特集:アジア大洋州で加速する電気自動車の普及の取り組み2021年EV販売台数大幅増、産業界の取り組みも進展(オーストラリア)

2022年4月1日

オーストラリアの2021年の新車販売台数は、新型コロナウイルス禍の影響を受けて大きく落ち込んだ2020年から14.5%増と回復の兆しを見せた。電気自動車(EV)の販売台数も大きく増加し、新車販売台数に占めるEVの割合は1.95%に拡大した。しかし、その普及率はいまだ欧州などに後れを取っている。連邦政府が購入補助金の導入に消極的な一方で、各州政府は奨励策を積極的に導入し、産業界はEVや水素燃料電池車(FCEV)の活用に取り組んでいる。

2021年の新車販売台数は前年比14.5%増

オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)が発表した2021年の新車販売台数は、前年比14.5%増の104万9,831台だった(表1参照)。2018年以降に減速していた自動車市場は、新型コロナ感染拡大の影響を受けて2020年に大きく落ち込んだが、2021年は回復の兆しをみせた。タイプ別にみると、乗用車は前年比0.2%減と伸び悩んだが、近年人気の高いスポーツ用多目的車(SUV)は16.9%増と好調だった。SUVが総販売台数に占める割合は、2020年から1.0ポイント上昇し、全体の50.6%と半数を占めた。

表1:オーストラリアにおける新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
タイプ 2019年 2020年 2021年 前年比(2020/2021)
台数 増減率
乗用車 315,875 222,103 221,556 △ 547 △ 0.2
SUV 483,388 454,701 531,700 76,999 16.9
その他自動車 263,604 240,164 296,575 56,411 23.5
合計 1,062,867 916,968 1,049,831 132,863 14.5

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)

メーカー別にみると、トヨタが全体の21.3%を占めて引き続き1位となったが、シェアは前年の22.3%から1.0ポイント減少した。ただし、販売台数は前年比9.2%増の22万3,642台で、過去5年で最大となった(表2参照)。次いで、マツダ(シェア9.6%)、現代(6.9%)、フォード(6.8%)、起亜(6.5%)が上位を占め、いずれも販売台数は前年から増加した。

表2:メーカー別新車販売台数(上位10社)(単位:台、%)
順位 企業名 2019年 2020年 2021年 前年比(2020/2021)
台数 増減率
1 トヨタ 205,766 204,801 223,642 18,841 9.2
2 マツダ 97,619 85,640 101,119 15,479 18.1
3 現代 86,104 64,807 72,872 8,065 12.4
4 フォード 63,303 59,601 71,380 11,779 19.8
5 起亜 61,503 56,076 67,964 11,888 21.2
6 三菱自動車 83,250 58,335 67,732 9,397 16.1
7 日産 50,575 38,323 41,263 2,940 7.7
8 フォルクスワーゲン 49,928 39,266 40,770 1,504 3.8
9 MG 8,326 15,253 39,025 23,772 155.9
10 スバル 40,007 31,501 37,015 5,514 17.5

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)

モデル別の新車販売台数では、トヨタの「ハイラックス」が最も多く、引き続き首位を占め、前年比16.9%増だった(表3参照)。一方、同じくトヨタの「RAV4」は7.2%減と落ち込んだ。いすゞの「ディーマックス」は66.8%増と、前年の12位から6位に浮上したほか、上海汽車傘下MGの「ZS」が3.4倍と急増し、10位にランクインした。なお、上位10モデルのうち7つが日本のメーカーで、メーカー別でも10社中5社を日本企業が占めた。

表3:ブランド別新車販売台数(上位10ブランド) (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 ブランド名 2019年 2020年 2021年 前年比(2020/2021)
台数 増減率
1 ハイラックス(トヨタ) 47,649 45,176 52,801 7,625 16.9
2 レンジャー(フォード) 40,690 40,973 50,279 9,306 22.7
3 RAV4(トヨタ) 24,260 38,537 35,751 △ 2,786 △ 7.2
4 カローラ(トヨタ) 30,468 25,882 28,768 2,886 11.2
5 i30(現代) 28,378 20,734 25,575 4,841 23.3
6 ディーマックス(いすゞ) 16,892 15,062 25,117 10,055 66.8
7 マツダCX-5(マツダ) 25,539 21,979 24,968 2,989 13.6
8 プラド(トヨタ) 18,335 18,034 21,299 3,265 18.1
9 トライトン(三菱) 25,819 18,136 19,232 1,096 6.0
10 ZS(MG) 5,494 18,423 12,929 235.3

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)

2021年のEV販売台数は大幅増

オーストラリア電気自動車協会(EVC)が2021年8月に発表した年次報告書によると、2020年のEV販売台数は前年比2.7%増の6,900台だった(表4参照)。そのうち、バッテリー式電気自動車(BEV)は5,215台と全体の75.6%を占めたが、前年比1.5%減とわずかに減少した。一方、プラグインハイブリッド車(PHEV)は前年比18.2%増の1,685台だった。

表4:オーストラリアにおけるEV販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 前年比(2019/2020)
台数 増減率
BEV 668 1,208 1,053 5,292 5,215 △ 77 △ 1.5
PHEV 701 1,076 1,163 1,426 1,685 259 18.2
合計 1,369 2,284 2,216 6,718 6,900 182 2.7

出所:オーストラリア電気自動車協会(EVC)

オーストラリア国内で販売されているEVは、2020年7月時点から3モデル増え、12メーカーが31モデルを投入しており、その半数以上の17モデルはPHEVとなっている。また、そのうち14モデルは6万5,000オーストラリア・ドル(約552万5,000円、豪ドル、1豪ドル=約85円)以下で購入可能だという。日本のメーカーでは、三菱自動車の「アウトランダー」や日産の「リーフ」が販売されている。EVCは、2022年末までにさらに27モデルが投入されると見込んでいる。

また、EVCが2022年1月31日に発表した最新のデータによると、2021年のEV販売台数は2万665台となり、前年から約3倍も増加した。また、2021年の新車販売台数に占めるEVの割合は1.95%と、前年の0.78%から拡大した。モデル別では、テスラの「モデル3」が1万2,094台で最も多く、次いでMGの「ZS」(1,388台)、三菱自動車の「アウトランダー」(592台)が続いた。日産の「リーフ」も367台で9位に入った。

EV購入に対する消費者意識は引き続き高い。EVCが2021年7月に実施した調査によると、回答者の54%が次の買い替え時にEVの購入を検討するとし、過去2年の調査(2019年:53%、2020年:56%)と同水準を維持した。また、回答者の50%はEV購入に際して従来のガソリン車より多く支払う用意があるとしており、49%は2030年までにEVを運転することになると予測した。ただし、回答者の40%は政府の補助金によって購入時の初期費用を抑えることができればEVを購入しやすくなるとしており、92%がEV購入を促進するには公共の充電施設の拡充が重要だと回答した。

オーストラリア国内では現在、1,409カ所に2,531基の普通充電器が、244カ所に470基の急速および超急速充電器が設置されている。前年と比べると、普通充電器は23%、急速および超急速充電器は24%それぞれ増加したという。EVCによると、充電インフラに対する公的・民間投資は短期的には継続するものの、今後10年間で予想されるEV市場の成長を考えると、さらに大規模な投資が必要になるという。

州政府は奨励策を導入

EVCは、2021年に記録した販売台数の大幅な増加は各州政府の奨励策によるものだと分析する。最大都市シドニーを州都とするニューサウスウェールズ州政府は2021年6月、今後4年間で4億9,000万豪ドルを投じるEV戦略を発表。EVへの切り替えを促進するため、7万8,000豪ドル未満のBEVやFCEVの購入に対して印紙税を免除する。また、6万8,750豪ドル未満のBEVやFCEVのうち、最初の2万5,000台を対象に、 1台当たり3,000豪ドルを還付するとしている(2021年6月25日付ビジネス短信参照)。同様に、メルボルンを州都とするビクトリア州でも2021年5月、総額4,600万豪ドルの補助金プログラムを導入。6万8,740豪ドル未満のBEVやFCEVに対して、1台当たり3,000豪ドルの補助金を支給するとした。その結果、2021年のEV販売台数のうち、ニューサウスウェールズ州は7,430台、ビクトリア州は6,396台と、両州で全体の半数以上を占めた。

その他の州でも、奨励策の導入が続いている。首都キャンベラを有する首都特別地域では、自動車登録料の20%割引や初回登録時の印紙税免除などのインセンティブを提供。最大1万5,000豪ドルの無利子融資の提供や自動車登録料の2年間免除などを実施している。南オーストラリア州でも2021年10月28日からインセンティブの提供を開始。7,000台のBEVやFCEVを対象に1台当たり3,000豪ドルを還付するほか、自動車登録料を3年間免除する。また、家庭用スマート充電器の設置に対して、最大2,000豪ドルの補助金を支給している。タスマニア州でも今後2年間でEV購入に対する印紙税の免除措置を提供するほか、北部準州では2022年以降、自動車登録料の5年間免除や印紙税の1,500豪ドル減額措置の提供を予定している。

一方、道路整備の財源となっている燃料税の負担を伴わない、あるいは負担の少ないEVやPHEVなどに対して、道路利用の公平性を求める狙いから、州政府による課税の動きもみられる。ビクトリア州では、2021年7月1日からゼロ排出・低排出車(ZLEV)に対して、道路利用税を導入した。走行距離1キロ当たり、ZLEV は2.5セント(0.025豪ドル)、PHVは2.0セント(0.02豪ドル)が課される。ニューサウスウェールズ州や南オーストラリア州では、EVが新車販売台数の3割を占めた段階か、2027年7月1日のどちらか早いタイミングで、道路利用税を課す方針を明らかにしている。

ネットゼロを目指すも、連邦政府は補助金策なし

オーストラリアのスコット・モリソン首相はこれまで、課税などで国民や企業に負担を強いるのではなく、低排出技術への投資によって温室効果ガス(GHG)排出削減を目指す方針を掲げてきた。2021年10月、2050年までにネットゼロを目指すと発表(2021年10月27日付ビジネス短信参照)。翌11月には、低排出車の普及を加速するため、「未来燃料・車両戦略」を発表した(2021年11月11日付ビジネス短信参照)。同戦略では、再生可能エネルギー庁(ARENA)のファンドへ新たに1億7,800万豪ドルを拠出した。これまでの拠出額と合わせた総額2億5,000万豪ドルを用いて、EVやFCEVの充電・充塡(じゅうてん)施設、長距離輸送用大型車や小型商用車のEV・FCEV化、家庭用スマート充電器への投資を行うとしている。

連邦政府は一方で、低排出車購入に対する補助金の提供については、費用対効果が見込めないと結論付けている。連邦政府の試算によると、従来のガソリン車とEVの間における購入から廃棄までの総保有コストの差異を埋めるには、車種や用途によるものの、最大約8,000豪ドルの費用が必要となる。これは、二酸化炭素(CO2)排出削減にかかる費用に換算すると、1トン当たり最大747豪ドルとなる。一方、国内で普及が進んでいるPHEVでは、これまでのガソリン車と総保有コストの差異はほとんどなく、CO2排出削減の費用は1トン当たり3.6豪ドルだという。こうしたことから、消費者が低排出車を選択することを可能とし、自発的な導入を支援する方針が最善だと説明している。

産業界はEVトラックやFCEVの活用に取り組む

産業界は、GHG排出実質ゼロに向けた取り組みを加速しており、EVの導入についても検討を進めている。アサヒグループホールディングスのオーストラリア拠点であるアサヒビバレッジズは2021年7月、オーストラリアのビールブランド「ビクトリア・ビター」のメルボルン市内の配送でEVトラックを導入すると発表した。採用したのはボルボのEVトラックで、ビクトリア州北部にある太陽光発電所で充電し、毎週10万本以上のビールを配送するという。また、オーストラリア・ポストは2021年11月、三菱ふそうのEVトラック「eCanter」20台を配送用として新たに導入すると発表した。同社ではこれまで2,100台以上のEVを導入してきたが、ラストワンマイルで使用する小型車両のみだったという。新型コロナ禍によってオンラインショッピングの需要が急増し、配送網の拡張が必要だったことから、GHG排出削減にも寄与するEVの導入は合理的だとしている。

水素産業の確立を目指すオーストラリア(注1)では、FCEVについても実証などの取り組みが進んでいる。トヨタ自動車オーストラリアは、ビクトリア州の工場跡地にFCEV用の水素製造工場を設立。太陽光発電を用いて生成した水素をFCEVや燃料電池フォークリフトなどに充填する水素ステーションを設置する。同社はまた、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の実証実験のために「新型MIRAI」をリースしている。なお、現代自動車のFCEV「NEXO」は首都特別地域政府に20台、クイーンズランド州政府に5台、試験導入されている。

オーストラリアの鉄鋼大手フォーテスキュー・メタルズ・グループ(FMG)は、西オーストラリア州北部ピルバラ地域にある鉄鉱石鉱山で、作業員の移動用にFCEVバス10台を導入した。また、オーストラリアの複合企業ウェスファーマーズ傘下の工業用ガス会社コアガスは、水素を含むガスの運搬にFCEVトラック2台を導入する計画だ。両社ともに、米国のFCEVメーカーであるハイゾン・モーターズの車両を採用している。なお、ハイゾン・モーターズは2022年1月、メルボルンにオーストラリア本社を設立すると発表した。


シドニー市内を走るEVバス(ジェトロ撮影)

オーストラリア企業もEVやFCEVの製造に乗り出している。オーストラリアのFCEVスタートアップ、H2Xグローバルは2021年11月にピックアップトラック「ワレゴ(Warrego)」の販売を開始、2022年4月の納車を予定している。同社はマレーシアでFCEVの製造を行っているほか、ビクトリア州東部ギプスランドでもFCEVの製造や技術開発を進める計画を立てている。また、オーストラリアのEV販売会社ネクスポート(Nexport)はこれまで、中国の比亜迪(BYD)や福田汽車(FOTON)、フランスのエンジニアリング会社ゴサン(Gaussin)などと提携し、オーストラリア市場にEVを投入してきたが、今後はオーストラリア国内での製造も手掛ける予定だ。シドニー南西部にEVバスや港湾・鉱山向けFCEVの新たな製造拠点を開設するほか、ブリスベンでオーストラリアのEV急速充電器メーカーのトリティウム(Tritium)と連携し、バッテリーの試験施設やEVの製造施設の建設を計画している。2001年に設立されたトリティウムは、2014年に最初の急速充電器の販売を開始し、現在は世界41カ国に展開している。2021年11月には本社のあるブリスベンで世界最大級のEV充電器試験施設を開設したほか、2022年2月には米テネシー州に充電器の製造施設を建設する計画を発表した。

一方で、EVやFCEVの導入は、世界との比較では進んでいない。オーストラリア・トラック協会は2022年1月、EVCと連携して政策提言書を発表した。提言書では、オーストラリアはトラックの電化で世界の大半の国から圧倒的に後れを取っているとして、印紙税免除などのインセンティブ付与や充電インフラの拡充などを求めた。また、オーストラリアで入手可能なモデル数を拡大し、EVトラックの導入を促進するため、従来のディーゼルトラックに対して課されている夜間の都市部走行制限をEVトラックについては免除するとともに、重量や車幅の制限をEVトラック向けに変更する必要性を訴えた。

オーストラリアのCO2排出量の約19%は運輸部門が占めており、2050年までにネットゼロを達成するには、対策が急務となっている。EVやFCEVの普及に当たっては、連邦政府や州政府の政策が大きく影響することは明らかだ。2022年に連邦総選挙を控える中、最大野党・労働党はEVに対する輸入関税やフリンジベネフィット税(注2)の減免を公約に掲げている。選挙結果を含め、今後の動向が注目される。


注1:
水素産業に関するオーストラリアの政策やプロジェクトの概要については、調査レポート「オーストラリアにおける水素産業に関する調査(2021年3月)」を参照。
注2:
雇用主が従業員に直接または間接的に支給する現金給付以外のベネフィットに対して、雇用主が支払う税金。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。