも、飲食店で廃棄される前の食品や食材を安く購入できるアプリ「Too Good To Go」を使っているという。「同アプリではたいてい、その店で具体的にどのような食品や食材を購入できるのかは、実際に店舗に行くまでわからないことが多い(が、それでも利用している)」(消費者C)。2015年にデンマークで始まった同アプリは欧州を中心とした17カ国の約400万人が利用しており、登録事業者は約1万店に上る。同社情報によると、世界の食品や食材全体の約4割が廃棄対象となっており、廃棄食品(から排出されるメタンガスや焼却時に排出されるCO2など)だけで世界の温室効果ガスの1割を占めるという。同アプリは、このフードロスという課題を解決するため開発された。

また、有機ゴミのコンポスト化に取り組む消費者もいる。「家のエネルギー関連の投資として最もよかったと思っているのはコンポストのシステムである。自宅が排出する有機ゴミの多さには驚いた。そうした有機ゴミは(自宅から廃棄されるゴミ)全体の6割程度を占めており、それを公共のゴミ処理システムに流さずに、自宅で処理できるコンポストシステムはすごい。有機ゴミは毎週バケツにいっぱいためてコンポストにして、庭にある果樹などの肥料にしている」(消費者E)。

プラスチック包装が商品購入時の大きな判断基準、との声も

これら消費財を購入する際には、さまざまなタイプの容器や包装が施されているが、参加者からはプラスチック容器に対する厳しい意見が目立った。「プラスチック(包装)に関しては商品を買う際の大きな判断基準になっている。それは価格の差よりも重要だ。例えば果物のパックがプラスチックかどうかなどは買う判断に大きく影響している」(消費者E)、「『プラスチック=悪』という意識がある。住んでいるピソ(シェアハウス)には前の住人が残したカプセル式のコーヒーメーカーがあるが、使用していない。そのカプセルがリサイクルできるのか調べてみると、(カプセル素材の)2~3割程度しかリサイクルできないことがわかった。それ以来、コーヒーメーカーを使うことはない。カプセル式のコーヒーがおいしいのはわかるが、カプセル式は購入しない」(消費者D)、「プラスチック包装されている食品は嫌悪感を抱くので消費しない。社会的、環境的にもそうだし、自分の世代は昔のように買い物に行くときに自分の袋(エコバッグなど)を持って行くことに抵抗感がない」(消費者A)。

配達時に包装材を使うオンラインショッピングの利用について、厳しい意見を持つ人もいた。「オンラインでの購買に拒否感を感じる。商品購入後の返品や交換による作業だけでカーボンフットプリント(注1)が増え、パッケージの廃棄が発生する。包装素材の廃棄が起こす汚染は重大。買ったものを自宅まで送ってもらうより、自分で(近くまで)取りに行く方がいい。オンラインで探しても、常に自分で出向いて受け取れる場所にあるものを購入している」(消費者B)。

なお、スペインではEU指令(注2)の国内法として、事業者に対する「使い捨てプラスチック容器税」が2023年1月に施行されている(2022年10月20日付ビジネス短信参照)。また、同法とは別に、欧州委員会は2022年11月30日、包装材のリサイクルの推進や過剰包装の禁止を義務付けるEU規則(注2)案を発表した(2022年12月2日付ビジネス短信参照)。プラスチック製など容器や包装材に対しては、消費者の反応と法規制の両面から厳しい目が向けられている。

移動手段については、「環境保全には公共交通機関を使用すべきと考えている。出張はよくあるが、常に列車を使うようにしており、飛行機も使わないようにしている。列車は常に町の中までアクセスがあるので、よりエコロジカル」(消費者B)と、できるだけ公共交通機関を使う人がいる。他方、移動サービスについても食品同様、環境負荷を徹底的に意識して行動するのが難しいと考える人もいる。「郊外に住んでいるので車の使用が発生する。移動手段が違うと移動時間が3倍かかることがあるため、どこに移動するかで移動手段を選んでいる。『サステナブル』を意識はするが、日々の生活における選択は悩ましい」(消費者E)。

また、移動サービスの手段として、消費者ABCEはライドシェアアプリBlaBlaCarを利用したことがあるという。フランス発祥の同アプリは現在、世界22カ国で1億人の会員登録があり、スペインでも広く利用されているようだ。「移動をするという面では完全に『サステナブル』とは言えないが、ライドシェアアプリを利用することで、(移動)コストや(道路を走る)車の数をへらすことはできている」(消費者E)との考えから同アプリを利用しているようだが、「同アプリは、移動できるだけでなく、旅行中の話し相手を見つけることができる点で、移動以上の効果がある」(消費者E)と、移動以外の「付加価値」にも着目しているようだ。なお、同アプリでは、サービス提供者(運転者)を選択する際、おしゃべり好きの人かどうかを選定基準に含めることも可能だ。長旅の場合は、結構、重要な基準ともいえよう。

スポーツや文化などのイベント開催による環境負荷に着目する人もいる。「参加したパーティーやイベントで、エコラベルなどを強調したサステナブルな活動を(主催者が)していれば、それには注目する。例えば、商品であれば『エコ』や『有機(オーガニック)』というフレーズだけでなく、なぜそうなのかをきちんと説明しているものは信頼できる」(消費者D)、「イベントなどで『サステナブル』を実現しているものはクールだ(かっこいい)。同時にそれをきちんとPRすることが大切だ」(消費者A)。

前述の考え方などに基づき、消費者5人はどのような商品やサービスを購入しているのだろうか。過去1年間で購入した、環境に配慮した製品・サービスや、環境・社会配慮の製品・サービスの専門店の具体例を表1と表2にまとめた。

表1:消費者5人が過去1年間に購入したことのある環境配慮の製品・サービスの例(-は値なし)
消費者 購入商品・サービス
(価格)
購入
頻度
購入場所 決済方法 購入の決め手、理由 商品・サービスURL
消費者A 「Happy Cosmetics」の化粧品(3ユーロ) 毎月 ドラッグストア クレジットカード サステナブル、品質、健康 Happy Cosmetics外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
消費者B 「LUSH」の、動物実験なしでエコロジカルな化粧水、石鹸、クリームなど(15~40ユーロ) 隔月 クレジットカード LUSH外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
「Washaby」の、環境に配慮した洗剤(15~20ユーロ) 毎月 クレジットカード 水(質)をまもるため、洗濯時に化学素材を使わないことで。 Washaby外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
消費者C 竹製の歯間ブラシ(4ユーロ) 年1回
(以前は年4回)
オンライン クレジットカード 環境保全になると考えて
消費者D 「Fairglobe」ブランドのコーヒー(2.99ユーロ) 年7回 スーパーマーケットLIDL クレジットカード 良い味なので
消費者E 有機のアボカド 2週間に1度(毎回500グラム) スーパーマーケットAlcampo クレジットカード 生産地が近隣で、残留農薬が少ないため

出所:消費者5人からの回答を基にジェトロ作成

表2:消費者5人が利用したことのある環境・社会配慮の製品・サービス専門店の例
消費者 製品・サービス
専門店
説明
消費者A Aletheia アパレルブランド
Ekolo 有機食品ブランド(オンライン購入)
Granel Madrid 穀物等量り売り専門店
消費者B The Circular Project アパレルブランド
消費者C Souji 廃油から洗剤を作れる商品。オンライン購入はしない事が多いが、これはオンラインで購入。
Pepita y Grano 穀物等量り売り専門店
消費者D Zapatelas 環境・社会プロジェクトに資金提供する、子供服やおもちゃブランド
消費者E Vega Fértil 野菜の生産者から直接購入

出所:消費者5人からの回答を基にジェトロ作成

修繕サービス、製品への気遣いなど、日本のアパレルを評価

最後に、日本ブランド製品の印象を聞いてみた。「日本製品と聞くと、良いセンスだと感じる。日本文化のミニマリズムにも魅力を感じる。無印良品が大好きでよく商品を購入していた。とても気を遣って製造されている感覚。そして美しい。無印良品のオーガニックコットンシャツを持っている。2年ほど前、日本文化のイベントに参加したことがある。日本でのオーガニックコットンや麻、絹の取り扱いや歴史的変遷を紹介したイベントだった。とても驚いたのを覚えている」(消費者B)、「日本製品は信頼、注意深さ、繊細さ、そういったことを彷彿(ほうふつ)させる。ユニクロの製品は購入経験があるが、同社製品は修繕が可能だ。大企業でありながら修繕サービスがあるなど、すごいこと」(消費者A)、「トヨタのハイブリッド車両は燃費も良く素晴らしい。日本製品というのは高品質であり、少し高いかもしれないが、信頼がある」(消費者E)など、一部の日本製品から連想される、センスの良さ、繊細さ、信頼性などが挙がる。また、衣服の環境負荷に厳しい消費者が日本のアパレルブランドを評価する声が聞かれた。

今後の日本製品の購入については、どのように考えているのだろうか。「価格や『(生産地からの輸送距離が)0km』は重要だが、商品へのアクセス性の問題も重要だ。地元や近くで買えるものがいい」(消費者C)、「オンラインショッピングをしないので、(商品への)アクセス性が重要。マドリードで手にとって買える必要がある。日本製品というだけで価格が高いのは理解しているが、その理由となる情報が十分にほしい」(消費者A)と、日本製品の入手が容易でない点を指摘する。ただ、日本製品に限らず、商品へのアクセスそのものが容易でないようだ。「アクセスのいい生活が懐かしい。バルセロナではサステナビリティとモードの共存を実現している地区がある。以前はスペインでは、地区ごとにその中で買い物が十分にできる環境があった。今は買い物をサステナブルな方法で行おうと思うと、よく計画しなければならない。以前は多くのことを居住地区内で済ますことができた」(消費者B)。

本稿の座談会はサンプル的に抽出した、マドリードに住む『サステナブル』に意識の高い消費者による個別意見や取り組みにすぎない。そのため、これらはスペインの消費者を代表するものではないが、いくつか気付きがあった。

前編で述べたように、省エネは温室効果ガス排出削減につながるためサステナブル消費といえるが、その取り組みの主なきっかけはエネルギー危機下におけるコスト削減だった。また、食品の廃棄前食材・食品の割引購入サービスも食品廃棄ロス対策だけでなく、消費者にとってはコスト削減の要素も含まれるだろう。物価高が消費者にコスト削減を迫り、結果的に消費者をサステナブルな取り組みに誘導しているともいえる。将来的に物価高が緩和されても、消費者は日々の消費行動の1つとして溶け込んでしまったサステナブル消費行動をそのまま継続するのではないだろうか。

ただ、プラスチックなどの容器や包装材に対しては、いずれの消費者からも厳しい意見が出た。また、包装材の使用や配送時の温室効果ガス排出などに着目してオンラインショッピングをできるだけ利用しないとの意見が目立った。近年の規制強化の動向を踏まえると、包装や容器の対応は喫緊の課題といえる。

日本企業が特に消費財を現地で販売する場合、原材料や生産方法などにより環境負荷を減らす取り組みを行うことで現地消費者に評価されても、その包装や容器、物流面で環境負荷軽減を徹底していないと、そもそも市場に出回らない、消費者に商品を手に取ってもらえないリスクがあるといえよう。


注1:
商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を CO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組み。
注2:
「指令」はEU加盟国ごとの国内法制化が別途必要となるのに対し、「規則」はEU域内で直接適用される。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。