特集:欧州市場に挑む日EU・EPAによる容量規制の緩和に期待
焼酎メーカー三和酒類の欧州輸出の取り組み

2018年7月18日

これまで焼酎は国内が主な市場で、輸出も現地の日本人をターゲットにしてきた。日本食ブームにより日本酒の輸出が増える中で、焼酎の輸出はまだ少ない(図1参照)。EU向けだけをみても、焼酎の輸出は伸び悩んでいる(図2参照)。大分県の焼酎メーカーである三和酒類はそうした環境の中、海外の品評会に参加するなどブランド価値と知名度を引き上げる取り組みを行っている。同社海外営業部副部長の都甲(とごう)誠氏にこれまでの輸出の取り組みと日EU経済連携協定(EPA)発効のメリットについて聞いた(2018年5月30日)。

図1:日本から全世界向け酒類の輸出金額の推移
2010年から2017年にかけて、清酒、ウイスキー、ビールは輸出金額が伸びているが、焼酎は横ばいとなっている。 2010年の全世界向けの輸出金額は、清酒が85億円、ウイスキーが17億円、ビールが32億円、焼酎が15億円。 2017年の全世界向けの輸出金額は、清酒が187億円、ウイスキーが136億円、ビールが129億円、焼酎が15億円となっている。
出所:
財務省貿易統計よりジェトロ作成
図2:日本からEU向けの酒類の輸出金額の推移
2010年から2017年にかけて、特にウイスキーの伸びが大きく、次いで清酒が伸びている。 2010年のEU向けの輸出金額は、ウイスキーが6億円、清酒が7億円、ビールが8400万円、焼酎が4600万円。 2017年のEU向けの輸出金額は、ウイスキーが56億円、清酒が13億円、ビールが1.6億円、焼酎が3500万円となっている。
出所:
財務省貿易統計よりジェトロ作成

三和酒類は、大分県宇佐市に本社を置く1958年設立の総合醸造企業。「下町のナポレオン」で知られる麦焼酎「いいちこ」のほか、ワインや日本酒の醸造を行っている。1984年に輸出を開始し、日本企業の進出先国の駐在員需要を狙って輸出地域を広げてきた。現在では英国、ドイツ、フランスなど欧州をはじめ、米国、中国やタイ、シンガポールといったアジア、南米やロシアなど30カ国以上に焼酎の輸出を行っている。既に日本とEPAを結ぶタイやシンガポール向けは、原産地証明書を取得し特恵関税(両国とも関税率0%)を活用しているという。当初は日本国内の代理店を通してだったため、定期的に販売先の情報収集を行っていたが、輸出先国のどのような店舗でどのような消費者に飲まれているか把握することが難しかったという。そこで2000年頃からは、海外営業担当者が現地代理店と共に行動し、より詳細な市場・課題の把握に努め、戦略を立てている。


大分県宇佐市にある本社醸造所(ジェトロ撮影)

EU輸出から見える課題は文化の違いか

三和酒類の輸出に占める欧州向けの割合はまだそれほど高くない。輸出に当たり、海外進出した日本企業の駐在員需要を狙ってきたこともあるが、文化の違いも要因のようだ。都甲副部長は「日本では食事中に焼酎などの蒸留酒(スピリッツ)を飲む文化があるが、欧州には食事中に蒸留酒を飲む文化があまりないようだ」と分析している。そういった地域への焼酎の売り込みには、まず(飲み方を含めた)文化を輸出しなければならず、商品が海外に広まるまでに時間を要することが多いという。加えて非関税障壁の存在がある。現在、焼酎に対してEU輸入時の関税は0%だが、EU市場で流通させるには、容量規制という非関税障壁が立ちはだかる。日本で流通している焼酎の容器は主に1升瓶(1,800ミリリットル)や4合瓶(720ミリリットル)など日本独自の規格だが、EUでは、蒸留酒の場合には1,750ミリリットル や700ミリリットルなど、決められた容量以外での流通・販売が認められていない。そのため、三和酒類ではEU向け専用の容器(700ミリリットル)を特別に用意し出荷している。EUの容量規制に適合させることはコスト増となるだけでなく、輸出する商品が限られラインアップを増やすことができないという。


本社にはさまざまな焼酎商品が並ぶ(ジェトロ撮影)

EU向け700mlの「いいちこ」(三和酒類提供)

そういった障壁がある中で輸出を続けるのは、国内の将来需要を見越してのことだ。三和酒類の焼酎売上高は日本で2位の約477億円。しかし、人口減少で国内市場が縮小していく中で、海外市場の開拓は今後より重要となると都甲副部長は強調する。

次のターゲットは外国人需要の開拓

これまで三和酒類が輸出先のターゲットとしていたのは、(1)現地の日本人が多いバーやスナック、(2)日本人が多い日本料理店だ(図3参照)。

しかし、海外に在住する20歳以上の日本人は約100万人と限られている。輸出を拡大するためには、おのずと外国人の需要を増やしていくほかない。

図3:焼酎を取り巻く海外市場区分
海外市場を4つに区分し、分析している。 (1)は海外在住の日本人が多いバーやスナックを、(2)は海外在住の日本人が多い日本料理店などのレストランを、(3)は海外の現地人が多いバーやスナックを、(4)は海外の現地人が多い日本料理店などのレストランを示している。 これまでのターゲットが(1)、(2)の日本人が多いバーやスナックと、日本料理店などのレストランであったと示している。 これからのターゲットである(3)の海外の現地人が多いバーやスナックでは、ブランディングが重要な世界であり、(4)の海外の現地人が多い日本食料理店などのレストランでは、日本酒メーカーとの競争が必要であることを示している。
出所:
都甲副部長が考える海外市場区分

新たな需要開拓には課題もある。(3)外国人が集まるバーやスナックでは、世界中の蒸留酒やそれ以外の酒類との競争にさらされるほか、味だけでなく商品のブランディング自体が重要になってくる。(4)外国人が集まる日本料理店では、先んじて世界に広がった日本酒にいかに切り込んでいくかがカギとなる。「これまで国内市場が主だった焼酎は、海外市場においても現地日本人がターゲットとなっていたので、現地の人の目にとまる機会が少なかった」と都甲副部長は分析する。

コンペティション参加によるブランディング戦略

こうした状況にある焼酎をいかに世界に広めていくか。三和酒類が取り組んできたことの1つに、欧米の権威あるスピリッツ品評会への参加がある。2016年にはロンドンで開催された「インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション」で最高賞を受賞した。最近では「いいちこスペシャル」が2018年にサンフランシスコで開催された「ワールド・スピリッツ・コンペティション」で最高賞を受賞している。蒸留酒の世界で権威ある品評会に参加し高い評価を得ることは、世界のバーテンダーへの効果的なアピールとなる。特に蒸留酒の世界ではバーテンダーの存在が大きい。影響力のあるバーテンダーへ焼酎をアピールし、認知度向上や消費増につなげていきたい考えだ。


「インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション2016」
(於:ロンドン)で最高賞の「トロフィー」を受賞(三和酒類提供)

日EU・EPA発効による新たな輸出の可能性

焼酎の輸出に関しては、日EU・EPAの発効により非関税障壁である単式蒸留焼酎の容量規制が緩和される。EU向け輸出専用容器の製造コストを削減できるほか、輸出する焼酎のラインアップを増やすことが可能となる。現在、EU向けに輸出する商品のアルコール度数は25度だが、バーなどでカクテルとして提供される場合には、焼酎の特徴が薄くなってしまう。そのためアルコール度数の高いものなど、酒の特徴が異なる商品も輸出していきたいと都甲副部長は言う。さらに、容量規制への対応コストを負担できなかった中小焼酎メーカーが海外輸出を始めれば、海外での焼酎の裾野も広がると期待する。

都甲副部長は「訪日外国人が増えることで日本食や日本酒が世界に広まった。外国人が日本文化をより深く知れば、必ず焼酎に行き着き、焼酎の時代がやってくる」と言う。今はその時のための準備段階で、訪日外国人が増加し、日本食などの文化に注目が集まる時だからこそ、日EU・EPA発効を追い風に焼酎輸出を広げていきたいと語る。


「EU向け容量規制の緩和は象徴的な意味がある」と強調する都甲副部長(ジェトロ撮影)

また、「新たにワインの輸出にも取り組みたい」と都甲副部長は話す。大分県の一村一品運動(注1)で生産が始まった地元の安心院(あじむ)産のブドウを使いワインを醸造する。旧安心院町(現宇佐市)で収穫したブドウ(シャルドネ品種)を用いて醸造したスパークリングワインは、2016年の日ロ首脳会談でプーチン大統領にも振る舞われたという。「日本ワインコンクール2017」では「安心院スパークリングワイン2015」がスパークリングワイン部門の金賞・部門最高賞を受賞 。過去にも同部門で金賞・部門最高賞を5度獲得し、国内での評価は高い。同社はこうした良質なワインの輸出にも意欲を示している。


注1:
一村一品運動:1979年に当時の平松守彦・大分県知事が市町村長に呼び掛け始めた地域づくり。旧安心院町では食用ブドウの生産を開始し、20年前からはワイン用ブドウの生産を始めた。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課長
田中 晋(たなか すすむ)
1990年、ジェトロ入構。ジェトロ・パリ事務所(1995~1998年)、海外調査部欧州課長代理(2000~2001年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所(2002~2004年)、同次長(2004~2007年)、欧州課長(2008~2010年)、欧州ロシアCIS課長(2010年)、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長(2010~2015年)を経て現職。著書は「欧州経済の基礎知識」(編著)など。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
出沼 順子(いでぬま じゅんこ)
2012年、茨城県庁入庁、2018年4月より現職。