特集:アジア大洋州で加速する電気自動車の普及の取り組みEVシフトに向け新たなプレーヤーも(タイ)
政府の振興策にも注目

2022年4月4日

ASEANの中では、約50%のシェアを誇る。また、当地では日系メーカーの存在感が大きい。販売シェアは、約90%近くに達する。工業団地には多くの日系メーカーが入居し、自動車の生産拠点として事業を展開。加えて、日系サプライヤーの集積も多数みられる。多くの部品の現地調達が可能なことなどから、タイの自動車産業は着実に発展してきた。

他方、タイ政府は昨今、環境規制の強化やカーボンニュートラル達成に向けた方針を表明。こうした動きが国内の電気自動車(EV)市場の拡大を後押しする可能性がある。本稿では、これらEV市場の現状と今後について、政府の方針や企業動向に触れつつ説明する。

新型コロナから回復しつつある自動車産業

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、2020年の自動車生産台数は大きく落ち込んだ(2021年8月17日付地域・分析レポート参照)。タイ工業連盟(FTI)によると、2020年の自動車生産台数は前年比29.1%減の142万6,970台。2年連続で、前年比マイナスになった。新型コロナ禍で一時的な工場の稼働停止や、政府による行動制限などの規制が消費者需要を大きく押し下げたことが主因と考えられる。

しかし、1日当たりの新規感染者数がピークとなる2万人を超えた2021年8月以降は、徐々に国内需要が回復。また、米国や中国など主要貿易相手国の景気回復や通貨バーツ安などにより、輸出にも改善がみられた。その結果、自動車生産が持ち直し、2021年の生産台数は前年比18.1%増の168万5,705台になった(2022年2月1日付ビジネス短信参照)。 なお、冒頭で述べた通り当市場は日系企業が席巻し、全体に占める構成比が9割近くに及ぶ。

図1:タイにおける日系自動車メーカーの販売シェア (2021年12月)
トヨタ31.6%、いすゞ24.3%、ホンダ11.7%、三菱6.2%、マツダ4.7%、日産3.9%、スズキ2.9%、日野1.8%、スバル0.4%、その他12.5%。

出所:トヨタウェブサイトからジェトロ作成

次に、タイのEV市場の動向を確認したい。

タイ運輸省陸運局によると、2021年のEVの国内新規登録数(二輪車を除く、トラック・バスなどの商用車を含む)は約4万3,500台。前年比で41%増と、大幅に伸長した。内訳は、ハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の合計が前年比約40%増の約4万1,400台、バッテリー式電気自動車(BEV)が約50%増の約2,100台だった。一方、2021年の新車販売台数(約76万台)に占めるEV全体のシェアは約6%、BEVのシェアは約0.3%だ。すなわち、国内販売に占めるEVの割合は現時点で高いとは言い難い。タイの市場にEVが広く流通するには、しばらく時間を要する見込みだ。

環境規制強化がEV化推進

前段のとおり、タイ自動車市場では、現時点で内燃機関車が圧倒的なシェアを占める。しかし、政府による環境規制強化の動きがEV普及を後押しする可能性がある。例えば、工業省は国内の自動車メーカーと販売業者に対し、2021年までに欧州排出ガス規制「ユーロ5」に適合する自動車を生産・販売するとの方針を示した(2021年8月17日付地域・分析レポート参照)。ユーロ5とは、EU域内で導入され、環境に配慮した厳格な自動車の排出ガス規制だ。乗用車の排出基準を走行1キロ当たり窒素酸化物0.18グラムなどと定めている。HEVとPHEVに関しては、さらに厳しい「ユーロ6」への適合が求められる。

このような規制導入の背景には、大気汚染問題がある。バンコクなど大都市では、微小粒子状物質(PM2.5)などにより汚染が深刻化していた。政府はこれに歯止めをかけるべく、ユーロ5、6の導入をはじめとするPM2.5削減のアクションプランを2019年10月に閣議決定。施策の導入を進めてきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大とともに、新たな排ガス規制の導入が産業界に与える負担は小さくないと判断。ユーロ5の適用開始時期を2024年、ユーロ6については2025年と、当初の導入計画から後ろ倒しすることを決定した。いずれにせよ、今後、日系自動車メーカーもいずれは対応が求められる可能性濃厚だ。

また、プラユット首相は2021年1月、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済を国家戦略モデルに据えると表明。タイ投資委員会(BOI)がBCG経済分野の民間企業の事業に対して、投資優遇措置を提供するとした。さらに、首相は同年11月、英国で開催された国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第26回締約国会議(COP26)に出席。世界リーダーズサミットで、タイが2050年にカーボンニュートラル、また、2065年までにネット・ゼロ・エミッションを推進する方針と表明した。環境に配慮した政策が次々と打ち出されたかたちだ。このように、国全体で環境問題に対する意識が高まりをみせている。

補助金を含めた振興策承認

こうした環境政策とともに、タイ政府は自動車のEV化も積極的に進めている。2020年3月に行われた国家電気自動車政策委員会(NEVPC、注1)で、5年以内にタイがASEANのEV生産のハブになることを目標に掲げた。併せて、2030年までに国内の自動車の総生産台数に占めるEVの割合を30%とした。また、同委員会は2021年3月に、2025年、2030年、2035年と段階的な国内でのEV利用と生産累積目標を発表した(2021年3月30日付ビジネス短信参照)。具体的には、EVの累計生産台数目標〔乗用車、二輪車、バス・トラック(ピックアップを含む、注2)〕を2025年までに105万1,000台、2030年までに622万4,000台、2035年までに1,841万3,000台に設定している。

同委員会はその後、EV普及促進策を閣議に提案。2022年2月15日に同普及促進策の大枠を閣議決定した(2022年2月22日付ビジネス短信2022年3月3日付ビジネス短信参照)。詳細は今後公表される予定。車種別の主なEV振興策は、次のとおりだ。

  • 小売価格200万バーツ(約720万円、1バーツ=約3.6円)未満の乗用車:
    国内生産を条件として、(1)2022年から2023年に完成車や関連する部品に対する輸入関税を最大40%引き下げ、(2)対象となる車両の物品税率を8%から2%に引き下げ、(3)最大で15万バーツの補助金を交付。
  • ピックアップトラック:
    国内の生産者だけを対象に、(1)物品税率を10%から0%まで引き下げ、(2)最大で15万バーツの補助金を交付。
  • 二輪車:
    15万バーツ以下の二輪車に対し、最大で1万8,000バーツの補助金を交付。

これらの振興策を通じて、タイは2022年~2023年の2年間で、国内でEV全般、またBEVなどのゼロエミッション車(ZEV)を迅速に普及させるとともに、EV需要を創出する。また、2024年~2025年の2年間でEV生産を国内にシフトさせる。2030年にEVの国内生産割合を30%にする目標の達成に向け、全力で取り組む方針だ。

既述のEV促進策に先行して、タイ投資委員会(BOI)は2021年1月、EV生産投資にかかる新たな恩典を公表した(2022年2月25日付地域・分析レポート参照)。具体的には、投資額が50億バーツ以上かつ自社またはサプライヤーがバッテリーなど4つの重要部品を製造する場合は、BEV製造に係る法人所得税を8年間免除する。PHEV製造の場合は、法人所得税を3年間免除する。BOIは、その後もEV関連の恩典を充実させる意向を示している。

注目される中国系の躍進

2021年12月にバンコクで「第38回タイ国際モーター・エキスポ2021」が開催された(2022年2月25日付地域・分析レポート参照)。この展示会で、日系自動車メーカーは高い実績を上げた。購入予約台数(注3)で1位は、トヨタ(5,715台)、2位ホンダで(4,115台)、3位いすゞ(3,329台)と、上位を日系が独占した。しかし、特筆すべきは、MG(上海汽車)が5位に入り2,297台、HAVAL/ORA(長城汽車のEVブランド)が12位で868台を売り上げたことだ。このように、EVを擁する中国系自動車メーカーが一定の存在感を示した(図2参照)。HAVAL/ORAは15位のスバル(403台)よりも上位だった。

図2:主要メーカーの販売予約台数の推移
2013年は、トヨタ9,075台、ホンダ5,660台、いすゞ3,753台、マツダ3,150台、MG0台、スズキ889台、HAVAL/ORAは0台。2014年は、トヨタ7,830台、ホンダ6,280台、いすゞ4,227台、マツダ4,164台、MG198台、スズキ1,065台、HAVAL/ORAは0台。2015年は、トヨタ5,937台、ホンダ4,409台、いすゞ4,348台、マツダ4,542台、MG1,278台、スズキ1,214台、HAVAL/ORAは0台。2016年は、トヨタ5,124台、ホンダ4,463台、いすゞ3,620台、マツダ3,434台、MG1,455台、スズキ1,274台、HAVAL/ORAは0台。2017年は、トヨタ5,456台、ホンダ6,049台、いすゞ4,479台、マツダ5,015台、MG2,366台、スズキ1,322台、HAVAL/ORAは0台。2018年は、トヨタ5,907台、ホンダ6,403台、いすゞ4,437台、マツダ6,509台、MG2,369台、スズキ1,982台、HAVAL/ORAは0台。2019年は、トヨタ6,243台、ホンダ5,327台、いすゞ3,716台、マツダ3,998台、MG2,252台、スズキ2,525台、HAVAL/ORAは0台。2020年は、トヨタ5,445台、ホンダ4,980台、いすゞ3,076台、マツダ4,018台、MG2,330台、スズキ2,636台、HAVAL/ORAは0台。2021年は、トヨタ5,715台、ホンダ4,115台、いすゞ3,329台、マツダ3,189台、MG2,297台、スズキ2,185台、HAVAL/ORAは868台。

出所:インターメディア・コンサルタント社プレスリリース

タイ運輸省陸運局によると、2021年にタイで新規登録されたBEVの半数はMG社製。同社は今後もEV車を積極的に投入する構えだ。また、長城汽車もタイでの2022年の事業計画を公表。2022年内に3ブランドの新型EVモデルをタイに投入する。さらに、自動車販売店を新たに50店舗新設、充電施設も55カ所に拡大するなど、中国系メーカーがタイで攻勢を強めている。

対する日系メーカーの今後のEV戦略として、タイ国トヨタ自動車は、BEVの新モデルを2022年内に投入すると発表。そのほかの主要メーカーも、多くがタイでの新たなEV生産計画をBOIに申請している。それらの中には、既に投資恩典の承認を受けているところがある。

今後、タイ市場でのEVのシェア争いは、一層加速するとみられる。


注1:
NEVPCは2020年2月、ソムキット副首相(当時)を議長として活動を開始した。なお、当該委員会は関連省庁(工業省、エネルギー省、運輸省など)の代表などで構成される。現議長はスパタナポン・パンミーチャウ副首相兼エネルギー相。
注2:
タイ市場では、ピックアップトラックが乗用用途としても人気が高い。この点、日本でのイメージとは、やや異なるかもしれない。いすゞを中心に目下、売れ行き好調だ。
人気の理由としては、「価格が安い」「悪路でも走行に支障を来さない」などが考えられる。バンコク以外の地方都市では、商用との兼用例もしばしばだ。例えば、農家で荷台に作物を積んだり、建設現場で用具など(時には、作業員も)を運搬したりする例が見られる。こうした「使い勝手の良さ」も人気を支えているようだ。
注3:
タイ国際モーター・エキスポでは、展示だけでなく販売も認められている。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
岡本 泰(おかもと たい)
2019年から、ジェトロ・バンコク事務所勤務。

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