展示会で底堅い予約販売(タイ)
自動車市場で中国勢に存在感(1)

2022年2月25日

2021年12月上旬、タイ・バンコク郊外で「国際モーター・エキスポ2021」が開催。購入予約台数で、日系自動車メーカーが約7割を占有した。一方、中国系自動車メーカーのシェアが全体の1割を超えた。ドイツ系に迫る勢いだ。

ここでいう「中国系」とは、(1)上海汽車とタイの財閥チャロン・ポカパン(CP)グループの合弁会社、SAICモーターCP(「MG」ブランド)や、(2)長城汽車のタイ法人、グレートウォールモーター(GWM)タイランド(「HAVAL」「ORA」ブランド)、などだ。特にMGブランドの実績は、前年の第7位から第5位へ上がった。日産やスズキを抜いたかたちだ。また、今回初出展のGWMタイランドは、現代やスバルを上回り、第12位に食い込んだ。

同エキスポの様子から、タイ自動車市場で高まる中国勢の存在感を報告する。

予約台数は日本勢首位だが、中国勢も躍進

「第38回タイ国際モーター・エキスポ2021」が開催されたのは、2021年12月1日から12日まで。バンコク郊外のイベント総合施設、インパクト・ムアントンタニでのことだ。同エキスポは、インターメディア・コンサルタント社が、1984年以来毎年開催。自動車やバイクの大規模展示販売会で、今回は9カ国32ブランドの自動車と、7カ国12ブランドのバイク、および300社を超える自動車用品(アクセサリー)販売納入業者が出展した(注1)。


タイランド国際モーター・エキスポ入場口(ジェトロ撮影)

出展自動車メーカーを、国・地域別(本社所在地)にみる。日系自動車メーカーとしては、トヨタ、ホンダ、いすゞ、マツダ、スズキ、三菱自動車、日産、スバルなど。欧米系では、メルセデス・ベンツ、BMW、フォード、ボルボ、プジョー、ポルシェ、アウディなどだ。また現代、起亜といった韓国系メーカー、さらには、上海汽車や長城汽車といった中国系メーカーが出展した(注2)。主催者の資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、開催期間中の自動車の購入予約台数は3万1,583台。前回(2020年12月)開催時の3万3,753台に比べ、6.4%減だった。2020年12月といえば、新型コロナ禍さなかの時期だ。そこからも、若干ながら減少したことにはなる。しかし主催者は、長引くコロナ禍を考慮し、目標台数を3万台に設定していた。その水準を上回ったことからすると、健闘したと言える。

購入予約台数をメーカー(ブランド)別にみると、トップがトヨタで5,715台(注3)。以下、ホンダ(4,115台)、いすゞ(3,329台)、マツダ(3,189台)と日系メーカーが上位を独占した。一方、中国・上海汽車のMG(2,297台)が前回の7位から5位に浮上したことも注目される。今回6位のスズキ(2,185台)や7位のメルセデス・ベンツ(2,005台)、8位の三菱自動車(1,572台)を上回ったことになる。また、今回初出展で2021年6月にタイ市場に参入したばかりの長城汽車のHAVALとORAが868台。9位のBMW(1,111台、注4)、10位の日産(1,028台)、11位のフォード(1,025台)に次ぐ12位に躍進した。現代(677台)、レクサス(433台)やスバル(403台)を上回ったことになる(表1参照)。

これを本社所在国別にみると、日本が2万1,969台で、約7割(69.6%)のシェアを占めた。引き続き首位とは言え、前回の2万4,584台(72.8%)からシェアが3.2ポイント低下した。次いで、第2位のドイツが1割超(11.7%)の3,702。第3位の中国が(長城汽車が初出展したこともあり)約1割の3,165台に及んだ(注5)。これら上位3カ国で、全体の9割超(91.3%)を占めたことになる(表2参照)。前回開催時に比べ、ドイツが0.9ポイント、中国が3.1ポイントそれぞれシェアを伸ばした。一方、米国、韓国は、購入予約台数が前回比で15.9%、17.6%減少した。その結果、シェアもそれぞれ0.4ポイント低下した。

表1:国際モーター・エキスポ2021でのメーカー(ブランド)別購入予約台数(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 ブランド名 本社所在国 購入予約台数 前回比増減率
1 トヨタ 日本 5,715 5.0
2 ホンダ 日本 4,115 △8.7
3 いすゞ 日本 3,329 8.2
4 マツダ 日本 3,189 △20.6
5 MG(上海汽車) 中国 2,297 △1.4
6 スズキ 日本 2,185 △17.6
7 メルセデス・ベンツ(ダイムラー) ドイツ 2,005 6.3
8 三菱 日本 1,572 △4.0
9 BMW ドイツ 1,111 △14.5
10 日産 日本 1,028 △61.4
11 フォード 米国 1,025 △15.9
12 HAVAL/ORA(長城汽車) 中国 868
13 現代 韓国 677 29.9
14 レクサス(トヨタ) 日本 433 190.6
15 スバル 日本 403 △6.9
16 起亜 韓国 328 △53.1
17 ボルボ(吉利傘下) スウェーデン 312 △35.5
18 プジョー フランス 291 79.6
19 ポルシェ ドイツ 235 78.0
20 アウディ ドイツ 179 △5.3
21 ミニ(BMW) ドイツ 172 18.6
22 BRG タイ 93 36.8
23 マセラティ イタリア 12 20.0
24 ロールス・ロイス 英国 4 0.0
25 アストンマーティン 英国 3 0.0
26 ロータス 英国 2
合計 31,583 △6.4

出所:インターメディア・コンサルタント社プレスリリース資料からジェトロ作成

表2:本社所在国別の購入予約台数(単位:台数、%)(△はマイナス値)
本社所在国 購入予約台数 シェア 前回比
増減率(注)
日本 21,969 69.6% △10.6
ドイツ 3,702 11.7% 1.4
中国 3,165 10.0% 35.8
米国 1,025 3.2% △15.9
韓国 1,005 3.2% △17.6
スウェーデン 312 1.0% △35.5
フランス 291 0.9% 79.6
イタリア 12 0.0% 20.0
英国 9 0.0% △64.0
BRG 93 0.3% 36.8
合計 31,583 100.0% △6.4

注:前回比増減率は、購入予約台数を前年実績と比較したもの。
出所:インターメディア・コンサルタント社プレスリリース資料からジェトロ作成

中国ブランド各社がEVを展示

今回のエキスポ会場でとりわけ混み合っていた展示ブースのひとつに「ORA Good Cat(オラ・グッドキャット、欧拉好猫)」がある。ORAは、長城汽車のタイ現地法人、GWMタイランドの小型電気自動車(EV)のブランドだ。同社は、バンコクの東200キロに当たるラヨーン県南部にゼネラルモーターズ(GM)が有していた工場を、2020年2月に取得した。そして同年11月に同工場で、パワートレイン技術の導入や、中国からの人工知能(AI)、ロボットといった自動生産システムを設置。生産システム向上に着手した(注6)。2021年6月には、先端生産技術や高水準安全システムを兼ね備えたスマート工場が開設された。このような工場は、同社にとって東南アジア初だった。なお、同工場で生産された「Haval H6」の1号車は同月23日、マハー・チャクリー・シリントーン王女に贈呈された(注7)。今回のエキスポ開催中、同社の展示スペースでは、「Joy Life with New Energy(新エネルギーで楽しい日々を)」という標語が掲げられた。展示されたのは、プラグインハイブリッド車(PHEV)仕様のスポーツ用多目的車(SUV)の「Haval H6」や、ハイブリッド車(HEV)仕様の「Haval Jolion」、オフロード車「Tank(坦克)500HEV」などだ。また、既述の小型EV「ORA Good Cat」は、艶やかな色のモデルが展示された。2023年には、EVのタイ現地生産を開始する予定という。

また、同じく中国系自動車メーカーで「EV Pioneer」がトレードマークなのが、「MG」ブランドのSAICモーターCPだ。同社は、PHEVの「MGHS」や、バッテリー式電気自動車(BEV)の「MG5」、5ドアSUVの「MGZS」などを展示した。MGZSの内装は革張りで重厚感がある。同社はPHEVの組み立て生産でタイ投資委員会(BOI)から優遇措置を取得。現地生産を開始済みだ。また、完全電動のEVステーションワゴン「MG EP」も1台展示された。同社販売員の説明によると、1キロ当たり154ワット時(Wh)の燃費で、フル充電で380キロ走行可能。価格も99万8,000バーツ(約339万円、1バーツ=3.4円)と、100万バーツを切っている。現在は完全電動のBEV完成車を中国から輸入。中国ASEAN自由貿易協定(ACFTA)の恩恵を受け、2018年1月以降、中国から関税ゼロで輸入できる。ちなみに、EVについてタイの輸入関税を見ると、日本からは日本ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)または日本タイ経済連携協定(JTEPA)で20%、韓国からはASEAN韓国FTA(AKFTA)で40%、欧州からはMFN税率(WTO協定税率)の80%が適用されることになる。こうしてみると、中国からのEV輸入は関税面で有利なことがわかる(注8)。その他、100%電動の二人乗りの低車高スポーツカー「MG Cyberster」も展示。タイの若者ら多くが写真を撮っていた。


長城汽車ORA GOOD CAT(ジェトロ撮影)

完全電動のMG EP(ジェトロ撮影)

また、予約販売での購入はなかった模様ながら、中国の朋克汽車も小型EV「Pocco」を出展。展示車は、若年層を主なターゲットとし、洒落(しゃれ)た黒と赤によるツートンカラー内装だった。

中国系自動車メーカー以外のEVも見られた。例えば日系では、トヨタからは、レクサスの小型SUV「UX300e」シリーズの「NX PHEV」や「NX450h+」(いずれもPHEV)。ホンダも、HEV仕様のSUV「HR-V e:HEV」を展示した。また、欧米系では、BMWがiXシリーズの「BMW iX xDrive50 Sport」や「BMW・iX3 M Sport」、MINIの3ドア「MINI Cooper SE」、ボルボが「XC40 Recharge EV」、アウディが「RS e-tron GT quattro」を展示していた。


注1:
入場料は100バーツ(約340円、1バーツ=約3.4円)。新型コロナウイルス禍で、来場者はワクチン2回接種完了の証明書提示または来場前に抗原検査を受けて入場。
注2:
長城汽車のタイ現法GWMタイランドは、今回の「タイ国際モーター・エキスポ」への出展は今回が初めてだが、2021年3月24日~4月4日に開催された「第42回バンコク国際モーターショー2021」には出展。
注3:
レクサス433台(14位)を含まない。
注4:
BMW傘下の「MINI(172台、21位)」を含まない。
注5:
2021年3月24日~4月4日に「第42回バンコク国際モーターショー2021」が開催された際には、長城汽車の電動モデルを出展。
注6:
2021年6月1日付GWMニュース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注7:
2021年6月30日付GWMニュース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注8:
EV(セダン)のHSコードは8703.80.17。また、ACFTAにより中国からのEVが輸入関税撤廃される以前、ACFTAにより中国から比較的安価のEVが大量にタイに流入することをタイ政府要人が懸念視。国内産業保護を目的に、使用バッテリーにタイの独自基準を設ける非関税障壁の導入に踏み切る見通しなどが報じられていた(タイでの現地報道)。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 バンコク研究センター(BRC)所長
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・シンガポール事務所、ジェトロ・バンコク事務所、ジェトロ・ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長、上席主任調査研究員を経て、現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。